第7章 絶望の再演 ①
「あれ、ここは・・・・?」
目を開けると、そこには赤い夕陽が窓から差し込む教室の風景が広がっていた。
キョロキョロと辺りを見渡してみるが、周囲に人の影は見当たらない。
何故だかズキズキと痛む頭を抑えながら、俺は目の前にあるノートへ視線を向ける。
「これは・・・・日誌か?」
・・・・・・・・・・・・・・。
そうか。
そう、だったな。
俺は放課後、この日誌を書いている最中に居眠りしてしまったんだった。
クラス委員は一日の最後にこの学級日誌を仕上げ、担任に提出する義務がある。
なので、今日あったことや改善すべきクラスの課題などを放課後、日誌に書き綴っていたのだが・・・・日頃、大学受験の勉強のために睡眠時間を削っていたために、どうやら途中で睡魔に負けてしまったようだ。
俺は自分の頬をペシリと叩いた後、机に転がっているシャープペンシルを手に取り、再び日誌へとペンを走らせる。
すると、その時。
ガラガラという音と共に、教室の引き戸が開かれた。
「・・・・秋月? まだ学校に残ってたの?」
顔を上げて教室の入り口へ視線を向けると、そこには、制服を着崩した気だるげな様子の少女が立っていた。
少女は棒が付いた飴を口の中でコロコロと転がすと、肩にかけていたギターケースを自分の机に立てかけ、こちらへと近づいてくる。
そして、俺の上に置かれていた日誌を見ると、彼女はウゲェとした表情で吐く真似をした。
「うぇ、こんな遅くまでまでそんなことやってるの? 秋月って本当、典型的なガリベンくんだよね。みんなが嫌がるクラス委員まで引き受けちゃってさ・・・・何、そんなに内申点欲しいんだ?」
「・・・・・・・桜野さん?」
桜野 朝陽。
席が隣同士というだけの、特別仲が良いとは言えないただの同級生。
お隣さんだから時たま世間話をする、それだけの関係性。
それなのに・・・・彼女の姿を視界に捉えた瞬間、俺は何故だか零れ落ちる涙を止められなくなっていた。
まるで、今生の別れをしてしまった恋人に再び出会えた喜びに打ち震えているような・・・・そんな感情が胸中に宿る。
「は、はぁぁぁっ!? 何泣いてんのっ!? もしかしてガリベンくん呼ばわりがそんなに気に障った!?」
そんな俺を見て、桜野さんはあわてた様子で両手をあたふたとさせていた。
俺は首を横に振り、ゴシゴシと目をこする。
しかしどんなに袖で目元を拭っても、流れ落ちる涙が止まる気配はなかった。
「え、い、いや、こ、これは何でもないよ。けっして君のせいじゃ・・・・」
「ったく。ほら、ハンカチ」
そう言って、桜野さんは某サ○リオのキャラクターが書かれたハンカチを手渡してくる。
そのどこかファンシーな様相のハンカチがどうにも彼女のキャラと嚙み合っておらず、俺は思わず二三回目をパチクリとしてしまった。
「・・・・何?」
「いや、クール系の桜野さんもキャラクターものの可愛いハンカチ使うんだなって思って。マ○メロだよね? こういうの好きなんだ?」
「い、妹のだよっ!! 勝手に人をファンシーグッズ好きにすんじゃないっ!!!!!」
「ごがっ!?」
ゴツンと、盛大にグーで頭を殴られてしまった。
ズキズキと痛んでいた頭が今度は外傷的な痛みもプラスされてしまって、かなりの地獄。
俺はその痛みに耐えきれず、思わず両手で頭を抑えてしまう。
「いたたた・・・・酷いよ桜野さん・・・・」
「相変わらず秋月は腹が立つ奴だな! もうハンカチ貸してやんない!」
「うぐぐぐ・・・・お、桜野さんは女の子なんだから、こういう暴力行為は極力慎んだ方が・・・・」
「うっさい! 秋月こそもっと男らしくなったらどうなんだよ! 女みたいになよなよしやがってさ! 筋肉付けろ筋肉!!」
「うーん、俺、昔っから運動だけはどうしても駄目でさ。でも、将来は小学校の先生になりたいから・・・・やっぱり少しは運動できるようになったほうが良いのかな?」
「小学校の先生? 何、あんた教師になんてなりたいの?」
「うん。小学校の時に憧れた先生がいてね。その影響で教師になりたいな~って、漠然と思うようになったんだ。それに、元々子供が好きなのもあるしさ」
「・・・・・・・・ロリコン?」
「違うよッ!? 変なこと言わないでよッ!!!!」
俺の慌てる様子に、桜野さんはケラケラとからかうように笑いだす。
