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1.何故かアバターは女だし王女に間違われた件

 ようやくこの時が来た!



 小宮莉緒(こみやりお)、男17歳。ついに念願のものを手に入れることが出来たことにより、にやけ顔が止まらなかった。



 我ながら、きっと今の自分は余程気色の悪い顔をしているに違いない。だがしかし、今頃は俺以外にも全く同じ顔をしている人だって居るはずだ。

 何しろ、今日は念願の待望作……スキルメイク・ファンタジアというVRMMORPGが販売される日だからだ。VRゲーム自体が開発されついに日の目が出るようになったのは約5年程前。とはいえ、これまでのVRゲームはやはりVRと言ってもグラフィックが煩雑であったり挙動バグが多かったりと、世の人々が期待するような出来のものはなかった。



 だけど、スキルメイク・ファンタジアだけは違う。事前データに寄ると、このゲームは期待通りどころか、一気に想像を飛び越えた作品になっているとのこと。たった数十人しか体験していないというベータテスターの話によると、VRの歴史を数十年は進めてしまったと確信するほどだったらしい。



 剣と魔法、また魔物や王国といったありがちな設定ではあるが、その作り込みが凄まじい。グラフィックは当然のことながら五感までしっかり再現しており、NPCもAIとは思えないほどの人間くささでまるで本当に異世界に言ってしまったようだとテレビのインタビューで興奮しながら話していたベータテスターのことを、昨日のことのように思い出す。



 そして何より、このゲームの本格的なところであるのが()()()()()()()()()()()()()であった。

 なんとこのゲーム、MMOにはありがちなステータス割り振りやレベル、あとジョブなどが存在しない。ステータスは全てマスクデータとして存在していて、一律になったステータスから更に全員が一定値をランダムで割り振られるようになっているとのこと。

 つまり、初期値は人それぞれ微妙に異なってはいるのだが、現実世界での身体能力は全く影響してこないようだ。それ以上にステータスを伸ばす場合はスキルを取得するか、更にスキルのレベルを上げることで伸ばせるようだ。



 また、生産などもリアル志向にあるようでシステムに頼った方法でも生産は可能だが、リアルに基づいた本格的な生産方法を行うことで更により良いものが作れるなんてことも説明されていた。

 賛否両論がありそうな仕組みではあるが、ほとんどの人にはむしろ大いに受けられていた。軽めのライトゲームならともかく、自ら動くような本格的な冒険ゲームはむしろ本格的であった方がやり甲斐があるということだろう。



 ただ、当然ではあるが、その分このゲームの倍率もとんでもないことになっている。ネットでチラ見した話だが、既に数百万人もの予約抽選が殺到しているらしい。そのうち5万人が初期組……つまり第一陣として選ばれることを考えると、やはり心もとないものがあった。



 そんな時、俺はふと、ゲームの開発陣による公式アカウントのツウィスターというSNSのつぶやきで、こんものを見た。



「現在、スキルメイク・ファンタジアのモニタープレイヤーを若干名募集中! 合格者には筐体を無料送付!」



 見たところによると、オーディションのために一次審査である書類審査から二次審査の対面面接を受けてそこで合格したら採用という、芸能的なオーディションのような流れだ。

 そんなあからさまに狭き門にしか見えない方法だというのに、俺はすぐさまこれだ! と思った。何故そこまで自信満々なのかと正直自分でも思ったが、当時は衝動に駆られてついポチッてしまい、しっかり書類を書いて送付した。



 結論から言うと、合格した。合格者は俺を含めてたったの3人。応募者はなんと数万人も居たらしいので、もはや選ばれてしまったのは奇跡だとしか思えなかったのが、我に返った後の思考だった。



 ただ、合格出来たことには素直に歓喜した。それもそうだ。だってどうしてもゲームがやりたくて自ら応募したわけなんだから。

 モニタープレイヤーとしての仕事は、思っていたよりも自由があるみたいだった。プレイヤーの自由を奪うようだと本末転倒だからと電話で喋っていた向こうの人は言っていた。ただ、たまにPVとかに俺の姿が映ってしまうのと、倫理に則って厳格なプレイを心がけて欲しいということだった。当たり前なので、これにはすぐに頷いた。



