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第6章 養殖場の森 ⑤



 「ゼェゼェ・・・・・こ、ここは・・・・!?」


 巨大な大樹の中に入ると、そこには薄暗い洞穴のような光景が広がっていた。


 鍾乳石が氷柱のように天井から生えており、松明が掲げられた木製の支柱が最奥へ導くかのようにいくつも地面に配置されている。


 視界はとても不明瞭だったが、延々と真っ暗闇が続いていた第四階層に比べればかなりマシな状況だ。


 なんといっても、周辺を明るく照らしているこの松明たちのおかげで、辺りの様子を多少は伺うことができるのが大きい。


「・・・・・ふむ」


 俺は荒くなった呼吸を落ち着かせてから、ピョンピョンと跳ねて、壁際に近寄ってみる。


 荒々しく削られた後のあるその壁は、よく見ると石質のものではなく、木質のものだった。


 つまりここはー---文字通り、あの大きな大樹の中、なのだろうか。


 俺はキョロキョロと洞窟の中を見渡しながら、前方でホフゥッと安堵の息を吐くドロセラに声を掛ける。


「おい、ここはいったい何なんだ?」


 そう声を掛けると彼女はこちらを振り向き、額の汗を腕で拭いながら何故か小声で口を開いた。


「ここは、住処を追われたサキュバスとインキュバスの隠れ家ですです」


「住処を追われた・・・・? この第五階層の階層支配者って、サキュバスとインキュバスだよな?」


 その言葉に、何故かドロセラは目をパチクリと瞬かせた後、どこか呆けた顔を見せる。


「あの・・・・300年ほど前に起こった第五階層の内乱のことは流石にご存知ですよね??」


「内乱? なんじゃそりゃ?」


「ほぇ~驚きましたです! ジャックさんはこの第五階層の情報を何も知らないのですね?? 無知も良いところですです」


 そう口にし、バカにしたようにハンと鼻を鳴らしながら、目を細めるドロセラ。


 そのあからさまな態度に苛ついた俺は、思わず舌打ちをしてしまう。


「あ゛? うるせぇタラオ!!!! こちとら生後数週間の身なんじゃボケ!!!! マウント取って良い気になってんじゃねえ!!!!」


「ひぅっ!? ど、怒鳴らないでくださいよぉう!!!!! さっき助けてあげたじゃないですかっ!!!!!」


「助けたって・・・・てめぇ、俺を木の中へと誘導するのが随分遅かったじゃねえか?? こっちはSP消費するまでインプ共と応戦していたんだぞ?? あぁ?」


「ぎくっ。・・・・・そ、それは・・・・・・」


「まさか、見捨てようかどうか悩んで躊躇してたんじゃねえだろうな?? てめぇ・・・・」


 俺がそう言うと、ドロセラはどこかバツの悪そうな表情を見せ、両手の指をツンツンと合わせた。


「あ、あのですね! 先ほども言ったとおり、この隠れ家は幻惑魔法がかけられていて、インプたちにそれを見破られるとこっちの身が非常に危険になるのですよ!! で、ですから、機を伺っていたので出るのが遅くなっただけなのです。・・・・本当ですよ??」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 疑惑の眼差しで、翼の生えた目隠れ少女をジッと見つめる。


 すると、その視線に耐えられなくなったのか、ドロセラは泣き出しそうな表情を見せてきた。


「うぅ・・・・・・だ、だって、すぐついてくると思ったんですもん・・・・・まさかあの数のインプの群れに対してジャックさんが攻撃を仕掛けるとは思わなかったんですもん・・・・・私、悪くないです!!」


