プロローグ 迷宮の主
「ええと・・・・ここはいったどこだ・・・・?」
意識が覚醒すると、視界に飛び込んできたのは暗闇の世界だった。
キョロキョロと辺りを見回してみるが、光はどこにも見当たらず。
辺りは一面漆黒に染め上げられており、ピチョンピチョンと水が滴る音だけが周囲に鳴り響いていた。
その不可思議な現状に、俺は思わず首を傾げてしまう。
「い、意味がわからん・・・・何だこれ」
さっきまで実家の一室で真っ昼間からゲームをしていたというのに、視界が暗転した直後、気付けば俺はこの状況に陥っていた。
家から一歩も出ない自堕落な生活を送っているニートなので、無意識下で外に行くなんてことは絶対にあり得ず。
ただただ目の前に広がるその光景に理解が追いつかず、俺は呆然と暗闇の中で立ち尽くすほかなかった。
「・・・・・・・グォォォォォォォォォォォォォォォォォォ・・・・・・」
「な、何だ!?」
突如聞こえてきた、獣の唸り声。
その悍ましい叫び声には、こちらに対する敵意や憎悪の色が含まれていた。
俺は恐怖心を露わにしながら、ゴクリと唾を飲み込む。
「何だよ何だよ!? ドッキリか!? マジ勘弁してくれよぉ・・・・」
理解し難い事象の連続に、体はガタガタと震え出し、ドクンドクンと心臓の鼓動は早くなっていく。
すると、そんな恐慌する俺に、突如暗闇から声が掛けられた。
「転移者か・・・・?」
「へ?」
訳のわからない言葉に困惑していると、その声の主はため息を吐きながら言葉を続ける。
「・・・・・・おおよそ300年ぶりの転移者か。全く、死に損ないの精霊め。余程、余を殺したいと見える」
「だ、誰だ!? 誰かここにいるのかーっ!? 助けてくれー!!」
声を張り上げ、俺は助けを求める。
早く、この不可思議な状況から抜け出したかった。
早く、10年間引きこもっていた馴染み深いあの部屋に帰りたかった。
しかしーーーーーー俺のそんな願いは、粉々に打ち砕かれることとなる。
「去ね。あの御方以外の王など、この世には必要ない」
「は?」
突然暗闇から現れるオレンジ色の光。
その光によって、一気に今の状況が露わとなった。
「うそ、だろ・・・・?」
目の前にある、巨大な影。
それは、全長50メートル程はありそうなーーーーー巨大な獣の姿だった。
猛獣特有の鋭い牙を揃え、山羊のような角と蝙蝠のような翼を生やしたその獣は、俺に対して口を開け、炎の息を吹きかけていたのだ。
「は、はは、ははは・・・・」
その光景を捉えた瞬間、瞬時に理解する。
俺はここで、終わるのだということが。
(あ・・・やべ、これ・・・・間違いなく死んだわ)
ゴォォォォォォォォォォォッという轟音と共に熱気を浴びた直後、俺の身体は黒炭み、一瞬にして灰となっていく。
痛みはない。
ただ、自分という存在が無くなっていくという感覚だけがあった。
(来週のジャンプ、読みたかった、なぁ・・・・・)
そんなしょうもない遺言を残し、俺の命はこの世から完全に消失する。
その場には炭化した頭蓋骨のみがコロンと転がり、獣はそれをつまらなさそうに一瞥した後、ゆっくりと体躯を動かし踵を返す。
そして、疲れたような表情で口を開いた。
「・・・・次の転移者が来るまで、しばしの眠りに付くとするか」
そう口にすると、獣は大きな足音を立て暗闇の奥へと消えていった。