第3章 死滅の兵団 ⑤
《報告 支配下にあるデュラハン・ゴブリンナイトがフェンリルを撃破しました》
《デュラハン・ゴブリンナイトの二分の一の経験値を獲得いたしました》
《レベルが6から12に上がりました》
《基礎ステータス値がアップしました》
《HP820→1128》
《SP234→304》
《攻撃力1024→1211》
《防御力614→706》
《俊敏性517→592》
《魔法攻撃力248→317》
《魔法防御力175→194》
《300スキルポイントを獲得しました》
「フッフッフッ」
《報告 支配下にあるデュラハン・ゴブリンナイトがフェンリルを撃破しました》
《デュラハン・ゴブリンナイトの二分の一の経験値を獲得いたしました》
《レベルが12から16に上がりました》
《基礎ステータス値がアップしました》
《HP1128→1342》
《SP304→386》
《攻撃力1211→1327》
《防御力706→813》
《俊敏性592→644》
《魔法攻撃力317→406》
《魔法防御力194→251》
《240スキルポイントを獲得しました》
「フーッハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」
いやはや、不労所得は最高ですなぁ。
働かずに食えるメシは美味い!
やはり某伝説のニートの言う通り、現代社会において働いた者は負けなのかもしれない。
働かずに生きれる人間こそ、究極の進化を遂げた生命体であり、神なのだ。
ニート最強! ニート最強!
世間体は最悪だけど、ニート最強!
「ミュミュミューッ!!」
おぉ、白蜘蛛ちゃんもそう思うか。
そんなに熱い尊敬の眼差しを俺に向けちゃって。
でも駄目なんだ白蜘蛛ちゃん・・・・ニートはね、最強スキル『脛齧り』を習得できるクラスだけど、クラスチェンジした途端、周りからの評価が地の底に落とされてしまうんだよ。
自分の社会的地位を捨てる代わりに、社会の理から外れる術を得るんだ。
つまり、大事なものを失うことで大きな力を手に入れられる禁断の秘術なのだよ。
君にその覚悟はあるのかい?? 自己を犠牲にしても力を手に入れる気概はあるのかい??
「ミュ?」
「家族や世間からゴミのような目を向けられるのは嫌だろう? だから、ニートに憧れるのはおやめなさい。君ならきっと真っ当な人生を歩めるはずさ」
「ミ、ミュ・・・・?」
困惑する白い蜘蛛に穏やかに微笑むと、俺は瓦礫の上から崖下にいる1体のアンデッドに視線を向ける。
「さて、茶番は終わりとしてーーーーデュラハン ・ゴブリンナイト、か。果たしてこいつで、あのキメェ大蜘蛛の野朗を倒せるのかねぇ・・・・」
数分程前、俺は6体のゴブリンナイトの首を切り落とし、【アンデッドドール】を使ってデュラハン ・ゴブリンナイトとして蘇らせ、彼らを支配下においた。
【アナライズ】で調べたところ、デュラハン ・ゴブリンナイトは平均ステータスが3000という、化け物じみた強さをもった魔物だった。
それが6体、換算すれば18000ほどのステータス値だ。
こいつら全員を一斉に嗾ければ、もしかするとあのタナトスをも打ち破ることが可能かもしれない。
だがそれは、充分な下準備があってこその話だ。
「またあの【アイアンクエイク】とかいう魔法を使われて洞窟を崩落されては元も子もねぇからな」
あの魔法を使わせないためにも、遠距離から常時、あいつに防御させるほどの強大な魔法を打ち込んで邪魔する必要があるだろう。
その役目は勿論、この俺だ。
何故ならデュラハン ・ゴブリンナイトはステータスを見る限り、魔法が使えないゴリゴリの前衛職だからだ。
今はいないスカルゴブリンも同じようなものだし、ここは俺が後衛職をやるしかないだろう。
・・・・別に前衛が怖いからじゃないヨ? デス・スパイダーに殺されかかったのが怖くてトラウマになったからじゃないヨ? 本当だヨ?
