第8章 覚醒 ⑤
「これが・・・・魔王の遺産が眠る神殿、ね」
ムレアは巨大な大岩の上から、崖下にある神殿を静かに見下ろす。
そんな彼女の背中を、インプに両腕を拘束された夢魔族の長老ディオネアは、黙って見つめていた。
「何か言いたそうね? お祖母ちゃん?」
「いや、何・・・・今更になって自分のミスを悔いておるのじゃよ」
「自分のミス? あぁ、もしかして、あたしの教育を間違ったとかそういうこと?? まぁ確かに、あたしが外の世界に興味を持ったのは、あんたが幼い頃に散々聞かせてくれていた先代魔王の話が原因と言っても良いからね。宝玉の存在は知らなかったけど、宝具のことは元々知っていたし? こうなったのは自分の責任、だとか考えているのかしらー?? クスクスクス」
「違うわい。お主の元に調律者殿を向かわせたことを悔いておるのじゃて」
「は? 調律者? あのカボチャ頭のこと?」
「然り。ワシは当初、あの調律者殿はシャーロット様と同じく魔の世界を調停する存在と、そう思っておった。しかし・・・・彼の者と話していく内に段々と理解したのじゃ。あの者の性質は善にも悪にも転びうる、不安定な存在なのだと。じゃから、ワシは調律者殿がどう転んでも良いと思っておった。お主の【チャーム・ファンタズム】で戦闘不能になるも良し、逆にお主を喰らっても良しと。だが・・・・」
そう言うとディオネアは目を細め、空を見上げた。
「知っておるかの、ムレア。ワシの持つ【ハイアナライズ】では分かることなのじゃが・・・・魔物という存在が持つその性質は、殆どが「善性」と「中立性」ばかりなんじゃ。「悪性」を持った魔物は殆どおらん。同族であるサキュバスをゴブリンたちの慰み者とし、悪逆の限りを尽くすお主の性質さえも、「中立性」。完全な悪ではない」
「・・・・・訳が分からない。いったい何が言いたいの?」
「完全な「悪性」を持った魔物は、人も魔族も、等しく根源的な恐怖を抱かせる存在となる。ワシはな、ムレア。怖いんじゃ。お主の【チャーム・ファンタズム】から、悪夢から調律者殿が目覚めたその時、彼の者は「悪性」となって目覚めることになるのではないかと・・・・。「悪」の魔王として、この地に降誕するのではないかと。その時、いったいこの第五階層に何が起こるのかと考えると・・・・夢魔族の長老として気が気ではないわい」
「はぁ? あんな雑魚アンデッドにビビるなんて、バカじゃないの? あんな奴、もし【チャーム・ファンタズム】から逃げれたとしても、あたしの敵なんかじゃないわ。くっだらない話で時間稼ぎするのはやめてくれる? お祖母ちゃん?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「さぁて、愛しの宝具宝玉ちゃんとご対面、と行こうかしらね~♪ あの伝説の魔道具さえあればきっと、第四階層のケルベロスも第三階層のタナトスも敵ではないわ! そして・・・・忌まわしき人間たちとも、対等に戦える力となるはず。その時こそ私は、外の世界で生きることを許される日となるのよ!! さぁ!! インプたち!! あの神殿に向けていざー----」
『ムレアー、聞こえるー?』
その時、突如魔法によって聞こえてきたその念話に、ムレアは舌打ちをして深いため息を吐いた。
「・・・・・はぁ、シアナか。今、良いところだったのに・・・・変なタイミングで【コンタクト】使わないでくれるー?」
『僕にそっちの様子なんて分からないんだからタイミングなんて分かるわけないだろ?? それよりも、早急にムレアに報告したいことがあるんだ』
「報告? 何?」
『ムレアが、帰ったら直々に拷問してやると息巻いていたあのカボチャのアンデッドのことなんだけど・・・・あれ、侵入者の白いデス・スパイダーによって逃がされちゃったんだよね」
「は? 侵入者? それにデス・スパイダー? 何で第三階層の蜘蛛がこんなところにいるのよ??」