 ドロセラはそう言うと、しゅんとなって小さくなる。


 まぁ確かに、俺がさっさと木の中に入ってれば済んでいた、というのには一理ある話だ。


 急にインプの群れが現れたから、俺も戦闘へ意識が赴いてしまっていて、周りが見えていなかったのは事実だろうしな。


 助けられたのには変わりないのだから、こいつを責めるのはちょっと違うか。


「そうだな・・・・確かに、俺の判断ミスも大きかったかもしれねえ。助けてくれたことには礼を言うよ。ありがとな」


 俺がそう言うと、ドロセラは腰に手を当て、フフンと鼻を長くした。


「当然です。ジャックさんは私に感謝してもしきれない恩を感じるべきなのです」


「くっ・・・・素直に礼を言えば、腹立つ反応しやがって・・・・このタラオ、何かムカつく奴だな」


「うるさいです! 先に謝った方が負けなのです! だから、ジャックさんは大人しく私たちに力を貸しー---痛っ!!」


「ドロセラ嬢。客人に対してその態度は美しくないぞ」


 むくりと起き上がった半裸の大男、ウトリクラリアは、ドロセラの頭をポカンと軽く殴りつける。


 そしてその後、2メートルはあろう巨人は俺へと視線を向けると、出会った時と同じように腕を組んで仁王立ちをした。


 しかし、何故かー------ドロセラの後ろに隠れながら、だが。


「客人よ。我ら、真なる夢魔族の隠れ家へようこそ。歓迎しよう」


「お、おう・・・・?」


 眉間にシワを寄せて不敵な笑みを浮かべるウトリクラリア。


 その姿は自信に満ちたもので、全身に宿る鍛えられた筋骨隆々の筋肉と相まって、とても強キャラ的なオーラを放っている。


 けれどー---彼は何故か両足をガックガックと震えさせていたのだった。


「フッ、先ほどは急に意識を失ってすまなかったな。度々ある、発作のようなものなのでな。許せ」


「え? あ、あぁ、そう・・・・・?」


「この隠れ家にはあまり備蓄もないので大したもてなしはできないが・・・・まずは現在、この場を束ねている長老殿へと君を紹介しよう。ついてこい」


「え!? 何言っているんですかウトリ!! 長老、というか他のみんなはムレアとシアナと戦う気がないのは明らかですよ!!!! ジャックさんに力を貸してもらうつもりなら、私たちで内々に彼を説得すべきですです!!!!!」


「・・・・ドロセラよ。貴様の言うことは確かに最もだ。だが、しかしー---」


「そうさね。この隠れ家に入った以上、ワシの目を欺くのは無理な話さね」


 ドロセラとウトリクラリアの背後からヌッと、顎のしゃくれた魔女のような老婆が現れる。


 その黒いローブをまとった老婆の登場に、ドロセラとウトリクラリアの二人は同時にビクリと肩を震わし、恐る恐るといった様子で背後の老婆に顔を向けた。


「ちょ、長老様・・・・・」「ふ、ふむ。やはり隠し事はできないな、長老殿には」


「全く、悪ガキどもめ。アンデッドなんぞをこの隠れ家に連れてきおって。今度はいったい何を企んでおるのだ? ドロー-------」


 老婆は突如話を中断すると、ドロセラとウトリクラリアを押しのけて、俺の前へと歩みを進めた。


「な、何だ何だ婆さん!?」


 ズイっと腰を曲げ、キスでもしようかとくらいに至近距離で俺を見つめてくる婆さん。


 俺の背後にいたガルムが突然近寄ってきた老婆に警戒の唸り声を上げるが、彼女は意にも介さずに、ジッと、瞳孔の開いた瞳をただただこちらに向けてくる。


「あ、あの、長老・・・・?」


 ドロセラが後ろからそう困惑気に老婆に声を掛けた瞬間、老婆は沈黙を破り、口を開いた。


「貴殿はもしやー----調律者、か?」


「はい? 調律者?」


 調律者・・・・どこかで聞いた単語だが・・・・何だっけ??


 どこで聞いたのか思い出そうとグルグル頭を回していると、老婆は目を細め、スッと身を引いた。


「貴殿からはシャーロット様と同じような気配がする。この世の者とは思えない異様な気配が・・・・・フフッ、懐かしいのう」


「あ? さっきから何言ってんだてめぇ??」


 訳の分からない独り言を繰り返す老婆に、俺は思わず困惑気な声をこぼしてしまう。


 そんな俺を見て老婆は穏やかに微笑むと、地面に片膝を付け、ゆっくりと頭を下げてきた。


「お初にお目にかかります、今代の調律者よ。ワシはこの階層で魔族が住み始める以前から生きておる最古のサキュバス、名をディオネアと申す者。貴方様のお名前をお聞きしても?」


