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第4章 蹂躙、その果てに ③


 ケルベロスが住まう岩山の城内に入ると、ひんやりとした冷たい風が俺の頬を撫でた。


 城の中は、やはり外観通りというか何というか・・・・その中身も城というよりは洞窟に近かった。

 

 天井にはつららのような石灰岩が無数にぶら下がっており、城内はさながら鍾乳洞のような光景が広がっている。


 漆黒の闇が果てまで続いているため、奥がどうなっているかは分からないが、恐らく最終地点までの風景にそこまでの変化はないのだろう。


 辺りに漂う獣臭さとすえた匂いに顔を顰めながら、俺はキョロキョロと周囲を見渡す。


「ガルム、先導しながら辺りを警戒しろ。デュラハン・ゴブリンナイトたちは俺の周囲に付け」


 俺の指示にコクリと頷くと、ガルムたちは前方へ歩みを進めた。


 その後ろを、俺は四方を囲んだデュラハン・ゴブリンナイトたちと共についていった。


 フェンリルやガルムたちは夜目が利くらしいが、俺のこのカボチャの体は生前と何ら変わらない、普通の人間と同程度の視力だ。


 それ故に、暗闇の中での行動は自動的に制限されてしまうのが、この身体の不自由なところであった。


「まったく・・・・前途多難、だなぁ」


 第四階層に落ちてからというもの片っ端から木の枝をかき集め、それに【エンファイア】で炎を灯し、松明代わりにさせてデュラハン・ゴブリンナイトたちに持たせているが、それでも視界は明瞭とは言い辛い。


 オレンジ色の炎であればまだマシなんだが・・・・そもそも俺が【エンファイア】で出せる炎は青く、周囲を照らすのには向いていないのだ。


 青白い炎では、周囲を照らしても薄暗く、地面に落ちている小石の数を数えるだけでも一苦労なほど。


 自分自身がランタンになっているといえども、現状、俺の保持する光源では明らかに光量が足りていなかった。


 「はぁ・・・・第三階層は光り輝く結晶が天井から突き刺さって生えていたからまだ視界が開けていて良かったが、第四階層は真っ暗闇の世界が延々と続いていて本当嫌になるぜ・・・・」


 ここ以外の階層はいったいどんな造りになっているんだろう。


 もし、第四階層と変わらずに闇の世界だったとしたら、俺は何よりも最優先に視界を明るく照らす術を手に入れなきゃならなくなるな。


 フェリシアちゃんの使っていた、杖の先に光り輝く球体を浮かばせる魔法・・・・【ホーリライト】? だったっけか? 今はああいう魔法が喉から手が出るほど欲しい。


「ああいった便利な魔法を手に入れるのならやっぱり【リビングデッドコントロール】に頼らざるを負えないのだろうが・・・・目当てのスキルを手に入れるために、魔物狩りのガチャしなきゃならないって考えると、中々骨が折れそうな作業だな~」


 いったい、何匹の魔物を殺し尽くせば、俺は【ホーリーライト】に行き当たることができるんだろう。


 もういっそのことフェリシアをぶっ殺して【リビングデッドコントロール】を使って奪うか? ・・・・いや、【リビングデッドコントロール】でスキルを奪える魔物は一種に付き一匹なのだから、人間も同じである可能性が高いな・・・・そう仮定すると、すでにアレックスに使用済みの俺はフェリシアからは何も奪えないのかもしれない。


(自分を無限に強化できるチートスキルかと思っていたが・・・・使いどころ見誤ると結構危ういスキルなのかもな、【リビングデッドコントロール】っつー魔法は)


 適当な魔物に【リビングデッドコントロール】使った結果、同種でより良いスキルを持った個体がいた場合、目も当てられない事態に陥ってしまう。


 それは、ヤオの時が良い失敗例といえるだろう。


 だから、むやみやたらに出会って即合体☆(首)をするんじゃなく、事前にアナライズで他の個体と見比べるのを忘れないようにしなければならないな。


 これからはよく考えてスキルを使っていかなければ、この先、取り返しのつかない失敗をする可能性が十分にあると言える。


「ううむ・・・・フェリシアをアンデッドに変えて【ホーリーライト】を使わせる方法もあるが・・・・正直、アンデッドが生前のスキルを100パーセントそっくりそのまま引き継げるのかはまだわからないからな。試すには確証を得てからじゃないと・・・・やっぱ事前にどこかでそういった実験をした方が得策かな・・・・ん?」


