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第7章 絶望の再演  ④


 翌日から桜野さんへのいじめは加速していった。


 朝登校してきた彼女は上履きも履かず靴下のままで席に着き、それを遠巻きに笑う女子生徒たちの姿が目に入ってくる。


 事情を察した俺は、すぐさま職員室へ替えの上履きを借りてきて、彼女へと手渡した。


 ひとまずその場の難事は乗り越えることはできたが・・・・その後も彼女への嫌がらせが終わることは無かった。


 授業中、桜野さんの背中目掛けて丸めた紙屑を投げられることなどもあったし、掃除の時間、彼女の席だけ片づけられない、なんてこともあった。


 その度に、クスクスと笑いながら困った桜野さんの姿を見つめる古東さんたちの姿が視界の端でチラついてくる。


 これは・・・・かなり陰湿な行いだろう。


 もう一度昨日撮った写真を元に、いじめをやめるよう彼女たちに訴えてみるべきだろうか。


 それとも、桜野さんが古東さんの彼氏に手を出した、なんて根も葉もない噂の方を払拭させた方が怨恨もなくすんなりとこの事象を治められるのだろうか・・・・。


 うーんと、首をひねりながら帰りのホームルームを過ごす。


「・・・・えー、そんじゃま、連絡事項は終わりってことで。以上、解散」


 担任教師が気だるげな表情でそうホームルームの終わりを告げる。


 その瞬間、皆、部活や帰路に赴くために、一斉に鞄へと手をかけ始めた。


 (そうだ。担任教師に、この件を相談するのも手ではある、か・・・・けれど・・・・・・・)


 チラリと、大きく欠伸をする担任へ視線を向けてみる。


 (とはいっても、このやる気のない担任がいじめの解決に力を注いでくれるのかは懐疑的ではあるな・・・・)


 勝手な憶測だが、この教師に言っても単なる注意だけで終わる、なんて可能性が高い気がする。


 いじめはやめよう。


 そう大人が注意しただけで、いじめという行為が治まるはずがない。


 むしろ注意だけですませた場合、教師にチクったとかでますます嫌がらせに拍車がかかってもおかしくはないといえる。


 生徒にあまり関心の無いこの教師はそういった悪手を踏む可能性が極めて高いので、担任にこの件を相談するのはできる限りやめておいた方が得策だろう。

 

 ならば、他の教師に相談ー----しても、自クラスでもない生徒にそこまで躍起になって動いてくれる教師など、そもそもこの学校にはいないな。


 どの教師も、担任に相談しろ、の一言で終わりそうだ。


(まぁ・・・・・当面は教師の力は使わない方向で考えるとして・・・・それでも大人の介入は最終手段として頭の隅に置いておくとするか)


 次に、俺は教室全体を見渡す。


 古東さんたちグループの五人・・・・昨日桜野さんをいじめていた連中は抜きにして、桜野さんを庇ってくれそうなクラスメイトを探してみる。


 (よく勉強を教えてあげている国崎くんなら、俺の言葉に耳を貸してくれるかな。あと、俺と話をする機会が多いのは・・・相模さんくらいか・・・・)


 いじめを抑制させるならば、あの古東さんたちのグループのように、こちらも派閥を作ってしまえば良い。


 孤立しているからこそ、いじめを行う隙・・・・というか、攻撃しやすさが出てきてしまうのだと思う。


 まぁ、とはいっても俺も友人はあまり多い方ではないので、せいぜいこちら側に引き込めそうなのは1人、2人くらいのものなのだが。


 だがしかし、俺以外誰も味方がいないという状況よりは遥かにマシだろう。


 俺は隣の席で帰り支度を進める桜野さんをチラリと見た後、国崎くんと相模さんを呼び止め、自分の席へと呼ぶ。


「何だ? どうしたんだ秋月?」


「どうしたのー?」


 二人が不思議そうな顔をして、俺の元へと近づいてくる。


 そんなこちらの様子を、教室の端から古東さんがジッと見つめている姿があった。


 (ここじゃ・・・・あまり良くないかな)


