2話「重要なことをぽろりする母親」
「アメイリアさん、貴女とはもう縁を切ります」
母親は席に着くや否や改めて言ってきた。
心ない言葉を。
微かな笑みを浮かべつつ、だから、余計に感じが悪い。
「婚約は破棄、いいわね?」
「……私は何かしましたでしょうか」
「何か、というわけではないわ。ただ、貴女は我が息子に相応しくはなかった。私がそう判断したの」
「そうですか」
「ええ! だから、貴女に息子は渡さないわ!」
「……分かりました」
ルリードは黙っている。
自分のことなのに何も言わず時折母親をちらりと見るだけだ。
大人だろう、何か言えば良いのに。
「息子さんもそれで納得なさっているのですね?」
「ええ当然よ」
「……本当ですか?」
私は敢えてルリードの方へと目をやってみた。
しかし彼は気まずそうな顔をするだけ。
視線を母親の方へやっているばかりで私への答えを自ら発することはしない。
言いたいことも言えることもなさそうだ。
「私を疑っているのかしら? あらあら、失礼な女ね」
「いえ。疑っているわけではありません、ただ、ご本人からも気持ちを聞きたいなと思いまして」
説明すると、彼女は勢いよく立ち上がった。
そして。
「生意気よ!!」
私を鬼のような形相で見下し指をさしつつ叫んだ。
その声は明らかに攻撃の意思をはらんでいるようであった。
「そういうところが駄目なのよ!! 貴女は!!」
よくそんなことを言えるなぁ、と思いつつも、一応軽く頭を下げて「失礼しました」とだけ返しておいた。
その帰りしな。
「我が息子に相応しい女性というのはね、私の恋人の娘さんなの」
婚約破棄を告げられてすっきりしたのか嬉しそうなルリードの母親は、ぽろりと重要な情報をこぼしてきた。
「……恋人?」
「ええそうよ!」
「旦那様がいらっしゃるのでは」
「夫とは付き合いでの結婚だもの。あくまで、形式だけよ。ま、お金を貰えるのは良いけれどね」
そんなことを話してしまっていいの? と疑問に思いつつも、色々話を聞き出すべく頑張ってみる。
「貴女から見ても、夫は私には相応しくなさそうでしょう?」
「そうですか」
「そうよ。でもだからって一生縛られる気はないの! 私は私の人生を歩む、恋人でも作ってね。ふん。ま、どーせばれないのよ、夫はそういうことに疎いからっ」
これは良い情報が手に入った。
ルリードの母親を叩き潰す。
そのためにはこの系統の情報は使えそうだ。
これは剣の種となる。
ここから育ててゆけば、きっと……。
◆
「そういうことなので、ルリードとの婚約は破棄となりました」
まずは両親に報告。
「ええっ!?」
「何だってぇ!?」
母も父もかなり驚いていた。
でも私には他の狙いがある。
落ち込んでいる暇なんてないし、のんびりしている場合でもない。
もっと重要なことがある。
「あのね。父さん、調べてほしいことがあるの」
早速話し出そう。
じっとしているのは無駄な時間だ。
「何だい?」
「ルリードの母親のことよ」
「何だ? 行動調査か?」
「ええ、そうよ。彼女、どうやら浮気しているみたいなの」
幸い私の父には人脈の広さという武器がある。
だから行動調査を頼める相手だっている。
やろうと思えば大抵のことはできるのだ。
……国を乗っ取る、とかは無理だけれどね。
「なぜそんなことが……」
「本人が話してくれたのよ、愚かにもね」
「なんと……よ、よし、分かった。友人に頼んでみよう。すぐに話してみて、できれば調査を依頼してみる」