第3章 死滅の兵団 ⑥
「ん? なんだこの犬っころ」
デュラハン ・ゴブリンナイトが撃破された場所へ向かうと、そこには一匹の犬がいた。
サイズ的にいえばラブラドルレトリバーくらいの大きさだろうか。
いや、この野性味あふれる感じといい三白眼の目といい、こいつ、犬じゃなくて狼か??
デュラハン ・ゴブリンナイトの腕の中からまじまじとその狼を眺める。
すると狼は酷く怯えた表情をしながら、ゆっくりと腹を見せて仰向けになった。
「ど、どうか、命だけはお助けくだいっ!! どうかっ!! どうかっ!!」
「お、おおっ!? 喋れるのか、お前・・・・」
「私は黒狼族のヤオと申すものです!! 貴方様はさぞ高位の魔物であるとお見受けしますが、どこかの階層支配者、もしくはその血統に準ずるお方でしょうか!!!!」
「俺はジャック。ただのカボチャだ。なぁ、犬っころ。ひとつ聞いて良いか??」
「な、なんなりと」
「そこに転がっているデュラハン ・ゴブリンナイト・・・・いや、首のないアンデッド、殺したのお前か??」
「ー--ーッ!!」
そう問いを投げると、ヤオと名乗った狼の顔が悲痛に歪んだ。
そして数秒の間をおいて、ゆっくりと狼の口が開かれる。
「・・・・・・はい。その通りでございます。我が一族に伝わる宝剣の力で倒しました」
「ほーん?? 宝剣ってのは、お前の傍に落ちているそいつか?? どれどれ・・・・」
落ちている小刀に視線を向け、【アナライズ】を使用する。
すると、目の前にいつものステータスウィンドウが開かれた。
【名前】 空間断絶の宝剣
【分類】 魔道具
【製作者】 シャーロット・ウィルソン
【レア度】 SS
【品質】 E- (魔力切れに付き使用不可)
【売値価格】測定不可
「レア度、SSって・・・・すげぇな」
まだこの世界に来て間もないため、このアイテムがどれほどのものかは分からないが・・・・恐らく、デュラハン ・ゴブリンナイトを倒せるだけの、いや、それ以上の力を秘めたものであると見て良いだろう。
俺は即座に他のデュラハン ・ゴブリンナイトに回収させ、宝剣を狼から離した。
ステータス上では使用不可とかかれているが、魔力切れということは魔力さえあれば使用可能になるということだ。
いったいどのような手順で魔力を込め魔道具を使用するのかは定かではないが、用心しておくことに越したことはないだろう。
次に、俺は再び【アナライズ】を発動させ、今度は狼の体へと視線を向けた。
【ステータス】
名前 ヤオ
Level 54
種族 フェンリル
年齢 42歳
クラス レンジャー
HP 784
SP 242
攻撃力 1124
防御力 423
俊敏性 1724
魔法攻撃力 336
魔法防御力 247
成長性 C
【習得魔法スキル】
○炎熱属性下位魔法 エンファイア
○疾風属性中位魔法 ウィドーレイス
【習得戦技スキル】
○爪技 ブレイク
【耐性】
○スロウ無効化
○疾風属性魔法無効化
【加護】
○疾風の加護 (疾風属性無効化の敵にも疾風属性ダメージを与えることができる)
う、うーん・・・・。
微妙なステータス値だな。
このステータス値ならデュラハン ・ゴブリンナイトが戦ってまず負けるわけがないだろうし、十中八九、魔道具によっての勝利とみてよさそうだな。
噓をついてこちらを欺こうとしている素振りもないとみえる。
というか、デュラハン ・ゴブリンナイトがたくさん倒していたフェンリルってこいつらのことだったんだな。
大の犬好きだったから、こいつら倒して経験値得ていたことにちょっと罪悪感。
でも、まぁ、俺がこの迷宮で生きるためには、仕方がないことかな。
豚や牛にいちいち罪悪感募らせて肉食ってても途方もないことだし。
「ええと、ヤオ、って言ったか? お前?」
「は、はい!! 偉大なるお方!! 何でしょうか!!」
「この階層はお前たちフェンリルが支配しているのか?? 上の階層がデス・スパイダーたちの住処だったように」
「え、あ、はい。群れの長についている方はフェンリルの祖であるケルベロス様ですが、この階層に住む魔物のほとんどは、我ら黒狼族となっております」
「ふーん。お前ってさ、黒狼族の中でどのくらいの強さなん?? 弱いほう?? それとも結構強いほう??」
「私は・・・・平均的な一兵卒の中では能力が高いほうです。ですが、ケルベロス様の住まう大巣窟を護衛する3頭の近衛隊の方々は、群れの中でも圧倒的に強いです。平均ステータス値が2000~2500はあります」
「おっ? そうなん?? それなら余裕で倒せそうだな。問題はタナトスと同等の地位にいるであろうケルベロス、か」
「た、倒す・・・・??」
「そのためにはやっぱり、兵力を増やさないといけないな。よっと」
俺の発言に啞然とするヤオを無視し、俺はデュラハン ・ゴブリンナイトの腕の中から降り立つ。
そして仰向けになっているヤオを素通りし、奥にある四匹のフェンリルの死体へ近付いた。
「ええと、一体はステータス得るために首落として、あとのは普通にアンデッドにしてしまうか。ほいほい、【スラッシュ】~~」
