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悪魔の夢

彼は悪夢を見ていた。悪魔が魅せる一時の夢を───


「これって明晰夢ってやつ...?」

魔白は自分が睡眠状態でかつ、夢を見ている事を自分自身で理解しているという明晰夢を体験していた。

彼のいる場所は、夢にしては当たりが真っ黒で殺風景な世界だった。暗いのではなく黒いのだ。

辺りは漆黒の壁で覆われているが、自分のパジャマや手足などの色はしっかりと確認できる。

「なんだこれ?」

『邪魔をするぞ』

「え?」

どこからともなく男と女の二重の声が聞こえたと思えば、異形の怪物がその姿を現す。

『少し付き合え』

(これ、夢だよな?)

夢だと分かっているからか、取り乱すことはなくても、おそろしいという感情はほんの微かに湧いていた。

「え?」

(どんな夢なのこれ!?)

そして、段々とそこに怪物がいるという実感が湧き始め、恐怖感は加速していく。

「ちょ、ちょっと!」

1歩、2歩と近づいて来る怪物に対し、魔白は少しずつ後退る。

「あグッ!?」

しかし、自分で自分の足を引っ掛けてしまい、躓いて尻もちをついてしまう。

『そう怯えるな、取って食う訳ではない』

「...バフォメット...?」

モンスポというゲームで実装された最強キャラと類似点の多い見た目だったため、無意識的に目の前の怪物をそう呼ぶ。

『ほう?貴様如きが我の名を知るか…少し気分が良いぞ』

魔白の目の前まで接近し足を止めたバフォメットは、何の知識もなさそうな子供にまで自分の名が知れている事に、少し嬉しさを感じていた。

「僕に...何の用...ですか?」

バフォメットの喜ぶ仕草を見た魔白は、少なくとも自分に対する敵意は無いと感じ、会話をしようと試みる。

『挨拶だ』

「挨...拶...?」

全く予想していなかった回答に、余計恐怖を感じてしまう。

『そうだ、我は悪魔だから人間にちょっかいをかけるのが好きでな、これもその一環だ』

「はぁ...」

『本来なら正面切って会うんだが、貴様には黒魔術に反応する護符が付いていてな…よって、夢の中に入り込むことにした』

「え?あの...え?」

魔術とは無縁の世界で生きてきた魔白にとっては、何を言われているのかてんで分からなかった。

『色々言いたそうだな?聞きたいことがあるならできる範囲で答えてやるぞ?』

「そう言われても...」

真白は混乱する頭で何とか質問を捻り出す。

「じゃあ...」

少し間を置き、バフォメットが口にした台詞の中で、気になるワードについておずおずと質問をする。

「黒魔術に反応する護符っていうのは何なんですか?」

『ほう?』

ただの質問に対してバフォメットは、なんとも不思議そうに首を傾げる。

「何か...おかしなこと言いましたか?」

『いやすまん、他の人間ならもっと我の事を深堀りしたり、命乞いをするものなんだが…』

「はぁ...まぁ夢の中ですし...」

『時代の移り変わりを感じるな...まぁいい、で、貴様は勿論分からんだろうが、左肩の辺り、白魔術で作られた護符が在る』

「...その...もう少し詳しく...」

『ふむ、その護符は黒魔術を探知する役割を果たしている、貴様の近くで黒魔術が発動すれば、術者が気付く仕組みだな』

正直理解は出来ていないという顔だったが、情報を引き出すのを最優先に、質問を続ける。

「何の理由で、僕にこの護符が付けられてるんですか?」

『人の考えることなど知らん、が、一つ言えるのは貴様が利用されているという事だ』

「利用?...一体誰が?」

『ふぅむ...それは分からんなぁ?』

余りに嘘くさい演技だったため、さっきとは打って変わって強い口調で詰め寄る。

「もしかしてもう出来る範囲を超えたって言うんですか?」

『教えたらつまらんから教えないというのが正しいな』

「...」

『そう睨むな、しかし会ったばかりでつくづく面白い奴よ、何処ぞの誰かを思い出す、さて...もう飽きたから一旦お開きだ』

「いや、まだ聞きたい事が...」

言葉を言い切る前に、バフォメットが右手を魔白の眼前に突きだす。

その右手はさっきまでの人間の手とは違い、鋭い爪の生えた猛獣のような手になっており、もう数cm前に突き出せば魔白の目が潰れるという具合だった。

『悪魔は気まぐれだ、引き止めるのなら死ぬ覚悟を持つんだな』

今まで陽気に振舞っていたバフォメットの顔には、純度100%の殺意が籠っていた。

「......」

急に死の淵に立たされ、冷や汗が吹きでる。

魔白は無言という形で、大人しく引き下がることにした。

『貴様のような人間は嫌いだが好きだ、薄汚れた(もの)がないからな』

バフォメットはこの黒い空間に溶け込むように、闇に覆われていく。

『言い忘れていたが我の本当の名は悪魔元帥サタンだ、これからはその名で呼べ、貴様もそっちの方が呼びやすいだろう?』

「サタン...あのサタン?」

『そうだ、では近い内にまた会おう』

そう言ってバフォメット、もといサタンは完全に消え去り、魔白の夢も解ける。


(朝か...)

起きてみれば朝だった。夢の出来事とは分かっていても、夢だと思えない現実味がそこには存在していた。

(うん...なんもないよな…)

夢の中でサタンに言われた左肩の護符を確認するが、それらしきものは見当たらなかった。

(やっぱりただの夢...?)

結局考えても分からないと判断し、いつもの生活を送ることにした。


明晰夢ってなんかキモイよね

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