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元JK配信者、異世界で愛され配信者を目指します~チート魔力が欲しいとは言ってないんですよね~  作者: Mel
二章 配信文化を広めよう!

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039 終演

 私の態度が一貫して変わらないことが癪に障るのか、それとも追従してくるはずの従業員たちが黙ったままなのが気に入らないのか。カレナ嬢は身を大きく乗り出して、まるで舞台の主演女優のように声高らかに主張を繰り広げた。


「よくお考えになって? こんな田舎にアレクセイ商会の支店だなんて、分不相応にも程がありますわ。あなたがたった一言、アレクセイ様にお願いすれば済むことですのよ? 『私には荷が重すぎました。この話は無かったことにしてください。頂いたお金も迷惑料を加えてお返しします』ってね?」


 酔いが回っているにしたって言い分がもう滅茶苦茶すぎる。ドムさんを始めとした従業員の皆さんの顔もすっかり青くなってしまっていた。それでもどうしても立場的に逆らえないのか、彼女を止められる者はいなかった。

 彼らを解呪できていなかったらこれに加えて援護射撃まであったのだろうけれど、今は彼女の独り舞台。そしてここでの目的は、彼女とのレスバに勝つことではなく、踊り子さんに気持ちよく踊ってもらうことだった。


「カレナ嬢、どうか誤解しないでくださいね? 私とアレクセイさんはあくまで対等な立場にあります。もしこの話が白紙となれば、契約に基づいて迷惑料を頂くのは私です。それにこれがアレクセイ商会の総意だというのであれば、お買い上げいただいたエコースポットも回収し、配信事業には二度と関わらないでいただきますよ」

「契約ですって? そんな大層なものをあなたが用意できたとでも? どうせ穴だらけに違いないでしょう?」

「それは、アレクセイさんの商人としての目が節穴だとおっしゃっているんですか?」

「……そうは言っていませんわ。ただ、その契約にだって不自然な点が多いと言っているだけですのよ。まったく、減らず口だけは一人前で……。だいたい、配信“事業“だなんて大袈裟な。ただ男たちに媚びを売っているだけではなくて?」


 ――どうしてこの手の人たちは、まるで判を押したように「男に媚びる」だの「股を開いた」だの下世話な難癖を付けてくるんだろう。あまりにもテンプレな物言いに心の中で指をさして笑ってやりたくなる。とはいえ表情は崩さない。だってリカちぃは、ずっと可愛くないといけないんだから。


 私が反論しないことに気を良くしたのか、それともカレナ嬢の嗜虐心に火をつけてしまったのか、彼女の口撃は止まらない。


「この田舎で流行るのもわかるわ。きっと他には何も娯楽がないんでしょうね。けれど、そんな娼婦じみた文化を栄誉あるサンドリアに持ち込まないでくださらない? それとも、男を引っ掛けるのが目的なのかしら? アレクセイ様も情けないわ、こんな小娘に夢中だなんて。どうせその貧相な体を使って取り入ったんでしょう? 本当にどこまでも下品で汚らわしい……」


 笑顔は、崩さない。心の中では中指を立てているけれど、もう少しだけ我慢。


 だけど、彼女の口から出た次の一言が、私の限界を超える最後の一押しとなった。


「ちやほやされたいのならこの田舎でだけにしておきなさいな。ほら、あの領主代行だか何だか知らないけれど、得体のしれない小汚いチンピラがいるじゃない。貴女みたいな田舎娘にはアレがよくお似合いだわ。それとも、あの男一人では満足できなかった? 何の気遣いも出来なさそうなつまらない男だものね。もっと上手に啼かせてくれる相手でも欲しくなったのかしら?」


 その瞬間、ぷちんと、私の中で何かが音を立てて切れた。――うん、喧嘩を売ってきたのはそっちだよね? ここまで我慢したんだから、誰が聞いていたとしてもこれは正当防衛だよね? 私は静かにモードを切り替えた。徹底抗戦モードに。


「カレナ嬢、口が過ぎるようですね」


 ドムさんが先ほど言ったのと同じ言葉を、私は毅然とした口調で繰り返す。これまで笑顔を絶やさずサンドバッグに甘んじていたはずの私にじっと見据えられて、カレナ嬢は少したじろいだ様子だった。


「先ほどまでのお言葉。配信ギルド長である私と、この領地を任されているハウンドと、ロベリア様が治めるこの領地に対する侮辱と受け取ってもいいんですね? それは、サンドリア王国のロウラン家を代表した、正式なご意見だと理解してよろしいのでしょうか?」