『僕に聞かれたって知らないよ。それでそのデス・スパイダーさ、ムレアの拷問部屋の床、壊して逃走したんだよ。地下水路にまで続く大きな穴を開けてさ』
「はぁ~~~~!?!? あたしの大切な部屋に大きな穴ぁ~~~~!?!? 何なのよそれぇー-!!!!」
『・・・・じゃ、僕はちゃんと伝えたからね。っと、そのデス・スパイダー、幻惑魔法の耐性があるから気を付けるように。じゃ』
そう言って、ムレアの双子の弟、シアナの通信は途切れた。
そしてその後の、ムレアのわなわなとした落ち着きがなくなったその様子に、背後の老婆はふぅっと短く息を吐く。
「何かあったようじゃの」
「・・・・うっさいわねぇ。本当、シアナは研究にしか興味のないダメな弟なんだから。良いわ!! 宝具と宝玉はインプたちに持って来させることにして、あたしは直々に白いデス・スパイダーとやらを捕まえてやる!! もしかしたら、タナトスが送ってきた伏兵かもしれないものね。むざむざと見逃すわけにはいかないわ!!」
そう口にすると、ムレアは翼をはためかせ、紫色の天空へと飛び立って行った。
そんな、山の向こうに消え小さくなっていくムレアの姿を、ディオネアはジッと静かに見つめる。
「・・・・・・・結局、ベヒーモス様の言葉通りになってしまうのかのう・・・・」
その言葉は、周囲のインプたちの耳にも届かず、ただただ虚空へと消えていった。
《アッシェ視点》
「・・・・・・身体が軽い」
「キシャアアアアアアアアアアッッッッッッ!!!!!」
3体のハイゴブリンが石斧を手に、一斉に私に襲い掛かってくるが・・・・その動きはまるで止まっているかのようだった。
ハイゴブリンが行う全ての動作が、スローモーションに見える。
これも、ジャック様の御力をいただいた・・・・眷属化というもののおかげなのだろうか。
まるで今までの身体がー---デス・スパイダーの身体が、常に重い鉛を背負っていたかのように、このアラクネの身体は羽が生えた綿毛のように軽かった。
「・・・・・・・・・・遅い」
「グギャッ!?」
上段斜めに斬りこんでくるゴブリンを、私は身体を軽く反らすことで回避する。
すると、ハイゴブリンは何もない虚空を斬り、そのまま斧は地面へと突き刺さった。
その斧の持ち手を、私は足で蹴り上げる。
そして、回転しながら宙を舞う斧を見上げると、頭上に向かって手をかざし、指先から糸を発射した。
「・・・・っと、まぁ、来るよね」
「グギャアアア!!!!!!」
しかし当然、頭上を見上げるだけの私のその隙を見逃すはずがなく、残りの二匹のハイゴブリンたちが私に斬りかかってくる。
けれど、その動作も、予測済み。
私は指先から放たれた糸を投げ縄の要領で、空中を飛ぶ斧の持ち手にグルグルと絡める。
そして、しっかりと糸が絡まったのを確認すると、そのまま空中に上げていたその手を・・・・目の前のゴブリンに向かって振り下ろした。
ー----グチャリ。
空から降ってきた斧に脳漿を割られ、眼球が飛び出し、息絶えるハイゴブリン。
その光景に、彼の背後にいたゴブリンと、私に斧を奪われ地面に這いつくばっていたゴブリンは、恐怖に顔を引き攣らせた。
「おぉ・・・・思ったよりも上手くいった。前から私も武器、使って見たかったんだよね」
「グ、グギャアアアアアアアアッッッ!!!!」
「だから遅いって」
徒手空拳で襲い掛かってくるゴブリンを再び身体を反らすことで回避し、その後、足を引っかけ、転ばせる。
そして、伸びた糸を指先へと戻し、伸縮の勢いで手に斧を移動させ、握ると、私は眼下のゴブリンの無防備なその背中に刃の切っ先をー---容赦なく突き刺した。
「グアアアアアアアアッッッッ!!!!!!!!」
「・・・・人間の身体で糸使うの、結構使い勝手良いね。さて・・・・残りのゴブリンは、どういった攻撃方法を試してみようかな」
