5話「良い人だからこそ」
「そうなんですか! じゃあ、ルクセーさんは、他の女性とも顔合わせをされているのですね」
「はい~、でも自分の意思ではないんですよ」
「そうなんですか?」
「親が色々うるさくてですね、早く良い人を見つけてーって言われていてですね、それで……複数の女性とまずは会ってみているんです」
他にも会ってみている人がいる。
それを知った時、膨らんでいた気持ちの風船が一瞬しぼんだ。
彼へに良い印象が変わったわけではない。
彼は良い人だと思う。
癒やし系だし、凄く魅力的な人だと思う。
でも、だからこそ、他の女性を越えて私が彼に選ばれるという自信はどうしても持てないのだ。
「もう既に心に決めている女性はいますか?」
「いえいえ~まだです~。っていうのも、僕、みんな同じ方に見えるんですよ~」
「違いが分からない?」
「そうそう! それですよ~!」
そう言って彼は苦笑していた。
言葉を発する時、表情を動かす時、ティーカップを掴む手――ルクセーはすべてにおいて品性を感じさせる。
そんな人と私が結ばれる?
いや、それはないだろう。
だって私は普通の娘だ。
平凡な女でしかない。
幼い頃から品を良く見せるための学びをしてきたわけでもないし。
残念だけれど、彼に似合うのは私ではない――その日は諦めの心を持って別れた。
でも楽しかった。
だから良かった。
きっとこの時間も無駄ではなかったと思う。
◆
数日後。
まさかのことだが、ルクセーから連絡があった。
「ルクセーさんが、もう一度会いたいとのことだぞ!」
父が伝えに来てくれた。
まだ何かが決まったわけではない、なのに、既に嬉しそうな顔をしている。
いやいや、プレッシャーやめて。
「ええっ」
「嫌か?」
きょとんとした顔で首を傾げる父。
まるで可愛い坊やのよう。
でも本体が父なので動作は可愛くても総合的には可愛くない。
「いえ……でも、驚いて」
「おどろ? なぜ」
「だって、彼、とても素敵な人よ。私になんて相応しくない、そう思うの。だからまさか連絡が来るなんて思っていなくて……」
しかし意外だ。
あのルクセーが私ともう一度会うことを望むなんて。
「何だそれ! 自信を持て!」
「う、うん」
「まぁ気楽に行ってこぉ~い!」
「はーい」
◆
「こんにちは~」
「えと、あの……お誘いありがとうございました」
ルクセーとの二度目の対面。
それは海の見えるレストランで開催された。
窓際の席。窓の向こうには青と青が広がっている。そう、空と海である。空も、海も、人が作り出したものではない。でもだからこそ水平線で自然と重なり結ばれる、そして溶け合う。
「いえいえ~、こちらこそ応じていただけて安心しましたよ~」
ルクセーは今日も落ち着いた優しさを空気にしてまとっている。
「私も……想定していなかったので驚きました」
……ああ、私、上手く話せているだろうか?
なぜだろう、初回より緊張する。
「今日は、趣味のこととか聞いてみたいです」
「趣味!?」
「え」
「あ……も、申し訳ありません」
「あはは、すみません、質問が急過ぎましたよね~」