7話「素晴らしい日に限って邪魔者」
今日はルクセーとのお出掛けの日だ。
朝から何だか楽しい気分。
少々浮かれ気味になりながら服を選び髪をまとめた。
そしていざ出発!! ――というところだったのだが。
「息子とやり直してくだたい」
家を出た瞬間、目の前にルリードとその父親が立っていて。
こりゃまずい。
そう焦る。
これは時間を無駄に使ってしまいそうな案件だ。
「アメイリアさん! どうか、我が息子と一緒になってくだたい!」
「ええと、確か……ルリードさんのお父様……ですよね」
「はいそうでつ! この前は妻が迷惑をかけたようで、勝手に婚約破棄したとうで、申し訳あにまてんでした」
ルリードの父親は少々変わった口調の人だ。幼児に向かってかける言葉に近い発音で喋ることが多い。すべてが、ではないけれど。もしかしたら滑舌のせいもあるのかもしれないけれど、でも、それだけとも思えないし。少々癖のある発音であることは事実だろう。
「あの、私、これから用事がありますので。失礼します」
「待ってくだたいッ!!」
ルリードの父親は両手を左右に広げて通せんぼしてくる。しかも、その背後に隠れるように立っているルリードもまた、同じように手を横へ広げていた。さりげなく二重に通せんぼしてきている。
妙に息ぴったり……。
「通しまてん!」
「なぜですか、やめてください」
「お願いを聞いてくだたいっ! 悪いのはすべて妻でつ、彼女とはもう縁を切りまちた。でつからもう! もう! 二度とあんなことにはならないのでしゅ!」
ルリードの父親はかなりしつこい。
それこそ、私をただのけ者にしたいだけの母親より厄介かもしれない。
「頷いていただけるまで! 去りまてん!」
「すみませんがもう関わる気はありません、ですから去ってください」
「もう一回! チャンスをくだたい!」
「無理です」
「そう仰らずに!」
「やめてください、本当に、しつこいですよ」
「お願いちます!」
「もういい加減にしてください! ……もう無理です。あんなことになって、今さらやり直すことなどできませんので」
そんなやり取りを繰り返しているうちに時間が過ぎてしまい、ルクセーとの待ち合わせの時刻を過ぎてしまった。
ああもう、台無しだ。
せっかく彼とは上手くいっていたのに。
せっかくここまで来たのに。
こんな大遅刻をしては、もう嫌われてしまっただろう。
私はもう行かないことにしようと思った。もうルクセーの前から消えようと、改めてそう思って。しかし母が「待ってくれているかもしれないのだから行きなさい!」と言ってきて。それで、遅れながらではあるけれど待ち合わせ場所へ一度行ってみることになった。
◆
「アメイリアさん!」
待ち合わせ場所に着いた時、彼はまだ待ってくれていた。
「すみません……あの、私……」
まだ捨てられてはいなかった。
遅刻したみっともない私のことを待ってくれていた。
それは嬉しくて。
でも、だからこそ、これからも破滅が怖かった。
なぜだろう。
自然と涙がこぼれた。
「お、落ち着いて。何かあったのですか? 事故とか?」
「遅れて……本当に、本当に……申し訳、ありませんでした……」
「いえ、その辺見てましたので、大丈夫ですよ」
「……その、どうか、説明だけ……だけ、でも、させてください……」