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夜の太陽

静まり返った宮殿の廊下で、泥だらけの靴がガタガタと音を立てた。マーティンは、祝宴がすでに終わっていた大広間に入った。周りには誰もいなかった。しかし、暗闇から彼に向けられた質問が、それ以上進むことを阻んだ。

「どこから来た?」

質問したのは総督だった。彼は息子に近づき、両手で彼の顔を挟み、優しく見つめた「目に入れても痛くない子だ」彼は言ったが、その声は動揺していた。「おまえがどこから来たのか、私が知らないとでも思っているのか?正直に言え。秘密を漏らしたか?」

マーティンの顔が怒りに歪んだ。「私のことをバカだと思っているんだろう?」

総督は息子の顔から手を離し、話し始めた。「お前は経験が浅い。丘の住人がどんな危険な罠を仕掛けてくるか知らない。決定者が選ばれた時ですらお前はここにいなかった。彼らがカプラの子供たちと一緒に私たちを焼こうとしたことを知ったとき、あなたはまだミルクを飲んでいた。お前が彼らの嘘を理解できるはずがない」

マーティンは嘲笑した。「父さんが彼らを丘の住人と呼んで私達の親切心を侮辱してるのにはもう飽き飽きだ。峡谷の平凡な人々がするみたいにな。丘の上では人間らしく暮らせるのに、私達はこんなごみ溜め場で住んでる。」マーティンは大きく息を飲み込んだため、彼はうまく言い終えることができなかった。「なぜ、カプラの子供たちがここに住むことを余儀なくされたからと言って、なぜ私たちも彼らと同じ運命をたどるのか理解できない!」

総督は声を張り上げた。「この宮殿で何が足りないというのか。私はお前に十分過ぎるほどの物を与えている。外のゴミや飢饉など、この宮殿の足元にも及ばない。馬鹿なことを言うな!」

マーティンは大きなシルクのカーペットの上で泥だらけの靴を踏みつけ、叫んだ。「息ができない!太陽が見えない!話す相手もいない!こんな宮殿クソ喰らえだ!」

総督の顔は激しい怒りに歪んだ。マーティンはようやく父の前に立つと、鼻で笑い、こう続けた。「自分の人生と引き換えにラヴラス貴族に秘密を求めた父さんは馬鹿じゃないけど、私は馬鹿だって?」突然、マーティンは顔に重い平手打ちを感じ、地面に倒れこんだ。老人は息子の上に立った。「ここを出れば、向こうでは聖人のようには暮らせないだろう。もしかしたら、秘密を握るために彼らは私たちをまったく生かしておかないかもしれない。このゴミ捨て場は、お前や私に命を与えてくれている。なのにお前は感謝するどころか、子供のように甘えている」

マーティンは倒れていた父を恨めしそうに見つめた。「感謝なんかするもんか。呪ってやる」

「投獄されたいのか!」総督は唸った。

マーティンは言った。「父さんは私を生まれたときから監禁している、でも私はもう父さんの囚人じゃない。 ここでもう夕日を見ることはない。 この峡谷のバカ長い夜を暗闇の中で過ごすこともない。 もう終わりだ!」

総督は恐怖で目を見開いた。震える手で息子の胸元をつかんで持ち上げた。総督は無抵抗なマーティンを揺さぶりながら尋ねた。「ゴンドワナ人か?彼らは来ているのか?早く教えてくれ、誰に秘密を売ったんだ?」

マーティンは目を見開き、腰のあたりで何かを探していた。「ゴンドワナ人は来ない」彼は声を荒らげた。マーティンは目が飛び出しそうなほど大きく開き、父親の目を覗いた。マーティンは言った。「私が行く」

ドアの向こうでカチッと音がした。見張りの兵士とマーティンが一瞬目を合わせた。見張りの兵士はすぐに宮殿の門から庭に飛び出した。息も絶え絶えに広い庭の鉄柵に駆け寄ると、ポケットから赤い布を取り出した。彼は急いで庭の鉄格子の一つに結び目を作った。その直後、彼は辺りを見回すと、宮殿の門に戻り、中に入った。

さっきまで閑散としていた宮殿の細い廊下の一歩一歩が、今は兵士でいっぱいだった。兵士たちはひそひそ話しながら、あたりを見回していた。「あれは総督の声じゃなかったか」

