異変
彼女には不思議な魅力が在る。眼皮膚白皮症であるため、浮世離れした見た目でスタイルが良く、目を引く見た目だ。おまけに勉強も運動も、常に上の中程度の高水準なのだが、それ以上に、言葉に表せない不思議なオーラと、まるで何にも動じない落ち着き払った態度。しかして、堂々としているのに直ぐに消えそうな儚さがある。勉強も運動もそこそこで、愛嬌あるくらいが取り柄の、背の低い僕と違って...。
「はぁ…」
誰にも聞こえないはずの溜息は、第三者に伝わっていた。
「魔白の気持ち分かるぞ〜、俺もあんな綺麗な人と付き合いてぇもん」
クラスメートに茶化されて、顔が赤くなると同時に声を上げる。
「バカ!そんなんじゃねーわ!ってか俺別になんも言ってねーだろ!」
「そんなに怒んなよ〜悪かったって、お前毎回いい反応してくれるからついな」
「それ嫌味だったら殴る!」
「可愛いって意味!褒め言葉だから!でも俺、ダチの恋路なら応援するからな!」
「さいですか」
わざとらしく唇を尖らせ、不機嫌アピールをする。
多少デリカシーの欠如が見られるが、間部達徹は悪い奴ではなかった。だから心の底から怒ることもない。今の会話も、魔白も徹もお互いにただの軽口なのだ。
キーンコーンカーンコーン
「やべ!授業始まる!」
「ほれ行った行った!しっしっ!」
手で払い除ける動作をし、徹はそそくさと席に着く。
何も変わらない日常を過ごし、高校を出る準備を整える。本来なら沢山の学生が周りにいるはずなのだが、美術部の幽霊部員であるため、他の学生よりも早く帰れる。しかし、魔白は一目散に帰宅をする訳ではなかった。
彼には行くべき場所がある。
徒歩で30分ほど歩くとそこに着く。
「年パスでお願いします」
「はい、ありがとうございます、ではいってらっしゃいませ」
「ありがとうございます」
家への道とは反対の方向に少摩動物公園という動物園が存在する。そこに毎週木曜日にある動物を見たいが為に入園する。
「サム〜今日も元気そうだな〜」
アフリカゾウのサムである。昔から何かと動物園や水族館が好きで親によく連れて行って貰っていたが、そんな幼い時からこの少摩動物公園にいたゾウだ。
ちなみに、毎週木曜日に来る深い理由は特にないのだが、木曜日のサムは他の日よりも機嫌が少しいい。この動物園では水曜日が休園日なのだが、ゾウも人間のように休んだ後は元気になるのだろうか?そんな事を考えていたら、
「毎週毎週よくもまぁ欠かさずにサムを見に来るねぇ〜。」
不意に後ろから声を掛けられるが、驚くこともなく振り返る。
「園蔵さん!昔から見に来てるせいかなんだか気になっちゃって、それにサムってなんか可愛いし」
動物 園蔵、彼はこの動物園の用務員であり、この時間になるとアフリカの動物達が集うアフリカ園エリアの見回り兼掃除を行うため、毎週この場所で出会う。
「それってサムに恋しちゃってるのかなぁ?」
「流石にゾウに恋することは無いかな…」
「えーでも魔白ちゃん恋バナとか1度もしてくれたことないから人に恋しないのかと思ってたー。」
「それ冗談でいってるんだよね?...大体なんで園蔵さんに恋バナしなきゃいけないのさ!」
「毎週ここで会って話すんだし1度くらい...ねぇ?」
「同世代の友達とかならまだしもおじさん相手は...」
「酷いなぁ〜」
そんな他愛も無い話をしていた時だった。
「そういえば魔白ちゃんの家族って仲良いの?」
「え?仲良いけどどうかしたの?」
何か毛色の違う質問と、園造の急に纏った冷たい雰囲気に言わ感を感じた魔白は、質問を質問で返した。
「ううん、なんでもない!じゃあそろそろ行くよ」
「うん...僕もそろそろ帰ろうかな!」
得体の知れない異様な空気を残しつつ、2人は遠ざかっていく。すると、園造が魔白の方を振り返る。
「次は恋バナ聞かせてねーーー!」
「恋バナが出来たとしてもおじさんにはしないよーだ!」
去り際にお互い軽口を言い合う。
今日も今日とて平和なやり取りをして、夕焼けを背に自宅へ向かうのだった。
同日の夜、様々な劣等感に苛まれた男は、カメラを片手に雨の中の住宅街を彷徨っていた。
「くそっ!こんな普通の住宅街にいんのかよ!...でもネタを撮るまで帰れねーよな...」
「ここに来てくれてありがとう、そしてさようなら」
聞き覚えのある女の声だが、暗闇でハッキリとした正体は分からない。それに意味不明な言葉を投げ掛けてくる。肝試しと称した、動画投稿サイトのネタ企画のためにこの場に来た男は、不審者か幽霊かの判断がつかずコミュニケーションを取る事にしたが、
「あんた何言って...」
気づけば女と思しき者の影は、男の目の前にいた。そして、深紅の滴を纏った銀閃は宙を舞う。
「えっ?」
男の胴体からは鮮血が漏れ出る。想像を絶する灼熱感と痛みに仰天し、立っていられなくなる。
「ぐっ...ぎっ...」
声にならない声を吐き、頭での理解が追いつかないものの
、本能で女と思しき者から逃げようとする。
「ダメだよ」
地を這う虫を踏み潰すかの如く、一切の躊躇も無く男を足で磔にする。
「貴方に罪は無いけれど...ここで死んでもらう」
半ば昆虫標本のような状態で押さえつけられ、追い討ちとばかりに先程の灼熱感と痛みを、今度は背中で感じることとなった。
執拗に、確実に、明確な殺意を持って、幾度となく、銀の煌めきが男の背を紅に染めていく。
男は考える暇もなく、徐々に力を失っていく。
「まず1人目...」
(殺人ってこんなに呆気ないものなの?)
男の血液は雨と同化して辺りを流れる。自分と同じ負の感情を抱いていた男に同情しながら、女と思しき者は儀式を執り行う。
多分ですけどストーリーがある程度進んだらストーリー内での日付を追加すると思います。電子って便利だね★