残った最後のゴブリンへと視線を向ける。
すると彼は戦意を喪失したのか、ガクガクと膝を震わすだけで、その場に呆然と立ち尽くすだけだった。
「・・・・つまんない」
私はその姿にため息を吐き、斧を死体から引き抜く。
そしてそのままゴブリンの顔へ目掛けて、糸が巻き付いた斧を投擲した。
「・・・・何だあの動き、やべーな。下手したらケルベロスよりも速いんじゃないか??」
俺は今まで、焼け焦げたハイゴブリンの死体の山から、アッシェの戦闘の一部始終を観察していた。
糸を自由自在に使い、武器に絡ませ、鎖鎌のように扱うトリッキーな戦闘法。
どんな敵の攻撃も、最小限の動きで回避しきる俊敏性。
俺が見てきた魔物の中で、あんな動きをする奴は今まで一匹もいなかった。
もし、あいつが敵だったら・・・・・その動きに翻弄され、直接的に攻撃魔法や戦技をぶっ放つしか能のない俺じゃ、上手く対処しきれなさそうだ。
味方だったから良かったものの、敵であったら俺とはかなり相性の悪い部類の魔物といえるだろう。
(まるで、雑魚敵相手に無双するチーターみたいな動きだったが・・・・あいつ、確かレベルが1に戻ってるんだったよな・・・・?)
レベル1で、平均ステータス値が1000程度あるハイゴブリンを圧倒する、か。
いったい、眷属化でどのくらいの力を得たんだ?? あいつは??
「確認、してみるか」
【アナライズ】を使って、アッシェのステータス値を確認しようと、彼女へと視線を向けた、その時。
「グガァァァァァァァ!!!!!!」
暗闇の奥底から一匹のハイゴブリンが、こちら目掛けて斧を振り降ろしてきた。
俺はため息を吐きつつ、ハイゴブリンに視線を向け、魔法を唱える。
「はぁ、めんどくせぇ。【エンファイア】」
「グギャガガガガガガーッ!!!!!!」
燃え盛る火球を受けたハイゴブリンはその瞬間、焼け焦げ、地面へと倒れていった。
これで6体目。
アッシェより俺の方を襲ってくる奴が多いのは・・・・やっぱりこの愛らしいカボチャ姿のほうが倒しやすそうに見えるからなのかしらね。
可憐な白髪赤目の女の子よりもモテるとは・・・・可愛いのも罪なものね、もう。
《報告 レベルが16に上がりました》
《基礎ステータス値がアップしました》
《HP3578→3782》
《SP767→796》
《攻撃力2568→2598》
《防御力2543→2583》
《俊敏性3892→3922》
《魔法攻撃力884→901》
《魔法防御力923→954》
《100スキルポイントを獲得しました》
《レベルアップにより習得可能な新たなスキルが解放されました》
《習得可能なスキルは以下の通りです》
《死霊系魔法 【アンデッドパレード】 消費スキルポイント550》
《合計所持スキルポイント 720》
「おぉ、このレベルアップの通知も久々だなぁ!! てか、何か新しい魔法覚えたな。【アンデッドパレード?】 何じゃそりゃ」
《【アンデッドパレード】は、死体を『ゾンビ』に変え、使役することができる魔法スキルです》
「え? 何それ? 【アンデッドドール】と変わらないんじゃ・・・・・待てよ? ゾンビ? 何気に初めて聞く単語だな。そいつはアンデッドとどう違うんだ?」
《『ゾンビ』という魔物は、少し特殊で、【アンデッドドール】で作成することはできず、普通のアンデッドともその性質は大きく異なー----》
「ん?」
《報告 支配下にある アラクネ レベル1 が、ハイゴブリンを三体撃破しました》
《アラクネの二分の一の経験値を獲得いたしました》
《レベルが16から17に上がりました》
《基礎ステータス値がアップしました》
《HP3782→3856》
《SP796→852》
《攻撃力2598→2638》
《防御力2583→2641》
《俊敏性3922→4120》
《魔法攻撃力901→976》
《魔法防御力954→997》
