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エンドオブ日直

今日は雨も降っておらず一点の曇りもない快晴だが、魔白の顔はどんよりと曇っていた。

「今日で日直終わりか…」

金曜日なので、魔白とカノンでコンビを組む日直も最終日となる。

「なんか...気まずいな…」

(てっきり動物の話で盛り上がれると思ったら、何か深刻な表情になっちゃったし、元気づけようとキリンのぬいぐるみあげたはいいけど、なんだコイツとか思われてないかな!?)

昨日の一件を思い出し、顔を合わせるのが億劫に感じてしまう。

布団に出ることなく悶々とカノンの事を考えていると、不意に今の時間が気になり、枕元のスマホを見る。

「やば!?もう7時50分じゃん!?」

慌ててダイニングに行き、もの凄い速度で朝御飯を食べ、もの凄い速度で着替えを済まし、もの凄い速度で登校するのだった。


「なんとか...間に合った...」

息も絶え絶えに学校へと辿り着き、息を整えた所で教室に向かう。

「ねぇ?聞いた?千夜ちゃん一昨日から家帰ってないんだって」

「え?もしかして家出?」

「あの真面目な千夜ちゃんだよ?家族仲が悪いとかでもなかったし...」

「え?じゃあもしかして誘拐とか?」

「いや流石にないっしょ?でももしそうだったら怖いよね...」

すれ違う女子生徒達から、不穏な会話が聞こえる。

「行方不明...この学校の女子生徒が...もしかして...」

自宅の近くで東平高校の制服を着た女子生徒が、不審者に襲われそうになる光景がフラッシュバックする。

(リボンの付いたあの制服は間違いなくうちの制服───)

バァン!!!!!

途端に何かにぶつかり、大きな音が鳴ると共に魔白は尻もちをつく。

「痛ってぇ...」

考え事をしながら歩いていたら、いつの間にか教室まで来ていたのだ。

「あっははは、お前何してんだよ!いーっひひ、腹痛てぇー」

教室のドアを開けた徹が、大笑いしながら話し掛ける。よく見れば、クラスメイトの半数くらいが爆笑していた。

「考え事してたらドアに激突してたわ...はは...」

「まぁそういう日もあるわな!てかもうすぐホームルーム始まんぞ」

「うい」

ようやく日課に等しい親友との会話をし、教室に入る。


「んじゃホームルーム終わりー!」

朝のホームルームが終わり、毎度の如く生徒達による10分間のざわめきが訪れる。

「はい、当番日誌、魔白くん今日は遅かったね?」

聞き慣れた落ち着きのある声なのに、少し身構えてしまう。

「ありがとう、今日は単に寝坊しそうになっただけだよ」

本音を告げられる訳もなく、後頭部に手を当て、愛想笑いをするという、明らかな誤魔化しの仕草をしながら返事をする。

「そうなんだ、じゃあまた帰りの時に」

「うん」

すっかり定型句となった会話を済ませ、平日最後の授業へと臨んだ。


金曜日の6限目ともなると、この1週間の疲労と、授業という地獄から解放される安心感から、先生の言葉が頭に入ってこないものだが、魔白の場合は全く違った。

(黒魔さんのことも気になるし、不審者のことも気になるし!考えても仕方ないのは分かってるのについつい考えちゃう...)

虚空を見つめ、表情は動かず、しかし脳内の自分自身は騒がしかった。

「はい、じゃあ今日の英語の授業はここまで!ハリー先生今日はありがとうございます」

「いえいえ、こちらこそ」

授業が終わり、英語を受け持っている先生(さきお)とALTのハリーブラウンが会話をしていた。

(ハリー先生が前に来たのって1か月前だっけか)

ALTは英語の授業に毎回来る訳では無く、来たり来なかったりというムラが存在する。

そんなどうでもいいことを考えていた魔白の元に、そのハリーが近寄る。

「授業中、何か考え事をしていたようですが...」

(え、やば...もしかして怒られる!?)

「あ、あの...その...」

非常に男前でスタイリッシュな顔と、威圧感すら感じる凹凸のある肉体を間近に、魔白は少し萎縮する。

「悩み事があるならいつでも相談に乗りますよ!」

「え、あの、はぁ...」

そう言って魔白の右肩にポンと手を乗せると、すぐに教室から去っていった。


(彼には申し訳ないが、まだまだ利用させてもらう...ローズのために)

心を鬼にすることを自分自身に誓ったハリーは、険しい顔をしながら職員室へと戻るのだった。


放課後、魔白はきっと最後になるであろうカノンとの日直の仕事を終えようとしていた。

「はい、当番日誌」

「ありがとう」

いつもなら感じることの無い微妙な空気が、二人の会話を阻害する。

「.....」

「.....」

「じゃあ、かえ───」

「魔白くんは───」

先程とは性質の違う居心地の悪さだったが、行動を起こしたお陰で、次の行動に移るまでの時間は短かった。

「どうぞ」

「魔白くんって...両親はいるの?」

「いる...けど...」

「まぁそうだよね…」

魔白はなぜそんなことを聞かれたのか見当もつかなかったが、そのヒントは昨日のカノンが流した涙だと、瞬時に察した。

「もしかして...」

その先からは恐れ多いがために口に出すことはなく、カノンがバトンを渡されたかのように言葉を紡ぐ。

「私の両親は生きてるよ...でも近くにはいない...お母さんは病院で寝たきりだし、お父さんは警察のお世話になってる」

淡々と告げられた事実は、あまりにも衝撃的だったため、魔白は何も言えなかった。

「今はおばあちゃんと一緒に暮らしてるけど、戻れるなら元の生活に戻りたいな…」

途中から独り言のように俯きながら喋る彼女の顔は、長く伸びた白髪によって隠されていた。

「ごめん!変な事聞かせちゃったね!じゃあ私先生に日誌渡して帰るから!」

そう言い残すと、魔白を置き去りにしてそそくさと教室を出ていった。

新登場のハリーブラウンはクリス・プラットをイメージしてくれればと思います。

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