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第9章 亡者の軍勢、楽園の終わり ④ 



「まっ、ざっとこんなもんか」


 頭部がゴトっと落ち、力なく倒れていくシアナの身体を見つめながら、俺は大きく息を吐く。


 最初こそは奴らが使う幻惑魔法には色々と手間取らされていたが・・・・攻撃を躱しきる俊敏性さえあれば、割と簡単に突破できるもんだな。


 あと、【チャーム・ファンタズム】も【シャドウ・エンファイア】によって難なく攻略できたのも大きいといえるか。


 相手の身体に触れないと発動できないという点さえ理解していれば、あの魔法は最早怖くはないだろう。


 ようは、俺に近づけさせなければ良いだけのこと。


 相手を凌駕する圧倒的俊敏性とカウンター型の魔法さえあれば、もう、夢魔族の幻惑魔法は脅威になり得ることはない。


 「ふっふっふっ、これからの俺はちょっと違うぞ」


 そう、何たって、【リビングデッドコントロール】を使えば、今の俺だったらどんな魔物の身体であろうと自由自在に扱うことができると分かったのだからな!!!!


 このオーガのムキムキボディがあれば、第五階層支配者など、恐るるに足りんわ!! わっはっはっは!! ほれ、力こぶ力こぶ、パンプアップ! パンプアップ!


「ミュー・・・・」


 ふと背後を振り向くと、アッシェが悲しそうな目でこちらを見ているの気が付いた。


 それでも、俺は気にしない。


 拳と拳を腹部の所で合わせながら、この美しい肉体美を誇るようにして、牢にいるフェリシアとドロセラに向けてパンプアップを継続する。


「パ、パンプアップ! パンプアップ!」


「へ? あ、あの?? ジャック様、いったい何をなさって・・・・??」


「こ、怖いですぅ・・・・いったい何がしたいのか分からないのが意味不明で怖いですですぅぅぅ・・・」


「ミュゥゥゥ・・・・・」


「・・・・パ、パンプア・・・・」


「ミュゥゥゥゥゥゥゥ・・・・・・」


 うん・・・・そうね。


 背後を振り向かなくても、アッシェちゃん、貴方が何を言いたいのかははっきりとわかっているわ。


 その瞳を、俺はもうすでに知っているから。


 第四階層でハイゴブリンの身体を使ってドスンドスンと動き回っていた時、俺を見ていたあの憐憫の眼差し。


 今現在、あの時に感じた同じ感情を、背中にひしひしと感じる。


「まぁ・・・・アンバランスだよな、今の俺は」


 ハイゴブリンの時と同じで、身体に比べて顔がめちゃくちゃ小さい・・・・・ようは今の俺は、筋骨隆々ムキムキの長身の身体に、頭部に小さなカボチャ頭が付いた変態だ。


 あと、腰に付いた麻布が無ければ、完全にアウトな変質者なのは間違いない。


 現在の俺の姿は、ただの変態ムキムキカボチャマンでしかないだろう。


「・・・・・・・・・・【リビングデッドコントロール】解除」


 オーガの身体と分離して、地面に降り立つ。


 頭部が無くなったオーガの死体は、その後、ゆっくりと地面へと倒れていった。


 その光景を見届けながら、ピョンと、オーガの死体の上に飛び乗る。


 そして俺は、ふぅっと、短く息を吐き出した。


「ふぅ・・・・オーガはハイゴブリンに比べて背が低いから、まだ違和感ないんじゃないかと思ったが・・・・やっぱり変だったか? アッシェ」


 ゆっくりとこちらに近づいて来たアッシェに肩ごしにそう声を掛けると、彼女は小さくコクリと頷く。


 そうしてその後、彼女は目を伏せながらどこか申し訳なさそうな表情を浮かべると、静かに口を開いた。


「・・・・失礼を承知で正直に言わせて貰いますと、はい。その姿はとても変です」


「やっぱ、そうか・・・・」


「やはり、ジャック様は本来の御姿のその丸いフォルムこそが、一番です。ハイゴブリンやオーガ姿のジャック様は・・・・正直、微妙。愛せない・・・・」


 そう口にすると、アッシェは悲し気に眉を八の字にする。


 その姿は今の俺に対する拒否感が満ち溢れていた。


 (うーん、だったらケルベロスに乗り移った時の三匹の俺の顔状態は、どうだったのかしらね・・・・)


