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白魔術

魔白は言われた通りに、午後2時に東平丘陵公園に来ていた。

「待たせたな」

「今日はお願いします!」

相も変わらず浮かれたままの魔白は、挨拶と共に敬礼をする。

「それで何するんですか?」

「とりあえず腹筋、背筋、腕立て伏せにスクワット、これらを10回ずつやってくれないか?」

「いくら文化部とはいえ10回ずつは舐めすぎですよ〜、僕高校生ですよ?」

「別に50回でも100回でも構わないぞ?」

「10回で」

大人しく筋トレを始めた魔白だったが、腕立て伏せを始めた辺りで猛烈な違和感を覚えた。

「いーっち、にー、さ...ん、なん...か...身体が...重い...」

違和感は筋トレによる疲労とは何か違う、まるで身体の何かが抜け落ちていくような感覚だった。

最早筋トレどころではなくなり、うつ伏せで大の字になる。

「10回は舐めすぎじゃなかったのか?」

「いくら久しぶりとはいえ...こんなはずじゃ...」

「まぁ茶番はさておき、今のでよく分かった」

「え、何がですか?」

1人納得するハリーに、魔白はすかさず問いかける。

「白魔術に適合しているかどうかを見ていた」

「もしかして、身体が重くなったのって白魔術って事ですか?」

「その通りだ、肩の護符を通じてな」

魔白はふと肩に目をやるが、魔力が流れてくるという物語じみた感触は、全くと言っていいほど無かった。

「本来なら面倒な儀式が必要だが、護符を付けたお陰で身体が白魔術に慣れている」

「え!?じゃあもしかしてもう使えるように!?」

「多分な、一旦場所を移そう、毎度思うが日本の夏は暑すぎる」

「夏休みの間とかもっと暑くなるの嫌になっちゃいますよね〜」

「言うな、想像させないでくれ」

炎天下の陽射しを遮る木陰へと移動し、ハリーは座学を始める。

「ここからは講義の時間だ」

「はい!」

「まず先に言っておくが、魔術というのは金みたいなものだ」

「え...お金?」

古来から伝わる魔術と、現代の全人類における必需品の金がどう繋がるのか、魔白にはまるで検討もつかなかった。

「金は全人類が等しく使えるものだが、魔術も儀式さえ行えれば、誰だって使えるようになる」

「誰でも...そうなんですね...」

悪魔や魔術に出会った自分は特別であると密かに思っていたため、魔白は誰だってという言葉にほんの少しのショックを覚える。

「しかし、現代において魔術を使うものはそういない、何故か分かるか?」

「危険...だから?」

「そうだ、人智を超えた力は民を混乱させ、様々な要因で文明にダメージを与えた、そのため、魔術を恐れた人間達が様々な形で抑止力となるものを生み出し、魔術というカテゴリーはなりを潜めることになったんだ」

魔白は言葉を発することも無く、ただただ生唾を飲みこんでいた。

「そして、魔術は使う側にとっても危険なんだが」

「使う側もですか?」

「ああ、原理は未だに分からんが、黒魔術なんかは使い過ぎれば使用者の身体がバラバラになったり、身体が黒くなって朽ち果てる、このような副作用が存在する」

「えぇ、黒魔術使う人って頭イカれてるじゃないですか...」

「それは...そうかもな...」

一瞬、ハリーの表情が快晴に相応しくないほどの翳りを見せる。

「先生?」

「いや、なんでもない、しかし白魔術だって例外じゃない、使い過ぎれば身体が丸1日動かなくなることもある」

「それ、学生にとっては死活問題です!」

「当たり前ではあるが...なんというか...気が抜けるな…」

事の重大さを飲み込めていない魔白の返答に、ハリーは大きい溜息をつく。

「つまるところ、使用するのは簡単だが、無闇矢鱈に使えば痛い目を見るのが魔術というわけだ」

「確かにお金みたいですね…」

「大事なのは、何のために魔術を使うのか、その為に何をするべきなのかを明確にするという事だ」

「知りたい事があるって理由は...どうですかね?」

自分でもしょうもない理由だと思っている魔白は、おずおずとハリーに質問をする。

「いいんじゃないか?」

「え?」

下らないと一蹴される、そう考えていた魔白にとっては、不意打ちのような回答だった。

「目的なんてあるだけで充分だ、途中で変えるのも、白紙に戻すのも好きにやればいい、たとえ間違えていたとしても、やり直せるのが人生だ」

何か深い思いのこもったハリーの言葉は、魔白の心を大きく揺らしていた。

言葉にはできないその説得力は、ハリーの身体を大きく見せていた。しかしそれは、苦い記憶から来る悲しみによるものだった。

(ローズ...)

「先生?」

「あぁ、すまん」

一瞬、物思いに耽っていたハリーだったが、魔白の言葉で我に返る。

「少し脱線したな、じゃあ今度は実践編だ、少し離れてくれないか?」

「分かりました」

ハリーはそう言うと、背を向けていた木と向かい合い、正拳突きの構えを取る。

「フンッ!」

刹那、空を切る音がしたかと思えば、硬く鈍い音が響く。

目の前にある木には、ハリーの拳が突き刺さっていた。

拳を抜かれた木には、長さ30cm程の大きな窪みが出来ていた。

およそ人間の技とは思えない光景に、魔白は呆気に取られていた。

「魔術があればこんな芸当が可能になるんだが、とりあえず今日は魔術を実際に使ってもらおうか」

「...は、はい!」

再び、2人は実技に取り組むのだった。

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