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第7章 絶望の再演 ②


「あ、秋月くんおはよう~!」


「おはよう、相模さん」


「あっ! 秋月良いところに! 悪いけど数学の宿題、教えてくんね? この問いAがどうしても分からなくてよ~」


「良いよ。ノート出すから待ってて」


「悪い、ありがとな!」


 翌日。

 

 学校に登校すると、そこに広がっていたのはいつもの日常の風景だった。


 ホームルームが始まるまで皆、各々の友人と楽し気に雑談を繰り広げている。


 俺も現在、このクラスで比較的仲の良い二人ー---相模さんと世間話をし、国崎くんに勉強を教えながら、朝の憩いの時間を穏やかに過ごしていた。


「ー----という感じで、この問題はこういうふうに解くと良いよ。あと、ここ、ケアレスミスしやすいから気を付けてね」


「おぉ、なるほどな! やっぱお前教えるの上手いよな~!! サンキュ!! 助かったわ!!」


「秋月くんって本当優しいよね。国崎くんの勉強の面倒まで見ちゃってさ。本当、感謝しなさいよ国崎くん~」


「うるせーぞ、相模! お前だってこの前秋月に勉強教えてもらってただろ!!」


「ぎくっ!! く、国崎くんみたいにほぼ毎朝教えてもらったりはしてないよ?? だから多分、君よりは迷惑はかけてないよ?」


「お前な~」


「・・・・っと、時間だ。二人とも、もうすぐホームルームだから席に戻って」


 丁度、国崎くんに勉強を教え終わったところでキンコンカンコンとチャイムの音が鳴り始める。


 その音を聞いた国崎くんと相模さんは「やべっ」「やばっ」と口にし、慌てて自分の席に戻っていった。


 俺はそんな彼らの姿を見送りながらふぅっと息を吐き、なんとなく隣の席へと視線を向けてみる。


「・・・・・・・・・・・・・・・・」


 その席の主はまだ出席してはおらず、机の上には筆箱すらも置かれていなかった。


「まぁ、いつものことか」


 彼女が学校に遅れて来るのは毎度のことであった。


 ホームルーム前に席に着いているということはまず見たことはなく、酷いときには昼休みに登校してくることもあるくらいだ。


 そんな桜野さんを、不良少女と揶揄する教師も少なくはない。


 彼女は基本的に誰に対しても不愛想で、友人がいる様子もあまり感じられないので、クラスでは浮いた存在であった。


 授業中はギターのピックをいじりながらボーッとしているか、ふて寝しているかのどちらかだけ。


 だが、そんな不真面目な態度であるにも関わらず、成績は平均より少し上という、不思議と地頭は良い方だった。


 授業に出てなくてもある程度点数が取れるというのは、典型的な教師に嫌われる生徒の姿そのものであろう。


 なので、いつも遅れてくる彼女を担任教師は廊下に立たせて延々と叱るのが日常の光景になっていた。


 今日も、彼女はこってりと教師に絞られてしまうに違いない。


 そして、クラス委員として監督できていない俺の責任でもあるとして、自分も一緒に怒られてしまうのだろう。


 まぁ、いつものことだから別に良いのだけれど。


 でも、少しくらい彼女も朝のホームルームに出るようになってくれると良いんだけどなぁ。


 そう、これからのことを予想して深くため息を吐いていた・・・・その時。


「あれ?」


 チャイムが鳴り終わってすぐのこと。


 桜野さんはギターを肩にかけながら、いつもの気だるげな表情をして教室の中に入ってきた。


 このクラスになって初めてまともに朝のホームルームに間に合った桜野さんを、皆、珍獣を見るかのような目で見つめる。


 そんな視線を煩わしそうに感じながら、彼女は机の横のフックにギターケースをかけると、ドカッと勢いよく席へと座った。


 「・・・・おはよ」


 頬杖を突きながらこちらに顔を向けずに、彼女はそう俺に挨拶をしてくる。


 「あ、あぁ、うん、おはよう?」


 俺がそう困惑気味に彼女へ挨拶を返すと、桜野さんはチラリとこちらに視線だけを向けてきた。


「・・・・相変わらずの能天気な顔」


 そう言ってぷいっと、彼女はそっぽを向く。


「でも・・・・今日はその顔見れて良かった」


 そしてそう小さく言い残すと、彼女は腕に顔を伏せ、伏て寝し始めた。


 一瞬だけ見た彼女のその瞳は、泣きはらしたかのように真っ赤に濡れているように見えたのだが・・・・何かあったのだろうか。


「・・・・どうしたの? いつもと様子が違う感じだけど・・・・?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 返事はない。