「グルルルルルル・・・・・」


 スキルの使い方について思考に耽けていた最中。


 前方を歩いていたガルムが突如足を止め、低い唸り声を上げ始めていた。


 その唸り声に呼応して、デュラハン・ゴブリンナイトたちが一斉に斧を構え始める。


 彼らの視線の先、闇が続く10メートル先程の奥へと俺は目を向けた。



「・・・・まったく、フェンリルどもめ・・・・下等なアンデッド如きに恐怖し一斉に城から逃げ出すとは情けない奴らだ・・・・・」

「これだから黒狼族というのは使いものにならないんだよねぇ」

「け、結局信じられるのは、ぼ、僕自身だけということです」



 デュラハン・ゴブリンナイトたちが一斉に松明を掲げる。


 すると、獣の皮で作られた玉座に座る、大きな巨体が露になった。


 青白い光に照らされて現れたのは、三又の顔を持つ、体長約40メートル程の巨大な犬。


 間違いない。


 奴こそがこの第四階層支配者、人食いの猟犬、ケルベロスに違いないだろう。


 目標の敵に出会えた喜びから、俺は思わず笑みを浮かべてしまう。



「ククク、よぉ、随分とデケェ犬だな、オイ」


 俺のその声にピクリと体を耳を動かすと、ケルベロスは三つの顔で不快感をあらわにした。



「ほう? ヴァイスのいう通り、賊徒は知能を持ったジャック・オー・ランタンであったか」

「最弱のアンデッドが・・・・この俺に頭も垂れずに前に立つとは・・・・不敬極まりないな!」

「た、立場を理解した方が良いです。か、階層支配者の領地を汚したことをまずは謝罪するべきかと」


 三つの口で一斉にしゃべりだしたため、何を言っているのかよく聞き取れない。


 それぞれの顔が発する声は全て声色が違うため、一斉に別人がまくし立ててしゃべっているような感覚だ。


「はぁ・・・・・あのなぁ、悪いが俺は聖徳太子じゃねえからよ、順番に喋ってくれねえかな。そう一斉に喋られると耳がキンキンして痛いんだわ。まぁ、耳ねえんだけどよ」


「貴様っ!!!!」

「ただのアンデッド、それも餌風情の木の実が舐めた口を!!!! 敬語を使えっ!!!!」

「僕にそんな口を開いて良いと思っているの!?」


 ケルベロスは巨体を立ち上がらせ、その身から怒気を発し始める。


 そして、巨大な尻尾を振り、それを鞭のように使って俺たち目掛けて一閃、目にも留まらぬ速さで横薙ぎに放ってきた。


「ー---デュラハン・ゴブリンナイト」


 声を発すると同時に、俺を囲んでいた内の一体が前へと飛び出す。


 斧を上段に構えて跳躍すると、デュラハン・ゴブリンナイトは目の前に迫る尾を半分に一刀両断にした。


「ぎぃぁぁぁぁあッッッ!?!?」


 ケルベロスの悲鳴と共に、巨大な尻尾がドシンと、重さを感じさせるような様子で地面へと落下する。


「確か、【地烈斬】だったけか?? ゴブリンナイトが、タナトスの放った石の杭を真っ二つに叩き斬った時に使ってた剣技の・・・・中々良い技だな」


 俺は静かにケルベロスを見つめる。


 階層支配者ー---俺にとってはその存在は、腹立たしい邪魔な存在でしかない。


 せっかく食事も睡眠も不必要な身体で異世界に転生したというのに。


 せっかく誰も俺を知らない、自由な世界にやってきたというのに。


 何故、俺はまた、力ある者に対して怯えながら過ごさなければならないのか。


 ふざけるな。


 もう、理不尽な暴力を振るう者たちー---いじめを行った同級生たちのような強者に恐怖し、暗い部屋で怯えて過ごす日々なんて、送ってたまるか。


 俺はこの世界で必ず、誰にも脅かされない安寧の地を手に入れる。


 そのためにはこちらに敵意を持つ者は容赦なく殺してやる。


 俺はもう、決して弱肉強食の『弱者』にはならない。



「貴様貴様貴様ー---ッ!!!!!!

