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第6章 養殖場の森 ④


「あちゃぁ・・・・やっぱり気絶してしまいましたかぁ・・・・」


 倒れ伏したウトリクラリアを見おろしながら、ドロセラは呆れたように息を吐く。


 そしてその後、彼女は俺の方へと視線を向けると、申し訳なさそうな顔をして深く頭を下げてきた。


「ごめんなさいです、アンデッドさん。こう見えてこいつ・・・・ウトリは人一倍臆病な奴なのですよ」


「臆病・・・・・? このムキムキ野郎がか?」


「はいです。このムキムキ野郎はその筋骨隆々な見た目とは裏腹に、虚勢だけで生きているとても臆病な男なのです。だからきっと、アンデッドさんたちに睨まれて内心ガクブルだったことだと思いますですよ、はい」


 そう言ってドロセラは頭を上げると、倒れ伏すウトリクラリアの腕をつかんで、ズルズルと後方へと引っぱっていった。


 そして、肩ごしにこちらに顔を見せると、静かに口を開いた。


「そろそろインプたちの巡回の時間なので、続きは中でお話しましょう。ついてきてくださいです」


「中・・・・?」


 そう疑問の声を上げながら、俺はドロセラの向かう先ー---彼女の背後へと目を向けてみる。


 だがしかしそこにあるのは、先程ウトリクラリアが落ちてきたであろう巨大な大木の姿だけだった。


 他に家らしいものも、道らしきものもない。


 どこかについてこいと言うドロセラのその言動と、辺りに何も見当たらないその光景に、俺は思わず首をかしげてしまう。


「ついてこいって、いったいどこにだよ? お前は何を言って・・・・って、オイ!?」


 ドロセラは後方を確認もせず、自分より倍も大きい男を引きずりながら、後ろ向きに大木へとぶつかっていく。


 その小柄な身体では、例え力いっぱい押したとしてもびくともしないであろう大木だ。


 数秒先には彼女のその身体は大木によって弾かれ、ドロセラは引きずっていた男の上に覆いかぶさるハメになっていることだろう。


 そんな未来を推測していたのだが・・・・しかしー----。


「よいしょ」


「・・・・・へ?」


 大木にぶつかるどころか、彼女の身体は何故かスルリと木の中へと溶けて消えていったのだった。


 その光景に俺は思わずポカンと口を開けて、啞然とした顔をしてしまう。


「早く来てくださいアンデッドさんー。いつまでもそこに立っていると大変なことになりますよー」


「へ・・・・? 大変なこと・・・・?」


 そう、木の中からドロセラに声をかけられた、その時。


 まるで雨雲がかかったかのように急に辺りが暗くなり始めたことに、俺は気が付いた。


「・・・・・・・・なんで突然、こんなに暗くー---」


 不思議に思い、空を見上げてみる。


 するとそこには、空一面を覆いつくすかのように広がっている分厚い巨大な雲の姿があった。


「何だ、雨雲か?・・・・いやいやいや、地下で雨??」


 地下に作られたこの空間で雨雲が発生するのはどうにもおかしい気はするが・・・・いや、太陽がないのに周囲が明るかったり、木々などの植物が生えていたりと、そもそも他の階層と比べてここはどうにもおかしいことばかりなんだけどな。


 けれど、まぁ、この何でもありな階層だったら雨くらい降るかもしれない、か・・・・・ここは一先ずそう納得することにしておくとしよう、うん。


 全て魔法による産物か何かによるものなのだと受け入れていかなければ、脳がパンクしていちいち状況についていけなくなるからな。


「そりゃ、草木が生えているんだから雨水がなきゃおかしいか・・・・・」


 そう言ってうんうんと頷き、自分を無理やり納得させていく。


 けれど、そう結論付けても、何故か俺は空に浮かぶあの黒い雲から目が離せなくなっていた。


「ふむ・・・・? あの雲は何かが、おかしい、か・・・・?」


 何か妙な違和感を感じた俺は、空をジッと見上げ、ドス黒い雲をまじまじと見つめ続ける。


 すると突如、端にある雲の一部が粒子のように溶けて、分散していく光景が目に入ってきた。

 

