第6章 養殖場の森 ①
「こうも暗闇が続くと、全くもって時間間隔が分からなくなってくるな・・・・」
あれからいったい何分、いや、何時間経ったのだろうか。
ルーナとヴァイス、そしてヤオと白蜘蛛ちゃんたちと別れてから現在に至るまで、どれほどの時が経過したのかがまるで分からない。
俺は、螺旋階段を駆け下りるデュラハン・ゴブリンナイトの腕の中から眼下を見下ろす。
もうすぐ底が見えてもおかしくないと思ったのだが・・・・・階段の下にはただただ深い闇が広がるばかりで、地上から見下ろしていた時と何ら景色に変化は見当たらなかった。
その代り映えのしない光景に、俺は思わず重たいため息を吐いてしまう。
「はぁ。いったいいつになったら底が見えるんだ?? 第三階層と第四階層の距離はそうでもなかったように見えたんだが・・・・」
第三階層の天井は、第四階層から15メートル程のところに存在していた。
15メートルは、マンションなどのビルでいえば4,5階程度の高さだ。
4,5階のビルなど、ゆっくり降りても3.4分ほどで下り切れる高さだろう。
それなのに、何故、俺は未だに階段を下りきることができていないのか。
何故、何時間も階段を降り続けているのに、第五階層の入り口は未だに見えてこないのか。
俺には今の現状が、まるでキツネにつままれたような感覚に陥ったようで、不可思議でしょうがなかった。
「マジで意味が分からねえなこれは・・・・まるで、何者かに階段を降りることを妨害されているようなー---」
そういえば。
第五階層へ向かう前に、ルーナは、夢魔族について詳しく教えてくれてたな。
たしかあいつは、こう、忠告してくれていたような・・・・・・。
『良いですか、ジャック様。夢魔族は、特別目立ったステータス値を持たない貧弱な魔物です。ですが、攻撃力やHPが他より劣る代わりに、強力な魅了魔法と幻惑魔法を得意とする種族であり、そのどちらかに対する加護や耐性が無い場合・・・・非常に厄介な敵として立ちふさがることになるでしょう』
魅了魔法と幻惑魔法。
これもルーナから聞いたが・・・・魅了魔法というのは自分よりもレベルが低い相手を意のままに操ることができる、現存する魔法の中でもとにかくチート級の、最強に等しい一撃必殺の魔法らしい。
けれど、成功率が低く、尚且つ夢魔族はレベルもそこまで高くはないため、あまり気にする魔法ではないとルーナは言っていた。
しかしもうひとつの魔法ー---幻惑魔法は、かなりヤバイ代物なのだと、彼女は俺に忠告してくれていた。
『幻惑魔法というものは魅了魔法と違い、特に難しい発動の条件もなく、加えて発動成功率が高いとても強力な魔法です。そして一度幻惑状態に陥ってしまうと自力で抜け出すことは難しくなってしまい、下手をすれば一生死ぬまで幻の牢獄の中・・・・なんていう事態に陥ってしまう可能性もあります』
『・・・・なにそれ、夢魔族強すぎじゃね?』
『そうですね・・・・単純な魔法の強さだけであれば、この魔窟の迷宮において最も強い種族ではあります。ですがー----幻惑魔法には弱点、対処法があります』
『それは・・・・?』
『魔法を発動できる範囲が狭いのです。なので、一気に広範囲に攻撃できる魔法か戦技があれば、隠れている使用者にダメージを与えることができ、無理矢理術を解除させることができます』
そう口にすると、ルーナは真剣な眼差しを俺へと向けてきた。
『良いですか。これだけは忘れないで下さい。何か状況が妙だな、おかしいなと感じたら、すぐに周囲へ攻撃を放つのです。そうすれば貴方様を捕らえようとしている幻は、塵となって消え失せるはずですから。幻惑魔法は1に状況変化の確認、2に範囲攻撃です。努々、お忘れなきようー---』
なるほど、な。
今のこの状況とルーナの言葉から鑑みるに、この無限階段地獄は間違いなく・・・・ルーナの言っていた幻惑魔法に陥ってしまったとみて、間違いないだろう。
俺はデュラハン・ゴブリンナイトから降りて、周囲にいるデュラハン・ゴブリンナイトとガルムたちを離れた位置、階段の下へと移動させる。
そして、充分アンデッドたちとの距離が取れたことを確認した俺は、ある魔法を詠唱し、発動させた。
「ー--------【ヘル・エンファイア】」
こいつは、ケルベロスが使っていた魔法だ。
広範囲の火炎の息を吐く、恐らくは【エンファイア】の上位に当たる代物。
あの周囲を焼き尽くさんとしていた威力を目の当たりにしていた俺にとって、今想像できる使用可能な範囲魔法というのはパッと思いついただけでもこいつしかない。