 これで引いてくれたらまだよかったのに。お酒の勢いもあったのだろう、彼女は私の剣幕に一瞬怯んだもののすぐに大口を開けて笑い出した。


「開設されたばかりの弱小ギルドのくせに、ギルド長だなんてお笑いですこと! それに何か勘違いなさっているようですけれど、今は我がサンドリアが大目に見てあげているだけ。王国が本気を出せばこんな領地なんてすぐに地図上から消し去ることができますのよ?」

「ますます理解が出来ないですね。配信事業もフォウローザもお気に召さないご様子なのに、どうしてここにいらしたんですか?」

「……穢れた不浄の地になんて、デュオ様がいなければわたくしだって来たくはなかったわ! 配信事業も配信者なんてものもやめてしまえばいいのよ! そうすればデュオ様は――」

「別に、来てほしいなんて誰も頼んでいないんだけどね」


 唐突に口を挟んだのは、支店に帰ると言ったはずの彼。いつの間にか個室の入り口にデュオさんが立っていた。普段通りの軽やかな声だけれど、その瞳には怒りが宿っている。さっきまで高らかに笑っていたカレナ嬢が一瞬で顔色を失った。


「ど、どうして……お戻りになったのでは?」

「戻っていないから、僕はここにいるんだよ」


 冷たく返すデュオさんにカレナ嬢は気圧されながらも、すぐにまた勢いを取り戻す。


「デュオ様、これは誤解ですわ! リカさんが急にわたくしに絡んできたものですから、少し言い合いになってしまっただけで……」

「それは無理があるんじゃないかな。……君は僕の大事な人に対して、とても愉しげに侮辱してくれていたじゃないか」


 カレナ嬢は椅子にぶつかりながらよろよろとデュオさんの元へ駆け寄り、涙を浮かべて彼の腕に絡みついた。デュオさんは汚物を見るような目で心底嫌そうに顔を歪めている。


「それは……だって、彼女の配信を聞けば、あながち間違ってはいないと思いませんか? 媚びへつらいながら少しばかり上手に囀っているだけなのに、リカちぃリカちぃって、周りの皆さんもおかしいんですのよ……! きっとあの配信には何かおかしな魔術が仕掛けられているに違いありませんわ!」


 彼女は必死にデュオさんに縋りつき言い訳を続けている。……ああ、蜜柑時代にもこんなことを書き込んでくる人はたまにいたっけ。配信者としては避けられない反応だけど、こうやって面と向かって罵られるとさすがに少し堪えるものはある。だいたい、おかしな呪術を仕掛けていた人にそんな事言われたくない。


 デュオさんの怒りが膨れ上がっていくのがはっきりと伝わってくる。このままでは場の空気がさらに悪くなるだけだろうと判断し、私は話を終わらせることにした。


「だ、そうですけど。私としてはこの話はなかったことにしていただいても構いませんが、あなたはどうお考えでしょうか? ――アレクセイさん」


 私が彼らの雇い主の名を出すと、部屋の空気が凍りついた。驚いた表情で全員が辺りを見回すが、もちろんアレクセイさんがこの場にいるわけではない。

 

 私はさっきデュオさんから預かっていたカバンからエコーストーンを取り出し、テーブルの上に置いた。


 テーブルの上に映像として現れたアレクセイさんは、これまでに見たことのない険しい顔をしていた。デュオさんが席を立ってからのやりとりをエコーストーン越しにずっと聞いていたのだろう。商会の雇用主としての責任を感じているような表情でもあった。


 そしてアレクセイさんの隣には、見知らぬ年配の男性が立っていた。眼鏡をかけた白髪混じりの彼は沈痛な面持ちで、「カレナ……」と、静かにその名を呟いた。


「お、お父様……! どうして……これはどういうことですの!?」

「君の最近の言動は目に余るものがあったからね。だが、どういうわけかロウラン卿に何度申し入れてもなかなか信じてもらえない。それどころか今回の派遣にも君を強引に押し込んでくる始末だった。仕方がないから、彼女の配信事業への無理解ぶりを直接聞いていただくことにしたんだよ」


 無理解どころの話じゃなかったのでは……? 思わずジトリとアレクセイを睨みつけると、『商会内の問題に巻き込んでしまって申し訳ないね、お嬢さん』と、素直に謝罪してくれた。


『これでお分かりいただけたでしょう、ロウラン卿。我々は今後、配信事業に力を入れていく予定です。しかしカレナ嬢はそれを快く思っていないどころか、大切な取引相手に対してこの態度ときたものだ。このままでは配信ギルドとの関係が断たれ、商会に大きな損失をもたらすことは避けられません。……雇用契約の規定に従い、彼女との契約は破棄させていただきます』