間もなく、血まみれのマーティンが廊下の端に現れた。顔はまだこわばっているようだったが、話すとその声は大きかった。「ゴンドワナに行くんだ!」

一瞬、兵士たちは視線を交わしたが、今度は何人かが何が起こったかを知っていた。何人かの兵士が残りの兵士を無力化しようと動き出したとき、マーティンと近くにいた警備兵はその場をかわし、廊下の端を曲がって庭に向かった。彼らは峡谷の南にある1000寸の壁を越えるための小さなリフトに向かっていた。

宮殿は完全に混乱していた。マーティン側の兵士たちが廊下で他の兵士たちに勝って庭に出ると、混乱は庭にあふれ出た。しかし、マーティンの作戦を知らない兵士たちは、総督は死んだと叫ぶ宮殿職員の声を聞き、圧倒されてしまった。このような日に、どんな兵士も一緒に見張りをしていた仲間を信用するべきではなかった。マーティンは、上層部での生活を約束し、大多数の兵士を味方につけることに成功した。しかし、総督に近い兵士や上層部の兵士たちは、この突然の行動にさえ抵抗した。

マーティンがリフトに向かって急いでいる時、マーティンの周りと宮殿内、庭園には大量の血が流れていた。しかし、今回はいつもと違って、血は宮殿内の者と兵士たちのものだった。マーティンの周りに集まった兵士の中で、一番地位の高い者が後ろの者に命令を叫んだ。総督府から聞いた非合法の秘密集団である「山羊」たちから没収した登山用具をすべて持ち込んだ後、リフト周辺の警備を行い、宮殿の扉をロックするようにと。

総督の息子は、後ろの兵士たちを気にすることなく、リフトに向かって全速力で進み続けた。木製の小さなリフトのドアを遅滞なく開け、総督の息子は近衛兵2人と一緒にリフトに乗り込んだ。マーティンの隣にいた二人の衛兵がリフトの車輪を動かすロープを引っ張り始めると、板のきしむ音が総督の息子の顔からパニックを消し去った。そして代わりに、憎しみを持った奇妙な笑みを浮かべた。

リフトが地上から1,000寸の峡谷をゆっくりと上っていくとき、残された兵士たちは決して安堵していたわけではなかった。一輪車に登山用具を積んできた兵士たちがいた。厳しい条件のもとで作られたシンプルな装備で、クライミングのための厳重な安全対策とは言えないが、ないよりはましだ。急ぎ道具を身につけた彼らは、高い鉄柵のすぐ後ろから燃え盛る薪が投げ込まれているのに気づかなかった。宮殿の庭はすでに赤い服を着た男たちの群れに囲まれていた。

庭の手すりに赤い布を縛り付けていた兵士が、騒ぎに紛れて隠れていたところから出てきて、赤い服の軍団のために庭の門を開けた。怒り狂った赤い服の軍団が、「総督死」のスローガンを唱えながら中に入り始めると、上に登る準備をしていた兵士たちは罵声を浴びせながら、素早く上に駆け上がろうとした。まだ準備の整っていない兵士たちは、持っていた一番大きなナイフを取り出し、赤い軍団たちを抑えようとし、その間に装備を身につけようと奮闘した。

赤い服の軍団は持っていた薪のほとんどを使って宮殿の庭を燃やした。何人かは、鍵のかかった宮殿の扉を壊しにかかった。入念に造られた宮殿の庭のすべてが炎に包まれた。赤い軍団が「暴君総督に死を」と叫ぶと、兵士たちは怯え、パニック状態で登るスピードを速めた。必然的に、兵士の多くは数十寸下に転落死した。

リフトはまだあまり高くなかった。総督の息子は眼下の光景を見ながら、一刻も早い到着を切に願った。峡谷の暗く静かな夜は、総督の宮殿から立ち上る炎に照らされていた。峡谷の人々はすぐに宮殿の周りに集まった。総督の打倒は夢物語のようだったが、火の手は恐ろしかった。

宮殿の壊れた扉を破って侵入し、捕らえたものを持ち去った者、赤い軍団に加わって兵士たちを攻撃した者、村に火が及ぶのを恐れて火を消そうとした者。メクセリーナは年老いているが精力的な男で、長い白髭とは対照的に頭髪はなく、持っていた杖を支えにすることもなく、宮殿に向かって早足で歩いていった。「城壁から離れろ」と彼はそこにいる人々に呼びかけた。彼を好まない人々でさえ、彼の予言を信頼し、先祖のことを知るために総督との密会に出席していた。

