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取引

1人になったハリーは、ファミレスで昼間の出来事を思い出していた。

それは遡ること1時間前...


「ハリー先生」

長い白髪と、血管が透けて見えそうな程の白い肌を持つ殺人鬼が声を掛ける。

「授業の話以外なら聞く気は無い、こんな所でやり合うつもりもない」

「停戦協定を結びに来たって言ったらどうします?」

「...」

眉や瞼がぴくりと動く。

少なくとも気にはなるという体のサインだった。

「私は先生の魔術で左腕がまともに動かせません、なので停戦協定です」

「メリットがない、それに弱った獲物をみすみす見逃すような人間に見えるか?」

「昨日の傷が治ってないのは先生も同じですよね?」

「程度が違うな、俺の傷はただの裂傷だから治すのに大して時間はかからん、対して君のは治すのにどれくらいの時間を要するだろうな」

「3ヶ月程、猶予を貰いに来ました」

カノンはしっかり動かせる右手で、3の数字を作り出しハリーに見せつける。

「だからメリットがな───」

「無策でサタンには勝てないでしょう?」

同じ言葉は言わせまいと、ハリーのセリフに被せる形でクリティカルな一文を突きつける。

「その3ヶ月で策を考えろと?」

「どうするかは先生次第です、でもサタンの強さを知ってる以上は、この提案を呑む価値はあると思いますけど?」

「...」

ハリーはいっそこの場でカノンを封印しようと、右手に魔力を込める。

「無駄ですよ、サタンはすぐ傍にいます、私が消えるようなことがあれば必ず守りに来る」

嘘か誠か分からなかったが、カノンの何も物怖じしないような真っ直ぐな瞳が、言葉に説得力を与える。

右手に溜めた魔力は、形となって解放されることなく霧散した。

「もし勝てるつもりでいるなら後悔するぞ?」

「そちらこそ」

少しの沈黙の後、ハリーは目一杯の嫌味を放つ。

「自分でどうにかするんじゃなくて、悪魔に頼るんだな」

学生としてのカノンではなく、殺人鬼としてのカノンが鋭い目つきでハリーを睨む。

「...私はアイツを利用してるだけ、頼ってるとか変なこと言わないで!それに先生だって、白魔術に頼った時点で同じ穴の狢でしょ」

苦し紛れだった。サタンを使っての脅しなど、しなくていいのならしなかった。カノンは精一杯の抵抗として、同じように嫌味を放つ。

「同じ?俺はローズを、君のお母さんを黒魔術から解放するために白魔術を身につけたんだ!」

しかし、精一杯の抵抗はハリーの心を揺らすには充分だった。

「解放って何!?意味が分かんない!」

「前に言った通りだ、アルビノである君は普通の生活が送れないはずだったが、ローズの黒魔術が君の体に作用して、それを可能にしている」

「...」

カノンはこれまでに、幾度も嘘をついてきたからこそ他人の嘘にも敏感だが、そんなカノンの直感がハリーの態度に偽りは無いと伝えていた。

「黒魔術の副作用は君も分かっているだろう?使用者は不幸になる、だからローズはああなった、はっきり言って自業自得だ」

「あんたなんかに何がっ───」

「ハリー先生!」

その時、遠くから魔白の声がした。今にも目の前の敵を射殺さんとするカノンの蒼い瞳は、気づけば明後日の方向を見ていた。

「サタンにでも話を聞いてみるんだな、奴は全部知っている」

「...どうも、さっきの話、良い返事を期待してます」

ハリーは、カノンが事実を知れば戦意を喪失するかもしれないと考え、情報を持っている悪魔の名を挙げる。

振り返ることも無く思ってもいない礼の言葉を返し、カノンは去っていった。


(考えた所で…彼女を...ローズの娘を封印するという目的は変わらない)

10分ほどファミレスに居残った末に、考えても仕様がないと、2人分のドリンクバー代を払い、ファミレスを後にした。

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