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2.王城直行RTA

あらすじ


「ゲームとは一体……?」



まだ冒険は始まりません。

 ヴィルツィア王国の王都ヴィルシュヴェグの中央に存在する威風堂々とした王の住む城。そこの当主であり現国王ロウム・セデルナ・ヴィルツィアには3人の息子と2人の娘が存在する。

 まず正妃から産まれた長男のローテリウスは既に立太子の儀を終えており、次代の国王として期待されている。誠実潔白かつ文武両道、母と同じ銀色の髪に父と同じ紅い目を持つ爽やかでかつ引き締まった肉体を持つ容姿はかなりの美形で更に学に優れ、国王の席に収まった時にはとても良い執政が行われるだろうとまで言われているくらいだ。

 同じく正妃の血を分ける次男のイゴートは長男と比較して、頭ふたつ分ほど背が高く、かつ体格も大きい。髪と目は父譲りの銀色と紅い目。長男と比べると学はそれほどではないが、剣など戦闘術に長けており、厳つめな顔と合わさって雰囲気は厳格に見えるが、その内心では情に厚く、また王族の中で最も市井を見ていることもあって市民からの信頼も深い。

 第二王妃から産まれた三男クリフォードは一転して物静かな性格で身体を動かすことはあまり得意ではないが、魔法が得意で国内でもトップクラスの実力を持ち、魔法の研究を行っている。先祖返りだという黒い髪と目を持っており、無愛想な雰囲気である割には面倒見がよく、長女と次女の面倒をよく見ていたのがクリフォードであった。

 次女メアリスは未だに7歳という幼さであるが故か快活で好奇心旺盛で、そして人懐っこい。長女は正妃から産まれたことで()()()()()()()()()をしているが、メアリスは第二王妃譲りの金色の髪と、紅い目。

 そして長女ソフィア。容姿は上で言った通りであり、次女とは違いのんびり穏やかな性格をしている。ただし武に優れていたらしく、お淑やかな見た目と雰囲気に反して剣を巧みに振るい、更に風属性と光属性までもを使いこなしたようだ。

 そんな彼らだが、王位継承による諍いもなくとても仲が良い兄弟姉妹なのだと言う。しかしそんな中、数年前に突如、長女ソフィアだけが姿を消したまま行方が知れず、今でもまだ見つかっていないらしい。



 ……きっと、察しがいい人なら分かるだろう。数年前に行方不明になった王女と全く同じ容姿で現れた俺。しかもそれだけでなく、名前までもが同じ。更にこれはまだ俺しか知っていないことだが、なんと使う武器と魔法の属性まで同じときた。

 何処からどう見ても同一人物にしか見えないだろう。というか、俺でも実は俺は王女だったのでは? と錯覚してしまったくらいだ。



 さて、何故俺がこんなことを話したかと言うと、それはたった今、俺が王族である彼らのことを聞かされたからだ。目の前の豪華なソファーにニコニコとしたまま座る……現国王とその正妃、第二王妃達によって。

 現在、俺は件の場所……いわゆる王城にある応接間にて、国王様達と王妃様達と対面していた。部屋の隅の方には、数人の騎士達も並んでいる。



(なんで俺はゲーム数十分でこんなところに居るんだろう)



 微笑みを絶やさない王族一家とは逆に、恐らく哀愁が漂っているだろう俺。それも当然のことだろう。楽しみに始めたゲームの中に入ってからたったの数分で俺のことを第一王女ソフィアと勘違いした騎士達によって馬車に乗せられ最初の街から王都まで連れてこられた上に、そのまま間違われたまま王城に連れてこられてしまったのだが。

 あれやこれやと場所に乗せられてしまった際、ぽかんと口を大きく開いたまま固まっているプレイヤー達はとても滑稽で傍から見たら面白かったが、その中心になっているのが俺というのがあまりにも恥ずかしすぎる。このゲームではプレイヤー全員に対象がプレイヤーかNPCかを判別することが出来る機能もあるので、あれだけの衆目の前で見られた以上、間違いなく俺がプレイヤーであることはバレている。

 きっと今頃、掲示板とかでめちゃくちゃ噂されてるんだろうなぁなんて考えていると、一層気が沈む。というか、今の自分はきっと目が死んでいる。そうに違いない。



「大丈夫か? ソフィアよ。先程から、何やら落ち込んでいるように見えるが」

「あ、いえ、大丈夫です。さっきまで自己嫌悪に陥っていただけですので」



 見れば、国王様だけでなく王妃様達まで揃いも揃って心配の目で見ていた。言えるはずがない……なんでランダム選択なんかを選んだんだろうなんて、目の前のこの人達の娘にそっくりの自分がそんなことを言おうものなら、首を吊って謝罪したくなるくらいだ。