 あの時アッシェはいなかったから・・・・あの謎の結晶が破壊できたらもう一回あの俺、ケルベロスジャックを見せて、アッシェの感想を聞きたいところではある。


 もしあの三つの顔がついた俺でもダメだったとしたら・・・・アッシェの御眼鏡に叶うボディ探し大会決行だな、こりゃ。


 ユニ○ロで洋服買うような気軽な感覚で、俺に見合う死体を探していかねばならぬぞい。


「あの、ジャック様・・・・・」


「早くここから私たちを出してくださいです〜」


 一人考え込んでいると、牢の中のフェリシアとドロセラの二人がジッと、俺を見つめていることに気が付いた。


 そのどこか呆れた二人の様子に、俺はオーガの腹から降りて、慌てて応える。


「あ、あぁ、そうだな。じゃあ、どいてろ。今、その鉄格子を壊してやるから」


「は、はい」


 二人が壁際に避難したのを見届けた後、俺は牢の前に立ち、【スラッシュ】を発動させる。


「【スラッシュ】」


 そうして魔法の詠唱を終えると、頭にあるヘタは鞭のように伸び、素早く斬撃を放って、鉄格子を軽々と切断していった。


 カランと音を立てて格子は地面へと落ちていき、牢にはひし形の穴が出来上がる。


 その穴から恐る恐るといった様子で、二人は順番に外へと出てきた。


「ふぃ~。やっと解放されましたですぅ~。いやー本当にありがとうですです、ジャックさん」


 そう言って軽く手を上げ、礼を述べるドロセラ。

 

 そんなドロセラの気軽な様子とは反対に、フェリシアは深く頭を下げて、丁寧に俺へとお辞儀をしてきたのだった。


「ジャック様、ありがとうございました。貴方様にはこの迷宮に来てから、助けられてばかりですね」 

 

 そう言って頭を上げると、そこにあるのは複雑そうな表情をしたフェリシアの顔が。


 その目は、俺を見ているようで見ていない。


 不可思議に思い、彼女のその目線の先を辿ると、そこには倒れているオーガの死体が見つけられた。


 (ふむ・・・・別れ際の出来事を考えれば、彼女が何を考えているかは大体推察することはできるが・・・・さて、どう対応したもんかね)


 きっとあいつは俺の能力について一言何かあるのだろう。


 どう声を掛けたら良いか悩んでいると、スッと、突如俺の前にアッシェが立った。


「・・・・・・・・・・何、その顔。とてもじゃないけど、お礼を言っている表情には見えない。ジャック様に対して、失礼だとは思わないの??」


「良い、やめろ、アッシェ」


 フェリシアのその様子に何か言いたかったのか、アッシェは苛立ち気味に彼女の前へ立とうとしたが、俺は寸前でそれを止める。


 するとアッシェは俺の方を振り返り、困ったような顔をこちらに向けてきた。


「・・・・・ですが」


「俺は別に気にしていない。だから、お前が何かする必要はない」


「・・・・・はい」


 俺のその言葉に渋々と頷くと、アッシェは再び背後へと戻って行った。


 そして俺は再び、フェリシアの顔を見上げる。


 彼女のその顔はやはり、俺という存在に対して何か腹に一物抱えている様子だった。


 まぁ・・・・別れ際に奴の仲間である男の身体を好き勝手に乗っ取ったことを考えれば、彼女が俺に何を言いたいかは大体推察することはできるがな。


 俺は大きくため息を吐いた後、静かに口を開く。


「フェリシア。お前が今、どういった感情を俺に向けているのかは大体察しが付く。大方あの男の・・・・アレックスの身体を俺が使ったことに関して、何かわだかまりがあるのだろう??」