 そんなことがあって、ついに今日、ゲーム本体が届いたというわけだ。そして、サービス開始も今日だ。

 もう既にセットアップは終わっていて、あとはサービス開始を待つだけ。なお、ゲームの世界で自分の身体になるアバターや初期スキル設定はサービスが開始してからとのこと。



 サービス開始時間は13時。現在の時間は12時59分。あと少しでゲームが始まる。

 携帯端末の時間に目を通しながら、刻一刻とゲームが始まるのを待つ。



「……来た! 行くぞ!」



 時間がきっかり13時になったのを確認すると、俺はヘルメット型になっているゲーム本体を被り、スイッチを押した。その瞬間、得体の知れない何かに吸い寄せられるような感覚に一瞬気を失ったような感じがする。

 気がつけば、俺は草原のような空間に立っていた。恐らく、ここがアバター作成空間なのだろう。



『ようこそ、スキルメイク・ファンタジアへ。これよりあなたのアバターの作成から始めます。まずは、こちらが原型である雛形となります』



 途端、まるで何処かからスピーカーのように響く声が聴こえてくる。

 それと同時に、いきなり俺の目の前に、俺と瓜二つの人型とすぐ近くにモニターのような容姿設定について細かく表示されたパネルが宙に表示された。



 ……うん? ちょっと待って。



「待て! なんで俺の性別が女になってるんだよ!?」



 パネルを流し見している時にふと違和感を感じたとある一箇所。そこには、femaleと書かれていた。



「おかしいよね!? 俺リアル男だよ!? いや、確かによく女の子と間違えられるけどさぁ!」



 システムにまで間違えられるのか、と俺はつい悲鳴をあげてしまう。自分で言うのもなんだが、俺の容姿は甘く言って中性的……ぶっちゃけるなら、女の子にしか見えないくらいには可愛らしい顔をしている。しかも、背も高校2年生の割には155センチとそこまで高くない。体格もかなり細く華奢で、より一層女らしさに拍車をかけているレベルだ。身長だけならまだチビな男子高校生で通せるだろうが、全身を合わせるともはや男として見られたことがほとんどない。

 そんな体質の俺は男らしくなろうと剣道にのめり込み全国大会に出るまでにも至ったが、結局見た目は男らしくならなかった。歳を取れば男らしくなるだろうかとも中学校の頃には願望のように祈っていたが、それももう諦めた。



「でも、いくらなんでも本当に女の子になるのは違わない!?」



 パネルから性別を変えられないかと試みるが、どうやっても無理だった。事前設定でも聞いていたが、このゲームは本当ならネカマは無理なのである。男なら男、女なら女。おまけに身長もプラスマイナス5センチまでしか変えられない。リアルと身体の動きに齟齬が出過ぎるのは良くないからということらしい。

 それならもう仕方ないと諦めるしかなかった。こんなことと言うのも癪だが、これでゲームをやらないのは馬鹿馬鹿しい。それに、モニターに選んでくれた運営の人達にも申し訳ない。



「……もう、こうなったらやけだ」



 俺はパネルの一番下の項目。アバターランダムという項目を選択した。これは見た目が完全にランダムで選択されるというやつだ。どのみち顔の造形とかはあんまり弄ることも出来ないし、ぶっちゃけ割とヤケクソだった。



 こうして出来上がった俺のアバターは……なんというか、とんでもないくらいの絶世の美少女になってしまった。顔や身体のパーツ、あと身長はというと、今の俺と全く変わっていないように見える。だけど髪はさらさらでかつ銀色に腰まで伸び、目は翠色に変わるだけでものすごく印象が変わった。というかこれ、ウィッグとか使えばリアルでも再現出来てしまいそうだ……何故か、少し怖くなった。