「俺は、ジャックだけど・・・・」


 そう名乗ると、老婆は顎に手を当て思案気な顔を見せてくる。


「ジャック様、ですか。ふむ。シャーロット様は確かイギリスという国の出身と聞いていましたが・・・・もしかすると、貴方様の出身国もシャローット様と同じ国なのですかの? 何分、調律者に会うのは人生で二度目でしてのう。そちらの世界のことはまるで分からなー---」


「は? いや、待て待て待て待て待て待て!? ば、婆さん、今、イギリスって言ったのか?? 聞き間違いじゃないよな!?」


「そうですが?? イギリス、というのは貴方様の世界にある国で合っておらんかったかのう?? シャーロット様が言うには、全くもって食事が美味しくない国だとか聞いた覚えが・・・・」


「・・・・・おい、聞きたいことは山ほどあるが、とりあえずまずはこの質問に答えろ。さっきから出てきているその・・・・シャーロットって、誰だ?」


 その時、ドロセラがヒョイっと俺と老婆の間に顔を挟み、こちらのその問いに答えてきた。


「シャーロット様というのは、数千年前に突如この地に現れ、我々魔族を導いたとされる魔王様のことですよー」


 魔王・・・・つまり、この迷宮の魔物たちの主たる人物が俺と同じ転移者、だということなのか。


 なら、その俺と同じ転移者らしいシャーロットに会えば・・・・・少しでもこの世界の情報が分かるんじゃないか??


 もしかしたら、俺が何故カボチャ頭に転生してしまったのかとか、この世界と元の世界の行き来はできるのかとか、今まで抱えていた疑問の数々が解決するのかもしれない。


 俺は期待のまなざしで、老婆に視線を向ける。


「婆さん!! その、シャーロットって奴に会わせてくれよ!! そいつも俺と同じこことは違う世界から来たんだろ!? ならーーーー」


「・・・・残念ながら、それは無理ですじゃ。今からおおよそ5000年前の第二次人魔大戦の折、シャーロット様と初代ケルベロス様は我々魔族の生き残りを逃すために囮となり、人間たちによってうち滅ぼされてしまったんですじゃ。もう、この世界において、貴殿以外の調律者はおらんのです」


 その答えに期待を裏切られた俺は、思わず深いため息を吐いてしまう。


「・・・・・・そうなのか。そりゃ、残念だ」


 この世界に来てから、脅しや取引、能力以外で得た仲間という存在が俺には未だいなかった。


 いや、いるな・・・・白蜘蛛ちゃんはそういったこと抜きで仲間になってくれた唯一の存在だった。


 でもあの子、喋れないし、蜘蛛だし、な・・・・。


 とにかく、同郷の人間がいるかもしれないという、利害なしで仲間になれるかもしれない存在がいる喜びは大きかったのだが・・・・すでに死んでいるという話を聞いて、俺はどこか胸に穴が空いたような大きな孤独感を感じてしまっていた。


 まるで、この世界で自分という種族はたった一人になってしまったのかのような・・・・そんな孤独感が胸の中に雲泥のように積もっていく。


「調律者様、大丈夫ですかの??」


 しばし無言だった俺を、老婆が心配げな瞳で見つめてくる。


 そんな老婆に対して、俺は首を振って笑いながら答える。


「いいや、何でもねえ。それよりも、その、調律者っていうのは何なんだ??」


「調律者というのは精霊によってこの世界に生み出される、種の守護者なのですじゃ」


「精霊? 種の守護者・・・・?」


 そうだ。


 そういえばフェリシアちゃんが前に、精霊とか調律者がどうたらこうたら何か言っていたっけ。


 確かー---精霊はこの世界のバランスが崩れた時に、調和をもたらす者として異界から調律者をこの世界に呼び出す役目を持っていて、その召喚場所が、この迷宮の地だったとか何とか・・・・。