 結局、その日は放課後になるまで彼女が頭を上げることはなかった。








 第四階層 『飢餓の堅牢』 岩山の居城。


 城の最上階にあるバルコニーから崖下を見下ろしながら、ルーナは小さくため息を吐く。


 「ジャック様のいない間に、ずいぶんと勝手なことをしてくれますね」


 見下ろす先には背の低い、緑色の肌の人影が複数。


 そう、あれはー---ゴブリンだ。


 ジャック様がこの第五階層に向かわれてから2日後、奴らは突如、この階層に姿を見せてきた。


 何故、第二階層に住まう小鬼族(ゴブリン)たちがこの第四階層にまで姿を見せているのかは分からないが・・・・十中八九、これは小鬼族(ゴブリン)の長であるゴブリン・ロードの仕業とみて間違いないだろう。


 この城へ向かってくるゴブリンたちを見つめながら、私は眉間に手を当てて、やれやれと頭を振る。


「はぁ。大階段を監視している東の村の連中からは何も連絡が無いところをみるに・・・・・奴らがここまでこれたのは例のあの大穴を通ってきたとみて良いのでしょうね」


 いくら悪知恵の回る小鬼族(ゴブリン)といえども、四方八方村に囲まれているこの城を正面から歩いて辿り着くには、黒狼族(フェンリル)との戦闘を避けることはまず不可能な話だ。


 それなのに、各村々の黒狼族(フェンリル)から何も連絡が来ていない。

 

 その状況から察するに・・・・奴らはあのタナトスが空けたとされる大穴から通ってきた、もしくは最短で村の中に入れるこちらが把握していない別の穴を通ってきたと推測するのが正解か。


「・・・・見たところ、数は・・・・20数匹、といったところですか。この程度の数で第四階層を制圧しにきた、流石にそんな馬鹿なことを考えるわけはないでしょうし・・・・これは単なるこちらに対する牽制、威嚇行為、という線が妥当でしょうね」


 ゾロゾロと列を成して城の中に入ってくる小鬼族(ゴブリン)たち。


 私はその姿を真顔で見つめながら、背後にいるヴァイスに声をかける。


「ヴァイス元近衛隊長。一応、奴らの動向を見てきてくれないかしら」


「了解致しました」


 そう言って、ヴァイスは城へと戻っていく。


 まぁ、彼ら(・・・)のことだからゴブリン程度に遅れを取るなんてことはないと思うのだけれど・・・・・・奴らがこのジャック様の居城で何をしでかすか分かったものじゃないですからね。


 魔法によってトラップを仕掛ける可能性もあるでしょうし・・・・一応、保険を打っておいて損はないでしょう。


「さて・・・・・」


 ヴァイスを見送った後、私はバルコニーからキョロキョロと崖下を確認し始める。


「・・・・ゴブリン・ロードがどれほどの智者かは分からないけれど・・・・・私だったら捨て駒を使う場合、何らかの情報を得るために監視の目を後ろに付けておきますね・・・・っと、あぁ、やっぱり。見つけました」


 居城近くの岩陰。


 そこに、小さな幼いゴブリンの姿があった。


 そのゴブリンの頭上には、透明の渦潮のような歪みが発生しており、何らかの遠隔透視魔法が使用されていることが伺える。


 その姿を確認した私は人差し指を持ち上げ、ニコリと柔和な笑みを浮かべた。


「敵に下手な情報を漏らさないためにも、早々に盗み見は止めなければ。ー---【レイス】」


 私はそのゴブリンに向かって、空を切り裂くかのように指先を一閃、真横に振る。


 するとその瞬間、低位疾風魔法の【レイス】が無詠唱で発動され、風で造られた刃が遠くにいるゴブリンに向かって放たれる。


「キシャッ!?」


 驚いたゴブリンは咄嗟に回避の行動を取ろうとするが、時すでに遅し。


 発動から攻撃までが最も早いとされる疾風魔法は、すでにゴブリンの目と鼻の先にまで迫っていた。


「グャァァァァァァァァァァッッッッ!!!!!!!」

 

