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終わりの始まり

あいうえお

とめどない豪雨と落雷の夜、少女は自宅で起きた異様な光景に、理解を拒んだ。

何かいつもとは違う大きな音がしたかと思えば、側頭部から血を流し倒れる母親と、割れた酒瓶を持った父親がそこにはいた。

元々は仲睦まじい家族だったものが、ここ数年から狂い出し、度々諍いを起こしていたが、なぜこのような現状になったのか、理解は出来るがしたくないのだ。

「これ...お父さん...?」

「あ、あぁ、ローズ?ローズ!?」

自分が凶行に及んだとは思えないほど、自分の妻を心配している父親の姿があった。

もしかしたら別の誰かが暴力を振るったのかもしれない、そう思えたらどれだけ楽か、きっとこの時が来てしまうという予感は僅かながらあったのだろう。

だからこそ、少女は父親ほどの焦りはなかったのかもしれない。

1人呆然と立ち尽くす中、父親は110の電話番号で電話を掛けていた。


色々な事があった。病院に運ばれる母親、警察に連行される父親、少女を保護する祖母。

少女は訳も分からず、大人の言われるがままに動いていた。

そして、少女は祖母の家で生活することになったのだが、引っ越す前に自分の住んでいた家を見て回っている時に、それを見つけた。

母親の部屋に、妙な雰囲気を醸し出す古めかしい1冊の本があった。

「これ...そういえばなんの本だろ?」

棚に置いてある文庫本や参考本の中に、一つだけタイトルのない、分厚く大きい本があった。

昔から存在はしていたが、ページを開けば英語だらけですぐに読む気の失せていたその本が、今は気になって仕方ない様子だ。

結局少女は、他の本を差し置いて、その不思議に満ちた本だけを祖母の家に持っていった。

祖母は優しく少女を出迎えた。

「改めてよろしくね」

「おばあちゃん...」

事件が起きた直後にも世話になっていたが、その時は心が停止していたため、改めて顔を見た少女は、事件直後の分まで涙を流していた。

「おいで」

「うわぁぁぁぁん!おばあちゃんっ、うぇぇぇぇぇん!」

大粒の涙を流す少女の身体を、心を、全身全霊で受け止める祖母の姿は、菩薩と言って差し支えがなかった。


流行り病による遠隔での授業と引っ越しにより、友達とまともに遊ぶことはおろか、喋ることも無かった。そんな少女はなんと暇つぶしに勉強をしていた。元々勉強が好きなのもあり、自粛中もそこまで困ることは無かった。

特に英語の勉強に夢中になっていたのだが、その目的は、不思議な本を解読するためだった。

中学卒業までに一年を切った頃、全てとは言わないまでも、その本の重要な部分を少女は粗方理解した。

魔導書、黒魔術、悪魔、召喚方法等、兎にも角にも超常的な本であることを知った少女は、興味本位から悪魔の召喚を行った。

はっきり言えば児戯同然の水簿らしい魔法陣だった。そして少女は悪魔を召喚できるよう願ったが、結果は何も起きず、そのはずだった。

様々な動物を掛け合わせたような気味の悪い悪魔が、夕焼けの虚空から現れ、二重の声で問いかける。

『我を呼ぶということは、何か目的があるのか?』

「あ、あ...」

少女はどのような悪魔が出てくるか分からなかったため、予想以上におぞましい見た目の悪魔に腰を抜かし、言葉を発する事が出来なくなっていた。

『手を貸すから立て』

悪魔は敵意が無いことを示すために、手を差し伸べる。

そうして一人と一体が向き合い、悪魔は再び開口する。

『察してはいたが、何の気なしに呼んだようだな?それなら貴様の成すべきことを考えろ』

「へ?」

『黒魔術には理を変える力がある、貴様の望む世界が手に入るぞ?』

「意味が分からない...」

『例えば...貴様の大切な者と再び平和な生活が送れる...とかな』

やけに具体的だったが、少女は猜疑心もなく悪魔の言葉に心をときめかせた。

「平和...私またお父さんとお母さんに会いたい!皆で楽しく過ごしたい!」

『いい願いだ、だが一つ言っておく、願いを叶えるためには、それなりの働きが必要になる』

「なんでもする!それでまた皆で過ごせるなら!」

『他人を殺めることになってもか?』

「...え?」

耳にしたくない言葉を唐突に聞かされた少女は、つい言葉にならない声で聞き返す。

『この世界には不可視の規則が存在する、それを捻じ曲げるには、それ相応の儀式と、儀式を行うための供物が必要になる』

「何言ってるの?そんな事急に言われても...」

答えを出しかねる少女を品定めするように、悪魔はじっと見つめる。

『焦ることでもない、決めるのは貴様自身だ』

そうして悪魔は背を向け、どこかへ去ろうとしていた。

「待って!」

『待たん、悪魔とは気まぐれなものだ』

「そんな...私には貴方がきっと必要なの!」

『ならば考えろ、何に力を使うのか、どのように使うのか、さすれば自ずと成すべきことも見えてくるはずだ、必要ならまた呼ぶがいい』

客観的に見て余りにも意地の悪い質問を、15の少女に投げかけ、悪魔は虚空へと消え去った。

「分かるわけない...」

悪魔の放った問いは、今後少女を永遠に苦しめる鎖となるのである。

幕開け

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