転機
本来なら朝の8時前に学校に着くカノンだが、今日から1週間はクラスの日直があるため、7時半頃に登校していた。
「先生、日誌を預かりに来ました」
「あぁ、黒魔か、はいこれ日誌と朝のHRで配るプリント」
担任の教師である担任先生から目的の物を受け取る。この学校では、日直になったら日誌を書くことになっている。日誌にはその日の授業科目とその内容、学校生活を送ってみての自由な感想や質問等を書く。
「ありがとうございます」
「しかし、日直とはいえ黒魔ならいつもの登校時間で来てくれて問題ないと思うけど...わざわざこんな早く来なくていいんだぞ?」
「正直、日誌を後回しにすると面倒なんで朝のうちにやりたいんです」
「今の言葉をクラスのおバカ男子どもに伝えて欲しいよ」
「ふふっそれは先生が直接伝えて下さい、では失れ───」
早く日誌を書きたかったため、職員室を出ようとしたカノンだったが...
「あ、ちょい待ち」
「?」
「実は、黒魔と一緒に日直をするはずだった近衛がノロウイルスで1週間休みでな...」
「という事は、今週の日直は私と西園寺さんですか?」
「あぁ〜...西園寺の方は鳥インフルエンザにかかってな…だからその次の魔白と日直をやって欲しいんだ。」
「斎藤...魔白くん...ですよね?」
「そそ、あいつは優しいやつだから心配は無いと思うけど、もし黒魔が無理って言うなら日直を代えるけど...」
「お父さんの事は大丈夫です。魔白くんが来たら伝えときます」
「そっか...じゃあ頼むよ。」
先生はカノンが男と関わることに抵抗があると勘違いしていたが、そう思われても仕方のない事情があった。過去に"あの事件"があったのだから...。しかし、"あの事件"は教師達以外は知らかった。クラスメートが知れば、ただでさえカノンが眼皮膚白皮症によって、日頃浮き気味と思われるこの状況に拍車をかけるからだ。
「はい、では失礼します」
日誌を受け取り、カノンは職員室を出るのだった。
朝の8時に魔白は校門に到達。梅雨の季節だが、気まぐれの晴れにより、汗と湿度が身体を包む状況となっていた。
「暑いうえにジメジメしてるとか勘弁してくれよ...」
「うい〜魔白くんグッモーニーン!」
「ただでさえだるい気温と湿度なんだから、お前くらいは黙っててくれや...」
「その物言い酷すぎね!?むしろこーゆー時こそ元気に行かねーとだろー?」
「はいはい」
「あ、そえばさー昨日ようやく話題になってたスマホのゲーム出たじゃん!魔白はもう手ぇ付けた?」
「そりゃもちろん!お前は?」
「俺もバスケの大会終わった後に少し触ったけど、あれクソおもれーな!」
「だろ?しかもマルチプレイも可能だし!」
「いやーマルチプレイ絶対楽しいわー!今度達也と涼太誘うつもりだから魔白も一緒にやろうぜ!」
「OK」
今時の高校生らしく、スマホのゲームの話で盛り上がっている間に教室が見えてくる。
8時5分、教室に入り自分の席に着く。
「魔白くん、ちょっといい?」
「え?」
普段面と向かって聞く声ではないため、つい素っ頓狂な声が漏れてしまう。
「なんでございましょうか?」
「今週の日直なんだけど、近衛さんと西園寺さんが病気で1週間欠席らしいから、魔白くんが代わりに日直する事になったの」
「え?日直?黒魔さんとってこと?」
「そ」
「面倒くさ〜...」
(え?まじで???)
男というのは逆張りの権化であり、思考と言動が真逆になるなことがよくある。魔白も例に漏れず、気になる人と日直という共同作業ができる喜びを、目の前のカノンに見せたくない一心で嘘をつく。
「こういうこともあるよ、とりあえず授業科目と授業内容はもう書いておいたから、適当に今日の感想を書いたら私に渡してね」
「はや!帰りのホームルームの後に渡せばいい?」
「それで大丈夫」
「はーい」
棚からぼたもちのような、魔白にとっては実に美味しい展開だった。
(こんな事って…これは...チャンスなのか!?)
小狡い頭でどうお近づきになるかを考える魔白であった...。
ようやくラブコメっぽくなってきたねぇ〜(*^^*)