「気高き血を受け継ぐこの俺の尻尾を、よくもよくもよくも!!!!!!」

「も、もう、許しません!! そのカボチャ頭、嚙み砕いて、粉々にしてやります!!!!!!」


(一目見た時からわかっていたことだが・・・・・こいつ、俺が今まで見てきた階層支配者たちと比べて、全く貫録を感じねえな)



 最初に俺を殺したあの化け物や、タナトスやゴブリン・ロードと相対した時、俺は明確な恐怖を覚えた。


 だがこいつからは、あの怪物たちが放っていた圧倒的強者の雰囲気が一切感じられない。


 いや、奴らと比べるまでもないかもな。


 【アナライズ】をかけなくとも、理解できる。


 こいつに、俺が殺されることはない、ということが。


 戦力を蓄え、ステータス値を上げた今の俺にとって、こいつは、ただの図体がでかいだけの犬にしか感じられなかった。


「まぁ、だからといって舐めてはかからないがなー------【アナライズ】」


 目の前に、ステータスウィンドウが開かれる。



  【ステータス】 


  名前 ケルベロス23世

  Level 78

  種族 ケルベロス

  年齢 182歳

  クラス ガーディアン


  HP 5021

  SP 1254

  攻撃力 3234

  防御力 3171

  俊敏性 4256

  魔法攻撃力 1116

  魔法防御力 2892


  成長性  B+


 【習得魔法スキル】


 ○炎熱属性上位魔法 ヘル・エンファイア

 ○炎熱属性上位魔法 シャドウ・エンファイア

 ○疾風属性上位魔法 ウィドー・デス・レイシア

 ○闇属性中位魔法 ダーク・スパイク

 ○攻撃力増加・補助属性中位魔法 チャージ・イクイップ


 【習得戦技スキル】


 ○疾風属性 爪技 上位戦技 ウィンドブレイク

 ○疾風属性 牙技 上位戦技 ウィンドドファング

 ○鞭技 中位戦技 ロープクラッシュ


 【耐性】


 ○スロウ無効化

 ○毒属性攻撃無効化

 ○炎熱属性魔法無効化

 ○疾風属性魔法無効化

 

 【加護】


 ○風神の加護 (疾風属性魔法の常時無詠唱化)

 ○火神の加護 (炎熱属性魔法の常時無詠唱化)

 ○魔犬の祝福(耐性を無視して疾風属性ダメージを与えることができ、尚且つ常時疾風属性ダメージ量を1.5倍増加させる) 




 「なるほど、個々の能力値はデュラハン・ゴブリンナイトのちょい上くらいか・・・・」


 やっぱり、タナトスと比べて見劣りするという俺の直感は正しかったか。


 ステータス値に歴然とした差があったらアンデッドたちを盾にして、敗走した後に立て直すという手も一応考えてはいたんだが・・・・その心配はなくなったな。


 これなら今の俺の力でも、十分、戦える。


 むしろケルベロスに少し劣るといっても、平均ステータス値が3000代のデュラハン・ゴブリンナイトが5体いれば、優勢といっても良い状況だろう。


 純粋に殴り合っても、勝率は高いはずだ。


「気を付けるべき点は・・・・・スキルの多さ、か」


 特に、炎熱属性魔法無効化があるのは厄介だ。


 俺のメインウェポンである【エンファイア】は、ケルベロス相手には全く効かないと見て良さそうだ。


 しかし、俺の【エンファイア】に関しては少し、気になるところがある。


 それを試してみるのは、炎熱属性魔法無効化を持つこいつにはうってつけだがー----。



「我を前にして思考にふけるとは良い度胸だな!!!!!」

「死ね!!!! 汚らわしい亡霊がっ!!!!」

「は、早く、元居るべき死者の世界に還るべきです」


 巨大な体躯を跳ねさせ、前衛のアンデッドたちを飛び越え、こちらに向かって大きな爪を振り下ろしてくるケルベロス。


 俺はデュラハン・ガルムに指示を出し、後退するように背後へ跳躍させる。


 振り落とされないように、デュラハン・ガルムの背中の毛を嚙んで抑えながら。


 しかしー----。


「おわぁっ!?」


 爪が振り下ろされた場所から爆風が舞い、俺はその風圧に耐え切れず、デュラハン・ガルムの背から振り落とされた。


 丁度、高く跳躍していた時だったから、見下ろせば地面とはかなりの距離があった。


 このまま落ちれば、落下ダメージは避けられないだろう。



「馬鹿が!!!!」

「アホまる出しだなっ!!!!」

「な、舐めた口きいた割には、大したことなかったですね!!」

 