 うーん、全くもって分からん。


 とりあえず精霊とかいう奴が、この迷宮で俺みたいな転生者を喚びだすことだけは理解したが・・・・。


「むぅ・・・・? まるで分からん。調律者というのは、いったい何なんだ?」


 俺のその疑問の声に、ドロセラの背後に立つウトリクラリアがボソッと、静かに口を開く。


「この世界に住まう人と魔物、そのどちらかの数が一方的に減ったその時、それぞれの種族を守るために特別な力を持った調律者は現れる。人側の調律者は『勇者』と呼ばれ、魔族側の調律者は『魔王』と呼ばれる」


 勇者と魔王・・・・おぉ、何か急に異世界ファンタジー感出てきたな。


 この世界に来てからというものアンデッド製造機と化してたから何だかその言葉を聞くだけでようやっと異世界に転生した感じがするぞい。


「魔王ー? ジャックさんがー? 確かにおっかないところありますですけど、何だかそんな大層な魔物には見えませんよー??」


「タラオ・・・・てめぇ、俺に力を貸りたいのか俺を怒らせたいのかどっちなんだ??」


「ひうっ!? じょ、冗談ですよぉう!! その丸いフォルムはコロコロしてて私好きですよ!! あはははは・・・・」


 俺の睨みにドロセラは慌ててウトリクラリアの背中に隠れる。


 しかし、ウトリクラリアもどうやら俺のことが怖いようで、彼は背後に隠れるドロセラの肩を掴み、ズイッと強引に前へ引っ張り出してしまっていた。


 再び、押し出されるような感じでドロセラが前に出る。


「ちょっ!? ウトリ!? 何するですか!?」


「ドロセラよ・・・・貴様は前にいるべきだ。その方が、ジャック殿の機嫌も治るというもの」


「は、はぁ!? 意味わからないですよこの筋肉達磨!!」


「・・・・・・何なんだこいつら・・・・」


 ギャーギャーワーワーと騒ぐ半裸の男とロリサキュ。


 そんな彼らを呆れた目で見つめていると、目の前に立っていた老婆がゴホンと大きく咳払いをする。


「礼儀正しくせんか貴様ら!! お主たち若い夢魔族がこの方にちゃんとお仕えしなくてどうする!! この方はな、これからの魔族を導くお方なのじゃぞ!!」


「ひぃぃうっ!? ふぁ、はいっっっ!!!!」


「むっ!! そ、そうだな。この私は第五階層支配者、しいては新たなる夢魔族の長になる男だ。ただのカボチャ頭にビビッてどうする・・・・!!」


 おい、あの筋肉達磨も中々失礼なこと言っているけど、どうする? 処す? 処しちゃう??


「グルルルルル・・・・・」


「待て待て、冗談、冗談だからステイ」


 俺の苛立ちに反応したのか、背後に立つガルムがスッっと前へと出ようとしたので、何とか止める。


 そんなガルムの眼光にドロセラとウトリクラリアはヒィィとか細い声を上げて、互いに抱き合い、縮こまってしまっていた。


 そんなアホ二人を無視して、俺は再び老婆に視線を向ける。


「なぁ、婆さん。聞きたいことは山ほどあるんだが、とりあえず、この隠れ家にいるてめぇらは・・・・サキュバスインキュバスは第五階層支配者と戦う意志はあるのか?」


「・・・・・・・・・第五階層支配者と戦う意志、ですか」


 眉間に皺を寄せ、悩まし気な声をこぼす老婆のサキュバス、ディオネア。


 その反応から見て、ドロセラたちとは違い、この老人には第五階層支配者と戦うことに何らかの拒否感があるように感じられた。


 俺はその様子に舌打ちをし、威圧的に老婆に近づき、見上げる。


「そうだ。俺はすでに第四階層を掌握している。そこに住まう奴ら、配下たちの憂いを消すためにも、悪いが第五階層支配者は邪魔なんでな。共闘する意思があるなら良いが、もし、敵対する意思があるなら・・・・容赦はしねえぞ??」


 俺の敵意を感じ取った背後のガルムたちが遠吠えを上げ始める。


 そんな、血に飢えたアンデッドたちが目を光らせるその光景をディオネアは冷静な目で見つめると、静かに目を閉じた。


「ー----分かりました。貴方様は新たなる魔族の王。そのお言葉に従いましょう」


 そう言って、老婆は深く頭を下げた。


 そんな彼女に、ドロセラは困惑気に声をかける。


「・・・・あの、長老。奴らは貴方のー---」


「長老様!!!!!! 大変です!!!!!」

 