《100スキルポイントを獲得しました》
《習得可能なスキルは以下の通りです》
《死霊系魔法 【アンデッドパレード】 消費スキルポイント550》
《合計所持スキルポイント 820》
「・・・・・おいおい、レベルアップの通知の間が悪すぎるだろ・・・・それで? 【アンデッドパレード】と【アンデッドドール】はどう違ー----」
《報告 眷属 アラクネ のレベルが1→3に上がりました》
《基礎ステータス値がアップしました》
《HP562→750》
《SP422→537》
《攻撃力348→402》
《防御力256→438》
《俊敏性1256→4820》
《魔法攻撃力822→868》
《魔法防御力567→581》
「またまた間が悪い・・・・って、アッシェ、俊敏性の伸びやばすぎない!? ケルベロスの数値奪った俺をもう越えそうな勢いなんだけど!? 何あの子!! 我が眷属ながら末恐ろしいわー」
《・・・・それで、話を戻しますが・・・・【アンデッドパレード】と【アンデッドドール】の違い、でしたよね??》
「あ、はい、そうです・・・・」
《先ほどもお話しました通り、『ゾンビ』というアンデッドは少し特殊で、【アンデッドドール】で作成することはできず、通常のアンデッドともその性質は異なります。『ゾンビ』は、ステータスこそ目立ったものを持たないアンデッドですが、他者に噛みつき、ウィルスを感染させて仲間を増やすことができる、固有の力を持っています》
「他者に噛みついて感染させることができるって、それって・・・・バイ○ハザード?? かゆうまできるってこと??」
だとしたら・・・・色々とやばくねーか? このスキル。
俺がこの世全体界にTウィルス蔓延させるってことだろ?? 要するに。
下手したら、人間たちを全部ゾンビに変えることもできるんじゃねーか・・・・?
ファンタジーの世界からいきなりホラーゲームの世界に変えることができるって・・・・何じゃそりゃ!?
いきなりスキルの能力が壮大になりすぎだろ、おい・・・・。
《そして、【アンデッドパレード】は、多くの種類のアンデッドを精製できる【アンデッドドール】と異なり、『ゾンビ』だけしか作成することができないスキルです。ひとつ、忠告しておきますが、このスキルは使いどころの見極めが肝心です。『ゾンビ』は通常の【アンデッドドール】で作成されたアンデッドと違い、知能があまりありません。なので、誰を攻撃するか、誰を攻撃しないか、という簡単な指示しか受け付けることができないのです。ですから、適宜指示を行っていかないと、ゾンビを作成した後に仲間になった存在を攻撃する、なんていう事態にも陥ってしまう可能性があります》
「・・・・・なるほど。デュラハン・ゴブリンナイトちゃんやガルムたちと違って、こちらの意志を自然と把握する知能がないのか。だから、仲間になったばかりの魔物にも無差別に攻撃する可能性がある、と。何か諸刃の剣っぽいな、このスキルは」
《ですが、大量の敵を一気に始末するにはとても効果的なスキルです。何せ、敵が多ければ多いほど、感染力は上がるわけですからね》
「ふむ・・・・確かに、な」
《このスキルが邪魔になった時は「アンデッドパレード 解除」と唱えれば、即座にゾンビたちを消滅させることも可能です。なので、一度使用してみて、その感覚を掴んでみることを強くお勧め致します》
「そうか・・・・そうだな。確かに、周囲が敵だらけの今の状況では、うってつけの能力か。じゃあ、アナウンスちゃん。その【アンデッドパレード】とかいう魔法、今残ってるスキルポイントを使って習得させてくれや」
《了解いたしました》
《適性確認・・・・成功。スキル【アンデッドパレード】を獲得しました》
その瞬間、頭の中の炎が輝きを放ち、俺の中に新たなスキルが入ってくる感覚があった。
この感覚も、何だか懐かしいな。