人々が壁から逃げようと走ると、やがて大きな音を立てて峡谷の壁に土砂崩れが起こり、割れて落ちてきた石の下敷きになった者もいた......。

マーティンは眼下で起こっていることを見ながら、警備兵たちに早くリフトのロープを引けと叫び続けた。しかし、彼と一緒にいた2人の衛兵は、その長い夜に2度目となるマーティンの担ぎ上げで疲れ果てていた。峡谷の一番東、洞窟のあたりから、白いたてがみの馬が宮殿に向かってきていた。そして、その馬の持ち主がゴンドワナの壁にいて、リフトに向かっていることに誰も気づかなかった。

彼は体に巻いた長い布で頭と顔を覆い、外にある黒い目だけが、半分まで上がったリフトを見つめていた。彼は縫い目の少ない布を巧みに体に巻いていた。土色を基調としたシンプルな織物で、それがふんだんに使われているため、痩せた青年ユベニスの体は実際よりもボリュームがあるように見えた。

頑丈な革で手首に固定されたフックを使い、彼は奇妙な登り方をして石を飛び越え、リフトの中で誰にも気づかれないうちにリフトに飛び乗った。頭からかぶっていた布が肩から落ち、ユベニスのまばらなひげと長い三つ編みの赤い髪があらわになった。リフトの中にいた人々は、突然の重さと音に驚き、顔を見合わせた。

「もし逃げたいって教えてくれてたなら登山教室でも開いただろうに、このリフトは遅すぎる」とユベニスはリフトの上から姿を見せずに言った。マーティンは慌ててリフトの木製の手すりの間に頭を突っ込み、上を見ようとしたが、ユベニスはリフトの端まで歩き、彼が見やすいようにした。彼は軽蔑の表情で総督の息子と彼と一緒にいる二人の兵士を見た。「早く下に降りれると思うぞ」彼は冷たい声で言った。ゆったりとした服の袖から鋭いナイフを取り出した。

二人の兵士が悲鳴を上げた。総督の息子がリフトの分厚い板を突き破ってユベニスに襲いかかった。マーティンは言った。「行かせてくれ、私は峡谷の人間じゃない」ユベニスはカラスのように頭を傾け、言った。「じゃあ峡谷の奴は誰だ?」総督の息子は無垢な表情を浮かべて言った。「私はお前達を迫害した者ではない。その上、ギフトまで残してやったんだ」彼は奇妙に笑って遮った。「私はきお前を私の父から守ったんだ」ユベニスはリフトと滑車の周りの太い縄を彼の手にあるナイフでゆっくり切り始めた。「なぜお前が天罰を受けるべきか、今分かったぞ。お前は何を言っても理解出来ない悪党だ!」

ユベニスはリフトの上にしゃがみこみ、総督の息子の顔を覗き込んだ。「多分、これがあなたへの天罰だ」

ユベニスがナイフで弱らせたリフトのロープの一本が切れた。リフトは激しく揺れた。総督の息子はリフトの木の手すりから下を覗き込み、子供のように泣き叫び始めた。ユベニスは動かずに総督の息子を見ていた。「ロープはあと3本だ」と彼は冷静に言った。

兵士の一人が総督の息子の襟首を乱暴につかみ、立ち上がらせた。「お前のせいでこうなったんだ!」総督の息子はすぐに泣き笑いから邪悪な笑いに切り替えた。「ゴンドワナの家を見たとき、貴様が言ったのはそんなことじゃないだろう」兵士はマーティンの顔に唾を吐きかけ、それからなすすべもなく襟を離した。

ユベニスは再び立ち上がると、もう一方のロープのところまでゆっくりと歩いた。「何をしている!」マーティンは憤慨して叫んだ。「なぜゴンドワナの家を彼らが与えたのかを言えば命は助かるかもしれない」ユベニスはマーティンを見もせずに言った。マーティンは目を輝かせた。「そうだ--そうだ、私は重要な秘密を知っているんだ、私を殺せば君が知ることはないだろう」彼はエレベーターの手すりから素早く覗き込んだ。ユベニスは無造作にナイフをロープにこすりつけた。「お前は私のことをわかっていないようだ!私は秘密を知っていると言ったんだ、私だけが知っている、お前の秘密を!」総督の息子は図々しく叫んだ。