 いじめを行っている当の本人に、敵対するグループを作っているところを知られるのはあまり良い状況とは言えないだろう。


 二人には場所を変えて、改めて桜野さんの味方になってくれるように頼んだ方が良いな。


 俺は二人に、放課後、どこかファミレスに寄らないかと聞いてみる。


 国崎くんは陸上部で、相模さんは吹奏楽部に所属している部活組のため、俺の委員仕事が終える時間と帰るタイミングが重なることが多い。


 そのため、こうして一緒に帰る約束することは珍しくもなかったので、彼らはすんなりと俺の誘いにOKしてくれた。


「帰りにファミレス? 勿論構わないけど・・・・秋月くんの驕り?」


「マジで!? だったら何食おうかな~」


「誰も奢るなんて言ってないけど・・・・まぁ、相談事もあるし、良いよ。ただし千円以下ね」


「やった! お父さんに夕飯いらないって連絡しとこ~」


 そう言ってニコニコと微笑みながらスマホを打つ相模さんにため息を吐きながら、俺は背後へと視線を向ける。


 そこには席を立って、今にも帰ろうとしている桜野さんの姿があった。


「今の話、聞いてたよね? 桜野さんも一緒にどうかな?」


「・・・・・・・は?」


 困惑気味に眉をひそめる桜野さん。


 俺は彼女へと近づき、耳元で小さく囁いた。


「・・・・・昨日、それと今日の件。あれを解決させたい」


 そう言うと、彼女はますます怪訝そうな顔を見せる。


「意味不明。私助けたって、秋月に何か得でもあるの?」


「勿論あるよ。将来教師になった時、いじめ問題への解決方法を知っておくには良い経験になるんじゃないかな。実験的な意味合いでは、君に申し訳なく感じるけどね」


 その言葉に、桜野さんは目をパチクリとさせて驚いた後、どこか可笑しそうに笑みを浮かべた。


「・・・・あんた、お人好しそうな顔して意外に計算高いというかなんというか・・・・けっこう打算的だよね」


「そりゃそうだよ。内申書に良い結果残せないんだったら、あんなクラス委員なんて仕事してないって。それは先日、君も言っていたことだろ?」


「まっ、それもそうだね」


 そうして俺は再び二人へと振り返り、桜野さんも同行する旨を伝える。


 彼女も同行することに二人とも顔を見合わせて不思議そうな表情をしていたが、快く受け入れてくれていた。


「そんじゃ、部活終わったら校門の前で待ってるから」


「またね桜野さん、秋月くん」


 そう言うと、二人は教室から出ていく。


 いつの間にか辺りにはすっかり人がいなくなり、クラスは静寂に包まれていた。


 そこで俺たちは、何となく口を閉じたまま見つめ合い、その場に静かに立ち尽くす。


「ええっと・・・・桜野さんは待ち合わせまでどうする? 俺は今から委員の仕事してくるけど」


 沈黙に耐え切れず、そう彼女に問いを投げると、桜野さんは鞄を机の上に置いて口を開いた。


「だったらあんたのその委員の仕事でも手伝おうかな。私、今ギターないし。どうせ部活にも出れないから・・・・」


「あっ、そっか・・・・そうだよね。ごめん」


「いいや、別に秋月が謝ることじゃないって。昨日、私のギターを壊したあいつらが、悪い、から・・・・・」


 突如ガタッと転んで、膝をついて俯く桜野さん。


 俺は驚きながらも急いで彼女の元に近寄り、その肩を掴んだ。


「ど、どうしたの桜野さん!?」


「あっ、いや・・・・昨日のこと思い出して、つい、ね・・・・・」


 彼女の身体は小刻みに揺れ、涙こそ出てはいないものの瞳は赤く染まっている。


 桜野さんは明らかに、昨日の出来事、それと今日一日の出来事に恐怖していた。


「ご、ごめん、私、こう見えて実はすごく・・・・臆病でね。ああいうの、結構メンタルに来てたんだ・・・・」


「それは、仕方ないよ。あんなに他人から敵意向けられるなんてこと、普通あることじゃないから」


「ご、ごめん、本当ごめん」


 震える肩をしっかりと支える。


 彼女は見た目だけで言えばかなり気の強そうな印象を受けるが、その外見とは裏腹に、かなり人が苦手そうな様子だった。


 あまり人付き合いも好まない性格をしているから、こうして複数の人間に悪意を振りまかれるのに慣れてはいないのかもしれない。


 いや・・・・あんな嫌がらせは、誰であっても慣れることなどない、か。


 俺だって一日中あんないじめ行為を続けられたら、鬱屈になるというもの。


 それに、いじめた側が彼女に対する認識を変えない限り、これからもああいうことは続いていくのだろう。


 まさに、地獄ともいえる状況だ。


 だからこそ早く、この状況から彼女を助けてあげたかった。


「・・・・・桜野さん。俺、絶対、何とかするから」


「な、何とかって・・・・・どうやって?」


「それは・・・・俺を信じて、としか言えないかな」

 

