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終わりの始まりII

あれから1週間が経ち、夕焼けの元に少女は再び悪魔を呼ぶ。

「バフォメット!」

『その名は呼びづらいだろう?サタンでいい』

再び見た異形の悪魔に驚きながらも、少女は会話を始める。

「ねぇ、聞きたいことがある!」

『なんだ?』

「世界がどうとかどうでもいい、お母さんを治したい!お医者さんでも出来なかったこと...貴方なら治すことが出来るの?」

『我が治す訳では無い、治すのは貴様だ』

「もしかして...お母さんを治したかったら人を殺せっていうの?」

『そうだな、しかし本当にそれでいいのか?』

「え?」

『人間を1人治すのに多数の犠牲は割に合わない、そう思わないか?』

「そんな嫌な言い方しないでよ...」

『世界を書き換える程の規模なら割に合うぞ?』

「世界とかどうでも───」

『想像してみろ、元々存在していた貴様が思う平和な世界を』

少女の脳内には、まだ10歳にも満たない昔の少女と、笑顔で接していた父親と母親がいた。

『そして、なぜその平和な世界は壊れた?』

少女が中学生になる頃、両親は少しずつ険悪な雰囲気を漂わせるようになり、年月が経つにつれ、それは口論として形となってしまった。

何を言っていたかなど分からなくても、少女は2人の負のオーラを感じていた。

「きっと私の知らない、大人の事情ってやつ」

『ならそれを消滅させれば問題ない』

「いや、何も知らないのに消滅って...」

『なに、全て大雑把な想像で構わん、それを可能にするだけの力が黒魔術にはある』

少女は一つ疑問を浮かべる。

「ちょっと待ってよ!お母さんを治す話はどこに行ったの?」

『残念ながら直接治すのは不可能だ』

「言ってることが違うじゃん!」

『だからこそ理を捻じ曲げるのだ!貴様の平和を壊した要因、それを黒魔術で取り除く事で、平和が保たれたまま時が進んだ世界に書き変わる』

「平和のまま...あんな事が起きない世界...」

『どうだ?少しは魅力的だと感じてくれたか?』

「でも殺人なんて...」

普通の人間が殺人をしろと言われても、その行為に踏み切るというのは難しいものがあった。

『ふむ...なら貴様の望む世界は諦めるか?』

「ずるい...でもお母さんは自力で治るかもしれないし、そうすれば殺人なんてしなくても...」

『治ったとして、また同じ事が繰り返されるかもしれないぞ?』

同じ事とは少女のトラウマそのものである、あの事件だった。少女の全身の筋肉が強ばり、焦点の合わない瞳へと変わる。

「それは...やだ...そんなの...」

『それに貴様...この地の人間とは随分と風貌が違うな?』

少女の見た目に触れた悪魔には、殺意にも似た視線が向けられていた。

「あんたも私の見た目を否定するの?」

『悪魔からすれば人間など全員下等だ、どうでもいい、しかし良い目だ、他にも辛い過去があったと見て取れる』

少女の中で何かが弾けたように、過去の苦い思い出を語り始めた。

「小学生の時、私の見た目を弄ってきた男子がいたの、魔女とか宇宙人とか言ってきて、最初は無視してたけど、余りにしつこかったから押し倒しちゃって...そしたら倒れた拍子に色々あって...そこから皆に避けられるようになった」

『ふむ』

「もちろん、私のことを庇ってくれた子もいた、それでも周りの私に対するヤバいやつだってレッテルは取れなかった、それに何より...」

次第に少女の顔は、怒りの滲んだ鬼のような形相へと変わる。

「私は少しやり返しただけなのに、私と両親でそいつに謝ることになったのが許せなかった!ねぇ!?私そんなにおかしい事したかな!?」

『それを決めるのは貴様自身だ、もう一度言う、黒魔術なら貴様の望む世界が手に入る』

「間違いなんて無い世界...」

『さぁどうする?』

「...やる、またあの時のような事が起きるのはやだ!周りの間違いを放っておくのも気に食わない!」

少女の知る世界が余りにも小さすぎたが故に、非道な決断を下すことへの躊躇いが無かった。

『フフフ...フハッハハハ!少し物足りないが決まりだ!では早速───』

「待って」

『む?』

「あの魔導書が正しいなら黒魔術を使えば不幸になる、無闇矢鱈に使うわけには...準備の時間が必要かも」

『太古からそうだが、黒魔術を使うのも一苦労とは脆弱だな、まぁいくらでも待ってやる、だがその分我を楽しませてくれよ?』

「とりあえずはあんたの事、頼りにするから」

『先程とはまるで人が変わったようだな?じゃあ用があれば呼ぶがいい、用がなくても来るかもしれんが』

「あっそ」

(私が...やるんだ!)

こうして、淡い青の瞳にクリーム色の白い髪、血管が透けそうな程の白い肌を持ち合わせた、世界一美しい殺人鬼が生まれた。


『獣のように醜く踊ってくれよ?』

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