「・・・・・そう、ですね。何も思ってないと答えるのは嘘、になりますね・・・・。申し訳ございませんジャック様は私の命を何度も救ってくださった、大恩人だというのに・・・・・」


「気にするな。人間であれば俺の死体を扱う能力は、忌避感を拭えない悍ましい光景にしか映らないのは理解している。それも、自分の仲間であれば尚のこと。お前の俺に向けるその感情は当然の摂理だ。だが、な。あの状況においてはー----」


「分かっています。あの時・・・・デス・スパイダーの群れに襲われたあの絶体絶命の状況下では、あの能力が無ければ、私は即座に蜘蛛たちの手によって殺されていた。貴方様の采配で、今私はこうして生き残っているということはちゃんと理解しております」


「ほう? 意外だな。まさか、ちゃんと状況を理解していたとは・・・・てっきり俺は恨み節のいくつかは言われるのものかと身構えていたぞ??」


 そう言うと、フェリシアは視線を地面に向け、沈痛な表情を見せ始める。


「私は・・・・・私はジャック様が以前仰っていたことを、貴方様と別れてから今までずっと、ひとりで考えてきました」


「俺が以前言ったこと?」


「はい。『力量差を見誤って敵に挑むのは馬鹿のすることだ。賢く生きるならば大層な理想を掲げるんじゃなく、まずは弱い自分という現実を見ろ』。・・・・本当に、その通りだと思います。今までの私は、現実が見えていない愚かものでしかなかった。蜘蛛の群れに襲われた時も、何もできずにただ怯えていただけで、戦っていたのはジャック様だけでした」


「・・・・・・・・・・・・・」


「ジャック様は・・・・ジャック様は、あの時、私のことを『昔の自分と似ている』、と、仰っていましたよね?? 私の顔を見ているとイラついてくるとも。今も・・・・そうなのでしょうか??」



 ここで自分の本心を偽り、この女の好む言葉を発するのは容易い。


 後のメリットを考えれば、こいつとはできるだけ友好的関係を築いた方が得策だろう。


 だが・・・・何故かフェリシアに対して、それはしてはいけないと思った。


 前も思ったが、この女は生前の俺と瓜二つなのだ。


 大した力も無いくせに、一丁前に大層な理想、正義を掲げる。


 その結果、大切な人を死なせ、取り返しのつかない状況に堕ちてからようやく自分の情けなさを痛感する。


 無知蒙昧で、誰かを救えるのだと痛い勘違いをし、結局何も救ええることができなかった非力で無能な人間。


 そんな、いつかの俺にそっくりなこの女に嘘をつくのは・・・・過去の自分に負けるような気がして、どこか癪だった。


 俺が否定し続けなければならない過去の自分に虚言を弄して媚びへつらうのは、この上の無い屈辱でしかなかった。


 だから俺は・・・・この女に、本音を打ち明けることに決めた。


「・・・・・・あぁ、そう、だな」


 大きく息を吐き、一拍置く。


 そして真っすぐと、彼女の青い瞳に目線を合わせる。


「正直なことを言うと、俺はお前が嫌いだ。今こうしてお前と接しているだけでも、まるで昔の自分と会話しているようで反吐が出る。俺はな、弱いくせに大言を吐く奴が大嫌いなんだ。だから・・・・・・・・・俺は・・・・」