 突如、洞窟内に叫び声が響き渡る。


 声の出どころを確かめるために見上げてみると、空中にバサッバサッと翼をはためかせながら、洞窟の奥からこちらに向かってくる青紫色の肌の男がいた。


 ウトリクラリアと似た様相をしているので、彼もこの筋肉達磨と同じインキュバス、なのだろうか。


 モジャモジャの天パの彼は、ディオネアの前に降り立つと、息を荒げながらまくしたてるように口を開いた。


「た、大変です!!!! インプたちが・・・・インプたちが、森に火を!!!!!!」












「煙幕で目眩しされたって話だったけど・・・・確か、そのアンデッドが消えたのって・・・・この辺り、だよねぇ??」


 空中から森を眺めながら、第五階層支配者であるこの私、ムレアは不気味に微笑む。


「私の可愛い可愛いインプちゃんたちの包囲網をくぐれるだなんて、間違いなく幻惑魔法によってのものだしぃ?? ようやっと、あのババアの居所が分かった、といったところかしらね」


 私の背後を飛ぶ、松明を持つ数百体ものインプたち。


 肩ごしに彼らにほほ笑むんだ後、私は大きく口を開いた。


「みんなー!! やっちゃって!!!!」


 手を眼下の森に指し示し、そう叫ぶのと同時に、インプたちは森へと降り立ち火を点けはじめる。


 瞬く間に広がっていくそのオレンジ色の炎の色に、私は思わずキャッキャと空中ではしゃいでしまっていた。


「あはははははははははははははっ!!!! いくら上位の幻惑魔法でも、炎の中で隠れ潜むことなんてできないでしょぉう!! ほらほら~大人しく出てきなさー---」


「【エンファイア】!!!!!」


「!?」


 突如、真横から高速の火球が飛んでくる。


 それはどう見ても、ただの低位の魔法、【エンファイア】に相違ない。


 魔防耐性が高い自分にとってそれは、その身に直接受けても造作もないもの。


 だが、その火球に宿る不気味な気配に、私は思わず回避の行動を取ってしまった。


 空を旋回し、瞬時にその火球を避ける。


 青い火球が目の前を通り過ぎる寸前、その燃え盛る火炎に漂う明確な死の予感に、ゴクリと唾を飲み込む。


 そして火球が森の中に落ちていくのを見届けると、火炎が飛ばされた方向へと静かに視線を向けた。


「・・・・何者?」


「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃ~~~!!!! な、何で、私がこんな目に~~~!!!!!」


「おぉ・・・・SPかなり消費してたんだが・・・・【エンファイア】はまだ撃てるみてぇだな。果たしてあと何回撃てるかどうか分からねえのが不安なところだが・・・・現状、悩んでいても仕方ねえか」


 泣きじゃくりながら下級アンデッドのジャック・オー・ランタンを抱えて飛ぶ、見たこともないサキュバスの少女。


 まぁ、300年前の内乱の時に強いサキュバスとインキュバスはあらかた殺したから、あれはどうせ造作もない雑魚なんでしょうけど・・・・・。


 私ため息を吐きながら、やれやれと頭を振る。


「何か変な気配が宿ってる【エンファイア】だったから、どんな魔物が現れたのかと思って身構えたんだけど・・・・現れたのはただの雑魚サキュバスと雑魚アンデッド?? はぁームレアちゃんも勘が落ちたわねぇー」


 私のその発言に、カボチャ頭の低級アンデッドは、挑発的な笑みを浮かべる。



「てめぇがこの第五階層支配者のムレア、って奴か? ふーん? 姿形身なりはケルベロスの奴よりも大したことはなさそうだな?」


 その挑発的な物言いに、私はピクリと眉をひそめる。


「あんた、誰にもの言ってるか分かってんの??」


「あぁ? ったく、階層支配者っつーのはどいつもこいつも偉そうな奴ばかりだな、オイ。良いからてめぇ、第五階層支配者の席、黙って俺によこせや」


 そう言って、ジャック・オー・ランタンは眼前に再び青い火球を浮かべたのだった。


  

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