 その粒子はどうやらまっすぐとこちらに向かって飛んできているようで、明らかに意志がある生命体のように見受けられた。


「まるでハエか何かの群れみてぇだな・・・・って、おいおいおいおいおい!?!?!?」


 雲の粒子が上空50メートル先程にまで近づいてきて、俺はようやくその正体がいったい何なのかを悟る。


「・・・・噓、だろ?? まさか、あれ、全部ー----」


 数百体、いや、数千体ほどはいるだろうか。


 遥か上空に浮かぶあの巨大な雲ー----そこから向かってくる、どこかで見たことのある様相の小さな影の群れ。


「ゲギャギャガギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャ!!!!!!!!」


 黒板を爪で引っ掻いたかのような不快な金切り声が、辺りに鳴り響く。


 そしてその声と共に、蝙蝠のような翼が生えた小柄な体格の獣人の姿が目に入ってきた。


 「インプ、だと・・・・!?」


 大きな雲。


 その全てがインプの群れだと理解できた瞬間、今自分がとんでもない窮地に立たされている状況なのだということが、冷静に把握できた。


 そして、俺はすぐさまアンデッドたちに臨戦体制を取るよう指示し、自分も攻撃の姿勢を取って魔法を発動させた。


「【ヘル・エンファイア】!!!!!!!!!」


 躊躇などしていられない。


 今すぐに自分が放てる最大の魔法を最高火力で放っていかなければ、俺は奴らに袋叩きにされ、ここで終わりだ。


 息を吸い込み、火炎の球をチャージし、すぐさま吐く。


 その瞬間、上空へと巨大な火炎の柱が伸びていった。


 その業火によって焼かれ、まる焦げになったインプがボトボトと森の中へと落ちてくる。


 だがしかし、目の前の黒い雲は一向に数が減る気配はない。


 広範囲に火炎の息を吐く【ヘル・エンファイア】といえどもその射程は精々半径10メートルといったもの。


 見る限り数千体以上いるであろう、上空一面に広がるインプたちを同時に全て焼き尽くすほどの威力も射程も、この魔法には無かった。


 それに、この魔法は数秒チャージしなければならないといった弱点もある。


 その隙に距離を詰められ、囲まれて攻撃されれば、一巻の終わりだ。


 近距離で幻惑魔法を使われたら即KO。


 この戦闘は、奴らをこちらに近づけさせないように長距離で牽制するしかない、そんな、こちら側が圧倒的不利な状況といえる戦いだった。


「ええい、まだ試したことのない魔法だが・・・・悩んでいる暇なんてねえかッ!!」


 ケルベロスから奪って新たに会得した、疾風属性魔法、【ウィドー・デス・レイシア】を使う意思を固める。


 この魔法はケルベロスが俺と闘った時に一回も使用していなかったため、いったいどういう効果のものなのかは定かではない。


 けれど、今のところ能力を奪った魔物の中で広範囲魔法を使えていたのはケルベロスだけであったため、今は実験的な賭けだとしても、絶対的窮地のこの状況では使わざる負えないタイミングであるといえるだろう。


