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第2章 階層支配者との邂逅 ①


「貴方のことは、ジャック様と、そうお呼びすれば良いのですね?」


「あぁ。んで、嬢ちゃんの名前は?」


「わ、私は、ノーザラッド王国で冒険者をやっているフェリシアと申す者です。よ、よろしくお願いします」


 そう口にし、フェリシアと名乗った少女はおずおずと俺に頭を下げてきた。


 何というか、丁寧な物腰をした少女のようだな、この子は。


「それで・・・・あの・・・・・再確認なのですが、ジャック様は私を食べたり、犯したりはしないんですよね・・・・?」


 未だ俺に対して怯えの色を見せるその様子に、思わずため息を吐く。


「おいおい、人を化け物かなんかと勘違いしてねえか?? 俺はただあんたと話がしたかっただけだよ」


「で、ですが、ジャック様は魔物ですよね?? 魔物は人を襲うのが自然の摂理と言いますか・・・・・」


「摂理、と言われてもなぁ。別に俺は人間に対して敵意のようなものはねえぞ?」


 この身体になってから、もう自分と人間は別種の存在であるという感覚はあるのだが・・・・・・・元同族である彼らに対して別に嫌悪感なんてものはない。


 むしろ、むやみやたらにこちらに攻撃を仕掛けてこない分、蜘蛛やハイゴブリンみたいな連中よりよっぽど好感が持てた。


 まぁ・・・・それは交戦的では無い性格の彼女だから、ということもあるのだが。


「ハッ!! も、もしかして、言葉を会せる魔物は皆、ジャック様のように意思疎通ができるものなのでしょうか・・・・!? 良い魔物さん、なのでしょうか!?」


 突如、少女は目を輝かせ、俺の顔を覗き込んできた。


 俺は若干その圧に押されながらも、質問の答えについて考えを巡らしてみる。


「え? いや、それはどうだろうなぁ」


 この世界に転移して最初に出会ったあの化け物は人語を発していたが・・・・容赦なく俺を殺してきた。


 言葉を話せるからといって、人間と友好的な関係を結べる魔物かどうかは分からないだろう。


 会話できる奴=良い魔物とは限らない。


「・・・・いや、言葉を話せても、敵意剥き出しで襲いかかってくる奴はいたぞ? 多分、俺が特殊なんじゃ無いかなぁ」


 前世の記憶あるし、別に人間を餌だとは思わないし。


 多分、そこら辺にいる魔物たちと、俺は少し立ち位置が違う存在なのでは無いかと思う。


「そう、ですか・・・・。ジャック様のように人間を襲わない、良い魔物が少しでもいればと思ったのですが・・・・」


 そう口にし、俯く少女。


 うーむ・・・・。


 何故だかは分からんが、どうやら俺の発言で彼女は落ち込んでしまったみたいだな。

 

 辺りに気まずい空気が辺りに立ち込める。


「あ、あのさ!」


 俺はその空気を断ち切るように、本題を切り出すことにした。


「実は俺、さっきこの世界に産まれたばかりで・・・・まだ詳しいこと何にも知らないんだよ。だから、嬢ちゃんにこの世界のこと色々聞きたいんだ」


「産まれたばかり・・・・?」


「そうそう。何て言うんだろうなぁ。転生? 俺、元々人間だったんだよ。こことは別の世界のさ」


「人間・・・・・? 別の世界・・・・・?」


 俺のその言葉に、酷く混乱した様子を見せるフェリシア。


「あ、もしかして・・・・」


 しかし、彼女は何やら思い当たる節があったのか、ハッとした表情を浮かべた。


「・・・・神話上の伝承ですが、この迷宮は遥か昔、異界と異界の門を繋ぐ精霊様の住居だったそうです」


「異界と異界の門を繋ぐ、精霊?」


「はい。精霊様はこの世界のバランスが崩れた時に、調和をもたらす者として異界から調律者をこの世界に呼び出す役目を持っていたと聞きます。その召喚場所が、この迷宮の地だったとか。・・・・・・神話上の眉唾な話ですがね」


「・・・・・・・・・・・・・」


 多分、その話は合っていると見て良いだろう。


 俺を殺す時、あの化け物は精霊がどうとか言っていたしな。


 恐らく俺は、その精霊によってこの世界に呼び出された“調律者”とかいう存在と見て間違いなさそうだ。


(・・・・・調律者がいったい何なのかは分かんねえけどな。もっとこう、勇者だとか分かりやすい役職を与えて欲しかったぜ)


 俺はげんなりと肩を落と・・・・肩がないので、頭に付いている茎をしなだれさせる。


 するとその時、脳内にアナウンスの声が流れてきた。


《報告 支配下にあるスカルゴブリンがハイゴブリンの群れを撃破しました》


《スカルゴブリンの二分の一の経験値を獲得いたしました》

《報告 レベルが3から6に上がりました》

《基礎ステータス値がアップしました》

《HP30→52》

《SP40→60》

《攻撃力8→14》

《防御力12→18》

《俊敏性20→30》

《魔法攻撃力25→45》

《魔法防御力26→30》


《150スキルポイントを獲得しました》


《習得可能なスキルは以下の通りです》


《死霊系魔法 【リビングデッドコントロール】 消費スキルポイント70》


《合計所持スキルポイント 100》


(おぉ〜、スカルゴブリンの奴、ちゃんとあいつらを仕留めてきたのか!)