そして手慣れた作業感で首を跳ねて、即座に【リビングデッドドール】を発動させる。
「合体✫!!!!!!!!!!」
ガッチーンと、首から伸びた根っこがフェンリルの首元と繋がり、感覚が獣の手足に広がっていく。
この、別の体にまるで自分の魂が液状になって流れていく感覚は未だにどうにも慣れないが、ステータス値を強化するためには背に腹は代えられないので、我慢した。
数秒して、完全にフェンリルの身体に神経が巡っていき、死体の支配が完了する。
そうしてできあがったのは、人面犬、もといカボチャ面犬。
世にも奇妙な顔面カボチャ犬の誕生である。
《報告 【リビングデッドコントロール】の効果により、【フェンリル レベル42】の能力を引き継ぎました》
《基礎ステータス値がアップしました》
《HP820→1112》
《SP234→274》
《攻撃力1024→1524》
《防御力523→586》
《俊敏性453→876》
《魔法攻撃力248→272》
《魔法防御力175→194》
《新たなスキルを獲得しました》
《疾風属性下位魔法 レイス》
《新たな耐性を獲得しました》
《疾風属性魔法ダメージ軽減》
《新たな加護を獲得しました》
《疾風の加護 (疾風属性無効化の敵にも疾風属性ダメージを与えることができる)》
「お、おぉ? 攻撃力と俊敏性が結構上がったな?? いや、それよりも・・・・」
耐性と加護を、【リビングデッドコントロール】で初めて手に入れることができた。
俺が【リビングデッドコントロール】を使ったのは今のところ、アレックスとゴブリン・ナイトだったから・・・・鑑みるに、あいつらには耐性と加護がなかったってところなんだろうか。
まぁ、どちらもゴリゴリの脳筋のようだったし、耐性と加護がなくてもおかしくはない、か。
まぁこれで、新しい力も手に入ったし、エンファイア以外にもレイスって魔法が使えるようになったし、良かった良かった。
疾風属性魔法ダメージ軽減も、上位互換の疾風無効化を持つヤオに比べれば弱いが、まぁ、良いだろう。
ハッハッハッハッハッ!! これで最強になって俺TUEEEする日もそう遠くはな・・・・・って、ん??
「・・・・・・・って、馬鹿か俺は!! 平均より強いって自分で言っていたんだから、ヤオに【リビングデッドコントロール】使うべきだったんじゃねえか・・・・!!」
そうすればスロウ無効化も疾風属性魔法無効化も手に入ったのに、何やってんのよあたくし!!!!
自分の浅はかさにハンカチ嚙んでキィィィィィってやりたい気分だわキィィィィィィィィィィッッ!!!!!
「ミュゥゥゥゥ・・・・・・」
そんな負け犬(見た目も含めて)の俺を、遠くから白蜘蛛ちゃんが憐憫の眼差しで見つめていた。
「そうね、分かっているわ。私は無様な負け犬よ・・・・・私なんてカボチャ頭のキメラドッグよ・・・・ワォォォォォォォォォン!!!!!」
「ミ、ミュゥゥゥゥ・・・・・・」
さて、まぁ、愚かなミスは後で反省するとして。
今はこのゴブリンの身体より動きづらい、狼の体から離脱するべきだろう。
さっき吠えながら試しに数歩動いてみたが、人間の体とかけ離れた作りをしているせいか、まったくと言って良いほど足が上手く動かせなかった。
多分、時間をかければなれるのかもしれないが、ここはいつ敵が現れてもおかしくない迷宮の中。
いざという時のためにも、慣れない体からはすぐに離れた方が良いだろう。
俺はすぐに【リビングデッドコントロール】を解除して、狼の体から離脱した。
そして、【アンデッドドール】を、首のないフェンリルへとかける。
「い、いったい、さっきから貴方様は何、を・・・・・」
何をやっているのかが気になったのか、ヤオが起き上がり、背後を振り向く。
それと同時にむくりと、首のない黒狼が起き上がった。
「ぇ・・・・??」
恐怖と焦燥が混じったかすれた声が、耳に届く。
《報告 【アンデッドドール】の効果により、デュラハン・ガルムが支配下に加わりました》
背後から首のない犬がやってきて、俺の横にひれ伏した。
「ヤオ。お前も同じようにアンデッドとして俺の支配下に加えても良い・・・・が、俺は何も殺戮をしたいわけじゃない。俺はただ、敵に襲われない安心して暮らせる場所が欲しいだけだ」
「ぇ、なんで、彼が? ぇ?」
続いて、俺は残り三体の首があるフェンリルに近づき、そのまま再び【アンデッドドール】を発動させる。
《報告 【アンデッドドール】の効果により、ガルムが支配下に加わりました》
《報告 【アンデッドドール】の効果により、ガルムが支配下に加わりました》
《報告 【アンデッドドール】の効果により、ガルムが支配下に加わりました》
ヤオはその光景に恐怖する。
仲間だったものたちが、屍肉をボタボタとたらしながら立ち上がっていく、その光景に。
「ここでお前に選択肢をやる。俺について共にこの階層を支配して生きるか、今ここで死ぬかだ」
瞳の中の青い炎が揺らめかぜながら、俺はヤオに選択を突き付けた。