「チッ!!」


 こうなる前に新しく奪った魔法は試し打ちして、効果を確認しておくべきだったと、激しく後悔する。


「クソッ、今更ミスを悔やんでいてもしょうがねえ!! 今は吉と出るか凶と出るか祈るくらいしかできねえが、果たしてー---【ウィドー・デス・レイシア】!!!!」」


「グギャッ!?」


「お? おぉ?」


 呪文を唱えたその瞬間、目の前に巨大な竜巻が巻き起こり、空中を飛び回るハエのようなインプたちを瞬く間に飲み込んで前へと進んでいった。


 【ヘル・エンファイア】と違って、チャージする時間が無く、すぐに魔法が発動できる点は素晴らしい。


 だが、これも射程範囲は10メートル程度といったもの。


 しかも、前へ進むごとに竜巻のそのサイズは小さくなっていき、終いには空気に解けて消えてしまう始末だった。


 この魔法も【ヘル・エンファイア】と一緒で、明らかにあの空に浮かぶインプたちを一掃できる代物ではないといえるな。


 期待外れのその効果に、思わず舌打ちをしてしまう。


「チッ!! 次は・・・・・ええと、【シャドウ・エンファイア】!!!!!!」


 また、ケルベロスから奪った効果不明の魔法を放っていく。


 今度の魔法は、自分の周りに半径1メートルほどの円形の影が浮かび上がらせ、そこから黒い炎の壁を出現させて自分の周りをガードするというバフ効果のあるスキルだった。


 これは・・・・見る限り、どうやら純粋な攻撃タイプの魔法ではないと見受けられる。


 いうなれば防御魔法、敵の攻撃を牽制するためのカウンターに近いものなのだろう。


 またしても求めていたものと違うその魔法の効果に、俺は再度舌打ちをしてしまう。


「クソッ!! じゃあ次は、ケルベロスから奪った最後の攻撃魔法、【ダーク・スパイク】をー----」


《報告致します。現在、残存する残りSPが不足しているため、【ダーク・スパイク】を使用することはできません。【ダーク・スパイク】発動に必要なSP180で、残りSPは20です》


「・・・・なん、ですと??」


 SP不足、これは頭に入っていなかった。


 何たって今まで俺はどんなに魔法を使ってきても、SPが枯渇することがなかったからだ。


 ケルベロス戦の時に使っていた【エンファイア】がそうだったように、連続して魔法を使っても魔法が使えなくなる、なんてことは今まで一度も起こったことはなかった。


 これは・・・・新たに得た魔法のSP消費が、今まで使ってきた【エンファイア】、【アンデッドドール】、【リビングデッドコントロール】に比べて、多くの燃費を要する、ということなのだろうか。


 だとするならば・・・・これからは考えなしにばかすかと【ヘル・エンファイア】だとか【ウィドー・デス・レイシア】だとかを使えはしないな。


 残りSPを十分に考えて魔法を使っていかなければ、それこそ死活問題に陥ってしまう。


 ・・・・・いや、まぁ、今現在、実際に死活問題になっているんだけどね、うん・・・・・。


 「クソッ!!!! 魔法が使えない!!!! なら残る手はー---」


 俺は、デュラハン・ゴブリンナイトに自分を抱えさせ、周囲のアンデッドたちに踵を返すように指示を出す。


 逃走。


 今考えうる最良の手はこれしかない。


(物理で殴り合うだけならインプ共がゴブナイやガルムに勝てる道理はないんだが・・・・・だが、ステータス値が貧弱なインプたちには、幻惑魔法という切り札があるからな・・・・)


 ドロセラが使用していた透明化魔法を除けば、インプたちが使う幻惑魔法は基本的に、射程範囲が極めて近距離なものだ。


 なので、近づかれなけば全くもって害はないといえる。


 けれど、もし、その射程範囲に入ってしまったのなら・・・・・あの雲の群れに、数千匹に一気に幻惑魔法をかけられでもしたら・・・・・周囲の世界全てが幻で作り変えられ、俺たちは確実に幻の檻に閉じ込められてしまうことになるだろう。


 だから、いくらステータスが勝っているといえども、奴らと近距離で戦闘をするのは確実に悪手。


 このパーティで唯一遠距離攻撃ができる俺のSPが枯渇してしまった時点で、最早逃走するしか俺たちに打つ手は残っていなかった。


「逃げるぞお前ら!! 早く俺についてこー----」


「何してるんですか!!!! こっちです!!!!」


 配下のアンデッドたちと逃げ出そうと背後を振り返った瞬間、ドロセラが消えていった大木の中から突如手がニョキっと生え、こっちこっちと手招きしてきた。


「手が、生えてる・・・・?」


「何馬鹿なこと言ってるですか!! 私ですです!!!!」


 木から顔が生える。


 そこに生えてきたのは、左目がピンク髪に隠れた赤紫色の肌のサキュバスの少女、ドロセラだった。


「早くこっちに来てください!! 奴らにこの幻惑魔法の存在がバレたらやばいんですよぉう!!!!」


「え、何!? その木、幻惑魔法かかってんの!?」


「そうですよぉう!! 中はただの洞窟になっていますです!! ですから早く、バレずにここまでー---」


「いやいや、バレずに、とは言ってもだな」


 ドロセラの姿は木の木陰に隠れているから発見されてはいないだろうが、俺たちの姿はもうすでに上空にいるインプたちに発見されている。


 なのでこのままその木の中へ入っていったら、奴らの接近スピードを鑑みるに・・・・まず間違いなく俺たちがこの大木の中に消えて行ってしまう決定的な瞬間が見られてしまうだろう。


