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第1章 新たなる魔王の誕生 ②


 高校時代、壮絶ないじめに遭った俺は人間不信に陥り、以来10年間実家で引きこもり生活を送っていた。


 朝昼晩、扉の前に置かれているメシの乗った皿を受け取る以外、部屋から出ることはほとんどない。


 毎日することと言えば、深夜アニメを見るかゲームをするか・・・・親のクレカを使って購入した電子書籍を読むかのいずれかだ。


 そんな、自堕落で生産性の無い日々が、俺の毎日だった。


 これからも、この生活は続いていくのだろう。


 俺はそう信じていたし、親が死ぬまでは部屋の外に出ることは無いと、そう思っていた。


 しかしーーーーーーーーー。



「・・・・・何で、俺、カボチャになってんだ??」



 水溜りに映る自分の姿に、困惑の声を溢す。


 何故ならそこに映っていたのは生前の自分の姿ではなく、ハロウィンの飾り付けに使われる顔が彫られたカボチャだったからだ。


 目、鼻、口を模した穴の隙間から、炎のような明るい煌めきが見て取れる。


 水面に近づき目の穴を覗き込んでみると、中身は空洞になっており、小さな青い炎がカボチャの中でゆらゆらと揺らめいていた。


 その意味不明な自身の姿に、俺はますます混乱の渦に巻き込まれていく。


「た、確か俺、あの化け物にぶっ殺されたよな?」


 まだあの怪物は何処かにいるのか!? 


 慌ててキョロキョロと辺りを見回してみる。


 しかし、周囲を確認してみてもそこにあるのは深い闇が広がる世界で、自分以外の存在が他にいるのかは正確に把握できなかった。


 けれど、一度対面したあの圧倒的な気配は決して忘れることはできないものだった。


 現在、あの身の毛がよだつようなオーラはこの場所では全く感じられない。


 そのことから鑑みて・・・・・・・多分、あの化け物は近くにいないと判断しても良いだろう。


 俺はホウッと、安堵の吐息を吐く。


(・・・・しかし、何で俺の周りだけこんなに明るいんだ・・・・?)


 何故か自分が居る半径3メートル程の周囲だけが、光に照らされたかのように明るくなっていた。


 その現象に頭を傾げていると、ふいに先程確認した自分の姿が脳裏によぎる。


(あぁ、そうか、頭の中に炎が舞ってるんだもんな。そりゃ俺自身がランタンみたいになってるんだから明るいか・・・・ハハハ・・・・)


 理解し難い現実の連続に、俺は思わず乾いた笑い声をあげてしまっていた。


「ま、待て待て落ち着け俺よ。まずは現状整理だ」


 こうなる前の記憶。


 俺は、家で引きこもってゲームをしていた。


 そしていきなり訳の分からない場所に移動させられ、そこで化け物に殺されて・・・・挙げ句の果てにカボチャになってしまった、と。

 

 いやいやいや、意味が分からなさすぎるだろ、何だよこの状況・・・・。


 はっきり言って、信じられない情報ばかりで脳がパンクしそうだ。


「ま、まぁ、考えても解決することは何もないし? とりあえずここから移動してみるか?? またいつあの化け物がここにやってくるか分からねえしよ・・・・」


 ここに居ても得られる情報は何もない。


 そう判断した俺は、前のめりに体重を掛け、ピョンピョンとジャンプするように跳ねて暗闇の中を進んでいった。


 





「はぁ〜すっげぇ、なんじゃこりゃ」 



 数分程真っ直ぐと暗闇の中を進んでいくと、突如明るく視界が開けたフロアに辿り着いた。


 そこには、とても美しい風景が広がっていた。


 紫色の光り輝く結晶の柱が天井から突き刺さって生えており、それらがまるで照明のように洞窟の中を明るく照らし出している。


 地面には淡く白い光を放つキノコが所狭しと生えていて、とても幻想的な雰囲気を演出していた。


 俺はその光景にただ我を忘れ、ポカンとした表情のまま、その美しい世界の中にピョンと足を踏み入れる。


 すると、その時ーーーーーー。


「キシャァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!!!」


「うわぁっ!?!?」


 ボトッという音と共に、突然目の前に1匹の蜘蛛が落ちてきた。


 見た感じ、小型犬くらいのサイズはありそうな巨大な蜘蛛だ。


 昔から虫が大の苦手だったため、その姿に思わず「ヒィッ」と、か細い声を漏らしてしまう。


(い、いったい何なんだよあの蜘蛛!!!! タランチュラなんか比にならねえくらいでけえぞ!!!!)


 ゆっくりとこちらににじり寄ってくる蜘蛛に、俺は同じ速度で静かに後退する。


(ど、どうする!? 明らかにこちらに敵意剥き出しだし、逃げるのが最善だとは思うんだが・・・・・果たして、跳ねるしか移動手段がないこの体で、コイツを振り切れるのか・・・・!?)


 追い払おうにも、こちとらただのカボチャだ。


 どう足掻いても、相手に対して脅威を感じさせることはできないだろう。


 (チッ、じゃあ、戦うか・・・・って、いやいやいや! この手足のない身体で!? 無謀にも程がありすぎだろ!!)