「そうか……それで、だが。どうだ。私達の申し出を、受けてはくれぬだろうか。()()()()()()()よ」



 国王様は真剣に、それでも何処か縋るようにそんなことを言ってくる。王妃様も同様。

 今の発言から分かるだろうが、この人達は俺の事情を知っている。俺自身は国王様の娘ではなく、この世界の人達で言う異界人であること。そして俺はあくまで異界からこの身体を媒介にしてたまにこちらの世界に訪問していること。それらの全てを話している。

 話した上で、こう言っているのだ。



「頼む……我らの、正式な娘になってくれ」

「私からもお願いしますわ」

「私も、お願いします」



 頭を下げる国王様達に、俺はつい天を仰ぐしかなかった。なにしろ、ゲーム数分でまさかの王族の仲間入りである。ただ、状況的には養子縁組のようなものだろうか。いずれにせよ、ゲームでやることではないと思う。というか国王たるもの平民に頭を下げるべきではないと思うんだが……なんで騎士達はそこで何も言わないんだよ。そこは諌めるところじゃないのか?

 大体、俺、男だからね? いや、確かにゲームの中では女の子なわけだけだけどさ……。

 でも、俺はこの人達の頼みを断れそうにない。なにしろ、この人達は俺から見ても悪い人には見えないからだ。あとぶっちゃけ、ゲームの中ならまあ別にいいかと思ってしまっている節もある。

 ついでに言うと、この人達の家族になるのも悪くないと思っている俺が居る。リアルの家族もとてもいい両親だけど、この王族達だって劣ってない。それに、家族がゲームとリアルの両方で出来るんだ。これはお得なのでは? と間抜けなことも考えたりもしている。自分でも言っている意味は分からない。



 それに、これはなんらかのイベントにも繋がるのではないか、とも思っている。実際、俺自身はモニタープレイヤーで、いつ何処でとは聞いていないが、俺の動き方次第でCMやPVにも映ってしまうことはほとんど確定している。そんな俺に、本当に運営がただゲームを遊ぶだけでいいと、それだけ言って放置するだろうか? あの運営なら、もしかしたらアバターを作った後でも世界観に設定を肉付けすることが出来るのでは……VRゲームの時代を数世代進めたとまで言われる運営だし、本当に有り得そうなのが恐ろしい。

 つまりは、ある意味この状況は運営の理想なのではないかと俺は考えている。それなら、あえてこの流れに乗ってしまうのは悪いことじゃない。

 なにしろ俺だって男。目立ちたいと思ったことは数度じゃきかないくらいにあるし、出来ればこのゲームもがっつりプレイで行きたいと思っていた。

 ある種の裏技というか反則技なことは否めないが、まだ未開拓の場所である王都に最速で辿り着いたこの状況は、まさにそんな感じではないだろうか。王族の身分を振りかざすつもりはないとはいえ有事には役に立ちそうではあるし、よくよく考えればリアルに影響のないゲームである以上、受けるメリットはありこそすれど、デメリットはないに等しいように思える。

 つまり、これはピンチなのではなく……チャンスなのでは?



 ただ、本当にそれでいいのだろうか。



「でも、私は本当にソフィア……様ではないんですよ? 本当に、良いんですか?」

「言わんとしていることは分かる。だが、なんとなくではあるが、お主からは私の娘から似たような雰囲気を感じるのだ。確かに事情は聞かされたが、やはり、どうにも他人という感覚がないのだ。騎士達や我が妻達も、そう言っている。恐らく、他の者……兄弟ですら、そう言うだろう」



 驚いて王妃様達や騎士達の方にも目を向けてみるが、しきりに頷いていた。

 ……これは、本当に運営が何かやった説が真実味を帯びてきたぞ。運営は本格的に俺自身を王族として組み込むつもりじゃないかな、これは。



 ただ、流石にここまで言われてしまっては、俺としても断るつもりにはならなかった。



「分かりました……私は、国王様達の娘になります」

「うむ、分かった! では冒険者ソフィアはこれより、我ら王族の一員、第一王女ソフィアだ!」



『player:ソフィアは【ヴィルツィア王国第一王女】の称号を獲得しました』



 狙いすましたかのような称号だなおい! ってか、称号にまで認められた!?