 そうなった場合、ドロセラたちも道連れにしてしまう可能性が非常に高い。


「木に入らずそのまま逃げたところで、空を飛ぶ奴らを撒けるかどうかは分からねえし・・・・クソッ!! いったい、どうしたら・・・・・」


「グルルル・・・・」


 その時、スカル・インプが骨の翼を広げて、上空へと飛んで行った。


「お、おい!? お前!?」


 俺の呼び声にも反応せずに、スカル・インプはまっすぐと進んでいく。


 奴が向かう先、それはー---数千体ものインプが飛ぶ、群れの先頭だった。


「ゲギャギャガギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャ!!!!!!!!」

 

 インプたちは嗜虐の笑みを浮かべながら、たった一匹で向かってきたスカル・インプに対して嘲笑の声を上げる。


 そして、群れの殿を勤めていた数体のインプは、手のひらの上に氷で作られた槍のような魔法を発動させると、容赦なくその切っ先を・・・・スカル・インプへと放っていった。


「グフッ!!!!」


 あばら骨に氷の槍が複数本突き刺さり、スカル・インプの下半身の骨はバラバラとなって下へと落ちていく。


 だがしかし、上半身だけ残ったスカル・インプは・・・・何故かその顔に勝ち誇った笑みを浮かべていた。


「グルルァッー-----!!!!!」


 そうスカル・インプが最後の断末魔を上げた、その瞬間。


 突如スカル・インプの体から黒い霧が噴き出し、瞬く間に周囲のスカルインプたちを霧が飲み込んでいった。


(あいつ、もしかして先頭にいる群れに特攻して幻惑魔法をー----)


《報告 支配下にあるスカル・インプの1体が撃破されました》


 そのアナウンスの声が流れた瞬間、俺は即座に、アンデッドたちを引き連れて木の中へと向かって走り出す。


 あいつが死んだ今、幻惑魔法はすぐに解除されてしまうことだろう。


 だからこそー---奴の決死の行動に報いるためにも、俺たちはインプたちが目をくらましているこの刹那に、早急に逃げ出さなければならない。


 奴が命を懸けて作ってくれたこの時間を、無駄に過ごすわけにはいかないからだ。


「ありがとよ、スカル・インプ。てめぇの仇はいつか絶対取ってやるぜ」


 そう言葉を残し、俺たちは大木の中へと消えていった。














 「え~~?? 第三牧場の家畜のお世話係してたインプちゃん、やられちゃったの~~~??」


 洞窟の鍾乳石に逆さまにぶら下がりながら、第五階層支配者、ムレアは大きくあくびをする。


 そんな彼女の前で、一匹のインプは怯えた表情をしながら、口を開いた。


「・・・・ゲギャ、ゲギャグガガガ、ウガ」


「うんうん、そっかそっか。その後、巡回兵団たちが第三牧場付近で謎のアンデッド集団を見つけた、と・・・・それで? そいつらはちゃんと幻惑魔法をかけて捕まえておいたのー??」


「グギャギャ、ヌガ・・・・」


「はぁ!? 何やってんの!? たかがアンデッドすら捕まえられないって、いったい全体どういうことなのよ!!!!!」


 蝙蝠のような翼を大きくはためかせ、ムレアはひれ伏すインプを威圧するように声を荒げる。


 そんな彼女に対して、インプは萎縮するように肩を縮ませた。


「ったく、このクソ忙しい時に限ってまた面倒ごとが・・・・・って、あーもう、噂をすればあのキモジジイからまた【コンタクト】の魔法が使用されたわ。もういいわあなた、いきなさい。また何か妙な動きがあったらすぐにあたしかシアナに教えるようにね。分かった?」