ともかく、この迷宮にいる以上、あの大蜘蛛に再会する機会は避けられない。
その時のためにも、俺は強くなる必要がある。
「けれど、今のままでは明らかにステータスの差が開きすぎているからなー。まともに戦えるようになるまではアンデッドを迷宮内に放って、適当に経験値を回収してもらった方が良いだろうなー」
実際に戦闘することで経験を積めることもあるだろうが、まずはステータス強化だ。
でないと、その辺の雑魚モンスターに俺はワンパンで沈められることになる。
「まぁ当面はデュラハン ・ゴブリンナイトたちには第4階層の魔物を狩れるだけ狩ってもらうとして・・・俺はステータスが強くなるまでこの瓦礫の山に隠れて待機かなぁ」
一応、6体の内の1体はここに待機してもらった。
タナトスの時のように、またあり得んステータスを持った化け物が現れる可能性も0ではないからだ。
そう考えると、これからは常に護衛のアンデッドを側に置いておいた方が良いかもしれないな。
自身の命を守るためにも、何らかの策をいくつか打っておいた方が正解だろう。
「・・・・にしても、まさか【リビングデッドコントロール】で得られるステータス値は、同じ種類の魔物に付き1体までとは思わなかったなぁ」
嬉々として全てのゴブリンナイトの首を切ったものの、1体目と違って2体目に【リビングデッドコントロール】を使用してもステータスアップの通知が来なかった。
1体目に使った時はHPと攻撃力が500近い上昇があっただけに、とても残念だ。
6体分合わせて攻撃力が3000近くなるのかと思ったが・・・・流石にそんな美味い話は無いってことか。
《報告 支配下にあるデュラハン・ゴブリンナイトがフェンリルを撃破しました》
《デュラハン・ゴブリンナイトの二分の一の経験値を獲得いたしました》
《レベルが16から19に上がりました》
《基礎ステータス値がアップしました》
《HP1342→1511》
《SP386→437》
《攻撃力1327→1421》
《防御力813→945》
《俊敏性644→714》
《魔法攻撃力406→523》
《魔法防御力251→322》
《250スキルポイントを獲得しました》
「おぉ、また倒したか。順調順調」
これで3体目か。
5匹のデュラハン ・ゴブリンナイトたちには、第4階層にいるモンスターを見つけ次第殺せという命令と、フェリシアを見つけたら救出しろという命令を出しておいた。
しかし迷宮に放って30分程でこんなにレベルが上がるとは・・・・これはかなり幸先が良さそうだ。
これなら1日で結構なレベルにまで上がるかもしれないな。
「それにしても、さっきから同じモンスターばかり倒しているな。フェンリルだっけか? 第3階層が蜘蛛ばっかだったみたいに、フェンリルってのはこの階層の特有のモンスターか何かなのかね?」
まぁ、新しいモンスターに出会えたというのは良いな。
首切って【リビングデッドコントロール】すればステータス向上にも繋がるし、【アンデッドドール】を使えば新たな手駒は増えるし。
死体は俺にとってお宝にも等しい物品だ。
《報告 支配下にあるデュラハン・ゴブリンナイトがフェンリルを撃破しました》
《デュラハン・ゴブリンナイトの二分の一の経験値を獲得いたしました》
《レベルが19から22に上がりました》
《基礎ステータス値がアップしました》
《HP1511→1613》
《SP437→521》
《攻撃力1421→1511》
《防御力945→1008》
《俊敏性714→824》
《魔法攻撃523→621》
《魔法防御力322→436》
《120スキルポイントを獲得しました》
「ぐへへへへ。良いぞ、もっと倒せ、デュラハン ・ゴブリンナイトよ」
《報告 支配下にあるデュラハン・ゴブリンナイトの1体が撃破されました》
「ぐへへへへ。またレベルアップ・・・・・ぇ?」
デュラハン ・ゴブリンナイトが撃破された、だと?
平均ステータス値が3000近いあの化け物を、撃破する奴がいる、だと??
「・・・・雑魚敵じゃないモンスターに出会したか? タナトスやゴブリン・ロードレベルの・・・・」
あいつらなら確かに、1体のデュラハン ・ゴブリンナイトを倒すことは容易だろう。
けれど、デス・スパイダーやハイゴブリンといった雑魚モンスターでは、あのアンデッドを殺すことは不可能だ。
何故なら、奴らのステータス値の平均は1000代であり、デュラハン ・ゴブリンナイトとは大きな開きがあるからだ。
勿論、ステータスに過信しすぎるのはいけない。
頭脳が良い魔物が、奇策をもって格上の魔物を倒す可能性は0ではないだろう。
だから、一概にはタナトスのようなボス級モンスターにやられたとは判断できない。
雑魚モンスターの中でも突出した能力を持つ、例外が現れてもおかしくは無いからだ。
現に今俺の隣にいる白い蜘蛛は他のデス・スパイダーに比べこちらに友好的だしな。
変わり者が他の種にもいると見ても良いかもしれない。
「何にしても、様子を見に行ってみるか? ボス級モンスターだったら護衛のデュラハン ・ゴブリンナイトを盾にして逃げれば良いし、話が通じそうだったら会話するのも手だし。会話もできず、倒せそうな相手だったら・・・・アンデッドにしてしまおう」
俺はデュラハン ・ゴブリンナイトの1体の反応が消えた方向に視線を向ける。
そして、背後に白蜘蛛とデュラハン ・ゴブリンナイトを連れながら、そのまま洞窟の中を跳ねて進んでいった。
