第1章 新たなる魔王の誕生 ①
灼熱の炎によって殺され、炭化した頭蓋骨。
そこに、一本の小さな双葉が生えていた。
敗北したものは次に産まれてくるものの糧となり、栄養となる。
それは、この地下迷宮では何でもない単なる自然の摂理。
だから違う世界から来た彼も同様、その生命の循環の中に入り、新たなる命の母体となる定めにあった。
「・・・・・・・・・・」
男が殺されてから、100年の歳月が経った。
彼の頭蓋骨にあった双葉は今では巨木となり、枝の節々にカボチャのような木の実をたくさん付けていた。
そのカボチャの木の実にはハロウィンの飾り付けで彫られるような目と鼻と口を模した穴が空いており、それぞれ怒った顔や泣いている顔など様々な表情をしたものがあった。
この植物はジャック・オー・ランタンという名の魔物で、通りかかった人間の頭上に実を落とし、気絶させ、その身体に種を産み付け繁殖するといった生態サイクルを持っている。
知能もなく、単純な攻撃方法しか持たないため、世間では低級クラスの魔物とされている存在だ。
それなのに、この魔物が育ったのは世界最高難易度と謳われるダンジョンーーーーーこの地下迷宮だった。
そんなところで生育しても餌となる人間は滅多に訪れないし、訪れても上級冒険者といった人間に対して、低級の魔物なんかが相手になるわけがなく。
運良く母体となる男の頭蓋骨で育ったは良いもの、この樹木に新たな種を残すことは叶いそうにも無かった。
「・・・・・・・・・・・・・・」
男が亡くなってから300年の月日が経った。
現在、ジャック・オー・ランタンは枯れかけていた。
幹はシワシワとなり、葉は枯れ、枝についている実は一つか二つ程度。
明らかに、その命は消え掛かっていた。
「・・・・・・・・・・・・・・」
通常、この世界において死者の魂は甦らない。
ごく稀にアンデッドとして魔物に転化する者はいるが、魔物となった場合知性が失われ、生前とは完全にかけ離れた存在となってしまう。
だから、一度死んだ者の魂がこの世に返り咲くことはまずあり得ない現象なのである。
生命の循環に入った人間の魂は、新たなる命の糧になるのが定めであり運命・・・・・それが、この世界のシステム、理だった。
ーーーーーーーーーしかし、ここでその理を破壊する、通常では考えられない事象が起こった。
「・・・・どこだ、ここ?」
男が亡くなってから800年後。
黒ずみ、息絶えた巨木の最後の枝に、ひとつの実がなっていた。
そこになっていたのは、釣り上がった半月のような目と三角形の鼻、そして凹凸のある口をしたカボチャの木の実だった。
その木の実は困惑した表情を浮かべると、キョロキョロと周囲を見渡し始める。
「あれ? 俺死んだはずじゃ・・・・・うわぁっ!?」
ブチっと、枝と実を繋いでいた茎がへし折れ、カボチャは地面へと落下する。
「痛っ!!!! ど、どうなってんだ、こいつは!?」
身体を動かせない状況に、カボチャ頭は困惑の声を上げる。
立ちあがろうにも、手や足はおろか、自身の体がどこにも見当たらない。
視界も地面に面して近くなっており、まるで生首か何かになったかのような状況だった。
「な、何これ・・・・??」
身体に体重を掛け動こうと試みるが、自分の顔がピョンと前のめりにジャンプするだけだった。
その不可思議な状況に、カボチャ頭はダラダラと滝のような汗を流し始める。
「何? 何? 俺の身体どうなってんの!?」
混乱しながら辺りに視線を巡らせる。
そして近くにあった水たまりを発見した彼は、ピョンピョンと跳ね、急いでそこに駆け寄っていった。
「嘘、だろ・・・・?」
地下迷宮に絶句した男の声が鳴り響く。
水溜りに写っていたその姿。
そこに写っていたのは、人間の姿とはかけ離れた丸いシルエット。
自身の姿を確認したカボチャ頭は、ポカンと口を開け、ただただ唖然とした表情を浮かべることしかできなくなっていた。