とはいっても、最後にスキルを入手したのなんてケルベロスに【リビングデッドコントロール】を使った時の・・・・たった三日前くらい前の出来事なんだろうけどな。
幻惑魔法に長い間囚われていたせいか、時間間隔がおかしくなっているということなのだろうか。
俺はゴブリンの死体の山から下りてふぅっと息を吐く。
その時。戦闘を終えたアッシェがゆっくりとこちらへ近づいて来るのが見えた。
「・・・・・ジャック様。ハイゴブリンの討滅、完了致しました」
「あぁ、見てたぜ。よくやったなアッシェ」
「・・・・・・・・ジャック様の方が多く倒してる。ショックです。主人のお手を煩わせてしまった・・・・」
「いやいや、俺も病み上がりに身体慣らしときたかったからな。戦いたくて戦ったんだ。別にお前が気に病むことじゃねえ」
そう口にして、アッシェに労いの言葉をかけた後、俺は周囲を取り囲む檻へと視線を向ける。
「ジャック様。ここに入ってきたのとは別の入り口があちらにありました。中には階段があったので、察するにあそこを上れば、上階に戻ることができるかと」
「あぁ・・・・そうだな」
「? 牢を見回して、どうかなされたんですか??」
「・・・・新しいスキルも覚えたし、ひとつ、その効果を確かめてみるとしようかと・・・・そう思ってな」
俺はクックックッと嗤い声をあげる。
すると俺のその様子を見たサキュバスたちが、突如、叫び始めた。
「あの者ら、ハイゴブリンを・・・・ハイゴブリンどもを倒したぞ!!」
「ゴブリンを倒したということは貴方、第五階層支配者たちと敵対しているんでしょ!? だったらその壁にかかっている鍵を使って私たちをこの檻から出して!!」
「レニフォルミス様、ついに救いが、救いの手がやってきましたよ!!」
「あぁ・・・・そうだな。長年苦しんだ私たちの地獄もここで終わり、か。これでやっと、我が息子、ウトリクラリアに再会できる」
何故か、歓喜の涙を流し始めるサキュバスたち。
俺はその光景に思わず、首を傾げてしまう。
「おいおい待て待て。何でてめぇらを、俺が助けなきゃならねぇ??」
「・・・・・・・・は?」
「よく見ろ。俺はアンデッドだ。そして、てめぇらはサキュバス。それで何で・・・・同じ種族でも仲間でもないお前らを、俺が助ける?? メリットも何もねーだろ?? 違うか??」
「ま、待て!! 私たちはここで何年もゴブリンどもに犯され、インプを産まされてきたんだ!! だからここは情けをかけて頼む!! 必ず礼はする!! 私たちを助け----」
「なぁ、ひとつ聞くが・・・・・てめぇらは、憎くないのか? 自分たちを理不尽な地獄に突き落とした奴らのことを」
「・・・・・・突然、何を、言っている・・・・?」
「この不条理な現実を強いてきた連中が憎くないかと聞いている」
「憎いに・・・・憎いに決まっているだろう!!!! 私たちが何百年、ここでモノのように扱われ苦しみを強いられてきたことか!!!!」
「そ、そうだ!! その通りだ!! 憎いに決まっている!!!!」
「当たり前のことを聞くなアンデッド!!!! このすえた臭いのする冷たい牢獄で何百年も犯され続けてきた我らの憎悪・・・・それを愚弄する気なら許さんぞ!!!!」
「クックックッ、良いじゃねえか。何百年も蓄積されたその憎悪。それが晴らされる時を想像するとたまんねぇなぁ」
「・・・・・・お前は・・・・・お前はいったい何なんだ? さっきから何が言いたい・・・・?」
「その憎悪を、復讐を叶える場を俺が整えてやるって言ってんだ。ゾンビになって、お前らが産んできたインプどもを、お前らを地獄に突き落とした悪意を、全て喰らって来い。アッシェ、鍵を」
「はい」
そして俺は牢をひとつひとつ周り、サキュバスの息の根を止めた後、全ての者を【アンデッドパレード】で血肉を求める悪鬼、ゾンビへと転化させていった。
「ゲギャギャギャギャ・・・・(まったく、酷い目にあったぜ・・・・)」