 そう言うと、彼女は濡れた瞳をまっすぐと俺へ向けてくる。


 そしてニッコリと、俺に向けて懸命にぎこちない笑みを浮かべてきた。


「・・・・・信じるよ。秋月は私にとってヒーローだから」


「ヒーロー? って、ちょ!? 桜野さん!?」


 そう口にした後、彼女は俺の背中に腕を回して、ギュッと抱きついてくる。


 急なその行動に慌てふためく俺を他所に、桜野さんはクスリと笑った。


「私ね、幼少のころ、父親に虐待されてたんだ」


「え・・・・・?」


「その影響で、私、必要以上に他人を怖がるようになっちゃってたんだ。だから常に不愛想で、周囲との壁をあえて作ってた。バカだよね、世の中、全員が全員悪人ってわけじゃないのに」


「・・・・そっか」


「うん。でも、あんたはそんな私の壁なんて気にもせずに話しかけてきた。隣の席だからって必要以上に私に干渉してきた」


「うぐっ、そ、それは・・・・ごめん」


「謝らないでよ。確かに最初は本当にうざったいな、とは思ったけど、あんたはいつしか私が唯一まともに会話ができる相手になってたんだ。あんたのおかげで、私は人と付き合うことに希望を見出せた。本当、感謝してる」


「・・・・それで、俺が、ヒーロー? なの?」


 そう問いを投げると、彼女は俺に顔を向けていたずらっぽく笑みを浮かべる。


「そう。秋月は傍にいるだけで安心できるヒーロー。そして私はあんたのそういうところがー----」


「桜野、ここにいるのか? って、あぁ?」


 教室の扉を乱暴に開けて入ってきた男ー---恐らく上級生の生徒は、抱き合う俺たちを見て怪訝そうな顔を浮かべる。


 その上級生の顔を見た瞬間、桜野さんは咄嗟に立ち上がり、俺から離れた。


新篠(にいしの)先輩・・・・」


「へぇ? 俺をフッたのは彼氏がいたからなのか? それも部活サボッて学校で乳繰り合ってるとは・・・・中々なもんじゃねえか、桜野」


「そんなんじゃ、ありません・・・・それよりも、私に何か用があるんじゃないでしょうか?」


「あぁ? 部活に呼びに来たに決まってんだろ。さっさと準備して、行くぞ」


「あ、あの、ギターが壊れて部活には参加できないと今朝部長に報告したのですが・・・・」


「だからってサボる理由にはならねえだろ? 他の部員の音聞いて勉強でもしてろ」


「・・・・・はい」


 そう言って暗い表情のまま、彼女は机の上の鞄を手に取ると、新篠と呼ばれた先輩についていく。


「あの、ちょっと待ってください」


 どこか怯えた表情をしている彼女を見てられなかったのもあったが、まず、俺はこの先輩に聞いておかなければならないことがあった。


 なぜなら、先ほどの会話を聞くに、彼はー---。


「なんだ?」


「ひとつお尋ねしますが、新篠先輩はうちのクラスの古東さんとお付き合いをしているんですよね?」


「あぁ、そうだが?」


「今、うちのクラスでは桜野さんが古東さんの彼氏を誘惑したというあらぬ噂が流れているんです。何か心当たりは無いでしょうか?」


「ハッ、てめぇ・・・・俺がフラれた腹いせにその噂を流した、とでも言いてぇのか??」


「いえ、違います。ですが状況的に見て、先輩がこの件に何らかの関わりがあるんじゃないかとー---ぐっ!!!!」


 話している最中に猛スピードで俺の前に向かってくると、新篠先輩は胸倉を掴み、容易に俺の体を上空へと持ち上げた。


「秋月!?」


「てめぇ、そんなヒョロい形してよくそんな生意気な口を俺に聞けたな?」


「うぐっ、せ、先輩を怒らせたのなら謝ります。ですがー---」


 乱暴に地面へと落とされる。


 その瞬間、カハッと、せき止められていた空気が喉の奥から吐き出された。


 そんな、ゼェゼェと息を乱し膝をつく俺を、新篠先輩は眉間に皺を寄せて睨む。


「んな噂、俺には関係ない。だけどな、火のない所に煙は立たない、とでも言うだろ? もしかしたらその女が他の所でそういったトラブルを起こしているとも限らないよな??」


 こいつ・・・・・!!!!!