「・・・・・・・・・・・・」


「俺は・・・・お前を殺してやりたいほど嫌悪している。これはお前が悪いんじゃない。ただ単に、俺がそういう存在なだけだ」


「・・・・・・・そう、ですか」


 その言葉にフェリシアは、俯く。


 そして数秒程視線を下に向けた後、次に顔を上げた時には・・・・彼女は何故か晴れやかな表情を浮かべていた。


 結構キツイ言葉を発したのだが、どうやら傷ついた様子は無いようだった。


 何か得心がいったのか、先程とは異なり、フェリシアは俺に対して負の感情を抱いている様子はひとつも見当たらなかった。


「了解致しました。先程までのご無礼、申し訳ありませんでした」


「え? あ、おう・・・・?」


「では、次は、これからどうするかをお話することにしませんか? この洞穴から抜ける方法、とか」


「・・・・・・・・・・・・」



 アッシェの話によると、確かこいつはあの【チャーム・ファンタズム】から自力で帰還してきたとか言っていたな。


 あの悪夢を乗り越えることで成長したのか・・・・以前とはどこか違った雰囲気を今のこいつは纏っているように感じられる。


 それも、マイナスの方向にではなく、プラスの・・・・明るい方向に・・・・。


(あの悪夢、自分の最大のトラウマを何回も見せつけられてもこいつは失意に陥るどころか、希望を持って帰還したというのか・・・・驚嘆に値する存在だな)


 ・・・・・・この女と自分は似ているとは言ったが、どうやらその根本は少し異なるようだな。


 例えるならばこいつは、絶望によって折れることがなかったその先の俺・・・・なのかもしれない。


 あの苛烈ないじめを耐え抜いて、理不尽な現実から目を背けずに戦い続けた、在ったかもしれないIFの姿の自分・・・・・。


 ハッ、ますます好きになれそうにはねぇな、この女は。


 今までの自分を否定されているようで無性に腹が立つ。


「・・・・・? どうかしましたか?」


 俺がジッと見つめていたことに気付き、フェリシアはキョトンとした顔を俺に見せる。


 俺はかぶりを振って、フェリシアから視線を逸らした。


「いいや、何でもねぇよ。それよりも・・・・上、見て見ろ」


「上、ですか? って、あれ!?」


「おぉ!! 見てください!! 空が見えてますですよぉ!! 吹き抜けになってますです!!」


 ドロセラが頭上を見上げ、指を指す


 その指し示す方向に視線を向けると、煙突状の穴の果てに、紫色の空が見えていた。


 その光景に、フェリシアは口に手を当て驚愕の表情を浮かべる。


「さっきまで鍾乳石があったのに、何で!?」


「恐らくシアナが死んだから、あいつが使用していた幻惑魔法の効果が切れたんですよ、きっと。いやー、これで私はここから逃げ出すことができますよぉう。私は」


「翼を持ってるドロセラ様は良いですね。すごく羨ましいです」


「ふふん。もっと羨ましがると良いです。羨望の眼差しを向けられるのはとても気分が良いですです」


 いつの間に仲良くなったのか、フェリシアとドロセラは気安く話し合っていた。


 ルーナから聞いた話によると、魔物はその性質上、殆どの個体が人間を忌み嫌うように出来ているらしいが・・・・あのタラオはその特性がないのだろうか。


 二人の間には気安い友人関係のような、ほのかな友情の絆が見て取れる。


「・・・・・・ジャック様、無言で二人を見つめて・・・・どうなされたのですか??」


 背後のアッシェがそう、俺に声をかけてくる。


 俺は彼女に対して笑みを浮かべ、再び二人へと視線を向けた。


「いや、魔物でも人間と普通に会話する奴もいるんだなー、って思ってさ」


「・・・・・夢魔族のように人間に近い姿をし、尚且つ人間に対してそこまで害のない魔物であれば、比較的彼ら人族とは打ち解けやすくなるのではないでしょうか。夢魔族は人魔大戦前までは人間とよく交流していた種族と聞いたこともありますし」


「へぇ、夢魔族は昔人間と交流していたんだな。面白れぇ」



 この世で最も他者を利用するのに都合の良いもの・・・・それは、愛情や友情といった類の感情だろう。


 もし、人間社会に魔物という存在が受け入れられ、人と魔物が結婚をしたり、友人関係を構築するのが当たり前の世界となったのなら・・・・。


 人の国に俺の配下を違和感なく忍ばせることができるような世界になるのなら、その時は、俺に害なす意志を持つ者を即座に発見し、排除することも可能になるかもしれない。


 夢魔族か・・・・人と友好関係を持つことができる性質を持ったこいつらは、それだけでも生かす価値はある、か。


 まぁ・・・・どちらにしてもそれは先の話だな。


 今は、やるべきことを先に遂行しに行かなければ。


「さて、行ってくるかな」


「・・・・・もう一人の階層支配者の討伐に行かれるのですか?」


「あぁ。お前はあの二人の監視を頼む。奴らが俺を裏切る可能性も決してゼロではないからな」


「・・・・・畏まりました」


 そして俺は、牢の前で転がっているシアナの死体へと近付いた。


「・・・・・・【リビングデッドコントロール】」


 スキルを唱え、倒れ伏すシアナの首とケツから生えた根っこを接合し、第五階層支配者の身体に乗り移る。


 その瞬間、脳内にいつものアナウンスが流れ始めた。

 