俺はそんな彼女に対してプゥッと頬を膨らませた。
気付いたら、いつの間にかあんなにとめどなく流れていた涙の奔流は止まっていた。
「そんな不機嫌になるなよ~! まっ、童顔の秋月だったらロリコンでも多少は犯罪感薄れて良いんじゃない? いや、ロリコンはどのみち犯罪か? ふふふふ!」
「もう、だからロリコンじゃないって・・・・・」
「ごめんごめん、何かツボに入っちゃって!」
このままこの話を続けて否定しても、桜野さんは永遠と俺をからかい続けるだけだろう。
ここは話の方向性を変えた方が良さそうだ。
「逆に桜野さんは将来、なりたい職業とかあるの?」
「私? んー、私は、そうだなぁ・・・・」
彼女はチラリと背後を見て、自分の席に立てかけてあるギターケースに視線を向ける。
そして、どこか恥ずかしそうに後頭部をポリポリと掻いた。
「もしかして、ギターリスト?」
「・・・・・・・そんなに大層な夢じゃないよ。でも、何かしら音楽に関わって生きていけたらな、とは思ってる」
そう言って、彼女はニコリと歯を見せてはにかんだ。
俺も同様に彼女へと微笑みを返す。
「毎日、放課後まで残って練習してるもんね。俺、いつもここで下の軽音部の部室から流れてくる桜野さんの演奏聞きながら委員の仕事してるんだけど、ギター、本当に綺麗な音色を奏でてると思うよ。って、素人が何言ってるんだって話だね。ごめん」
「・・・・・あぁ、いや・・・・ありがと。でも、放課後に残っている理由は、また別にあるんだけどね」
「え?」
「な、何でもない」
赤い夕陽が照らす彼女のその顔は、幻のように儚く、とても綺麗だった。
まるでそれは、限られた時間だけに輝きを放つことができる、蛍のように。
風が吹けば崩れ落ちる、砂場で造られた城のように。
彼女のその姿は、どこかおぼろげで、いつかは消えてなくなる真夏の陽炎のようだった。
「? どうしたの」
「いや・・・・別に」
不安げに俺の顔をのぞき込む彼女に、俺は首を横に振る。
「そう? じゃあ私、先に帰るよ」
そう口にして彼女はギターケースを肩にかけると、手を振りながら教室から去って行った。
その去って行く後ろ姿に、何故かザワザワとした不安の渦が駆け巡っていく。
まるで、これから彼女の身に何か起こるようなーーーーーーそんな、漠然とした良くない予感を感じてしまっていた。
「炙り出し作戦、成功ね~!!!!」
燃え盛る森林地帯から、牧場がある草原地帯に逃げ出した数十体のサキュバスとインキュバスの群れの前に、あたしは降り立つ。
想像していた通り、奴らを率いていたのは最年長のサキュバス、ディオネアだった。
長年ずっと探し続けていたこの老婆を探しだすことができたことに、あたしは歓喜の笑い声を上げる。
「ようやく見つけたわ!!!!!! 私はねぇ、この時をずぅーっと、ずぅーっと待っていたの!! あはっ、本当嬉しいっ!! あははははははははははははははははははははははははっ!!!!!!!!」
そんな、笑い声をあげる私の姿をディオネアは目を細めて睨むと、木製の杖をコツンと鳴らし、一歩前へ足を踏み出した。
「長老様!! 危険です!!」
背後の取り巻きたちが老婆を止めようとするが、ディオネアはそれを肩ごしの視線だけで黙らせる。
そして再び前を向くと、ハァと大きくため息を吐いた。
「久しいのう、ムレア。300年前の内乱以来かの」
「ええ、そうねぇ、お祖母ちゃん。会いたかったわぁ」
「ワシはできれば会いたくはなかったのじゃが・・・・しかし、これまた随分と強引な行動に出たのう。大森林を燃やせば、お主の配下のインプたちの餌が無くなってしまうのではないかの??」
「餌なんて、この迷宮から出ることさえできれば有り余るほど手に入れることができるわ。そのためには・・・・魔王が残したとされる宝具と宝玉、持ってるんでしょう?? さっさとあたしに渡してくれないかしら??」
「ふむ・・・・・そんなに外の世界に出たいのか? お主は」
「当たり前でしょうッ!!!!!!!!」
あたしは怒りの形相で老婆を睨みつける。
5000年前、あたしたちの先祖である魔族は人間との戦争に敗れた。
その結果、待っていたのはこの地下迷宮で一生を過ごすという、地獄にも等しい苦行の日々だった。
縛られたまま生きる、傀儡にも等しい生活。
これ以上、惨めな想いをして生きるのにいったい何の価値があるというの?
