1話「雨降りの日に呼び出され」
雨降りの日ってあまり好きじゃない。
なぜだろう?
よく分からない。
理由を聞かれたら多分答えられない気がする。
でもあまり好きじゃない――じっとりしているからだろうか。
二十歳になって間もない梅雨の時期。
私は婚約者であるルリードから呼び出された。
呼び出されるなんて珍しいことだなぁ、と思いつつも、小雨降る中で彼の家まで移動する。
するとそこでは、ルリードだけではなく、彼の母親も一緒に私を待っていた。
「いらっしゃったわね、アメイリアさん」
第一声、そんな言葉を発してきたのは、ルリードではなくルリードの母親だ。
彼女は四十代くらいに見える女性で、息子と同じ銀髪の持ち主だ。ルリードは短髪だけれど、彼女は長く伸ばしていてロールパンみたいに巻いている。ただ、髪色がそっくりなので、母息子だとよく分かる。まるで見る者に自分たちが母息子であるという事実を押し付けてきているかのようである。
「お義母さん……」
「呼び方くらいは覚えていたようね」
ちなみに、まだ結婚していないのにお義母さんと呼んでいるのは、私がそれを選んでのことではない。
ルリードの母親の名前はウリアというのだが、前にウリアさんと呼んだら怒られたのだ。
それから、絶対に『お義母さん』と呼ばなくてはならなくなったのだ。
なんせ、それ以外の呼び方をされると怒られてしまうのだから――他の選択なんてない、どうしようもないのだ。
「で、今日はね、重要な話があるのよ」
ルリードは母親がいる時は大抵後ろでじっとしている。そういう時には喋ることもあまりしない。母親にすべてを任せている。まるで、幼い息子であるかのように。
「はい、何でしょうか」
「実はね――息子と貴女の婚約を破棄することにしたの」
「えっ」
いきなりのことに驚きの声を漏らしてしまう。
……私、何かやらかしていただろうか?
「ふふ、驚いているようね」
「はい……驚きました」
「いい反応だわ、面白いわ。じゃ、中へどうぞ」
こうして私はルリードらが暮らす家の中へと入れてもらうことに。
屋根があるのはありがたい。
雨に濡れなくて済むから。
でも正直なところを言うと今日はあまり嬉しくは思えない。
婚約破棄されることが分かっているのに彼の家に入るなんて――ここからまだ嫌な話が続くと分かりきっているのだから、嬉しいわけがないだろう。
席順は、私とルリードの母親が向き合っている席で、ルリードは母親の三つほど右横の椅子に座っている。
客を招いた時に使うようなこの部屋には、いつも、優しいフローラルな香りが漂っている。また、テーブルの中央部には、美しい花数本が生けられている。
とても美しいと思う。
綺麗なものがたくさんで。
心地よい匂いも漂っていて。
……でも今日はちっとも気持ちよくない。