《報告 【リビングデッドコントロール】の効果により、【インキュバス シアナ レベル45】の能力を引き継ぎました》


《基礎ステータス値がアップしました》


《HP3856→3857》

《SP852→858》

《攻撃力2638→2638》

《防御力2641→2644》

《俊敏性4120→4120》

《魔法攻撃力976→1466》

《魔法防御力997→1523》


《新たなスキルを獲得しました》


○氷結属性中位魔法 【アイシクル・ランス】

○氷結属性上位魔法 【アイシクル・ハンド】

○魅了幻惑複合超位魔法 【チャーム・ファンタズム】

○魅了属性中位魔法  【スピシーズ・チャーム】

○幻惑魔法上位魔法 【ドッペルゲンガー】

○幻惑魔法中位魔法 【トランス・ペアレント】

○幻惑属性中位魔法 【フィールド・ダズル】

○情報属性上位魔法 【ハイ・アナライズ】

○情報属性上位魔法 【コンタクト】


《新たな耐性を獲得しました》


 ○幻惑魔法無効化

 ○魅了魔法無効化

 ○氷結属性魔法軽減


《新たな加護を獲得しました》


 ○氷神の加護(氷結属性魔法の常時無詠唱化)

 ○魅神の加護 (魅力属性魔法の常時無詠唱化)

 ○夢魔の祝福(幻惑魔法の常時完全無詠唱化) 



「へー、なるほどな。中々便利そうなスキルが手に入ったじゃねえか」


 特に【ハイ・アナライズ】は今まで喉から手が出るほどに欲していたスキルだったために、こいつはラッキーな拾いものだったと言えるだろう。


 ムレアの方に【リビングデッドコントロール】を使おうか悩んでいたが、あいつはステータスを確認したところ、【ハイ・アナライズ】は持っていなかったみたいだからな。


 どうせ双子だからステータス値は同じだろうと考えていたのだが・・・・これはシアナをに【リビングデッドコントロール】を使用して正解だったかね。


「ふむ。夢魔族の貧弱な能力値のせいかステータス値はあんまし上がらなかったが、スキルは上々な結果だといえるかな。さて、次は・・・・・」


 俺は背中の翼を開いては閉じ、その感触を確かめる。


 なるほどなるほど・・・・この感覚なら無事に飛ぶことはできそうだな。


 背中の翼をどのようにして使えば良いか、この身体に乗り移った瞬間に自動的その情報が脳には入ってきている。


 予行演習がなくても飛行は可能そうだが・・・・ここはひとつ、試してみるか。


「よし。じゃ、いっちょ空の旅にー---」


「ジャック様、待ってください!」

 

 地面を蹴り上げ、空に舞い上がろうとした・・・・その時。


 フェリシアが何故かシアナの焼け焦げた腕を持って、俺に近づいて来ていたのであった。








 