一匹のインプが、頭にできたたんこぶを摩りながら、塒へと戻る。
するとそのインプが塒に戻ったのと同時に、頭上から彼の仲間である10数体のインプの群れが、バサバサと羽音を立てて塒へと降り立ってきた。
「ゲギャグギャアガ? (ん? みんな、どっかに行ってたのか? てか何か人数少なくね?)」
「グギャグガッググガ (ムレア様の命令でな。新たに捕えたという夢魔族たちの見張り番が足りないからと、南の穴倉に向かったんだ。けれど・・・・あそこはここと違って狭いからな。こんな数は必要ないと、半数近くが帰ることとなった)」
「グギャガ、グガガ、ルグガグガガ (へぇ~、そりゃご苦労だったな。俺は人間たちの収容所で一匹の雌に不意打ちくらっちまってよぉ~。今まで気絶してたんだわ)」
「グガ? ギガグガルガガ?? (不意打ち? おいおいまさかその人間、逃がしたんじゃないだろうな??)」
「グガガガ、グギャギャア。グガガガガールガヌ (大丈夫大丈夫。シアナ様が再度捕えてくれたよ。いやー、このミスが発覚したのがムレア様だったらやばかったぜ! 罰を与えるのも面倒くさいと言う、ものぐさなシアナ様で本当助かったぁ)」
「グガガ、ヌガガ (てか、お前がここに戻ったら、また収容所の看守がいなくなるんじゃ・・・・って、あぁ、そうか。もう交代の時間なのか)」
「グガルガ、ギャガギャ (そういうこと。次の看守当番の奴、代わりに行ってくれー)」
「グガガル ヌガ・・・ウガルガギガガ・・・・・グガ! (次は、ってぇと、グギが南の穴倉に派兵されたから・・・・その次の次は、って、俺か!)」
「グガーグ (お勤め頑張って来いよー)」
「グガルガ・・・・(畜生、ついてねー)」
そう言って、群れから離れた一匹のインプは、収容所へと続く横穴へと向かって行った。
だが・・・・その途中。
見張り番を交代したインプは、横穴の前で静かに足を止めた。
「グガ? (どうした?)」
「グガガ・・・ガ (いや、あれ、なんだ?)」
暗い道の先。
そこに佇む、くたびれた布の服を着たひとりの女性。
彼女のお腹はまるく膨れ上がっており、背中にはボロボロになった翼が生えている。
そして伸び放題のボサボサの髪の毛は油でテカり、何年も水浴びをしていなであろう身体は茶色く変色していた。
その様相から見て、どうやら地下の繁殖場で捕えていたサキュバスのようであった。
インプはその光景に大きくため息を吐く。
「グギグガグガガ・・・・ (また脱走者かよ。地下のハイゴブリンたちはいったい何やってんだ??)」
そう口にし、インプはサキュバスを捕えて再び地下に幽閉しようと、彼女に近づく。
だがー----その時。
「キィアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッ!!!!!!!!」
サキュバスは怖気立つような金切り声を上げると、インプの顔面を掴み、持ち上げ、そのまま彼の顔を・・・・食いちぎった。
「グガ・・・・? (は・・・・?)」
その異様な光景に、仲間たちは目を丸くして固まる。
むしゃむしゃと、インプの眼球を、鼻を、頬を、咀嚼して喰べていくサキュバス。
そして、一通り顔の肉を食べつくすと、サキュバスは血に濡れた顔を上げる。
その瞳は白く濁り、皮膚は所々裂け、口元にはインプの肉片と血がべっとりくっついていた。
「グガ、ガガ・・・・? (なん・・・なんだ、あれは?)」
インプたちは得体の知れないその存在に、ただ茫然とし、立ち尽くす。
「あぁ・・・・うぁ・・・・・」
「ああああぁぁ・・・・」
「あああうあうあうあうあううあうあうああ・・・・・」
そんな彼らの目に入ってきたのは、サキュバスの背後から現れる、同じ様相をした怪物たち。
人族、森妖精族、鉱山族、獣人族、そしてサキュバスたちから連なるゾンビの群れだった。