「次は名前か……ソフィアでいっか」



 この見た目、性別で男らしい名前を使うのは流石に違和感がある。だから出来るだけこの見た目にあいそうな名前にした。名前に特に意味はない。あくまでそれっぽいのを選んだだけだったりする。



「で、次はスキルなんだけど……」



 これはもう事前リサーチで決めていた。初期スキルで選べるのは5つだけで、後天的にはスキルは無限に取得出来る。だけど同時にセット出来るのは初期値で20までで、戦闘中に付け替えることは出来ないらしい。とはいえ、セット可能数は後から合計スキルレベルの値や称号の効果で増えるらしいのと、スキルにも進化が存在するらしいのでそれらでより強くなっていくのがこのゲームの攻略法とベータテスターが作った攻略サイトには載っていた。

 俺が選んだスキルは【剣術】【風魔法】【光魔法】【疾駆】そして、【魔力爆発】の5つ。

 【剣術】はそのままの通り剣の振り方とかに補正がかかったり、また剣術専用スキルが取得出来たりする。

 【風属性】【光魔法】は名前の通り、属性ごとの魔法が使えるようになる。魔法スキルは複数取りすぎるとダメージが減少してしまうが、2つならそこまで落ちないから魔法使いとしてはこの数をテンプレートにするのが一番いいとあった。

 【疾駆】は足の動きの速度に補正がかかるスキルで、似たようなスキルに足の動き方に補正がかかる【ステップ】などもある。扱いやすさでは【ステップ】で使い方でそれ以上の動きが見込める分扱いも難しいのが【疾駆】という話なので、俺は足さばきには自信があることも踏まえてあえて【疾駆】を選んだ。

 最後の【魔力爆発】だけど、これは魔力を暴発させることで軽い爆発を起こすというもの。ベータテスターの話によるとネタスキルらしいが、俺はこれが何かに使えるのではと踏んでいた。



 これでスキルの設定が終わり、ついに俺のアバターの作成は全て終わった。後は説明やらがあるんだけど……



『アバター生成が終了しました。続いて、世界観の説明を行いますか?』

「ノーで」

『拒否を確認しました。チュートリアルを行いますか?』

「それもノーで」



 お生憎様、俺は既に事前情報については目が乾くくらいには漁ってある。動きだってリアルでは体の動かし方は自信があるからチュートリアルがなくてもいいかなという考えだった。だから、今更こういった説明を受けるつもりはない。



『プレイヤー名ソフィアの全ての設定が終了致しました。これより、転移を行います』



 最後にそんな声が聴こえると共に、視界が刹那にしてブレる。数秒後、気付けば俺はファンタジーのような街の噴水前にある広場に立っていた。周囲には人々が行き交っており、NPCもおればプレイヤーのカーソルの人間も相当数居るようだ。



「す、すごい……!」



 俺はつい街中を散策したい衝動に駆られたが、ぐっと我慢した。最初はやるべきことからやるべきだと考えたからだ。

 例のごとく攻略サイトには、まず最初は広場の中心近くに居る騎士に喋りかけて街の説明を受けるのがいいとあった。なら、俺もそれに倣うだけ。

 少し歩くと、騎士はすぐに見つかった。

 俺は恐る恐る、間違いなく若いだろう騎士へと話しかける。



「あの、すいません。ちょっと聞きたいことが……」

「む? 異邦人の方か……なっ!?」



 しかし、俺の方から尋ねた騎士は俺の顔を見るなり、絶句したように目を見開いて固まった。

 どうした? と俺が疑問に思っていると、数秒空けて、ようやく騎士は動き出した。

 そして唐突に涙を浮かべて慌てたように恭しくしゃがみ込むと、



「姫様……よくぞ、よくぞお戻りになられましたっ!」

「……はい?」



 そんな爆弾発言を落とした。

 俺に向けて。



 一瞬にして周辺一帯の視線を集めてしまった俺。その中心で呆然と立つ中、俺は混乱した頭で状況を整理するのだった。



 前略。どうやら俺、サービス開始数分にしてお姫様になってしまったようです。

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[一言] 続きが気になって夜しか寝れません。
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