「・・・・ゼェゼェ、や、やったぞ! みんな!」
血を流し倒れる無数の同胞、フェンリルたちの亡骸を視界に収めながら、私は真っ二つに裂いたアンデッドの上で遠吠えを上げる。
この首の無いゴブリンは、異常な強さを持った魔物だった。
通常、ただのアンデッドであれば、我ら黒狼の鋭利な爪と牙の前では、跡形も無く肉片と化す。
だが、このアンデッドの耐久力は凄まじかった。
この第4階層の支配者であらせるケルベロス様にも劣らずの硬皮を持った敵だった。
我が師である王宮近衛隊長ヴァイスから貰い受けていた攻撃力を倍増させる魔道具がなければ、当にこの身はアンデッドの持つ大剣によって両断されていたことだろう。
「・・・・本当に、このナイフのおかげだ」
黒狼族族長の家系が初代ケルベロス様から先祖代々受け継いできたとされる大事な魔道具。
それを調査団に入ったこの私に与えてくださった師には、本当に頭が上がらない。
彼に私の命は助けられたといっても、過言では無いな。
「しかし・・・・他の4匹は死んでしまった。私が魔道具を使う時間を作ってくれた彼らには感謝してもしきれない」
仲間たちを横目に、私は魔力が無くなったナイフを口から落とす。
魔道具、"空間断絶の宝剣"。
この短剣には亡くなった魔王様の魔力が込められており、一度短剣を振ると絶大な魔力で作られた剣閃が空を飛び、瞬時に敵の肉体を両断する。
魔王様が初代ケルベロス様に与えられた、必殺の魔剣だ。
第4階層の国宝にも近い代物で、滅多なことがない限り使用するなと師には言われているが、正直私はこの場で使えて良かったと思う。
何故ならこの首の無い邪悪なゴブリンは、我ら黒狼族とケルベロス様に対して、近い将来必ず強大な敵となって立ち塞がっただろうからだ。
「本当に、このアンデッドは異質な存在だったな。もう少しレベルが上がれば、階層支配者クラスでもおかしくはない強さだった」
これほどまでに強いアンデッドが発生することは滅多にないだろう。
恐らく、自分が生きている間に同じアンデッドとまた相見える可能性は0に等しい。
それほどの奇跡的な要因で発生したアンデッドと見て、まず間違いなさそうだった。
そう考えると、被害が4匹で留まったのは不幸中の幸いか。
「・・・・さて、散り散りに分かれた調査団の仲間に報告しに行くとするか。いや、先にケルベロス様に報告しに行った方が良いな。こいつは、第4階層の存亡を揺るがしかねない強大な敵だったからな」
アンデッドの死体から降りて、私はフゥッと大きく息を吐く。
「・・・・魔道具を使ったとしても、神話に名を連ねるような敵を倒したんだ。師匠、これで私のことを認めてくれると良いが」
私の師であり、黒狼族最強の戦士、ヴァイス。
彼は現族長の孫であり、次期族長の有力候補だ。
故に、すでに許嫁の雌がおり、側室候補の雌も何匹もいる。
皆、良い家柄の雌だ。
私のように混血の雑種の雌では、師の正妻どころか側室すらなれないだろう。
私も純血統のフェンリルに産まれたかったと、師に恋してから何度思ったことか。
自身の産まれ育ちをここまで呪ったことは、未だかつて無かった。
「・・・・でも、王宮調査団の戦士になったんだし。今日みたいに死にかけるようなこともあるんだし。やっぱり想いは伝えといた方が良いのかな」
死んだらこの想いを伝えることは未来永劫できない。
例え報われることがない恋だとしても、生きている間に未練は消化しといた方が良いだろう。
戦士というのは、いつ死んでもおかしくない生き物なのだから。
「よし。ケルベロス様に報告した後、即、師のところにいこう。そうしよう」
尻尾を振り、頬を赤く染めながら私は宣言する。
そして、洞窟の奥に一歩歩みを進めた、その時。
「・・・・・え?」
前方から、ザッザッザッと砂を蹴り上げる音と共に、闇の中から首のないゴブリンが現れた。
それも、1体だけじゃない。
周囲の闇からまた1匹、また1匹、次々とあのとんでもない強さを持ったアンデッドが姿を現した。
計4体。
私の周囲を囲むようにして、神話級の怪物はそこに立っていた。
「嘘、だろ・・・・?」
せっかく師から貰い受けた伝説の魔道具を使って退けたというのに。
ケルベロス様並みの、階層支配者並みの防御力を持ったアンデッドがこんなに居たんじゃ、私ではどうしようもない。
というか、第4階層支配者のケルベロス様でさえも、この数は対処し切れるのかは甚だ疑問だ。
下手したら、階層支配者といえども多大なダメージは避けられないかもしれない。
こいつらを倒せるとしたら、タナトス様かベヒーモス様かーーーーーーいやもしかしたら彼らでも・・・・・。
「ッ!! 馬鹿か!! 何を考察なんてしているんだ私はッ!!」
この状況は、第4階層に住む全ての魔物の命が脅かされる事態なのだと、私は即座にその考えに至った。
これは、この迷宮の存亡を揺るがしかねない、緊急事態だと。
であればーーーーーー何とかこの場を逃げ出してて、同胞たちとケルベロス様に早くこの状況を伝えなければならない。
何とか、隙を見て逃げ出さなければーーーーーー。
「あれ? お前らも様子見に来たのか?」
突如聞こえてきた、男の声。
アンデッドたちが立ち並ぶ隙間から声が聞こえた方向に視線を向けると、そこには首の無いアンデッドに両手で抱えられているカボチャ頭—————最弱のアンデッド、ジャック・オー・ランタンの姿があった。