 その言葉にインプは静かにうなずくと、そそくさと洞窟の中から出ていった。


 その姿を見届けてから、ムレアは耳に手を当て魔法を発動させる。


「もしもし。何か用? お爺ちゃん」


『カッカッカッカッ!!!! 相変わらず余に対して失礼極まりない呼び方をするのう、貴様は。利用価値が無ければ即座にその首、たった斬ってやるところじゃて』


「うっさい爺さんねー。呼び名なんてどうでも良いじゃないー」


『同盟を組んだといえども、余は貴様の数百代前から階層支配者として君臨している年長者じゃ。目上、強者の者には敬意を持って接する。それが魔物の矜持。違うかね??』


「あー、はいはいはい。一応、あたしなりにあんたには感謝しているのよ?? あんたのゴブリンとうちのサキュバスを交配させた新たな夢魔族、インプのおかげで、あたしたちは第五階層支配者になれたのですからねー」

 

『そうじゃ。余はお主に多大な力を貸してやったはず。それなのに、貴様ときたら・・・・』


「あー、もう、小言はいいわよ!! あたしだってゴブリンの交配相手として人間の雌をあげてんだからさ!! お相子でしょ!!」


『ふん。確かにそれに関しては我が階層の配下たちも皆、お主に感謝しておるのう。我らゴブリンの祖がこの迷宮に閉じ込められて早5000年。他種族の雌、特に人間がいなければゴブリンは繫殖することが難しい種族。故に、人間の雌が冒険者以外に滅多に現れないこの迷宮は、我らが生きていくには少々辛いところがあった』


「その問題をあたしが解消させてあげたんだから感謝しなさいよねー」


『ふむ。だが、余の真の目的は別にある。貴様もそうじゃろう?? 夢魔の末裔よ』


 そのしわがれた声にフンと、ムレアは鼻を鳴らすことで応える。


『余はタナトスを怒らせ、彼奴の力によって第三階層から第四階層に大穴を開けてやった。いや、五階層まで続いておるかの』


「これで大階段以外にも、各階層を繋ぐ道が出来上がった、と。ふーん? とても奇襲がしやすくなったわね??」


『いかにも。これで準備は万端じゃ。貴様は第四階層支配者ケルベロスを、ワシはタナトスを。勿論、事前に話してあった、そのための作戦の要である宝具はちゃんと見つけておるのだろう??』


「まぁ、ね。けれど問題としては、あんたの持ってる古い書物に乗っていた・・・・第四階層の宝具、【空間断絶の宝剣】・・・・だったかしらね?? 言い伝えの通りならアレは宝具の中でもかなりヤバイ代物なんじゃない??」


『そうじゃな。あの宝剣には亡き魔王の絶技が宿っているらしいからな・・・・とは言っても、あの階層の支配者はバカ丸出しのケルベロスじゃ。恐らくは各階層に眠る宝具と宝玉のことも知らないだろう。別段、何も問題はなかろう?』


「そうね。あのバカは、あたしたち夢魔族の幻惑魔法で動きを止めることは容易に簡単でしょうし。それじゃ・・・・」


『うむ。作戦決行の予定日まで、力を温存させておくとしよう。貴様も、無駄な魔力を消費せぬようにな』


「ハッ! 誰に言っているのかしら?? この第五階層支配者のムレア様を傷つけられる魔物などこの世にいるはずがないわ!!!!」


 そう言い残し、ムレアは【コンタクト】の魔法を解除して、大きくため息を吐く。


「はぁ・・・・ったく、面倒くさいわね。宝具を手に入れるためには、早急にあいつを探さなきゃならないなんて・・・・まったく、骨が折れるわ・・・・・」


 そして鍾乳石から足を離し、ムレアは翼をはためかすと、天井にある吹き抜けの穴から優雅に飛び去っていった。


「あ、あぁぁ・・・・」


 誰もいなくなった洞窟内に、うめき声が響き渡る。


 その声の正体。


それは、洞窟の壁に背を付け、両手を縛られて座る、虚な目をした1人の修道女のものだった。


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