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悔恨

サタンにより一命を取り留めたカノンは、本来の目的である動物園蔵を儀式の供物にするため、彼の元へと向かっていた。

「はぁ...はぁ...」

(左腕は動かせなさそう...)

ハリーの攻撃により、左腕の激痛を負いながら行動することになったカノンだが、この機会を逃せば今までの努力は全て水泡に帰すため、中止することは出来なかった。

(まさか同じ魔術師の方が先に邪魔者になるなんて...今後の計画はまた練り直しかも...)

今後の事を考えているカノンの向かいから、目的の男は現れる。

「ちょっと君!もう園内は閉まってる...ってカノンちゃん!?なんでこんな所に!?」

レインコートを被った迷子だと思っていた園蔵は、駆け寄って近づいてみると、見知った顔だと気付き驚愕した。

「はぁ...はぁ...」

「え?大丈夫?左腕抑えてるけど、もしかして何かあったの?」

こんな時間に園内にいることはそっちのけで、荒い息をたてながら左腕を抑えるカノンを心配せずにはいられなかった。

「園蔵さん...ちょっと近くに来てくれる?」

「え?うん...分かった」

そう言って園蔵は、何も疑わずにカノンの要望に応える。

「おじさんの肩でいいならいくらデェッ!?」

言葉は不自然に遮られてしまう。それもそのはず、園蔵の胸部中心の骨と肉、そして人間にとってなくてはならない臓器は丸ごと何かによって貫かれたのだ。

そして、ゆっくりとその何かが園蔵の身体から引き抜かれていく。

同時に、空中を彷徨いつつカノンの肩に手を当てるも、手が肩から滑り落ち、地面に倒れる。

地面に倒れた園蔵は確実に近づく死の中で、右腕を真っ赤に染めたカノンを見上げていた。

(なに...これ...)

急に訪れた死神は、園蔵の思考力すらも奪っていた。しかし、死の実感だけは確実にあった。

(あぁ...こんな死に方なんて...梓...京子...最後まで駄目なお父さんでゴメンな...幸せに出来なくて...ゴメン...)

濁りつつある目からは、父親としての責務を果たせなかった後悔から涙が溢れていた。

そして、ぼやけていた思考、視界は全て黒く塗りつぶされ、永遠に元に戻ることは無かった。


『今回は随分雑だな』

儀式の第一段階を終えたカノンに、今しがた合流したサタンが声をかける。

「うるさい...じっくり殺す余裕なんか無かった...」

『まぁ...それもそうか』

サタンはカノンの左腕を見ながら、状況を把握した。

「ねぇ?園蔵さんは供物に使えそうなの?」

『この人間は供物としては最上級だ、これほど雑な殺し方でも、負の念が溜まりに溜まっている』

「そう」

『きっと死ぬ時の痛みや苦しみよりも、死ぬ事そのものが負の念を一気に高めたのだろうな』

「儀式始めるから黙って」

そうして、カノンは死体となった動物園蔵を供物とし、片腕だけで儀式を執り行う。

園蔵を中心として大きな魔法陣が描き出され、カノンが呪文を唱え始める。

「エロイム、アリエル、ジェホヴァム、アクラ、タグラ、マトン、オアリオス、アルモアジン、アリオス、メムブロト、ヴァリオス、ピトナ、マジョドス、サルフェ、ガボツ、サラマンドレ、タボツ、ギングア、ジャンナ、エティツナムス、ザリアトナトミクス」

詠唱が終わると、園蔵の身体は紫の光となって魔法陣の中へと吸収され、やがて魔法陣もその姿を消す。

「ねぇ、私を家まで送って」

儀式を終えたカノンは、不躾な態度でサタンに小学生のようなお願いをする。

『誰に物を申している?』

「この腕で歩けって言うの?」

『嫌だと言ったら?』

「一生恨む」

『フハハハハッ怖い怖い、この場所は気に入っているからもっと浸りたかったが、まぁ良いだろう』

2人は闇に溶け、その場から姿を消した。


「ぐ...うぅ...」

気絶していたハリーは、事が終わった直後に目を覚ました。

(気絶していたのか...もう奴らの気配は無い...ここにいても仕方ないな)

ここにいる意味は何も無くなったため、園の外に出ると、待ち構えていた人間がハリーの元に駆け寄ってくる。

「ハリー先生!」

「君には帰れと言ったはずだが...」

もう帰宅したと思っていた魔白がそこにはいた。

「ってなんですかこの傷!?病院行かないと!」

魔白にはハリーの顔面の腫れ具合と、上半身の大きな裂傷が目に付いた。

「気にするな...いいから君は帰れ」

「いやそうは言っても...」

「話は明日する、流石に今の俺に何かできる気力は無い」

「はい...」

ハリーの有無を言わさぬ態度に気圧され、言いたいことを飲み込む。

「明日、話して下さいね?」

「分かってる」

最低限必要の確認をして、雨の中帰ることにした。

今更ながら序盤の展開を変えた方がいいような気がしてきた。

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