「さて、新しい魔法はいったいどのくらいの威力がー----んがっ!?」
突如、口が自動的に開き、火球、通常の【エンファイア】が目の前に現れる。
そしてその火球は口を開けている時間と比例してみるみるうちに巨大になっていき、数十秒後、そこにあるのはバランスボール程の大きさをした巨大な火炎の球に変わっていた。
(なるほどな。通常の【エンファイア】を数秒の間チャージして巨大化させる・・・・これはそういった魔法なのか)
魔法を使用した瞬間、その魔法がいったいどういう使い方をするのか自然と俺の頭に入ってきた。
新たな魔法の仕組みを理解し納得した後、俺は息を大きく吸い込み、その火炎の球を周囲へ吹きかけるようにして放っていく。
「フゥゥゥゥゥゥーーーーーッッッッ!!!!!!!!!!」
丸い身体を回し、回転させながら、辺りに炎の息を吐きかけていく。
すると俺の周囲一帯は青い獄炎に包まれ、螺旋階段の中腹にある踊り場は円形状の炎の柱に飲まれていった。
「グギャガギィヤギヤッッッッッ!!!!!!!!!」
全ての炎を吐き終わると、背後から痛みに苦しむ断末魔が聞こえてくる。
急いで後ろを振り向くと、そこにはー---全身濃いピンク色をした、身長50㎝ほどの、小さな小人が焼死体になって横たわっていた。
顔が出っ歯の生えたネズミで、腕や足は枯れ木のようにやせ細っており、逆に腹部はまんまると太っている・・・・例えるなら日本の妖怪の餓鬼のような体系をした魔物だった。
それと、背中に巨大なコウモリのような翼が生えていた。
その大きな翼が生えている特徴を事前にルーナから聞いていたので、こいつが夢魔族であることに間違いないだろう。
無事に夢魔族を倒せたことに、俺はホッと、安堵の吐息を吐く。
「これが、幻惑魔法、か。なるほどなるほど・・・・・。こりゃルーナから対処法を聞いておいてよかったな。でなけりゃ、幻だって気づかずに延々と階段を降りていたかもしれねぇぜ・・・・」
ルーナの言っていた、永遠と幻惑の牢獄に閉じ込められる可能性があるという言葉・・・・その言葉の意味を俺は完全に理解する。
そりゃ、違和感に気付かずに延々とあのまま階段を降っていたら、普通の生身の人間だったら疲れ果てた挙句に飢餓か脱水によって死んでいてもおかしくはない。
いつ幻惑魔法をかけられたのかすらも、気付くこともできなかったのは本当に恐ろしいな。
加えてまだ魅了魔法も持っているんだろうし・・・・ステータスが貧弱といってもかなりの化け物だな、このブサイクコウモリマン。
「あっ・・・・てか、炎で殺したら駄目じゃん・・・・・」
目の前で炭化し骨になったインプを見つめながら、俺は自身の過ちに気付く。
「【リビングデッドコントロール】で幻惑魔法と魅了魔法を奪いたかったんだが・・・・ま、まぁ、他の個体にこいつより良いステータスの奴いるかもしれないし?? 結果オーライ結果オーライ!! ガハハハハハッ!!」
炎で殺したといっても、殺意がそこまで魔法に乗ってなかったからか、骨は残っていたしね、まぁうん、良いでしょ。
失敗を前向きに捉えながら、俺はアンデッドとしてインプを使役すべく、【アンデッドコントロール】を目の前の死体へとかける。
《報告 【アンデッドコントロール】の効果により、スカル・インプが支配下に加わりました》
むくりと起き上がる、顔が鼠の巣骸骨、背中に骨の翼が生えた、小さなアンデッド。
そのアンデッドは俺に対して膝を付くと、静かに頭を垂れてきた。
「おぉ、何となく、ガルムよりは頭良さそうな雰囲気あるな」
とりあえず、どんな魔法を覚えてるのか【アナライズ】でチェックしてみるか。
俺は【アナライズ】を発動させ、スカル・インプのステータスウィンドウを目の前に表示させた。
【ステータス】
名前 スカル・インプ
Level 1
種族 アンデッド
年齢 0歳
クラス ウィザード
HP 58
SP 324
攻撃力 14
防御力 32
俊敏性 102
魔法攻撃力 212
魔法防御力 210
成長性 C
【習得魔法スキル】
○幻惑属性中位魔法 フィールド・ダズル
○幻惑魔法中位魔法 トランス・ペアレント
○魅了属性中位魔法 スピシーズ・チャーム
○氷結属性中位魔法 アイシクル・ランス
【習得戦技スキル】
なし
【耐性】
なし
【加護】
なし
「なにこれ弱ッッッッわ!!!!!!!!!」
この迷宮でこんなステータスの魔物、見たことがないぞ・・・・??
