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新_ショートストーリー2  作者: ノーリターン新
3/3

建てつけの悪い入口の戸をガラっと開け、定食屋の厨房から威勢のいい声が聴こえる。


お冷で喉を潤して煙草に火をつけると、テレビで遠い外国の戦争のニュース。


こうして一日の糧の為に代価を稼いでいるのに、人が意味もなく死んで逝く。


無関心という主義主張、病んでいるのは世界の全てだろう。


店主のおやじのいつものセリフ。


「どーでえ景気は」


おやじがまだ小僧だった頃、この国で戦争があった。


誰だって死にたくはないだろう。国家が人殺しを命じて、自分の命を奪われる。


喰ってく為に死ぬ気で働く、生き残る為に必死で殺す。


人間の宿命ってやつは、どこまでも儚く厳しい。


奥のテーブルを覗くと、キ〇ィちゃんマスクの鼻を押さえる制服の女学生。


慌てて煙草を灰皿でもみ消す。


こんな店に女の子ひとりで来るなんて、度胸がある子だ。


「ニラ餃子定食ニンニクたっぷりでお願いします」


俺は悟った。


この娘はツワモノだ、世の中の浮き沈み酸いも甘いも知っている。


常識の言いなりになることが生き残るすべだと。


まだ若かった頃、ニキビ面で修正エロ本に騒いでいたガキの俺には、


目に映るものすべてが信じられなかった。


生きてゆく為に知らないふりをする、何もないように振る舞う。


芝居小屋で革新的なキメ台詞を吐く役者。


観賞用の花が短い一生を終えるように枯れてゆく。


美しい季節だけを切り取って見せられるなら、老いてゆく姿は見られたくはない。


日陰でそっと死んで逝く人生の落伍者。


輝くものの陰で消えてゆく幾つもの憧れ。


「はいよ粘りもの大盛り!」


カウンター越しに身を乗り出す雇われ店員の若造、注文した納豆チャーハンが来た。


この料理は火加減が難い、納豆が焦げ付かないようにサッと炒める。


至福の納豆とマヨネーズのハーモニー。


せともののレンゲでハフハフ言いながら掻っ込む。


コップのビールでめしを流し込み、隣のカウンターを見ると。


若いわけありそうなアベックがいちゃついている。


俺にはカンケ―ねえ。今月の給料の振り込みまで生き残ることだけ。


店主のおやじがジッポーで煙草に火をつける。


ぼんやりとした頭で考える、炎がすべてを焼き尽くしてくれたら。


この空間には色んな雑念が混じりこんでいる。


厨房の湯気と店内の煙草の煙、店員の罵声と客の駄話。


ありふれた毎日がいつまでも続くと思っているのに、


運命に簡単に裏切られる。


独り暮らしの安アパートには誰も待つ者はいない。


ジャージ姿でくつろぐと、隣の部屋で夫婦喧嘩の声。


何も変わらないことが日常なら、心を掻きむしるこの疼きはなんだ。


世間の常識に飼いならされたゾンビは、逞しい野良猫。


あの女学生のように、清く強く生きられたら。


果たせない約束をいつまでも待ち続ける夢人のように。


今日も明日も生きてゆくことに罪があるのなら、誰も償いなんてしないだろう。



挿絵(By みてみん)

女学生と花吹雪




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