 魔法が標的に着弾した瞬間、半透明の風の刃はゴブリンの胴体を真っ二つに両断し、赤黒い臓物を辺りにまき散らせる。


 それと同時に、ゴブリンの頭上に浮かんでいた渦潮のような歪みは瞬く間に消え去っていった。


 その光景を見届けた私は、ふぅと、短く息を吐く。


「まったく、面倒なことをしてくれますね・・・・・・」


 そう呟いたのと同時に、城の入り口から切断されたゴブリンの頭部がポイポイと投げ捨てられていくのが見えた。


 城の中にいるデュラハン・ゴブリンナイトが、先ほど入って行ったゴブリンたちを撃退したのであろう。


 ちゃんと首だけを跳ねていることを見るに、ジャック様の貢ぎ物として奴らを処しているという意図が明確に把握できる。


 頭がないというのに、このデュラハン・ゴブリンナイトというアンデッドはどうやら中々に知恵のある魔物のようだ。


 即座にジャック様の利になる判断をし、常に彼のお方のためになるように動いている。


 正直、その在り方は尊敬に値するものだろう。


 彼のお方の忠実なる僕として、デュラハン・ゴブリンナイトたちの行動は私もちゃんと見習わなくてはなりませんね。


「彼らはジャック様が手自らに生み出された存在だけあってちゃんと理解していますね。そう、ジャック様に忠誠を誓うのが正しい魔物の姿です。その信仰の姿が当然のように身についている。とても素晴らしいことです。・・・・・・それなのに、連中ときたら・・・・」


 先日、城に来た能無しの元大臣たちの発言を思い出し、思わず舌打ちをしてしまう。


「何が、『あのアンデッドよりもルーナ様こそが第四階層支配者に相応しいお方』、よ。今まで散々半魔だとバカにしてきたくせに・・・・・・それに、あのお方に対する不敬な態度・・・・許してはおけない」


 血統主義という古い考えに囚われ、未だにジャック様に反抗的な考えを持っている老害の黒狼族(フェンリル)たちには、本当に呆れ果てるばかりだ。


 まっ、奴らも彼のお方に攻撃するなんて無謀なことはできはしないのだろうけど。


 力も持たず、見えないところで吠えることしかできない負け犬には何もできはしまい。


 たとえ何かできたところで、ジャック様の目に不快なものが入らないように、秘密裏に私が処分するだけなのですけどね。


 直接的な行動に出ない間はジャック様のご慈悲に従い、ちゃんと生かしておいてあげます。


「あぁ・・・・ジャック様、今頃、どうしているのでしょうか」


 早く、早く、第五階層から帰ってきて欲しい。


 また私にあの愛らしいお体を抱きしめさせてほしい。


 またあのお顔を間近で見つめさせてほしい。


 私たちはこの世に二人しかいない、魔物でも人間でもないツガイの種族。


 何者にも、私たちの邪魔はできはしないだろう。


 ほぉっと熱い吐息を吐きながら、虚空を見つめ、私は想い人に恋情を募らせた。







「ほほう!! やりおるな、あの女!! 確か・・・・人間との混血の、ケルベロスの妹、だったかのう?」


 緑色の肌のやせ細った老ゴブリンは、枯れ木のような腕で自身の髭を撫でると、不気味な笑みを浮かべる。


 そして目の前の水晶玉をポンポンと叩くと、大きな声で笑い出した。


「カッカッカッ! 犬どもは知能が足りない馬鹿者ばかりだと思うておったが、まさかこちらの手を即座に読んでくる奴がおったとはのう!! これは中々に興味深い奴じゃ!! 軍師の才能がある雌!! ぜひ、余のものにしておきたいのう!」


 そう言って、老ゴブリンー---第二階層支配者、ゴブリン・ロードは舌舐めずりする。


「夢魔族との計画の日までは幾分か猶予がある。どれー--しばし余興に興じても良いじゃろう」


 そしてゴブリン・ロードは木製の椅子から立つと、静かに部屋を出た。


「キシャアアアアアアアアアアッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!」


「あっ、あっん、い、いやぁ・・・・・・」


「おうおう、励んでおるのう」


 ゴブリン・ロードが部屋から出ると、そこには多種多様な雌を犯すゴブリンたちの姿があった。


 人族(ヒューム)森妖精族(エルフ)鉱山族(ドワーフ)獣人族(ガウルフ)、将又魔物、黒狼族(フェンリル)夢魔族(サキュバス)蛇人族(ラミア)


