進展
「はいというわけで帰りのHRは終わり!」
担任による帰りのHRが終わり、他の生徒は部活のために教室を出ていく。
「魔白くん、日誌は書けてる?」
色々な事情で、今週の日直当番を一緒にやることになったカノンに当番日誌について話しかけられる。
「あ!?日誌書くの忘れてた〜!すぐ書くから待ってもらっていい?ごめん!」
カノンとの会話をする時間を作るため、あまりにも小賢しい嘘をつく。
「別に急ぎじゃないから大丈夫」
(ほっ...怒られなくてよかった...)
カノンを長く待たせて期限を損ねられるのはゲームオーバーに等しいため、魔白は先んじて何を書くかは考えていた。宣言通り日誌をすぐに書き終える。
「はい!書き終わったよ!」
「随分早いね...」
「こういうのは適当に書くに限るから!」
そういって魔白はカノンに日誌を手渡し、今度はカノンが日誌を書き始める。
「そういえば、黒魔さんさっき急ぎじゃないって言ってたけど、もしかして部活やってないの?」
最大限会話をするにあたって、違和感の無い質問を投げかける。
「うん、私バイトやってるから部活に入ってないの」
「バイト?バイトって3年生になってからじゃないと出来なかったような...?」
この東平高校では、余程の家庭事情でない限り高校3年生以外のバイトは認められていない。3年生だけ認められているのは、建前として18歳になると自動車免許が取れるため、学生が自ら自動車学校の費用を稼ぐという名目がある。しかし、本音としては社会経験を積ませたいという学校側の意図である。
「まぁ、要するに無許可バイトだね」
魔白は、カノンが余程の家庭事情である可能性を考えたが、彼女は平然と校則破りの宣言をした。
「意外とワイルドだね...」
「勿論他言無用だからね?」
「は、はい...」
何か恐ろしいオーラを感じ取り、慌てて次の質問を繰り出す。
「そういえばバイトって何やってるの?普通にコンビニ店員とか?」
「この見た目だと多分どこのコンビニも断るんじゃないかな?私がやってるのは占い師」
「ごめん、デリカシー無かった…でも占い師?」
完全に予想外の答えが返ってくる。
「気にしないでいいよ、魔白くんは書店とかの隅っこで占い師がいるとこ見た事ない?」
「あーそういえば時々そんなの見かけるなぁ〜」
「アオンモール少摩平の林は分かる?」
「豊畑駅の近くにあるショッピングモールだよね?」
「そう、未来屋書店の中で細々と占いをやってるの」
「そうだったんだ...」
「一応言っておくけど、怪しいビジネスではないから安心してね」
「え!?いやいや思ってないから!」
頭の中でその考えが一瞬過ぎったとは、口が裂けても言えなかった。
「折角なら暇な時に魔白くんも来ない?クラスメートのよしみでお金は取らないから」
「いいの?」
トントン拍子に話が進むため、魔白は少し不安にすら感じたその数秒後、
「よし!終わった!」
日誌を書き終わったカノンが、立ち上がる。
「じゃあ日誌は私が先生に届けておくから、明日もよろしく」
「え、うん...」
急に会話が終わってしまった喪失感で、ほんの数秒だけぼーっとしていた。
「まぁ、まだ月曜日だしいっか」
そうして、今まで面と向かって話すことのなかった2人の会話は幕を閉じた。
教室を後にしたカノンは1人考えていた。
(彼は占いの話もしっかり聞いてくれたし、これなら誘えそうかも、今の所3人目までは確保出来てる。後3人...)
タイトル変えました。