 間違いない、あの噂を流したのはこいつだ。


 でなければ、単なる噂だけでここまで過剰な反応を俺に対して示すものか。


「秋月、大丈ー--」


「おら、いくぞ桜野」


「・・・・はい」


 俺へ駆け寄ろうとした桜野さんを睨みだけで止め、新篠先輩は教室を後にする。


 その後、彼女は俺へ申し訳なさそうな視線を向けながら、一緒に教室を後にしていった。


「・・・・・ふぅ。これからどうするべきか、な」


 机を背にして、大きく息を吐く。


 このいじめの発端、それはあの様子を見る限りやはりあの先輩と見て良さそうだ。


 あらぬ噂を新篠先輩が流し、古東さんがその噂に翻弄されて桜野さんにいやがらせを行っている。


 この一連の流れを、果たしてどうすれば終結に導けるのか。


 俺はこれからその方法を、無い頭を絞って探していかなければならない。


「うーむ・・・・・とりあえず・・・・あの二人に相談してみようかな」


 先ほど、一緒にファミレスへ行くと約束した国崎くんと相模さん。


 まずは彼らにこの問題をどうするべきか聞く方が良さそうだ。


 俺は立ち上がり、早々にクラス委員の仕事を切り上げるべく、机の引き出しから日誌を取り出した。








《アッシェ視点》



「ミュミュミュ・・・・・」


 階層支配者とは反対側の穴に入ったインプについていくと、そこには多種多様な種族の人間たちが、壁を背に鎖に繋がれている姿があった。


 皆、一様に目をつぶっているが、悪夢にでもうなされているのか顔を恐怖にひきつらせて唸り声を上げている。


 円形状に広がった部屋の壁のすべてに人間が並べられ鎖で繋がれているその光景は、魔物の身であっても些か不気味なものが感じられた。


 「ギィア・・・・・」


 インプは欠伸をしながらその部屋に入ると、壁に繋がれている人間を一匹一匹数え始める。


 あの第五階層支配者らしき魔物は、穴倉の看守、と言っていた。


 とすればこの人間たちを管理している存在が、このインプ、ということなのか。


 何のためにこんな数の人間を眠らせて地下で管理しているのかは分からないが・・・・いや、魔物が人間を捉える理由など、決まっているか。


 十中八九自分たちの餌のため、なのだろう。


 私はそう推察すると、ゆっくりと部屋の中に忍び入る。


 この部屋は天井が吹き抜けになっているためか、さっきのインプたちの塒に比べれば視界が良好だった。


 とはいっても地上とここではかなりの高低差があるためか、上から漏れてくる光は些細なものだったが。


 私は前を歩くインプに気づかれないように地面を静かに這いながら、インプと同じようにひとりひとり繋がれている人間の顔を見ていく。


(人族(ヒューム)森妖精族(エルフ)鉱山族(ドワーフ)獣人族(ガウルフ)・・・・本当、多種多様な種類の人間。こんな数、迷宮に探索に来た冒険者の数じゃ賄いきれないのは確実。これは、外から攫ってきたとみて良さそう・・・・ん?)


 私は立ち止り、一人の若い人族(ヒューム)の雌の顔に目を向ける。


 金髪の髪に真っ白な修道服。


 どこかでみたことのあるその様相。

 

 この人間どこで見たのか、喉の奥まででかかっているのだが・・・・・どうにも人間の顔は覚えづらいため、中々思い出せない。


(確か、つい最近、一瞬だけこの人間をどこかで見た気が・・・・・あっ!)