 突如、戦うという選択肢が上がってきた自分に違和感を覚える。


 俺は人生で一度も“戦った”という経験がない。


 学校からも、親からも、社会からも、今までずっと逃げ続けてきた。


 だから、自分が逃げ腰が染み付いた人間だということは、俺自身1番よく分かっていた。


 それなのに、何故俺は今、この蜘蛛の化け物と戦おうとしたのか。


 何故、蜘蛛に恐怖する自分に苛立ちを感じたのか。


 まるで自分が自分じゃないような感覚がして、不思議な気分だった。


(まぁ、かといって戦う方法なんてねーんだけどな。やっぱここは決死の思いで逃げるのが得策か・・・・)


《報告 スキルポイント30を使用して炎熱系魔法【エンファイア】を習得することが可能です。習得なさいますか?》


(へ?)


 突如脳内に、人工音声のような女性の声が鳴り響いてくる。


(ま、魔法? 何だかRPGゲームとかラノベに出てきそうな単語だな・・・・・って、待てよ? もしかして今の俺の状況って・・・・異世界転生って奴なのでは??)


 正直、そんな創作上のファンタジーな展開、現実に起こるなど到底信じられそうにはなかったが・・・・それ以外、この状況を説明できる事象が思い当たらなかった。 


(今の状況が異世界転生した結果なら・・・・)


 仮にそう仮定するならば、恐らく、俺は現実世界から異世界に飛ばされた直後、あの化け物に殺され、違う生物として蘇ったのだろう。


 これが今、考えられる限りの俺に起こった事象の背景だった。


 まぁ・・・・・何でカボチャに生まれ変わったのかはマジでよく分からないけどな。

 

 そう頭の中で考えをまとめていると、蜘蛛が尻を蠍のように折り曲げ、こちらに向かって糸を噴射してきた。


「うわぁっ!?!?」


 ネバネバとした気持ちが悪い糸に絡め取られ、こてんと、頭が横に倒れてしまう。

 

 そんな俺に向かって蜘蛛は鋭い2本の牙を見せると、嬉々とした雰囲気で俺の身体に飛びかかってきた。


「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! な、何でも良いから、早くそのエンファイアって奴習得させてくれ〜〜〜!!!!!」


《畏まりました。スキルポイント30を消費し、【エンファイア】を習得します》


《・・・・適性確認成功。【エンファイア】の習得に成功しました》


 その瞬間。


 俺の身体が炎に包まれ、絡み付いた糸を消し去った。


 そして口からベースボール程の大きさの炎の玉が出ると、目と鼻の先に前に迫っていた蜘蛛を焼き払ったのだった。


 蜘蛛は身体に付いた炎に驚くと、ひっくり返り、地面の上をのたうち回り始める。

 

 そして数秒ほど悶え苦しむと、黒焦げになって息絶えていった。


 俺は唖然として、自身の体に起きた変化に驚く。


「まるで手足のように・・・・炎を自在に操ることができたぞ・・・・・?」


 それは、失った手足を取り戻したかのような不思議な感覚だった。


 初めて使った魔法に驚愕の表情を浮かべていると、再び脳内にアナウンスが流れてくる。


《レベルが2に上がりました》

《基礎ステータス値がアップしました》

《HP20→25》

《SP30→35》

《攻撃力6→7》

《防御力8→10》

《俊敏性16→17》

《魔法攻撃力18→22》

《魔法防御力24→25》


《50スキルポイントを獲得しました》


《習得可能な魔法は以下の通りです》


《情報魔法 アナライズ 消費ポイント10》

《死霊系魔法 アンデッドドール 消費ポイント50》


《残り合計スキルポイント 120》



「・・・・・・・・・・・」


 ステータスアップか。


 なるほどなるほど・・・・。


 どうやら俺は本当に、RPGゲームのような世界に転生してしまったようだな。


 元々ドラクエとかFFとかその手のゲームが大好きだったために、思わずテンションが上がってしまうな、これは。


「よーし!! どうせ前世は怠惰を貪るだけのニートだったんだ!! せっかく異世界で新たな命を貰ったんだから、今世はこのカボチャの体でどこまで強くなれるか試してみ・・・・・」


 その時、背後からボトボトボトボトボトと、何かが大量に落下する音が聞こえてくる。


 俺は汗を垂らしながらゆっくりと背後を振り返る。


 すると、そこにはーーーーーー地面を埋め尽くすほどの大量の蜘蛛たちが、俺に対して敵意を剥き出しにし、毛を逆立て威嚇している姿があった。


 「い、いや、あの、こんな量は、ちょっと・・・・」


 先程の火球の大きさでは、せいぜい倒せるのは一体分。


 連射できたとしても、この量じゃ間違いなく背後を取られて終わりだろう。


 俺は「あ、あははは・・・・」と引き攣った笑い声を上げながら一歩後退する。


 そしてーーーーーー。


「調子乗ってすんませんでしたぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 大声をあげ、闇の中へ全速力で引き返し、跳ねていった。


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