『……アレクセイ殿にはご迷惑をおかけしましたな。あなたの元で学ばせることが娘にとって良い経験になると信じていたのですが、まさかこんな醜態を晒すことになろうとは……。多少の我儘も直に収まると思っていましたが、どうやら娘には市井の世界は早すぎたようです』

「お父様、アレクセイ様、誤解です! それにこんな手段、酷すぎますわ……! わたくしを貶めるようなこと、いったい誰の入れ知恵でして!? まさかその小娘が――」

『黙れ! お前の言うことを信じた私が愚かだった。これ以上ロウランの恥を晒すな!』


 ロウラン卿の怒号が響き渡り、耳をつんざくほどだった。デュオさんが防音魔法をかけていなければ店中にその怒りの声が広がっていたことだろう。カレナ嬢は一気に力を失い、その場に崩れ落ちた。


『……そちらにいらっしゃるのが配信ギルドのギルド長ですな? この度は、我が愚女が甚だしい無礼を働き、誠に申し訳ございません。ロウラン家としては貴女の事業に深い敬意を抱いております。できればその事業に携わりたいとすら考えておりましたのに、全く愚かなことを……』

「どうぞお気になさらないでくださいませ、ロウラン様。私も口が過ぎてしまいました。こちらこそお詫び申し上げます」

『寛大なお言葉、痛み入ります。……カレナ。お前にはもう失望した。すぐに荷物をまとめて帰宅の準備をしなさい。今すぐにだ!』

「モニカ、カレナ嬢の荷物をまとめてあげてくれ。ドムは馬車の手配を。今停めているものを使ってもらって構わない」


 名指しされた二人はすぐに「はい」と答え、足早に個室を出て行った。カレナ嬢は虚ろな目でデュオさんを見つめ、その足に縋りつく。


「デュオ様……。こんな仕打ち、あんまりですわ……。昨日、わたくしに愛を囁いてくださったのは嘘でしたの……?」

「忘れたのかな、僕は君の嫌う“卑しい奴隷”だよ。相手が望むままに悦ばせることくらい造作もないことだ」

「そんな、酷いですわ……! それに貴方が奴隷だなんて、わたくしはまったく気にしていなかったのに……」

「そうかい? 僕の耳は人よりも良いからね、ちゃんと聞こえていたよ? 『アレクセイ様が邪魔をしなければ、わたくしが買い上げて差し上げるのに』なんて、君が従業員に話しているところも、さ」


 なんてえげつないことを言っていたんだ、カレナ嬢……。それは、デュオさんにとってまさに一線を越える言葉だったろうに。

 

 カレナ嬢は返す言葉も見つけられず、その場に項垂れてしまった。周囲の従業員たちも彼女に軽蔑の視線を向けている。その視線は、昨日までは私に向けられていたものだった。


「リカ嬢、不快な思いをさせて本当に申し訳なかった。君にはこんなことで心を煩わせてほしくなかったのに」

「いいえ、デュオさんが謝ることではないですから」


 デュオさんはエコーストーンの通信を淡々と切ると、私からカバンを受け取って丁寧にしまい込み、恭しく手を差し出してくれる。その手を取ると、彼は私を護るように店の出口へと向かって歩き出した。


 項垂れたままのカレナ嬢とはもう二度と会うことはないだろう。だから、最後に彼女だけに聞こえるよう、わざわざ目線を合わせて小さく囁いた。


「お香、ちゃんと保管してありますから。これ以上何かするようでしたら、こちらも容赦はしないですよ?」


 彼女が呪術に利用した証拠はしっかり握っている。私に対する明確な悪意もこの場で証明が出来た。証言もある今、言い逃れは難しいだろう。サンドリアで呪術を用いることが何を意味するのかは彼女も理解しているはずだ。

 

 小刻みに震える彼女を見て、自らの過ちに気付いてくれればとほんの少し願っていた。けれど、次の瞬間、怒りのまま私に掴みかかろうと手を伸ばした。

 でも、その手は私に触れることなく止まった。デュオさんが私の体を引き寄せて、カレナ嬢を冷徹に見下ろしていたからだ。


「彼女は僕の大事な人だ。君ごときが触れていい相手じゃない。……本当に残念だよ、その能力は評価していたのに」


 そう言い放ったデュオさんはカレナ嬢に一瞥をくれると、さも不快だと言わんばかりに顔を背け、私に優しく促して歩き出した。

 

 カレナ嬢が床に伏して泣き喚き、周囲の従業員たちも彼女に冷たい視線を向ける中、私たちは静かに個室を後にした。

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