 ふいに、ジャック様がお母さまと対峙していたときに一緒にいた人間だと思い出す。


 先ほどのスカルゴブリン同様、この人間の雌はジャック様の当初の配下だったものだ。


 人間という存在は多種の魔物以上に嫌悪が拭えない存在だが・・・・・ジャック様の配下でいる以上、助けた方が良いのだろうか。


 スカルゴブリンの氷と違って、この人間を縛っている手足の鎖は、私の【ストーン・バレット】でも破壊するのは造作もないもの。


 問題としては・・・・この鎖を破壊するには確実に大きな音が立つため、間違いなく看守のインプに気づかれてしまう点か。


(うーん、ジャック様を助けるまで敵に私の存在を感知されるリスクは極力避けたいし・・・・それにこの人間は寝てるから、開放しても戦力的な意味ではあまり意味はない、かな)


 私は金髪の人間の雌をスルーすることを決める。


(ジャック様はあのフォルムだし、人間の中にいたらすぐ気づきそうなものだけど・・・・・)


 しかし、どこを見てもいるのは人間ばかりで、ジャック様のあの愛らしい丸いフォルムはどこにも見当たらない。


 その光景に思わず落胆のため息を吐いてしまう。


「グガァ」


(ゲッ)


 いつの間にか部屋の端まで行っていたのか、Uターンしてインプがこちらに戻ってこようとしていた。


 私は咄嗟に近くにいた鎖に繋がれた人間ー---ジャック様の配下であった金髪の人間の雌の影に入り、向かってくるインプをやり過ごそうと隠れる。


 だが、地面に置かれていた鎖の束に足を引っかけてしまい、ジャラリと盛大に音を立ててしまった。


「ゲギャッ!!!!!!???????」


 その音に即座に反応を示し、こちらに駆け寄ってくるインプ。


 私は自分のミスに内心舌打ちしながらも、向かってくる敵を討つべく、【ストーン・バレッド】を展開し、目の前に鋭利な小石の破片を浮かべる。


 そして金髪の女の影に隠れ、敵が確実に近づいてくる距離まで息をひそめた。


(まだ、まだ遠い・・・・ジャック様はこうやって確実に仕留められる距離を測って、私の兄弟のデス・スパイダーと対峙していた。だから私も・・・・)


 物凄い勢いでこちらに向かってくるインプ。


 だが、武器も持たず、ただ翼をはためかせながらこちらに突進してくるだけ。


 あまり武器を好んで使う様子がないことから、何らかの魔法スキルのある魔物なのだとみられるがー---現状、私にとってそれは効果の見られない代物。


 同属の兄弟たちや物理攻撃力と俊敏性に特化した黒狼族に比べたら、恐るるに、値しない。


(もうすぐ、もうすぐ・・・・・・・今だ!!)


 こちらの射程範囲に入ったので、前へ躍り出て、石片を射出しようとしたー-----その時だった。


「ー------【ホーリー・ライト】!!!!!!!!!!!!!!」


 突如後方からまばゆい光の球が射出され、辺りを強烈に照らし始める。

 

 暗闇の中に現れた光の球。


 それは、暗闇の中を塒とする存在・・・・インプの視界を焼き尽くすのには、十分な光量だった。


「ミュ、ミュ~!?!?」


 勿論、この洞窟に入ってからしばらく経った私の眼にも同様、その光は強烈なものに違いない。


 だが、インプたちのように暗視に慣れた目ではないため、私の眼はその光には幾分か対応が追い付いていた。


「えい!!!!!!!!」


 突如、後ろで鎖に繋がれていた女が立ち上がると、横にあった石を拾い、それを目の前のインプの頭に向かって振り下ろす。


 通常の魔物だったら、そのような粗末な攻撃では全くダメージは負わないのだろうが・・・・インプはその石の打撃を受けると、あっけなくその場で崩れ落ちた。


 私は目の前で起こったその状況に理解が追い付かず、思わず目を白黒とさせてしまう。


「ぜえぜえ・・・・や、やりました、何とか看守を倒すことができました!! ・・・・ん?」


 ちらりと眼下を見下ろした金髪の女と目が合う。


 その瞬間、女は顔を青ざめ、おびえた様子で壁に背中を付けた。


「デ、デデデデデデ、デス・スパイダー!?!?!?」


 その叫び声は、部屋の中にぐわんぐわんと轟いていった。

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