薄暗い檻・・・・迷宮に閉じ込められて家畜のように生きる生活。
人間に怯えて暮らすなんて、そんなのは間違っている。あたしは、籠の中の鳥のように生きるなんてまっぴらごめんよ。だからー---。
「だから、自由を求めるの」
夢魔族は人間の欲望や願望、感情を食べて生きるというのに、この第五階層にまで人間がやってくるなんてことは殆どない。
飢えを凌ぐには、上の階層に住む連中のお零れを預かるか、無理やり外の世界に出てはぐれ魔物として人間を狩るかだけだ。
当然、人間という餌がいなければ私たちは生きていけない種族のため、夢魔族の中には大量にはぐれ魔物として外の世界に出る者も少なくなかった。
だけど・・・・外界に出たはぐれ魔物に待ち受けるのは・・・・確実な死、だ。
外の世界に住む人間たち・・・・特に、最上級冒険者であるフレイダイヤ級冒険者と、精霊教会の席次を持つ執行者たちは、あたしたち階層支配者でも束にならないことにはダメージも与えられないくらいの化け物だと聞く。
そんな怪物たちを倒せるほど、今の魔族は精強ではないし、異種族同士でまとまるなんてことも魔王亡き今ではできはしない。
故に、あたしたち魔族は囚われることでしか生きることが許されない、籠の中の鳥なのだ。
自由を求めて外に行けば人間たちによって狩られ、迷宮の中にいれば緩やかに死ぬのを待つことでしか生をまっとうすることができない。
魔族とは、なんて惨めな種族なのだろう。
人間に飼われる生など、果たして価値などあるのだろうか。
あたしはそんな人生は、まっぴらごめんだ!!
あたしは外の世界に行って、自由に生きたい。
自由に人間の新鮮な絶望を喰らいたいし、自由に天井の無い空を思う存分飛び回りたい。
そのためには、冒険者と執行者たちが邪魔だ。
自由を得るためには、奴らを圧倒するための強大な力がいる。
そして、その強大な力になり得る可能性があるとあたしが目を付けたのがー---各階層に眠ると言われる、旧魔王軍の遺産、宝具と宝玉だった。
宝具は、亡き魔王の持つスキルが宿った強力な七つの武具のことで、宝玉は、魔王が自身の欲望を分離して作ったとされる対人間兵器の七つの魔道具のことだ。
この階層に眠る宝具と宝玉がどんなものなのかは分からないが・・・・けれど、それはかつて、この世界に名を轟かせたかの魔王が遺した伝説級の魔道具。
必ず、憎ったらしい人間どもをギャフンと言わせることができる代物に違いないだろう。
(だから、この迷宮で1,2を争うくらい長く生きているあのばあさんは、その魔道具の在りかを必ず知っているはずなのよ)
何たってこのババアは、魔王と共に人間たちと戦った数少ない旧魔王軍の生き残りだからね。
旧魔王軍の残党など、第三階層支配者タナトスと第六階層元支配者ルーヴェルト、あとはこのババアとベヒーモス様くらいのもの。
他のメンツは厄介な奴らばかりだけど、衰えて大した幻惑魔法も使えないこのババアならばーーーーーあたしの敵ではない。
夢魔族の残党も雑魚ばかりだしね。
勝算があると踏んだあたしは、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
「さぁ・・・・宝具と宝玉がどこにあるのか言いなさい。さもなくば・・・・300年前の、あの馬鹿な前階層支配のように無惨なことになるわよ?」
「ッ!? 貴様ァッ!!!!」
あたしのその発言に、ディオネアの背後にいた長身のインキュバスが拳を震わせる。
そして、今にもこちらに飛びかかろうと足を前へ踏み出した。
「ウトリ!! やめんか!!!!!」
しかしディオネアの一声により、そのインキュバスは悔しそうな顔で立ち止った。
「長老!? 何故、止めるのだ!! あの女はー---」
「お前さんが立ち向かっても、到底敵う相手ではない。それは300年前あの時から、分かっておるのじゃろう??」
「ぐっ・・・・・!!!!!!!」
「・・・・さて」
フゥっと息を吐き、ディオネアはあたしの目をまっすぐと見つめてくる。
「・・・・ひとつ聞くが、調律者さまとドロセラはお主にやられてしもうたんかの??」