 一気にレベルも3から6に上がったし、こりゃ楽してレベルアップできて良いなぁ〜。


 そうだ、他にも使役するアンデッド増やしまくって、迷宮の中探索させまくったら効率的に経験値獲得できるんじゃないか??


 働かずに成長できるなんて・・・・・何これ、ニートにぴったりのスキルすぎて最高すぎる。


 そう俺が内心で将来の計画に胸を膨らませていると、目の前に座っていた少女がゆっくりと立ち上がった。


「あの・・・・実は私、ここには仲間と一緒に来ていまして・・・・」


「仲間?」


「はい。私、『栄華の剣』っていう王国ではそこそこ名の知れた冒険者チームの一員だったんですよ。・・・・・ですが私以外の全員、皆ハイゴブリンにやられてしまって・・・・・」


「ふーん」


「・・・・・私、彼らを埋葬してあげたいんです。でも、あの・・・・私、治癒魔法しか取り柄のない修道女で、とてもじゃないですが、この迷宮の魔物に太刀打ちはできないのです・・・・」


「・・・・・・・・・・・・」


「た、助けけていただいた手前で、とても不躾な願いとは分かっています!!!! ですがどうか!! 私がこの迷宮を出るまで、護衛をお願いできないでしょうかっ!!!!!」


「・・・・・護衛、か・・・・」


 この女には、まだまだこの世界について聞いていないことが多いので、十分利用価値はある。


 護衛くらいの願いだったら、素直に聞いてやっても良いだろう。


 だけど、なんつーかなぁ。


 せっかくこの世界では好き勝手生きてやろうと思ってたのに、いきなり他人に行動を縛られるってのはなぁ。


 それに、こちらは情報を求めると言っても、それは先程助けた見返りのものだ。


 護衛についてはこちらに何の報酬もない。


 元同類の人間とはいえ、その図々しさには、少々腹が立つものがある。


(タダ働きとか面倒臭いなぁ)


 疲れたように、ため息を吐く。


 そんな俺の乗り気でない雰囲気を読んだのか、少女は慌てて俺に向かって深く頭を下げてきた。


「お、お願いします!! 治癒魔法でサポートしますので!! 私、ここで1人になったら、間違いなく死んでしまいます!!!!」


「・・・・・分かった分かった。分かったから、そんな頭下げんなよ嬢ちゃん」


 俺は呆れたため息を吐きつつ、フェリシアの前まで跳ねて、彼女に先導するよう促す。


「ホラ、仲間の遺体埋葬すんだろ? 案内してくれよ」 


「わ、分かりました!!」


 そう元気よく俺に返答した彼女は自身の杖に手を当て、魔法を発動させる。


「遍く光の渦よ、聖なる加護と共に汝の友人を照らしたたまえーーーー【ホーリーライト】!!!!」


 その瞬間、先端に宝玉が付いた杖から白い輝きが放たれ、周囲を明るく照らし始めた。


 それは、俺のカボチャの中にある炎の比にならないくらい、明るい光だった。


「ヒューッ、すげえな。なんだそれ」


「これは、洞窟の中など視界の悪い場所で使用する、松明代わりの魔法です。・・・・本当は消費魔力を抑えるために松明を持っていたんですが、その、ハイゴブリン達に追いかけられた時に落としちゃって・・・・・」


 てへへと恥ずかしそうに頭を掻くフェリシア。


 俺はその照明の魔法を羨ましげに見つめる。


(いいなぁ・・・・この魔法あったらこの迷宮隅々まで探索し放題なんだけどなぁ)


「・・・・ジャック様、どうなさいました?」


 ボーッとする俺を、不思議そうにフェリシアが覗いてくる。


「い、いいや、何でもねえ。ホラ、さっさと行くぞ」


「はいっ!!」


 一瞬、脳裏に、彼女をアンデッドにしてこの能力を奪えないかどうか・・・・といった恐ろしい考えが浮かんだが、俺は即座にその思考を振り払った。


(どうなってんだ、こりゃ)


 何というか・・・・徐々に人間性が失われているような感覚が、俺の身にはあった。


 先程、ハイゴブリン達と俺は違う存在と思ったが・・・・それは本当にそうなのだろうか。


 生前の人間だった頃の記憶があるとは言っても、俺は今やカボチャの亡霊、魔物だ。


 人間を餌と見做し、嬲り、犯す、ハイゴブリン・・・・傲慢で本能だけで動く奴らと何も変わらない存在なのかもしれない。


(だからといって・・・・そんな知性のかけらもない下劣な存在にだけは絶対に成り下がってたまるものか)


 俺は“秋月 透”だった頃の自分を見失わないと心に誓い、フェリシアと共に迷宮の奥へと向かった。

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