 外で攫ってきた人間や第五階層支配者ムレアとの協力で繁殖させた者、または他階層から捕らえてきた者。


 ここには様々な種族の雌が一様に集められ、ゴブリンたちの手によって慰み者にされていた。


 そんなゴブリンたちの肉欲の宴を見て、ゴブリン・ロードは満面の笑みを浮かべる。


「カッカッカッ!! そうじゃそうじゃ犯せ犯せッ!!!! 我が種族を!! 我らが血脈を!! この世を覆いつくような数になるまで増やすんじゃ!! 他の種族にはないこの繁殖力こそが、我が種族を最強へと導く印!!!! カカッ!!! カカカカカカカカッッ!!!!!!!」

 

 両手を広げ、ゴブリン・ロードは高らかに嗤う。


 その嗤い声は、第二階層の最奥にあるこの部屋、別名『繁殖部屋』に、長く長く轟いていった。





 




 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 「・・・・・・・・・・ミュ」


 

 

 私、アッシェは、凍り付いたスカル・ゴブリンの前でうーんと頭をひねらせる。


 低級土属性魔法【ストーン・バレッド】を数発撃ち込んでみたものの、スカル・ゴブリンの身体を覆う氷を砕くことはかなわなかった。


 私の持つ最大のこの攻撃魔法を使っても、表面を傷つけられるだけで、厚い氷の皮をぶち破ることはできない。


 あと残るのは毒の牙で攻撃する戦技、【ポイズン・ファング】くらいだが・・・・この戦技は威力が大きすぎるため、下手したら氷ごとスカル・ゴブリンを傷つけてしまう可能性が大だ。


 ジャック様の配下を毒の牙で溶かしてしまう、なんてことになったら目も当てられない。

 

 いったい、どうしたものだろうか・・・・。


 うーんと頭を捻らせていると、どこからか話し声が聞こえてきた。


「・・・・ゴンド、待ちなさい。今行くのは早急すぎるわ」


「ミュ?」


 突如聞こえてきた人間の声に、私は即座に木陰に身を隠し息を潜ませる。


 すると、数秒も経たずに目の前に二人の人間が現れた。


 浅黒い肌の背が低い女と、長身の耳が長い真っ白な肌の女だ。


 奴らは何やら口論のような言い合いをしながら、森の中を闊歩している。


 だが、氷漬けにされたスカル・ゴブリンを視界に納めると、二人ともギョッとした表情を見せた。


「な、なんじゃこいつはー--!?!?」


「ゴブリンの、アンデッド!? 氷結魔法で閉じ込められているの!?」


 耳長の少女は恐る恐るといった様子で氷の表面を手で撫でる。


 すると、氷の中のスカル・ゴブリンの眼窩の中に浮かぶ赤い瞳がギョロリと彼女を睨み付けた。


「ひ、ひぃっ!?」


「い、生きておるのか!?」


 二人はビクリと肩を震わせると、お互いを抱き合うようにしがみつく。


「こ、このアンデッドって、もしかしてあのジャック・オー・ランタンの配下!?」


「そ、そうじゃな。この階層にいるアンデッドなぞ、あれの配下としか考えられぬぞ」


(ジャック・オー・ランタン・・・・もしかして、ジャック様!?)


 私は少し木陰から身を乗り出し、人間たちの様子を伺いみる。


 二人とも、胸と下半身に布切れを付けた、半裸のような出で立ちをしていた。


 その立ち振る舞いや雰囲気的に冒険者のような気配が感じられるが・・・・装備も碌にできていないところを見るに、この第五階層に捕らえられた夢魔族の餌用の人間、なのだろうか。


 私は息を殺してジッと、人間たちの様子を伺い続ける。


「ま、まぁ、今は動けないようじゃし? このアンデッドに関しては問題はないじゃろ??」


「そ、そうね・・・・・本当だったら動けない今のうちに祝福魔法で葬送しておきたいところだけれど・・・・あいにく私たちは修道女じゃないからね。下手に復活させないように無視することしかできないわ」


