夏休みの始まり
夏休みの初日となった土曜日、魔白は朝起きてスマホを確認し、珍しい人間からRINEのチャットが来ている事に気付いた。
(ハリー先生からチャット来てる...)
そこには、「今後のことについて少し話をしたい、暇な曜日はあるか?」と書かれていた。
(ん〜基本暇だしなんなら今日でもいいかなー)
「いつでも大丈夫ですよ!なんなら今日行けます!」
魔白は返事の文を送り、家族と朝食を食べることにした。
朝食後、ハリーからRINEが帰ってきていた。
「じゃあ今日の昼に丘陵公園に来てくれないか?」
そんな訳で魔白は昼食の後に公園に来た。
「すまない、こんな急に」
「大丈夫ですけど...話ってなんなんです?」
魔白は話というのが気になり過ぎるがために、ハリーに本題に入るよう急かす。
「実は...俺が追ってる契約者の件で急を要する事態になってな」
「急を要する...ですか?」
全容の掴めないタイトルコールを聞かされ、魔白は首を傾げた。
「あぁ...立ち話もなんだ、座って話をしよう」
「はい」
ハリーは話が長くなると感じ、座って話をすることにした。
「どこからどこまで話すべきか...」
夏の日差しですら拭えないハリーの陰りは、魔白にもしっかり伝わっていた。
ハリーは少し考え、話を始めた。
「急を要するというのは、俺の大事な人に何かしらの異常が発生したってことなんだが…」
「はい...」
「いや、違うな」
自分で話を始めながら、自分で勝手に会話を終わらせる不可解なハリーの行動に、魔白はまるでついていけなかった。
「君には隠し事もしているし、嘘もついている、ここを話さないとどうしようもないな」
「え、まさかバレてないと思ってたんですか?」
ハリーの告白に魔白はあっさりと返事をする。
「ちょっと待て、バレてるって何がバレてるんだ?」
「あぁ、勿論嘘や隠し事の内容は分からないですけど、嘘や隠し事をしてるのはバレてるって話です」
「そうか...済まない...」
「ファミレスで話をする時に明らかに歯切れ悪かったじゃないですか、そういうのは分かるもんなんです」
「敢えて指摘せずに泳がせてたって訳か」
「なんでそんな人聞きの悪い事言うんですか!聞かれたくないんだろうなって思ってただけです!」
「...今後もその厚意に甘えて構わないか?」
「へ?」
「君に言えない事がまだ幾らかあるんだ、それでも構わないか?」
「大丈夫です、無理言って白魔術教えて貰いましたし、そこら辺は言う通りにします」
「助かる」
ハリーは内心驚いていた。
魔白の妙に分別のある様が、高校生時代の少しヤンチャだった自分とはまるで違うからだ。
ここでようやく本題に入ることにした。
「まず、ファミレスで話したことには1つ大きな嘘がある」
「はい...」
「君にはサタンと契約者が共に行動をしていると伝えたな」
「そうですね、え!?それが嘘なんですか!?」
「正確には契約者ではなく、契約者擬きだな」
「契約者擬き?何の違いがあるんですか?」
「サタンと行動を共にしているのは…契約者の娘なんだ」
ハリーはここでもカノンが犯人だとは伝えなかった。
しかし、魔白はハリーが隠し事をしているということに勘づいていた。
「多分...契約者とその契約者の娘っていうのが誰かは知ってるんですよね?」
ハリーは3秒ほど目を逸らし、もう一度魔白を見据える。
「あぁ、そして大事な人というのがサタンとの契約者だ、だが誰かは言えない」
「理由を聞いてもいいですか?」
「君が知ると、俺の計画に色々な不都合が生まれるかもしれないからだ」
「あはは...酷い言い様ですね...でも、じゃあ白魔術なんて教えない方が良かったんじゃ?」
ここまで言われるとは思っていなかった魔白は、つい乾いた笑いを漏らす。
「勿論君に白魔術を教えるのはイレギュラーだった、だがそちらの方が何かと都合がいいかもと思ってな」
「都合?」
「サタンの足止めだ、あいつに敵わないなら、せめて動きを封じてどうにか契約者擬きを封印するつもりなんだが、そのためには膨大な魔力が必要になる...少なくとも5人分の魔力がフルで必要になる」
「5人って僕と先生じゃ足りないですよ?」
至極当然な魔白の質問に、ハリーは魔白の右肩を指さした。
「肩の護符は付けっぱなしな訳だが、その護符が毎日少しずつ君の魔力を吸収し、蓄えているんだ」
「えぇーー!聞いてないですよ!」
「言ってないんだから当然だろう?それに生活の支障になってはいるまい?」
「まぁ...」
ハリーは魔白の責め口調を見事にいなし、反論の余地すら奪ってしまった。
「君に白魔術を教えたのは、魔力の吸収効率を上げるためでな、今は1人分だけ溜まっているな...だがこのままでは間に合わないかもしれないんだ、この魔力を更に早く溜めたい」
これだけの隠し事や嘘を聞かされたため、魔白の頭は猜疑心で一杯になり、ハリーに横目で鋭い視線を送っていた。
「済まないと言っている...」
「それでぇ?僕はどうすればいいんですかぁ?」
「俺と特訓をして、魔術を継続的に使用してもらう」
「特訓!?」
「そんなに難しいことはしないさ、俺も魔術に詳しい訳では無いが、魔力とは血液のように全身を巡っているらしい、だから魔術の使用で魔力の動きを活発にさせて、肩の護符に効率良く吸収させるという寸法だ」
「うん?」
魔白は理解が出来ないと、首を傾げて再度説明するよう促す。
「理解する必要は無い、特訓することでサタンの対策も取れるし、君自身も護身の術くらいは覚えられる一石二鳥のやり方ってことだけ覚えておけばいい」
「はぁ...」
「じゃあ前回同様身体を動かしてもらおうか」
「はぁ〜い」
2人はベンチから立ち上がり、人気のない森の中へと入っていった。