いや、転生した当初の初級ステータスの俺よりはまだ強いけどね? うむ・・・・。
にしても、強力な魅了魔法幻惑魔法使えるといっても、このステータスは・・・・防御力32って、フェンリルにだって一撃で倒されるぞ、こいつ・・・・。
本当に第四階層の黒狼族が怯えるほどの力を持った奴らなのか?と、思わず疑いそうになってしまうが、先ほどの幻影魔法の恐ろしさを知ってしまうと、なぁ。
単純な戦闘タイプってよりかは、デバフかけて状態異常にして弱らせるのがこいつらの基本的な戦法なのだろう。
ならば、単純な物理攻撃を好む黒狼族たちからすれば、搦め手ばかり使ってくるこいつらは厄介極まりない相手、ということなのかもしれないな。
俺は遠くに移動させていたアンデッドたちを呼び寄せ、再びデュラハン・ゴブリンナイトに俺の身体を抱えさせる。
「はぁ・・・・スキル使った後の疲労したこの身体に、このムキムキの腕は休まりますわぁ・・・・」
まるで実家のような安心感。
もし俺の前世が男じゃなかったら、いちいちこの巨腕に抱かれる度にドギマギしてしまっていたのかもわからんね。
アンデッドと元人間の許されざる恋の物語が今春、劇場で始まっていたのかもしれない。
いや、まぁ、心にはいつも紳士淑女の心が宿っているつもりなのですけどね?? オホホホホホホホホホ!!!! お紅茶飲みますわ。
「ん? あれは・・・・」
なんて心の中でふざけたことを言っていたら、眼下に光が見えてきた。
ようやく、第五階層へ到着できたのだろうか。
俺はデュラハン・ゴブリンナイトに駆け足を命じて、すぐさま残り少ない階段を降りさせた。
そうして数分ほどして階段を降り切ると、目の前に出口の光が現れる。
ゴクリと唾を飲み込みながら、俺は眼前の出口へとアンデッドたちと共に足を踏み入れた。
すると、そこにはー---。
「・・・・・・・・・・・・・・うそ、だろ??」
目の前に広がるのは、緑が生い茂った、青々とした世界。
木々の下には淡い光りを放つカラフルなキノコがせめぎあうように生えており、空は紫色をしているが、迷宮の中とは思えないほど周囲一帯は明るかった。
その広大に広がる森林の姿に、地下とは思えぬその光景の数々に、俺は、思わず呆けたような顔をしてポカンと口を大きく開けてしまっていた。
いつも、ブックマーク、評価、いいね、本当にありがとうございます!!
本当に本当に、励みになっています!!
関係のない余談ですが、この新章から挿絵を描いて挿入しようとして試みたのですが・・・・・自分の絵のあまりのレベルの低さに絶望してしまって載せるのを諦めました笑
今とても、画力が、欲しいッ!!
てなことで、ここまで読んでくださってありがとうございました!!
また次話も読んでくださったら嬉しいです!!




