占い
「じゃあ日誌書き終わったし、お互い一旦帰宅してから現地集合で」
カノンにそう言われ、魔白は浮かれ気味に帰宅する。目的地であるアオンモール少摩平の林は学校から歩くと30分以上かかるため、自転車で行くのが好ましいと判断した。少摩動物公園も片道30分以上かかるのだが、如何せん山道であるため自転車はむしろ邪魔なのだ。
「あ、そうだ」
何かを思い出した魔白は、RINEというコミュニケーションを取るためのアプリを起動する。
「今日は友達と外に出掛ける、何時に帰るか分からないから夕飯は外で食べる」
(うちの両親共働きだから、こーゆー時にはRINEして伝えないとなの面倒臭いな〜)
RINEをして着替えた後、魔白は自転車に乗ってアオンモールに向かった。
(うへーここ久しぶりに来たけどやっぱでかいなー)
一人の人間からすれば大きすぎるほどの複合施設ではあるが、アオンモールの中では1番小さい。しかし、程よい大きさと周りに見える緑は、招いた客に安らぎをもたらす。
(確か2階にある過去屋書店の中にあるって話だったな)
若干の方向音痴が災いし、本来なら入口から数分で着くはずの場所に15分以上かかってしまう。
(ようやく過去屋書店に着いた...あ、あれか!)
過去屋書店と書かれた看板を通り、左奥に進むと黒いテーブルマットのしかれた長机と、占います(500円)という文字が見える。そしてそこには、見慣れた高校の制服とは違う、黒いローブ姿のカノンがいた。
「ごめんちょっと迷っちゃった...待たせちゃった?」
「ううん、私も占いの準備してたとこだから」
「そっか、にしてもなんか気合いの入った格好だね」
「あぁこれ?雰囲気出てるでしょ?」
「うん、なんというか…本当の魔女って感じ」
「率直な感想をありがとう、じゃあ早速だけど魔白くんのこと占うね」
「よ、よろしくお願いしますッ!」
「...ふふっそんなに緊張しなくてもいいのに」
妙に気合いが入った返事をしてしまったのもそうだが、何よりカノンに笑われてしまったことがとても恥ずかしく、魔白は顔を赤くしてしまう。
「じゃあ始めます」
カノンはいつもの砕けた口調ではなく、敬語で話し始めた。タダとはいえ自分の生業ともいえる占いをするために緊張感を加える。
「今回は手短にワンオラクルというやり方で占います」
「ワンオラクル?」
「本来タロットカードで占う場合は、複数枚のカードの絵柄を見てその人の複雑な未来を紐解いていくのですが、魔白くんは初めてなので、簡単かつスピーディーなやり方でいきますね」
カノンはそう言うと裏向きでタロットカードを机の上に置き、円を描くようにカードをばらけさせシャッフルを行う。
「これがあのタロットカードかー...漫画とかゲームで名前は聞いたことあるけど本物を見るのは初めてかも」
「初来店のお客様のほとんどが初めて見たって言います」
「やっぱりそうなんだ...あれ?そういえば本来のタロットカードより枚数が少ないような...」
「あぁ...初回のお客様においては22枚の大アルカナのみの占いになっているんです、2回目以降の占いは小アルカナも使った78枚の占いも可能です」
「タロットカード1つとっても色々な占い方があるんだな〜」
そうこうしているうちに占う準備が整う。魔白の目の前には並べられた22枚のタロットカードがある。
「ではここから1枚だけカードを捲ってください」
「むむ...じゃあこれ!」
魔白の捲ったカードには裸の男女と、天使とも神とも受け取れるような人間が映っていた。
「これは...?」
「"The lovers"の正位置...つまり恋人の正位置ですね」
「コイビト!?」
「"The lovers"が表すのは恋の始まり、そしてそれに伴う選択や試練です、あくまで恋が始まるという暗示であり成功するとは限りません、なので己で道を切り開く胆力を付けるといいでしょう」
「あわわわ...」
「それにしても...魔白くん好きな人がいたの?」
カノンも少し驚いたのか、いつもの口調に戻っている。
「...いや、別に...」
「へぇ?」
「...まぁ、います」
「まぁあの慌てようじゃ流石に分かるかな」
誤魔化しの回答は見透かしているとでも言わんばかりのカノンの視線に、魔白はすぐに折れ、自白するのだった。
「そういう素振りは無かったからビックリ...でも心配しないで、周りに言わないし聞かないから、プライバシーは守るつもり」
(好きな人...負の感情が無いから今の所は儀式には使えないけど、好きな人を経由すればもしかしたら...)
「そう言って貰えると有難いよ...」
「魔白くん、目を閉じてもらえますか?」
カノンの口調はまた営業モードへと切り替わる。
「え?いいけど...?」
急な要求に戸惑いつつも、しっかり従う。
「目を閉じて、精神を落ち着かせて、自分が成功する姿を念じて下さい、思いは形となります」
「はい...」
(今のうちに魔白くんの過去を少し覗く...)
カノンの淡青色の瞳(左目)が紫色に妖しく煌めく。
(彼の想い人さえ分かればいい...写っているのは…私...?)
魔白の記憶を覗いたカノンだったが、そこには灰色の世界に微かに色めくカノン自信がいた。
「もう大丈夫です、目を開けていいですよ」
「これでとりあえずは終わりって感じなのかな?」
「うん終わり、まぁ最後のは占いを盛り上げる儀式みたいなものだけど」
(まさか魔白くんが私の事を...でもよく考えたら好都合...時間をかければ儀式の供物に出来る...)
「はぁ〜まさかあんな恥ずかしいことになるとは...」
(好きな人がいることはバレたけど、黒魔さんの事が気になってるっていうのはバレてないよね...?)
お互いの胸の内は隠しつつ、タロットカードによる占いを終えようという時に、思いもよらぬ人間と鉢合わせる。
「カノンちゃん僕の事占ってもらえるー?」
「あれ?園蔵さん!?」
「魔白ちゃん!?なんでこんなとこに!?」
「いやいや園蔵さんこそなんで!?」
なんと少摩動物公園の用務員である動物園蔵と鉢合わせたのだ。
タロットカードって中々に興味をそそるね