「な、何なのよぉ!? いったい、これは、どうなっているのよッ!?」


 第五階層の現状を見て、あたしは思わず引き攣った悲鳴を上げてしまう。


 何故なら、そこにある現在の第五階層は、今までのあたしの知るものでは無くなっていたからだ。


「あぁぁぁうぁぁ・・・・・」


「うおぉあぁぁぁ・・・・・」


 眼下を見下ろせば、木々が生い茂る大地を人間種のアンデッドの大群が闊歩している。


 そして自身が飛ぶ上空の世界には、かつての配下であったインプたちが、アンデッドとなり我が物顔で飛び交っていた。


 中にはあたしが捕らえていたサキュバスの姿もあり、皆一様に、私に対して憎悪の目を向けてきている。


 そう、はっきりと亡者たちに敵意を向けられてはいるのだが・・・・何故か奴らはあたしに攻撃をしようとはしてこなかった。


 ただ、あたしをジッと睨むだけで、素通りして飛んでいく。


 その光景が、ただただあたしには不気味にしか思えなかった。


「い、いったい、何!? 何なのこれはっ!? 何が起こっているというのっ!? そ、そうだ、シアナは!? シアナはどうしているの!?」


 あたしは急いで情報属性上位魔法【コンタクト】を使用し、シアナに念話を飛ばす。


 だが、一向にシアナからの応答は来ない。


 ただ、横を通り過ぎて飛んでいくアンデッドの呻き声だけが、あたしの耳の中に入ってくるだけだった。


「シアナ・・・・・早く出ないさいよ、シアナ!!!!!」


 あたしのこの世でたったひとりの家族、愛しい弟。


 あの子がいなきゃ、あたしはこの世界で独りぼっちになってしまう。


 だって、あたしたち双子は生まれたときから『異端』だったのだから。



「そうよ、あたしたちは、産まれた時から他と違ったの!! だから他の連中はあたしたちを受け入れなかった!! 『異端』と呼び蔑んだ!!」



 他の夢魔族と違って、あたしたちには他者を圧倒できる『力』と亡き魔王への忠誠心を断ち切れる『意志』が、産まれながらにしてこの身にあった。


 だからあたしたちは、自由を求めた。


 だからあたしたちは他の魔物や人間にバカにされないための戦力を求めた。


 でも、他の夢魔族にはあたしたちの理想は受け入れられなかった。


 みんな、口を揃えてこう言うんだ。


『亡き魔王様の意志に従って、この迷宮で静かに暮らそう』って。


 何が魔王様だ。


 何でとっくの昔に死んだ奴の、それも魔族を守り切れなかった奴の言うことなんかにあたしが従わなきゃならないんだ。


 だからあたしたちは今まで、牙を抜かれた無能な奴らに力を示してきたまでのこと。


 たった二人の姉弟で。


 自由を求めて戦ってきたんだ。


 そうして今まで頑張ってきたおかげで、魔王の遺産という超絶な力を手に入れるまであと一歩のところまでやってきた。


 あと一歩であたしたちは、他の階層支配者をも凌駕する力を手に入れられるはず。


 そしてあと一歩で、人に怯えることなく、自由に外界の空を飛べる日がやってくるはず。


 魔王の遺産の力がありさえすれば、この第五階層から出ることができるんだ!!


 それなのに、今、目の前に広がるこの光景は、何??


 この亡者で溢れた世界は、いったい何だと言うのー------。



「よぉ、久しぶりだな、クソガキ」


「・・・・・・・・・・え? シア・・・・ナ??」



 突如目の前に現れたのは、頭部がカボチャ頭で、上半身下半身がシアナの身体をした、謎の異形。


 あたしはその姿に理解が及ばず、思わずカタカタと肩を震わせてしまう。


「な、何よ、それ・・・・あたしを驚かせようとでも思っているの? シアナ・・・・その変な被り物取りなさいよ・・・・・」


「クックックッ、思ったよりも動揺している様子だな?? しかし、変な被り物って・・・・・この愛らしい顔に対して何て失礼なヤローだてめぇは! どうやらお前はセンスというものを知らんようだな??」


「うるさいうるさいうるさい!!!! あんた、あたしがボコボコにしてやったアンデッドでしょ!? 何でシアナの頭に被っているのよっ!? 早くシアナから離れなさいよっ!!!!!」


「ほう? どうやら現実を理解していない様子だな。いいだろう、中身、見せてやるよ」


 そう言って、アンデッドは両手で自身の頭を持ち上げ、少し浮かせる。


 すると、その頭部と首の間には・・・・・根っこのようなものがカボチャ頭に繋がっているだけで、何も、なかった。


 切断された首元の肉しか見えず、首から上のその先には・・・・何もついていなかった。

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