 王は高らかにそう宣言し、俺はアナウンスにより肩を落とす。

すると、騎士達が拍手を始めた。目尻に涙を浮かべながら……よく見れば、王妃様達も微妙に涙が浮かんでいる。まさか、と思っていると国王様までもが。



「あ、あの……国王様?」

「むっ……ソフィアよ。娘となったからには、父と呼んでくれても良いのだぞ? それか、ぱ、パパとか……」

「え? パパ?」

「ぐぬぅ……!」



 少しだけ微妙な空気になったのを感じ取った俺はそう話しかけると、何故か少し不満げな国王様が唐突にそんなことを言うものだから、俺は疑問に思ってつい疑問を口に出してしまった。それを聞いた国王様は、何かに打たれたように胸を抑えると、顔を両手で被った。

 ……ああ、そういえば俺の姿ってかの王女と全く同じなわけなんだもんな。それにリアルの俺の姿はともかく、こっちでの俺はとんでもなく美少女だ。そんな娘から故意に呼んだわけではないとはいえ、パパと呼ばれてしまったから父として特大の衝撃を受けてしまったわけだ。なんというか、俺自身はまだ学生だけど、気持ちだけは分からなくもなかった。

 ただ国王よ。さっきまではあれだけ如何にも王様と言った感じだったのに、いくらなんでもキャラ崩壊が早すぎでは? 今の国王からは、そこはかとない残念な親バカ感が凄まじく感じられる。



「ね、ねえ。ほら、私のこともお母さまと……いえ、出来ればママと呼んで欲しいわ。いいですわよね? ね?」

「ま、ママ?」

「ああああああああ!!」

「うえっ!?」



 今度は正妃様に請われてちょっと恥ずかしく思いながらも返してやると、今度は変な声を上げていきなり抱き着いてきた。いや、抱き締められたの方が正しいか。今の反応、完全に限界オタク(おれたち)じゃねえかやべえよ……なんて思ってしまった。

 そんなことよりも、今の状況の方が半端なくやばい。何故なら、俺と正妃様には身長が頭1つと半分くらいは違う。その差で抱き締められているということは、だ。その……要は、とても顔が柔らかいのである。ここが天国だったか……いや普通に苦しいんですけどもね。だって息凄いやりにくいし。



「こら、グレイフィア。ソフィアが息苦しそうにしてるからやめなさい」

「え? あ、申し訳ないですわ、ソフィア」

「い、いえ、大丈夫です。正妃さ……お母さま」



 敬称で呼ぼうとすると睨み返されてしまい、慌てて言い直す。正直、ものすごく恥ずかしい。母をこんな呼び方今までしたことがある訳もないし。何より、こうやって女のフリを続けるのがものすごく疲れる。ロールプレイ自体はリアルで姉に女装させられた際にやたらと厳しく仕込まれたから出来ないわけではないけど。

 彼らには異邦人であることは伝えたものの、向こうでは男だってことは伝えていないから、バレる訳にはいかない。流石に殺されそうだ。



 ちなみにグレイフィアというのが王女ソフィアの実母である正妃様で、第二王妃様の名前はセシリアという。王族のことだけならもうどのプレイヤーよりも知り尽くしている気がする……。



 その後は王城の中を見て回ったり、あちらこちらで仕事をしている官僚の人達や王族の兄妹に顔合わせをしたり色々と喋ったりした後、これから個室になるらしい部屋に案内された。

 王族らしくやたらと豪華で広い部屋ではあるが、ここにあるものはなんでも使っていいし用があればベルで使用人を呼んで欲しいとのことだ。これからは城の外に出てもいつでも城に戻ってきてもらってもいいし、異邦人が向こうに帰る(ログアウトする)際もこの部屋のベッドを使ってもいいと言われた。

 これはかなり助かるな。このゲームではログアウトしても身体はその場所に残るから、室内だったり何処か安全なところか、宿屋の一室など、拠点に出来るところを借りてそこでログアウトするべきだって攻略サイトに書いていた。王城ともなれば、拠点としては丁度いいし……むしろ贅沢すぎるけど。



それからは一人にしてもらい、ようやく一息つけるようになってから、俺は今更ながらに気づく。



 ゲーム内時間で既に数時間は経っている。だというのに、俺はまだ何一つとしてゲームらしいことをやっていないということに。

 なんということだ、と危うく意識を殺しにかかってくるようなベッドから身体を起こし、俺は立ち上がった。幸いにも、異邦人らしく自由に冒険してもらっても構わないとは父さま──国王様からそう呼べと言われたので──から言われてるから、今すぐ出てしまっても問題はない。時たま顔を見せてくれるだけで良いそうだ。



 俺は使用人に一言だけ言付け、廊下に出る。

 もうとっくに数時間もスタートダッシュが遅れてしまっているわけだから、そろそろスキルレベル上げに街の外に出るのがいいだろう。そう思い、俺は城を後にした。

次回、ようやく外に出ます。やっとVRMMOらしくなるぞ……。

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