「調律者? なにそれ」
「カボチャ頭のアンデッドのことじゃ」
「あぁ・・・・あの雑魚二匹のこと?? あいつらはこのムレア様に舐めた口を聞いたからね。【チャーム・ファンタズム】使って穴倉に放り投げてきたわ。フフフ、今頃悪夢によって泣きべそ掻いてるんじゃないかしらね? 喋れるアンデッドなんてものは初めて見た存在だったけれど・・・・人間と同じようにわんわん泣き叫んでくれると嬉しいわぁ」
「何!? 貴様!! 二人を廃人にするつもりかッ!?」
長身のインキュバスが再び、怒声を放ってくる。
私はそんな彼に、ハンと、鼻を鳴らした。
「そうよぉ?? ・・・・って、あぁ、あんた、見覚えあると思ったら300年前の時ボコボコにしてやったレニフォルミスの息子か。相変わらず雑魚のくせにキャンキャン吠えるのだけはいっちょ前ね」
「・・・・・・・・・・・・・」
キッとこちらを睨むウトリクラリアを、あたしはクスクスと嘲笑しながら、さらに煽る。
「あんたのお母さん、廃人になったけれど、元気にしてるわよー?? ゴブリンとの混血児、インプを大量に産んでくれてるわ。良かったわねー?? 兄弟たくさんよ??」
「その首、叩き斬ってやるッ!!!!!!!!!」
【アイシクル・ランス】を右腕に纏うと、ウトリクラリアは跳躍し、私に向かって氷の剣を振り下してくる。
その姿に乾いた笑みを浮かべると、私は彼に掌を向けた。
「【アイシクル・ランス】」
加護【夢魔の祝福】を使って、幻惑魔法上位魔法【ドッペルゲンガー】を無詠唱で発動させる。
そして、事前に唱えておいた1本の【アイシクル・ランス】を【ドッペルゲンガー】によって複製させ、幻によって作られた【アイシクル・ランス】と本物を織り混ぜ、そのまま複数本の氷の刃をウトリクラリア目掛けて射出した。
「おわぁっ!?!?」
右腕に纏っていた氷の剣に本物の【アイシクル・ランス】が当たり、割れる。
そしてその後、ウトリクラリアは恐怖の色をその顔に表す。
何故なら目の前に降ってくるのは複製された偽物の【アイシクル・ランス】の雨。
その絶望的な光景に、しゃがんで頭を守るように庇うことでしか自身を防ぐことしかできなくなったウトリクラリアは、大きく悲鳴を上げた。
「うわああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッ!!!!!!!!!!」
もちろん、これら全ては幻影なので、ダメージを受けることはない。
それでもそれが幻だとは分からない彼は、自分が串刺しにされる光景を想像し、白目をむいてその場に倒れ伏した。
「きゃはははははははははははっ!! おしっこ漏らしてるじゃんダッサー!!!! これが前階層支配者の息子ってマジー?? 雑魚すぎるでしょ!!!!!!」
ひとしきり腹を抱えて笑った後に、あたしはディオネアの後ろにいる他の夢魔族に目を向ける。
「それで? 他にあたしに向かってくるアホはいないわけ??」
その一言に、恐怖の色を露わにするサキュバスとインキュバスたち。
まっ、それも当然か。
あたしに歯向かったらどうなるかは・・・・300年前に嫌になるほど教えてきたからねえ。
「ー-----ムレアよ。分かった。宝具と宝玉の場所を教えよう」
「あら? 物分かりが良いわね、お祖母ちゃん」
「その代わりに、他の夢魔族には手を出すな。この通りもう、我ら一族は数十匹しか残っておらん。魔王様の遺言ー---種を絶やすなという言葉を守るためにも、ワシはサキュバス・インキュバスの血を絶やすわけにはいかぬのよ」
「あっそう。まっ、従順になったお祖母ちゃんのためにも、少しだけ考慮しておくわ。でもね、宝具と宝玉が見つかるまではあんたたちの身柄は拘束させてもらうから。嘘の情報を流す可能性もあるし」
「あぁ。それで構わぬ。ー---宝具と宝玉は、第五階層で最も高い山、その上の大岩の下にある、神殿の奥底にある」
「・・・・・みんな! 連れていきなさい!!!!」
あたしの呼び声に反応したインプたちが、サキュバス・インキュバスたちの腕をつかみ、ゾロゾロと指示した場所へと連れていく。