ユベニスは手を止め、マーティンの顔を見た。マーティンは激怒した。「バカで無知な男だ!父と私だけが知っているんだ。 毎月峡谷の住人がどこへ消えていくと思う?」ユベニスは目を細め、総督の息子の顔をまじまじと見た。そして兵士たちに向き直った。「リフトを下ろすか、それとも私が下ろすか?」

兵士たちはどうしていいかわからず、ためらいがちにロープを放した。「何をしているんだ」マーティンは警戒して尋ねた。しかし彼らは、この状況で退位した総督の息子の言うことを聞くつもりはなかった。今度はリフトのロープを反対方向に動かし始めた。リフトが急降下するにつれ、マーティンの目は必死に逃げ道を探して飛び回った。リフトは上昇するよりもはるかに速く下降し、地上まではわずかな距離しかなかった。

ユベニスはナイフで別のロープを一気に切り、リフトの上にしゃがみこんだ。兵士たちはロープが手から滑り落ちて怪我を負い、リフトは軟着陸するどころか、急激に墜落した。マーティンと二人の兵士は、この突然の落下に唖然とし、頭を板に打ちつけた。慌ててリフトから降りようとしたとき、ユベニスがリフトの上からマーティンの背後にそっと飛び降り、彼の首の後ろを殴った。ちょうど近づいてきた白馬の背中に彼を放り投げると、自分も馬の背に乗り、すぐに宮殿の庭を後にした。

ユベニスは宮殿の北側にある塚の後ろに回り、木々の中に姿を消した。峡谷の北壁にある宮殿に最も近い洞窟にまっすぐ向かった。宮殿が騒がしいので、このあたりには誰も来ないだろうと確信していた。彼は落ち着いて馬を降り、意識を失っているマーティンを地面に引きずり降ろした。ゆったりとした服のポケットから長いロープを取り出し、両手をきつく縛りながらマーティンを洞窟の中に引きずり込もうとしたとき、聞き覚えのある声が聞こえた。

「地下牢から男を誘拐したんだ。すげえだろ?」

赤褐色の髪を持ち、歯と同じくらい明るい目をした青年、スディナンだった。スディナンが連れてきたのは、顔の半分を覆いそうなほど真っ黒なストレートヘアの20代の青年ミハリと、首の短いがっしりした体格の青年ゴリアテだった。3人でユベニスに向かって歩いていると、ゴリアテがミハリに向かって叫んだ。「間違ってデイモスの従兄弟たちに殺されそうになったんだ」ミハリは冷静に答えた。「そんな訳があるか。もし君がその問題を大きくしなければそんな事は絶対に起きなかっただろう。」もう少し声を低くして、彼は呻いた。「脳がねぇんだから、筋肉に頼るに決まってるだろうが」

ゴリアテは歩調を変えてミハリのほうに寄り、彼の邪魔をしようとした。ミハリは話題を変え、ユベニスの隣で両手を縛られている囚人のマーティンを指差した。「総督の息子じゃないか」ゴリアテは元の位置につき、マーティンをじっと見つめた。「そうなのか?」とミハリを見ると、ミハリへの怒りを思い出し、「ガリガリなヤツめ」とつぶやいて頭を冷やした。

後ろで口論していたスディナンと他の2匹の山羊のメンバーがユベニスにたどり着く頃には、マーティンは目を覚ましていた。スディナンは不思議そうな目でユベニスを見た。「スディナン、ゴンドワナの家はいくらするんだ?」ユベニスは起き上がろうとするマーティンをちらりと見た。スディナンは真珠のような白い歯を見せて明るく笑った。「あの父親の一人息子の名前は何だったか?マーティン!マーティンだ!」スディナンは目を閉じ、長い間そうして立っていた。まぶたを通して、彼の目が左右に素早く動いているのが見えた。

