二度あることは...
夕焼けに照らされた人気の無い帰り道を歩くカノンは、その存在に今しがた気付いた。
カノンは歩きながら、さりげなく右の掌を後方の相手に向ける。
すると、鋭い音を発しながら掌から直線上の黒い光が飛び出した。
後ろを振り返るでも、声をかけるでもなく、カノンが取った選択は攻撃だった。
「何の用ですか?ハリー先生」
足を止め、振り返りざまにわざとらしく抑揚をつけた声で彼の名前を呼ぶ。
「わざわざ聞く意味があるのか?」
彼は片手を顔の前に突き出していた。その片手からは、何かを受け止めたかのように微かな白煙が登っていた。
「女子高生をストーキングする先生って不気味だと思いません?」
お互い質問に全く答える気のない会話をする挙句、挑発するためだけの嫌味まで飛び出す。
「警察の張り込み調査もストーカーか?」
「は?あんたは教師でしょ?」
まるで意味の分からない会話だが、ハリーがここで本題に入る。
「さっき魔術を使ったな?だから少しばかりつけさせてもらった」
「やっぱそういうことじゃん」
驚く素振りも無く、何となく知っていた、カノンはそんな顔をしていた。
「私としてはせめてもう少し待って欲しいんだけど、そうもいかないってわけ?」
カノンは封印の魔術にやられた左腕がザワつくような感覚を味わっていた。
「元より待つ気なんてない、待っている内にローズが死ぬのは御免だからな」
「だったら尚更引っ込んでてよ!その役目は私がやる!私だってお母さんを助けたいのになんで邪魔するの!?」
「それは...」
カノンこそが不幸の種であり全ての始まり、その種を摘めば全てが終わる、そう言えたならハリーは楽だったのかもしれない。しかし、彼の良心がそれは発言してはならない禁句だと告げていた。
「みんなして大事な時はダンマリ...」
怒りに震えながら、カノンは右手に黒い爪を纏わせる。
「今ここで殺し...ぐっ...」
カノンは言葉を途中で詰まらせる。
「また...」
視界が有り得ないほどにぼやけ、左腕が鮮烈な痛みを訴えてくる。黒い爪も勝手に消えていた。
(何が起こった?)
ハリーも戦闘態勢に入ろうとしていたため、戦闘が起こらないという事態に拍子抜けしていた。
しかし、これを好機と見たハリーは目の前の標的を封印することにした。
『毎度世話が焼ける』
構えを取るハリーの横にいた。現れたというよりもまるで元々そこにいたかのようにサタンは佇んでいた。
ハリーはサタンに気付いた瞬間に、バックステップで距離をとる。
「何故かお前のことを失念していたよ」
ハリーは突如現れたサタンに対し、全く目を逸らすことなく睨みつけていた。
『やるか?』
「そのつもりは無い」
『そうか』
「いつだって...お前には用が無いんだよ!」
そう吐き捨てると同時に、封印の力を持った光弾がカノンに向かって放たれる。
しかし、以前と同じくカノンに当たることは無かった。
瞬間的にカノンの目の前に移動したサタンは、光弾の動きを止め、腐り果てるかのように白い光を黒く染め、静かに消し去った。
『去るぞ』
地面にへたりこみ左腕を抑えながら、サタンの方も見ずにこくりと頷く。
すると瞬く間に2人は消えた。気配は完全に無い。もう遠くへ消えたのだった。
ハリーはサタンに防がれるであろう無駄な魔力を使わないために攻撃はしなかったが、2人がどこかへ行くのを黙って見過ごすことに対し、歯痒い思いをしていた。
「カノン、気持ちは同じのはずなんだがな...」
カノンの母親であるローズを助けたいという気持ちは、ハリーとカノンで共有しているはずの思いだった。
しかしその過程でぶつかる以外に方法が無いことに、やるせなさを感じていた。
(それにしてもさっきのは一体...)
ハリーはカノンが急に戦意喪失していた時のことを思い出す。
余りにも不可解な動きだったため、それについて思考を巡らせていると1つの可能性に至った。
(魔力の枯渇...いや、しかし...)
明らかに左腕を痛がっていたため、痛みを鎮静させる黒魔術が効力を失ったことになる。
だが、彼女は学校にいる間、魔力をそこまで消費することの無い追跡と盗聴の魔術以外は使っていなかった。
朝に膨大な魔力を使ったのなら、その残り香をハリーが感じ取るはずだがそれも無かった。
自分の思いついた可能性を否定したハリーは、もう1つの最悪ともいえる可能性に辿り着く。
(もしやローズの方か!?)
事の発端であるローズの身に何かあったとすれば、一応の説明がつく。
だがそれはつまるところ、急を要する事態ということでもあった。
しかし、ハリーはローズの居場所が分からないため、ローズに会って確かめるという選択肢は取れなかった。
さらに、たとえ居場所が分かったとしてもカノンの封印に負い目を感じていたため、ローズには会わないつもりだった。
(結局やる事は変わらないな)
ハリーは今後の動きをどうするか考えながら、すっかり暗くなった道を歩き始めるのだった。
うい




