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幕間 とある白い蜘蛛の話


 私は産まれた時から出来損ないだった。


 兄弟たちと比べ筋力も体力もなく、挙げ句の果てに視力もあまり良くはない。


 通常、デス・スパイダーの身体は真っ黒な色をしているのだが、何故か私だけが白い色をしていた。


 同じなのは真っ赤な瞳の色くらいなもので、他に兄弟たちとの類似点が一切見当たらない。


 私は、群れの中で異質な存在だった。


(どうして、私だけがこうも違うのだろう・・・・)


 産まれてからずっとそのことで悩んでいた。

 

 何故、自分だけが違うのか。


 兄弟たちは餌を簡単に取ることができるのに、今まで自分は狩りに成功した試しがなかった。


 兄弟の残した残飯を漁ることしかできない非力な存在、それが私。


 当然、そんな貧弱で色も違う私を仲間として見てくれる者は誰もおらず。


 自然と、私は群れの中で孤立していった。


 そんな時、母が私の元にやってきた。


 きっと、慰めの言葉をかけてくれるのだろうと、その時そう思った。


 だがーーーーー。


『ハァ。本当、不出来な娘ね。良いこと(アッシェ)。この世は強き者だけが嗤うことを許される世界よ。脆弱な身体に産まれた貴方は一生負け組として生きていくの。だからーーーーせめて、私の役に立って死んで行きなさい」


 向けられたのは、使えないものを切り捨てる、冷酷な言葉だった。


 私にとって・・・・ううん、この第三階層に生きる全ての者にとって、母は神にも等しい存在だ。


 魔王軍の幹部ベヒーモス様の直属の配下であり、死神(タナトス)の異名を今は亡き魔王様から賜った偉大にして崇高なる存在。


 全ての魔物の生き死には彼女の機嫌次第であり、全ての生命は彼女の掌のなかにあった。


 そんな、魔物の中の頂点に立つ母から、私は(アッシェ)と、そう名付けられた。


 ーーーーー(アッシェ)


 私は偉大な母の燃えカスだったのだ。


 それを理解した時、急速に私は生きる気力を失った。


 母も、兄弟も、全てがどうでも良くなった。


 どうせこの世に居ても居なくても意味のない存在なら、派手に人間と殺し合って死んでやろう。


 そう思っていた。

 

 しかしーーーーーー。




 (何だろう、あのカボチャは・・・・・)




 同胞のデス・スパイダーたちが群がる、洞窟の壁。


 その群れの中から私は、一体のアンデッドを見つめていた。


(下に人間の死体くっ付いてるけど、あれって、ジャック・オー・ランタン、だよね?)


 ジャック・オー・ランタンは、強力な毒を持つ自分たちと比べて、特段目立った戦闘力を持ち合わせない非力な魔物だ。


 ステータス値も低く、知能も低い。


 できることといえば、火の粉を飛ばすか、身体を跳ねらせ体当たりすることくらいか。


 そんな、最弱の魔物がーーーーー神話に名を連ねる地獄の大蜘蛛、母であるタナトスに一切の恐怖の感情を見せていなかった。


 それどころか、彼は不敵に笑みを浮かべていた。


「よぉ、クソデカ蜘蛛、ここいるこいつらはお前の指示で俺を襲ったと見て良いんだな??」


 ニヒルな低い声が、洞窟内に響き渡る。


 その声を聞いた途端、私の中の心臓がドクンと、大きく高鳴ったのが分かった。


「ええ。貴方は私の可愛い同胞を火の魔法で焼き殺したのですからね。その復讐に来てもおかしくはないでしょう?」


 母は、彼のその不敬な態度に若干の怒りを込めて、言葉を紡いでいく。


 普通だったら母のその殺気に触れた瞬間、誰であれ即座にその場で服従の意を示す。


 けれど彼は佇まいを変えず、母に対して果敢に立ち向かっていた。


「ケッ、テメェのその同胞の方が先に俺に手を出してきやがったんだがな・・・・・って、まぁ、そんな話をしても意味はねえか」


 ジャック・オー・ランタンは、ハァッ、と、大きくため息を吐く。


「タナトスさんよぉ、俺らを逃してくれる、って言うわけにはいかないよな??」


「無理ね。特に貴方はこの場で私が仕留めなければならない。この迷宮において貴方はね、産まれてはならないイレギュラーな存在なの。普通、知恵のある魔物というのはあの御方の配下にしか許されない存在なのよ。分かる? 分かったのならその場で自殺してくれないかしら」


 その冷たい声に洞窟内の兄弟たちは皆、恐怖で身体を震わせていた。


 私も同様に、母の殺気に耐えられなくなっていた。


 今すぐここから逃げ出したかった。


 でも、母を前にして威風堂々と立ち尽くしている彼の後ろ姿に、私は何故か釘付けになってしまっていた。


「あ? 分かんねえよ。俺はこの迷宮で死んで、生まれ変わっただけだ。許されるとか知ったこっちゃねえ。俺は誰にも指図されずに自由気ままに生きてやるんだよ。邪魔すんな」


(誰にも指図されずに、自由に気ままに、生きてやる・・・・)


 その言葉を聞いた瞬間、私を縛っていた見えない鎖が、音を立てて崩れ落ちた感触があった。


 自分の意思で生きてやろうなど、私は今まで考えてもこなかった。


 その時、私はそのまんまるとしたカボチャ頭の言葉に、ひどく感銘を受けていた。


「そう・・・・じゃあ、魔王軍、ベヒーモス様の配下が1人、タナトスが貴方を直々に始末するとしましょう」 


 そうして、ジャック・オー・ランタンに、母は突進していく。


 きっと、数秒後には彼はグチャグチャの肉片になっているのだろう、私はそう確信していた。


 しかし、この後私の予想とは異なった展開になり、彼は生き残った。


 私は彼にとても興味が湧いた。


 何故、母を前にしても恐怖を抱かなかったのか。


 その理由を凄く知りたかった。


 だから、母の持つ最強の魔法【アイアンクエイク】で洞窟が崩落しようとも、私は彼の後をついていった。


 天井から降り注いでくる落石で、死ぬ可能性もあるだろう。


 命を優先するのであれば、兄弟たちのように奥の狭い通路に行き、糸を張って閉じこもるのが正解だ。


 けれど私は、彼という存在を少しでも深く知りたいという、探究心を抑えることができなくなっていた・・・・・・・・・。







 ーーーーーー後に(アッシェ)と呼ばれ蔑まされたこのアルビノのデス・スパイダーは、カボチャ頭の魔王の側近中の側近になるのだが、それはまた、かなり先のお話である。

 

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