スディナンはいたずらっ子のような笑みを浮かべていた。彼はマーティンの頭をちょっと叩いて言った。「この家、やけに大きく見えるけど、ゴンドワナの南西にあるのか?」マーティンはスディナンを軽蔑のまなざしで見て言った。「まるでゴンドワナのことをよく知っているかのように......」スディナンは笑顔を崩さずに言った。「彼らは新しい身分も与えるつもりだったのか…お前はゴンドワナ人になるつもりだったのか?」

ユベニスは目を細めて、マーティンが何と答えるか確かめた。マーティンは、まるで自分の腕のロープに気づいたかのように、自分をきつく縛っているロープを恐る恐る見つめた。ユベニスはロープの端を激しく引っ張り、彼を揺さぶった。「ゴンドワナ人がお前のような古いラヴラス人と新しい峡谷のカスを受け入れると思ったか!」マーティンの目は恐怖で大きく見開かれ、ユベニスを見つめた。「おまえが?」と言うのが精一杯だった。スディナンは大声で笑った。「洞窟地域の中は安全だと思ったか?」マーティンが何かつぶやいているのに気づくと、彼はニヤリと笑った。

ユベニスは続けた。「いい条件を出してくれる人がまだいる」マーティンは歯を食いしばり、周りの山羊のメンバーを見た。「この峡谷から出してくれるとでも思っているのか?」ミハリは言った。「バカなやつめ、まずお前は俺たちがお前を生かすと信じるしかない......」と無表情に言った。「俺たちと一緒に行動すれば、今日死ぬことはないし、明日には峡谷から出られるかもしれない」ミハリとゴリアテのためらいがちな表情を尻目に、ユベニスは言った。

二人の顔を見たマーティンは、緊張して笑い出した。「裏切りの匂いがするのか?」

スディナンは皮肉っぽく言った。「この匂いはお前からだな」

マーティンは口をきつく覆って笑い出し、頬を膨らませた。赤くなった顔を見ると、元気があり過ぎるというようではなく、怒りで息が詰まっているようだった。山羊たちは捕虜を連れて宮殿に向かって歩き始めた。

王宮の庭に入ると、二人は群衆の中に留まった。渓谷の人々は興奮した様子で走り回り、総督の訃報について語り合っていた。背の高い禿頭の仕立屋は、人ごみの中で誰かを探していたが、偶然、ユベニスが抱いていたマルティンにぶつかった。 謝ろうと顔を上げると、マーティンの服が汚れて血まみれでも上等な布でできているのに気づいた。仕立屋は眉をひそめ、マーティンとユベニスを見た。「あなたが革命を起こしたのですか?」マルティンは笑った。仕立屋はユベニスとマルティンの周りにいた全員を一人ずつ満足そうに見て、返事を待たずに自分の道を進んでいった。スディナンは静かに笑った。

宮殿に入る人、総督を呼びに戻る人の数が増えるにつれ、庭の祝賀ムードも高まった。革命の知らせを聞いた人々は、家にある食べ物を何でも集め、祝宴に駆けつけ、笑い、勝利の歌を歌った。

総督を燃やした火は、太陽のように夜を照らした。

静かに始まった迫害は、騒音とともに終わるだろう

峡谷は雲から遠く離れていると言ったのは誰か

喜びの涙は土を濡らすのに十分だろう

彼らが即興で作った歌詞の歌は、すぐに町の話題になった。渓谷の住人たちからも正体を隠している山羊の一人、ゼファンは、スディナンを見つけて近づいてきたとき、嬉しそうに歌を歌っていた。近づくと、彼はマーティンに気づいた。「赤が捕虜を全員連れて行ったと思ていたよ」彼は食べ物を素早く噛みながら言った。彼は上機嫌で、歌を口ずさみ続けた。「そして一番貴重な一人は......」とゴリアテはぶっきらぼうに言った。

ゼファンは驚いてユベニスを見た。「俺たちが革命を起こしたかどうか、なぜ俺が知らない」スディナンは今度は大声で笑った。「そうだと言ったらどうするんだ!ユベニス!」

ユベニスはマーティンを睨みつけた。「私たちにでき無かったことを彼がしたのは残念だ!」マーティンは退屈そうな表情で言った。「同感だ」

庭園を進み、宮殿に近づくにつれ、祝賀ムードは徐々に緊張へと変わっていった。人々が火事で負傷した兵士について厳かに話しているのが聞こえた。スディナンはまだ歌っているゼファンをなだめた。「勝利は数歩後ろみたいだな」

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