転生
視界に入る冷たい床と私から流れているであろう赤い液体。
雨宮雅。御年今年18歳。アルバイトから帰って待っていたのは、「おかえり」という温かい言葉ではなく、父の癇癪だった。
仕事でうまくいかないことがあるとすぐに私に手をあげるからもう慣れっこだけど、花瓶を持ってるのは予想外だった。
体温はどんどん下がっていく。血を流しすぎたのか意識も朦朧としてきた。遠くで両親と姉たちの声が聞こえる。
(このまま死ぬのかな...。できればもう人にはなりたくないな。もし神様がいて、死んだら生まれ変われるのなら、どうか人じゃない生き物でお願いします)
♢♢♢
なんて、いるわけのない神に願ったことが私にもあった。
(神様なんてやっぱりいなかった。)
私はまた人として生まれてきた。そしてなぜか前世の記憶を持ったまま。
でもここは日本じゃない気がする。私の周りの人たちの顔立ちは日本の顔立ちじゃない。
じゃあどこのって聞かれるとわからない。ヨーロッパに近いけど、確実に何かが違う。
もっと言うと、しゃべってる言葉は日本語だけど、表記は英語。
ちぐはぐすぎてびっくりした。
「ティア!おはよう、今日は元気そうだね!」
ベビーベッドの柵から顔をのぞかせて言うシルバーの髪に澄んだ蒼の瞳の美少年は、私の兄、フェルナード・フェアリア。
ちなみに私の今世の名前はローズティア・フェアリア。
「あら、また一番乗りね、フェル。」
「母上!」
優雅な足取りで私の元まで来て、やさしく抱き上げてくれるのは、私の母、アメリア・フェアリア。
前世で母が私をこんなにやさしく抱いたことがあっただろうか。というか、やさしくなくとも、私を抱いたこと自体なかったのでは。
私に「お母さん」と呼ばせなかったくらいだ。
あの家は、一般的に見たら家族かもしれないが、あの人たちが私のことを家族だと思ったことは多分一度もない。
それこそ、小さい頃は、私も両親に観てもらいたい一心で、頑張って根気強く笑顔で愛想を振りまいていた。でも無駄だった。何をしても振り向てなんてくれなくて、そのことに気づいたら最後、生きる意味を見失っていた。
「二人とも早いな。私が最後か。」
ハスキーボイスが聞こえて抱かれている腕から身を乗り出して聞こえたほうをのぞき込む。
金髪碧眼の美形。テアード・フェアリア、私の今世の父である。この父、魂を感じることができるらしく、私に初めて言った言葉が、「魂が疲れているな。前世で何かあったのか。」だった。
「じゃあ、行こうか」
その一声で全員が動き出す。
この一家、なぜかご飯を食べる前に私のいる部屋に集まる。
食堂で待つのではなく、全員が私を迎えに来る。
正直、家族がどういうものかわからない。
だから、今の状況に戸惑ってばかりいる。
私は戸惑いながらも、落ちてきた瞼に抗うことなく意識を飛ばした。
「あら、寝ちゃった。まだ眠かったのかしら。」
「ほんとだな。魂に疲れが見える。ゆっくり寝かせてあげよう。」
「ティアは寝顔もかわいいですね」
そんな会話をしていたなんて、私は知る由もなかった。