 落下するであろう地点に、ケルベロスが素早く滑り込む。


 そして、落ちてくるであろう俺を待ち受けるかのように三つの口を開けて待機した。


 その口の中には赤い火の球が浮かんでおり、その球が徐々に大きくなっていっていることから、俺に向かって【エンファイア】の類を放とうとしているのは明らかだった。


 「やべっ!」


 油断はしないと口にしていたというのに、俺は、奴の俊敏性を完全に舐めていた。


 ケルベロスの俊敏性4256は、今まで見てきた魔物の中で断トツに高い数値だ。


 タナトスと比べて強者の雰囲気が薄いことや、HPと俊敏性以外の数値に目立ったものを感じられないからと言って、俺はこの階層支配者を内心造作でもない敵と認識していたのかもしれない。


 ステータス値にまんまと踊らされてしまった結果、このザマに陥ってしまったといえるだろう。


 デュラハン・ゴブリンナイトとガルムの俊敏性じゃあ、こいつの速さには追いつけない。


 速さというものは、それだけで他のステータス値を凌駕しうる武器であるということを、俺はこの時を持って初めて思い知らされた。


「ミュミュミュミューッ!!!!!!!!」


 ケルベロスの口から炎のブレスが放たれる、寸前。


 何重にも折り重なった太い糸が俺の丸い体に投げ縄のように絡まると、即座に引かれ、炎の軌道とは別方向へ引っ張られた。


 鼻先の寸前に、直線状に放たれた巨大な獄炎の熱気が通り抜けていく。


「た、助かった」


 俺に糸を絡ませて炎を回避させたのは、斜め下にいる白蜘蛛ちゃんだった。


 白蜘蛛ちゃんはシュルシュルと糸をメジャーを回収するようにお尻へと戻し、手繰り寄せると、静かに自分の目の前に俺を着地させた。


「ありがとう、白蜘蛛ちゃん! 君には本当に助けられっぱなしだぜ・・・・危うく前世の二の舞になるところだった」


「ミュ!! ミュミューミュミュミュ!!!!!」


「なんて言っているかは分からないが・・・・・多分、俺の不注意を怒ってくれてるのかな?」


「ミュッ!!!!!」


 こちらを心配していることが、その赤い瞳から強く伝わってくる。


 アンデッドたちは俺が魔法で強制的に従えさせているが、この蜘蛛は違う。


 この白い蜘蛛は、本心から純粋に、俺の身を案じてくれていたのだ。


 それを知った瞬間、俺の心に暖かい炎が灯った気がした。


 ・・・・本当に体の中には炎が灯っているんだけどね、うん。


「デス・スパイダー、だと??」

「何故、タナトス様の眷属が俺の邪魔をする??」

「げ、解せませんね・・・・同種であるアンデッドがジャック・オー・ランタンに手を貸すのはわかりますが、何故、他種族である魔物が、奴の手助けを・・・・??」


 何やら、白蜘蛛ちゃんが俺を助けたことにケルベロスは困惑している様子だった。


 その隙を見計らい、デュラハン・ゴブリンナイトとガルムたちが一斉にこちらに集まってくる。


「よし。さっきはいいようにやられたが、もう油断はしない。反撃開始だ。行くぞ!」


 俺を守るべく周囲に集まってきたデュラハン・ゴブリンナイトとガルムたちへ視線を送り、俺はケルベロスへと攻撃を仕掛けるべく、彼らに指示を出した。


 前衛に四体のデュラハン・ゴブリンナイトとガルム。


 後衛に俺を片手に抱えさせたデュラハン・ゴブリンナイト一体と、デュラハン・ガルムの上に乗せた白蜘蛛ちゃんを配置させる。


 そして、俺はずっと疑問に思っていたことを解決すべるく、目の前に青い火の球を浮かばせた。



「ハッ! 馬鹿か貴様!! 我は【炎熱属性魔法無効化】を持っているのだぞ!!」

「そんな小さな【エンファイア】など、俺に効くわけがないだろ!!!!」

「【アナライズ】で僕のステータスを見たはずなのに・・・・やっぱり、知能が高いと言っても所詮は脳みそが空っぽのアンデッド、ということなのでしょうか・・・・・」



 こちらのその行動に呆れたため息を吐くケルベロスを前に、俺は、ニヤリと笑みを浮かべた。


 

 

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