裏内 薫II
「まぁそこ座りな」
「はぁ...」
ひとしきり魔白を観察し終えると、薫は座るよう促す。
こうなった以上は、魔白も付き合うしかないと覚悟を決めた。
「その制服...東平だね?」
「そうです」
「あんた...クロちゃんと仲良いのかい?」
「クロちゃんって黒魔さんのことですよね?」
「そうだよ」
「正直仲良いって言える程なのかは分からないです、でも優しくて良い人なのかなって思ってます」
「良い人か...」
魔白の率直な感想を聞いた薫は、どこか暗雲が立ち込めたような表情をしていた。
「少し気をつけた方がいいよ」
「え?どういう事ですか?」
魔白は何か裏があって褒めたわけではない。しかし、良い人と評価した人間に対しての薫の反応は、実に冷たいものだった。
「ちょっとだけ長い思い出話だけど付き合ってくれるかい?」
「...はい」
「クロちゃんはね、去年の春に私のとこに来たわけさ...」
いつも通り占いをやってたらさ、クロちゃんが来たんだよ。
あれはびっくりしたもんだよ、なんせ普通の人達とは見た目が違うんだからねぇ。
そんで、流石に学生が来るとこじゃないよって追い払うつもりだったんだけど、何かを覚悟した目で私を見つめるとさ、「占いを教えて下さい」って言うんだよ。
なんというか…獣のような眼光でね、何十年生きた私でも背骨が少し冷えたもんだよ。
なんだか放ってはおけないと思いつつも、関わっていいものかとも思って少し脅しをかけたんだよ。
「バイトのつもりなら金はやらんよ、それでもやんのかい?」って。
普通の学生ならこんなもん食い下がるはずだろう?でもあの子は違ったわけよ。
「なんでもいいから教えて下さい」って。
私はその目を見てガキの痩せ我慢じゃないなってのはすぐに分かった。
でもそうするとまた1つの疑問が湧いてくるわけ。
何でそこまでして占いなんか知りたいのかって話。
だって高校生だよ?お天気占いのやり方を友達に聞くとかならまだしも、本職に占いを知りたいなんて頼み込んでくる高校生とか正直気味が悪いだろ?
でもそれについて聞いたらさ、ダンマリだったんだよ。
まぁ、結局放っておけないの精神が勝っちゃってあの子に占いを教えて、今は週に2日、1人で占いをやらせてるってわけ。
「要するにさ、あの子には私も坊主も知らない裏の顔があるってことさ」
「裏...」
(両親に関係することなのかな...)
カノンは両親に対して、執着とも言える何かを随所で見せていた。魔白はきっとそれが関係しているのだろうと考えた。
しかし、それと占いはどうしても結び付くものではなかった。
「ってなんかサラッと言ってましたけど、色々危なくないですかその話、法に触れてそうというかなんというか」
「私は法律のために生きてるわけじゃないんだよ、まぁそん時はそん時だね」
「えぇ...」
(なんて破天荒な...)
「ま、そういう性分だからね、それであの子さ、才能なのかなんなのか、物覚えはとてつもなく早くてね、本職でもやってけるんじゃないかと思うくらいだったよ」
「そんなに...」
「クロちゃんの凄いとこってさ、あの...なんだっけ?人心しょ...しょう...」
「人心掌握術ですか?」
「それそれ!なんか妙にカリスマ性みたいなのがあってねぇ」
「なんとなく分かるかもです」
もっと簡単に表すなら凄みだった。
魔白も日直を一緒にやるまでは、話しかけようという気を微塵も起こさなかった。
周りの人間もカノンの凄みを感じ取ってか、距離を取って憧れの目で見るだけに留まっている。
「でもそれ以上になんか危なっかしいんだ、きっとその脆さを隠して生きてるんだね、ありゃあ」
幾度か見たカノンの陰りのある表情、それが脆さの表れなのだろうと魔白は直感していた。
「あんたはアホっぽい...じゃなくて、素直で良い子っぽそうだからクロちゃんのことよろしく頼んだよ」
「アホっぽいって...」
「オホホ、言葉の綾だから気になさんな」
「はぁ...」
「そういえば名前聞いてなかったね?坊や、名前はなんて言うんだい?」
「斉藤魔白です、斉藤は普通に斉藤で、魔法の魔に白色の白です」
「へぇ...白と黒ってことかい...これは何かの巡り合わせってやつかもね...」
「そんなんじゃないですから...」
魔白は妙なことを言われ、少しだけ顔を赤くする。
「満更でもない顔だね、シロちゃんや」
「シロちゃん!?」
「可愛いだろう?」
「いや、そう言われても...」
薫は魔白の反応などお構い無しと強引に話を続ける。
「占わんでも何となく分かる、きっとクロちゃんとシロちゃんは相性が良い、でもだからって良いことばっかりなわけじゃない、むしろ...」
何かを言いかけ、薫は口を噤んだ。
「いや、まぁとにかくクロちゃんは気難しい子だけど仲良くしてやってってことさ」
「頑張ります、じゃあ僕そろそろ帰りますね」
「付き合わせて悪かったねぇ」
「いえいえ」
こうして不思議な人物と不思議な会話をした魔白は、不思議な充足感を得て帰宅するのだった。
魔白が帰宅する頃にはその背に黒い蝶はいなかった。その蝶は在るべき場所に帰っていた。
「相性が良かったとしても供物にするなら意味は無いんだよ、薫さん」
校舎に残っていたカノンの綺麗な指に、黒い蝶がとまっていた。
黒い蝶はやがて粒子となって消えていき、カノンは校舎を後にした。
龍騎の手塚海之(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆ スコスコスコスコ




