第3章 死滅の兵団 ③
「こいつって確か・・・・あの蜘蛛の親玉の魔法を打ち破っていた・・・・ムキムキのゴブリン野朗か?」
瓦礫の山に埋もれているゴブリンの死体。
その一体に恐る恐る近付き、俺は様子を伺う。
「も、もしもーし。ちゃんと死んでるよね〜?? いきなり生き返ったりはしないよね〜??」
ツンツンと頭のへたで触ってみるが、動きはなし。
苦痛に顔を歪ませ、口から青い血を吐いているところから見て、まず間違いなく死んでいると見て良いだろう。
俺はフゥッと、安堵のため息を吐く。
「崩落に巻き込まれて死んだって感じか??」
ゴブリンの背中には無数の瓦礫の破片が突き刺さっていた。
その様子から鑑みるに、タナトスの起こした地震の影響で息絶えたってところだろうか。
筋骨隆々で強者オーラを放ち、タナトスが放った石の杭を軽々真っ二つにしていたあのゴブリンがこうも簡単に殺されるとは・・・・【アイアンクエイク】とかいう魔法恐るべしだな。
俺は心の中で手を合わせて合唱しつつ、この死体をどう処理するか思考を切り替えていく。
「うーん、せっかく見つけた死体だし、【アンデッドドール】か【リビングデッドコントロール】を使って有効活用したいところだけど・・・・果たして現状においてはどっちのスキルを優先的に使うべきなんだろうか・・・・」
この迷宮に転生して分かったことは、ここでひとりで生きていくのは不可能だということだ。
何たってこの身ひとつでは、タナトスにもゴブリンロードにも太刀打ちできないだろうからな。
それに迷宮に暮らす魔物は皆、群れを成して仲間と共に行動を共にしていた。
当然、魔物として生き返った俺も、その生活スタイルを真似していかねば生きてはいけないだろう。
自分の命を守るためにも、他の生物の生き方を見習っていかねばならない。
そのための仲間作り、もとい群れ作りが今すべき第一の課題といえるだろうか。
「・・・・・・だったら」
現状、スカルゴブリンがいないから、戦力を増やすためにも【アンデッドドール】で支配下のアンデッドを増やしておくのが1番の正解か。
・・・・しかし、自分自身を強化するために【リビングデッドコントロール】を使って基礎ステータス値と機動力を上げるのも捨て置けないな。
それにまたあのデス・スパイダーに出会した時のためにも、身代わりの肉体は必須だ。
毒の牙で本体を噛まれて、ドロドロのカボチャスープになるのだけは絶対に避けたいからな。
自分自身の肉体が強くなるだけで、反射神経や回避率は上がるだろうし、それだけで生存率は上がると言っても良いだろう。
アレックスの身体がそうだったように。
「・・・・う、うーん・・・・果たしてどちらが正解なのか」
「ミュッ! ミュッ!」
「ん? どうした?」
白い蜘蛛が、前脚をピンっと立て、瓦礫の山の上を指し示す。
視線を向けると、そこには、同じような姿で死に絶えている複数のゴブリン・ナイトたちの死体が転がっていた。
「おぉ! 他にも死体があったのか! 教えてくれてありがとな!」
「ミュッ!」
「・・・・ひい、ふう、みい・・・・見たところこいつ含めて死体は6体か。だったら・・・・ここは分散してスキルを使うとするかね」
複数体あるなら、1体、【リビングデッドコントロール】で身体を乗っ取らせてもらって、残りは【アンデッドドール】で使役するのがベストかな。
俺はさっそく1体目に、【リビングデッドコントロール】を使おうとスキルを発動させる。
しかしーーーー。
《報告 対象の『ゴブリン・ナイト』には頭部が付いているためスキルを発動できません》
「あ・・・・そうか。頭が付いてちゃ、身体に寄生できないのか」
だったら頭を切り落としてスキルを発動させれば良いか。
といっても、この手足のないカボチャ頭の身でどうやって頭を斬り落とせば良いのか・・・・【エンファイア】じゃ頭だけじゃなく体も燃やしちゃうだろうし・・・・うーむ。
《報告 剣技スキル【スラッシュ】を使用して頭部を切断することを推奨致します》
「へ? スラッシュ? それってアレックスが持っていたスキルだよな? もうあいつの身体から離れてるし、それに剣も持っていない今の俺が使えるとは思えないんだが・・・・」
《使用可能です。【リビングデッドコントロール】の効果で得たスキルは、今後も永続的に習得済みスキルに追加されていきます》
「・・・・ほう」
俺はゴブリンの死体に向き直り、アレックスの身体で使用した剣技の動作を思い出す。
「ーーーーー【スラッシュ】」
その瞬間、頭のヘタが伸び、鋭利な刃物のように変形する。
そして、ザバッと、ゴブリンの首を目にも止まらない速さで切断した。
「お、おぉ・・・・本当に使えた」
「ミューッ!! ミューッ!!」
ゴロゴロと転がり落ちていくゴブリンの頭と俺を交互に見て、白い蜘蛛は何故か興奮した声を上げていた。
俺はそんな蜘蛛に笑みを浮かべながらも、首の無いゴブリンに向き直り、再びスキルを発動させる。
「【リビングデッドコントロール】発動」
すると、俺のケツから根っこのような触手が生え、ゴブリンの首に突き刺さり、俺の頭とゴブリンの身体を接合させた。
その瞬間、筋骨隆々の3メートルはある巨体に神経が繋がり、自在に動かせるようになっていった。
これで2回目だが、なんというか凄い感覚だ。
全身に電流が走るというか、自分の魂が死体に入っていくというか・・・・とにかく上手く説明できないが、とても凄い感触だ。
「ん?・・・・アレックスの身体と比べて随分と重いな」
《報告 【リビングデッドコントロール】の効果により、【ゴブリン・ナイト レベル62】の能力を引き継ぎました》
《基礎ステータス値がアップしました》
《HP460→820》
《SP82→234》
《攻撃力567→1024》
《防御力348→523》
《俊敏性322→453》
《魔法攻撃力150→248》
《魔法防御力142→175》
《新たなスキルを獲得しました》
《剣技 上位 龍絶斬》
《剣技 上位 地裂斬》
「おぉ! めっちゃステータス値上がったな!」
アレックスとゴブリン・ナイトがゴリゴリの前衛職だったおかげか、特にHPと攻撃力のステータス値が物凄い勢いで伸びている。
普通にレベル上げするより死体に乗り移った方が効率よくステータスを上げられるな、これ。
勿論、弱者に乗り移っても得られる力はあんまり無いのだろうが。
「しかし、能力値だけで見ると、アタッカーになりつつあるな俺」
個人的には安全地帯から魔法を打ち込む後衛職の方が好ましいのだが・・・・。
周りからは呆れた目で見られるかもしれないが、俺は自分の命が最優先の臆病者なのである。
なので、最も危険な盾役の前衛は忌避感が強い。
ネトゲでもいつも後衛職ばかりやってたからな、俺は。
「よっこらせっと」
膝に手を付けて立ち上がる。
カボチャの身体の時とアレックスの時と比べて、随分と身体が重く感じる。
まるで全身に鉛の重りが付いているようだ。
うーむ、筋肉ダルマの3メートルの巨体だからそう感じるのだろうか・・・・。
「ミュッ、ミュー・・・・」
何故か白蜘蛛ちゃんが悲しそうな目でこちらを見ている。
お、おいおいなんだその目は・・・・まるで長年ファンだったアイドルが、引退後、激太りして別人になって絶望したような・・・・そんな失望の感情が含められているその目は何なんだ。
「・・・・あ、あぁ、そうか・・・・」
自分の顔を触って、現状に気付く。
(そうか、この身体だと俺の頭は小さくて不釣り合いで・・・・めっちゃアンバランスなんだ・・・・)
今の俺は、ワ○ピースのモブキャラに出てくるような出立ちをしているのだろう。
それか、進○の巨人の奇行種か。
何にしても今の俺の姿は・・・・筋骨隆々ムキムキの長身の身体に、頭部に小さなカボチャ頭が付いた変態だ。
加えて腰に付いた麻布が無ければ、完全にアウトな変質者だった。
「け、けど、見た目アレでも、ステータスの上昇値から見て、間違いなくこの身体は強いはずなんだ・・・た、試しに身体を動かしてみるぞ!!」
ドスンドスン。
足を持ち上げる歩いてみるが、どうにも緩慢な動きだ。
タナトスの石の杭の魔法を撃破したところを見ると、ゴブリン・ナイトはハイゴブリンとは比べものにならないくらいの俊敏性があったと思うのだが・・・・。
「・・・・・・・・・・・・」
ドスンドスン。
じ、時間かければ慣れるかもね、うん。
俺自身前世はガリガリのひきこもりだった訳だし、筋肉質の身体の仕組みは理解できないってところなんだろう。
加えて元人間の俺にとっては、馴染みが無いゴブリンの身体な訳だし。
ドスンドスン。
「・・・・・・・・・・・」
「ミュ・・・・・」
周囲を歩き回る俺に、白蜘蛛ちゃんの憐憫の眼差しが突き刺さる。
やめろ、サ○ケ。
その視線は俺に効く。
ドスンドスン。
「・・・・・・・・・・・」
「ミュゥゥ・・・・・・」
そうね。
「ミュゥゥゥゥゥ・・・・・」
大丈夫よ白蜘蛛ちゃん、分かっているわよ、流石に。
どんなに頑張っても、俺はこのムキムキのマッチョメンの身体を操れないってことくらいわね。
「・・・・・・【リビングデッドコントロール】解除」
スキルを解除した途端、俺の身体がゴブリン・ナイトの首から外れる。
楔のように打ち付けられていた根っこの触手は俺のケツへ収納されていき、その瞬間、肉体との繋がりが完全に絶たれる。
そしてゆっくりと倒れ伏していくゴブリン・ナイトの身体から俺は離れ、地面に降り立った。
「はぁ・・・・アレックスの身体はしっくり来たんだけどなぁ・・・・相性悪い身体もあるんだな」
多くの時間を掛ければもしかしたら慣れるかもしれないが、生憎とそんな余裕は無い。
フェリシアちゃんとスカルゴブリン探さなきゃならないし、いつでも魔物と戦えるように戦力を補っておかなければならないからな。
とりあえず、ここにいる死体は全部、【アンデッドドール】でアンデッドに変えちゃうか。
「・・・・って、そういえば、首の無い死体って、アンデッドに変えられるのか?」
首の無い死体もアンデッドに変えられるのなら、【リビングデッドコントロール】でステータス値を獲得しつつ、アンデッドとしても使役できるってことが可能なんだが・・・・流石にそんな一石二鳥な使い方はできないか??
「まぁ、とにかく、実験してみるだけしてみるか。ーーーー【アンデッドドール】」
スキルを発動させた瞬間、体内にある魔力が目の前の首の無いゴブリンに流れていく感覚があった。
そして、次の瞬間。
ゴブリン・ナイトの身体がゆっくりと起き上がっていく姿が視界に入ってきた。
首から青い血を垂れ流し、こちらを見下ろすゴブリン・ナイト。
俺はその異様な光景にゴクリと唾を飲み込む。
《報告 【アンデッドドール】の効果により、デュラハン ・ゴブリンナイトが支配下に加わりました》
そのアナウンスが鳴り響いたと同時に、デュラハン ・ゴブリンナイトは俺に対して膝を突き、忠誠のポーズを取った。
目の前のアンデッドのその身に宿る圧倒的な力の気配に、俺は引き攣った笑み浮かべる。
「こいつは・・・・もしかしたらタナトスとゴブリンロードに対しての有効的なカードになり得るかもな」
あの圧倒的強者の気配を漂わせていたタナトスとゴブリンロードにも引けを取らない暴力の匂いを、目の前の首の無いアンデッドは放っている。
こいつをぶつければ、並大抵の敵は駆逐できるのではないかと、そんな確信があった。
「・・・・よし、増やすか」
そうして、残る五体の死体に視線を向け、俺はデュラハン ・ゴブリンナイトを増産することを決めるのだった。




