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本格化II

「shit!」

サタンを追いかけていたハリーは、その標的を見失い園内で路頭に迷っていた。

(あれは!?)

しかし、新たな標的を見つけるや否や、右手を前に突き出し、左手で右手首を固定して、狙いを定めて白魔術を撃ち込む準備をする。

30m程先を歩く黒いレインコートの人間に向かって、白い閃光が雨を弾きながら放たれる。

しかし、その閃光は炸裂音を奏でた直後に、上方向に飛んでいく。

黒いレインコートの人間が、振り返りざまに弾いたのだ。

そして、反撃とばかりに掌から黒い針を大量に生み出し、ハリーへと飛ばす。

ハリーは弧を描き向かってくる黒い針を、魔法陣による盾で全て防ぎ切る。

しかし、相手の追撃しようとする姿が見えたため、左腕の盾を構えながら前へと走る。攻撃こそ最大の防御だと考えたハリーは、こちらの攻撃により相手の攻撃の手を止めることにしたのだ。

相手の追撃は盾で全ていなし、白魔術で強化された脚力により、30m程の差はあっという間に無くなる。

そして、速度の乗った状態で相手に向かって、白魔術で強化された全身全霊の右ストレートを放つ。

相手も危機を感じ取ってか、バックステップを取りながら黒魔術の盾を展開するも、その右ストレートが盾と衝突し、轟音を立てた後、粉々に砕け散る。

しかし、盾がコンマ数秒の時間を稼いだために、拳が身体に届くことは無かった。

そして、2人は少し距離を開けた状態で静止をする。戦闘の続きをするのではなく、会話をするために。

「Why?なぜこんなことをしているんだカノン!」

「こんなところでハリー先生に会えるんですね」

普段なら学生と先生という立場だが、今回初めて争う敵として顔を合わせる。

「ローズはこんな事望んでいない!」

「お母さんの友達だからって偉そうなこと言わないで」

「黒魔術は病気を治す力を持ち合わせていない、それは分かってるだろう!?」

「そんなの分かってる!」

「だったらなんで!?」

「世界を変えるの、この黒魔術の力で!そうすればお母さんもお父さんも皆また一緒に暮らせるの!」

「それは違う!君のお母さんは黒魔術の副作用でああなった!だから君がやろうとしてる事は意味が無い!」

"黒魔術の副作用"、つまりそれは母親が黒魔術を使用したということになる。カノンにしてみれば完全に意識外の話だったために、思考が止まる。

「副作用...?なんの...こと...」

「やっぱり知らなかったのか...アルビノの人間は本来、今の君のような生活は出来ない」

「どういうこと...」

「ローズは、君がアルビノによって苦しむことを危惧して黒魔術を行使した、その効力は植物状態の今でも続いている」

「お母さんが黒魔術って...そんなの...知らない」

「それはローズの優しさだ!何にしても...ローズを元に戻すなら、黒魔術の対象者である君を封印するしかない」

「1人で話を進めないで!黒魔術なんて関係ない!全部全部周りが悪いんだ!」

「可哀想に...僕がちゃんとローズを止めていれば…」

「先生...さっき封印するとか言ってましたね」

「あぁ...抵抗しないなら、一瞬の苦しみで終わらせるつもりだ」

「邪魔するなら、誰であれ容赦しません」

いつの間にかカノンは魔法陣を展開し、攻撃する準備が出来ていた。

「...交渉は決裂だ」

2人は一瞬睨み合い、お互い直線上に魔術を飛ばす。

白と黒の魔術がぶつかり、激しい光を放つ。

余りの眩しさに目を逸らしていたハリーは、今の数秒でカノンが姿を晦ましたことに気付く。

(何処だ!?)

しかし、それはあくまでハリーの視界から消えただけで、敵前逃亡を図った訳では無い。

膨大な魔力を感知したハリーは自身の斜め上を見上げる。

そこには、魔術により大きな漆黒の鉤爪を纏ったカノンがいた。見れば分かるその禍々しさは、容易く命を両断するものだった。

(カウンターで沈める!)

だがハリーは冷静だった。あれだけの魔力を使うということは術後の隙がでかいため、相手の動きを見て回避した所で、一撃を与える算段だった。

しかし、カノンもそこは織り込み済みだった。だからこそ、会話が終わると同時に時限式の魔術を仕込んでいた。

ハリーの足元から2つの魔法陣が展開され、そこから紫色をした蔦のようなものが伸び、足を地面へと結び付ける。

(!?)

完全に気を取られたハリーは判断が遅れ、先程までの冷静さを一瞬欠いた。思考を立て直すも、カウンターは無理だと判断し、今できる最大限の防御障壁を張る。

障壁を張って1秒も満たない内に、2人の盾と矛がぶつかる。カノンの黒い鉤爪は障壁を破らんと、甲高い音を立てながら突き立てられる。

やがて急ピッチで作り上げた障壁には、ヒビが入り、音を立てながら割れていった。

ハリーは上体を逸らして致命傷を免れるも、鉤爪は深々と上半身を切り裂く。

赤い鮮血を身体から噴き出し、後方に倒れていくハリーを見て、カノンは用が済んだと目的の為に歩き出した。

だが、それが油断だった。歩き出して数秒の後、空気を震わせながら迫ってくる光弾に対し、僅かに反応が遅れる。

身体に直撃しないまでも、左腕をその光弾が掠ってしまう。

途端、腕に無数の太い針が刺さったような鋭い痛みがカノンを襲う。

「ぐぅ...ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」

想像を絶する痛みに、相手の事を気にする余裕など一瞬で消えてしまう。

ハリーは死んだ訳でも気絶した訳でもなかった。戦闘経験など皆無のカノンなら、ここで油断すると踏んで倒れたフリをした。

カノンの蹲り、悶えるその姿に少しの罪悪感を覚えながら、再び封印の魔術の準備をする。

「だから抵抗するなと言ったんだ...この魔術は中途半端に当たる方がキツイから…」


『世話が焼けるな』


トドメの一撃を放つハリーだったが、それが届くことは無かった。

カノンを庇うように、異形の悪魔が封印の魔術をかき消す。

『油を売っている場合か人間、さっさと目的を果たせ』

「いなくなったと思えば...邪魔をするな!」

サタンの後ろでカノンがゆっくりと身体を起こし、重い足取りでその場を後にする。

「くそっ!」

『行かせると思うか?我と遊べ』

最早全力を出しても勝てないのは明白だったが、そんな事を気にしている場合ではなかった。

身体が壊れる覚悟で、白魔術による身体強化を最大限まで施し、最高速度の走りと、最高速度のスイングによる、最高速度の殴打をサタンの顔面へと叩きつける。

人体なら確実に骨も肉も粉砕するであろうその打撃は、ハリーが望むどの結果ももたらす事は無かった。

「バケモンが...」

『殴り合いとは原始的だが、悪くは無い』

顔面に拳がくい込んではいるものの、サタンは飄々とした顔で言葉を発する。

途端、ダメージを与えられなかった絶望で思考の止まっていたハリーに、目の覚めるボディーブローが突き刺さる。

そこからは一方的だった。魔術など関係無いただの暴力が、ひたすらにハリーを襲った。

そもそも、カノンとの戦いやサタンへの一撃で、魔力や体力が尽きる寸前だったため、ハリーに反撃する余力など無かった。

『少し物足りないが、まぁ仕方がないな』

そうして、滅多打ちにされ気絶したハリーを置き去りにし、サタンはカノンの元へと向かう事にした。

ぽへ〜

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