そして、第五階層にいればどこでも見ることができる切り立った山を見上げて、あたしは楽しげに笑みを浮かべたのだった。
《アッシェ視点》
いったい、ジャック様はどこにいるのだろう。
彼を追ってこの第五階層に来てからというもの、私はこの森の中を延々と彷徨っている。
岩と結晶しかない第三階層に住むデス・スパイダーにとって、こういった湿度の高い森林というのは初めて見る光景だった。
だから見るもの全てが新鮮で、長い大階段を降ってこの階層に辿り着いた時には、驚きと高揚感を隠そうともせずに恥ずかしくもはしゃぎまわってしまっていた。
でも、こう何十時間も密林を彷徨っていると、流石に辟易してくるものがある。
ただでさえ私は他のデス・スパイダーに比べて体が弱い。
故に、長時間周囲が明るいこの階層は、少々目が痛く、温度も高いので体力を激しく消耗してしまっていた。
「ゲギャ? ゲギャギャガギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャ!!!!!!」
「ミュー・・・・・」
また、か。
この樹海を練り歩いていると、高確率でこの鼠のような顔をした魔物に出会う。
多分、これがルーナの言っていた夢魔族という魔物なのだろうが・・・・正直、私には彼女が言っていたほどの脅威をこの魔物に感じてはいなかった。
「ゲギャーッ!!!!! ・・・・・ゲギャ? ゲギャギャギャ!?!?」
何か魔法を使った素振りをするのだが・・・・何も起こらない。
その状況に困惑の声を上げる夢魔族。
私はその隙に、土属性低級魔法【ストーン・バレッド】を使って、出現させた鋭利な石片を射出し、夢魔族の胴体に無数の穴を開ける。
「グギャガギィヤギヤッッッッッー-----!!!!!!!!!!!!」
断末魔を上げ、死体になって地面へと転げ落ちる夢魔族。
その光景を見納めた私は、フゥっと短く息を吐き、そのまま森林の中を進んでいった。
(ジャック様に会いたいな・・・・・)
早く、彼の傍に行きたい。
彼の傍に駆け寄って、驚いたジャック様に、頭をよしよしと撫でられたい。
ー----今まで、彼に触れられたことはないのだけれど。
何でだろう。
私、魔物の雌としてそんなに魅力がないのかなぁ。
そりゃ、アンデッドとデス・スパイダーじゃ異種族だし、雌としては見れないのかもしれない。
でも、異種族であるにも関わらず何故か彼はルーナに対して照れた表情をしていた。
もしかして、人間に近い見た目をしている雌が好み?
だとしたら半分人間の血が流れているルーナは、間違いなく彼の好みのタイプだろう。
うぅぅ・・・・ルーナめ、本当にずるい。
もし本当にそうだとしたら、蜘蛛の姿をしている私じゃ、彼の寵愛を受けることは絶対に無理だということになってしまう。
どう足掻いても人間にはなれない私にとってこれは、一生叶わぬ恋、だ。
(でも、それでも良い。彼が私に意識を向けないとしても、隣にいられれば、それで私はー------ん?)
妙なものが目に入った私は、歩みを止める。
(何、あれ?)
草木をかき分け、前へと進む。
すると、そこにあったのはー---氷漬けにされた、ゴブリンのアンデッドの姿だった。
(え? どうして、このアンデッドからジャック様と同じ気配がするの・・・・?)
このような骸骨のアンデッドは、ジャック様の配下にいた覚えはない。
いやー----違う、私は、このアンデッドを一度だけ見た覚えがある。
この子は、私がジャック様を初めて見たときに隣にいた、アンデッドー---確か、スカル・ゴブリンとジャック様が呼んでいたアンデッドだ。
(どうしてこの子が第五階層に・・・・? いや、それよりも・・・・)
同じジャック様の配下としては、この子は何としてでも助けてあげたい。
見たところ、辛うじて命はある様子だった。
頭部分を覆っていた氷の隙間から、ヒューヒューと息をする声が聞こえてくる。
その苦しそうな様子を見た私は、決心する。
(よし、絶対に助けてあげよう・・・・・!)
私は彼の氷を破壊するべく、小さな【ストーン・バレッド】を浮かべ、それを氷へ向けて射出していった。