「そうじゃな。どのみち、アンデッドの弱点である炎熱魔法をワシらは使えぬのじゃし・・・・放置するしかあるまいて」


 そう結論付けた二人は互いに抱き着くことをやめ、ふぅっと深く息を吐く。


 そして数秒間を置き、耳長の女が隣に立つ背の低い女へと顔を向けた。


「・・・・・それで、ゴンド。あなた、本気なの?」


 その言葉に、褐色肌の少女はムッとした顔を見せる。


「当然じゃ!! 今しか好機はないじゃろう!! 何たって、インプどもが巣から殆ど飛び去って言っているのじゃぞ?? 仲間たちを助けるのにこれほどの状況はそうそうにないぞ!!」


「はぁ・・・・私はどうみても確実に罠にしか思えないんだけど?? 私、奴らにまた捕らえられて牧場送りにされるのだけは絶対にごめんだわ」


「まったく、森妖精族(エルフ)はこれだからいかん。お前ら耳長は全てにおいて慎重すぎるんじゃ。そんなじゃと攻めるべき好機を一生逃してしまうハメになってしまうぞい??」


「逆にあんたら炭鉱族(ドワーフ)は考えなしすぎるのよ。もうちょっと相手の行動の裏を読むようにねぇー------ん?」


「どうしたかの?」


「・・・・・今、そこの木陰でかすかに何かが動く音が聞こえたのだけれど・・・・」


 私は思わずビクリと体を震わせてしまう。


「何!? インプか!?」


「いや・・・・奴らにしては軽い音だったわ。多分・・・・野鼠かトカゲね。気にしなくて良いわ」


 思わずホッと、息を吐いてしまう。


 できればこんなところで人間と戦うことは避けたい。


 特にあの女たちは、武装は無いけれどどこか戦闘に慣れた雰囲気が感じられる。


 お母さま・・・・タナトス様や兄弟たちであれば、人間と見れば即座に牙を向いて襲い掛かるだろうけど、あいにくと私は彼女たちのように戦闘狂ではない。


 元々身体がひ弱なので、確実に勝てるような獲物でなければ襲わない主義だ。


 私は音を立てないように、スッと身を引くようにしてその場を後にすることを決める。


 現状、スカル・ゴブリンの氷を打ち砕けるような魔法もないし、この場に留まってあの人間たちと敵対するリスクを冒さなくても良いだろう。


 私は踵を返すようにして藪の中へと足を踏み入れる。


 しかしー---。


「おお、お前らここにいたのか!! 大変だぞ!! インプたちが一斉に動き出した!!」


「何だって!?」


 突如現れた、もう一人の人影。


 二人の背後から現れたのは、顔に無数の傷跡を負った茶毛の女だった。


 彼女は焦った様相で二人の腕を掴むと、まくしたてるように叫びだす。


「さっき、カボチャのような木の実を抱えたインプの群れが遠方の巣に戻っていくのが見えたんだ!! もうまもなくこの辺りの巣にもインプたちが帰ってくるかもしれない!! 早く離れるぞ!!」


「し、しかしリーダー、こうもインプが外に出て動いてるのって何だか変じゃありませんか?? もしかしたら今なら、近場の穴倉や牧場にいる仲間たちを解放することも・・・・」


「馬鹿かゴンド!! さっき遠隔透視魔法を使って奴らの様子を伺ってみたが、奴ら、東の方の森を焼き尽くしていたんだぞ!? 仲間を助けるどころかオレたちが殺されちまうぞ!!!!」


「森を・・・・!? 嘘、でしょう!?」


「い、いったい何のためなんじゃ!? ま、まったく奴らの行動の糸が読めん!!!!」


「良いから、話はあとだ!! さっさといくぞ!!!!」



 そう言って茶毛の女は強引に二人を引っ張り、森の中へ駆けていった。


 後に残された私は一人、先ほど聞いた言葉を反芻してみる。

 

(・・・・・カボチャのような木の実を抱えたインプの群れが・・・・遠方の巣に戻っていく・・・・)


 スッと、頭上を見上げてみる。


 するとそこには紫色の空を飛ぶ、数千匹にもなるインプの群れが飛んでいる姿があった。


(・・・・・・・・・・・ジャック様)


 私は森の中を全速力で駆け始める。


 もちろん、どのインプがジャック様を攫ったのかは定かではない。


 けれど、彼の身に何かあったのではないかと考えると、どうしても足を止めることができなかった。

  

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