序章:1 " 喪失の転生者 "
初めまして、ブルーハウスと申します。
色んな小説を読んでいたら自分も書いてみたいと興味を持ち、趣味で書いている素人小説です。
拙い文章があるかもしれませんが、それでもよければご覧下さい。
なお、マイペースに書いていくつもりなので投稿が遅くなることもありますがご了承下さい
(…ん)
そこは人の気配を全く感じさせない緑の生い茂った森の中だった。
周囲には生気に満ち溢れた芝生と、さらに存在を主張するように生えている特徴的な草花。その近くには二階建てくらいの高さまで伸びている細い木が数本生えている。
そして、そんな木に負けない高さと大人が十人で隠れても余裕がある横幅の広い苔だらけの大岩がひとつ転がっていた。
この光景を一言でまとめるなら、幻想的という言葉が相応しいのだろう。
そんな場所に布に包まれた生き物がいて、自らの意識を覚醒させようとしていた。
(………なんだろう。身体の奥底にへばりついていた何かを削ぎ落とされた様な気分だ…)
前が見えない。別に暗いところにいるわけではなく、薄ぼんやりと明るく感じるので単純に目を瞑っているからだ。
いきなり目を開けると眩しいと、その生き物は周囲の光に目を慣れさせながらゆっくりと瞼を開いた。
(…………ここは?)
気が付けばその生き物は………もとい、まだ物心すら無いはずの赤ん坊は外に放り出されていることを理解する。
頭には薄っすらと白みを帯びた金髪が生え、翡翠を埋め込んだかの様な瞳が両目に付いている。
成長具合からしてまだ一歳未満のようで、手を握る力も弱い。しかも布に包まれて思ったように動けないようだ。
(あれ?生きてる?しかも赤ん坊に!?)
まるでさっきまで死の淵にいたかの様な反応をしていた。
おかしな言い回しだが、実際の赤ん坊の立場からしたらそんな感じで、その言葉の表現の違和感にすら気づかない。
そもそも、何故物心も無いはずの赤ん坊がそんな思考が出来るのか?赤ん坊は今の自分の状態を確認し熟考する。
そして、とある答えに辿り着く。
(…もしかして、これが異世界転生!?)
どうやら赤ん坊は"異世界転生"という現象に遭い、異世界で"転生者" となったらしい。
そう、赤ん坊はかつて生きた前世での経験と知識を持ってこの世界に誕生したのである。
ちなみに先程の答えへの理解は漫画や小説の知識を利用したものだ。
現実的に考えればそんなことは有り得ない…と思うところだが不思議とそうは思わなかったようだ。なぜならーーー
(そんな…だってさっきまでボクは)
死んでいた。そう、死にかけていたではなく。
赤ん坊の意識下では、死んでいたという自覚は残っていたようだ。だが、本来なら死んだという自覚など有りはしない。
百歩譲って死にそうな重傷を負い、奇跡的に一命を取り止めた後で生きていたとか、死にそうになったと感じたのであれば話は別だ。
しかし、赤ん坊の場合は死んだ時の感覚がしっかりと魂に刻まれていた。
ましてや今の自分の姿が赤ん坊である時点で、それだけで自分は一度死んでしまい転生したのだろうと考えに行き着く。
(…けど、どうしてボクはこんなところにいるの?)
現在、赤ん坊は柔らかい白い布に巻かれ、みの虫状態にされている。
そんな中、視界の見える範囲で今、自分がどんな場所にいるのかを考えていた。
(ここは…森か?)
草木が生え、人工物の影も形も見当たらない。これだけの状況証拠があれば、赤ん坊は自分が森の中にいるのだと理解する。
(どうしてこんなことに。ボクはあの時…)
それらの確認が出来れば、次は自分の身に降りかかった現象と転生する前の自身の状態についての思考だ。
こういう思考は一種の自己暗示のようなもので、無意識のうちに本人の精神を安定させる為に一役買ってくれる………………
(………あれ?)
…………筈なのだが、記憶を探ろうと思った矢先に別の疑問がその出鼻を挫いた。
(あの時って、いつのことだっけ?)
死の直前の出来事が思い出せない。
(というか、ボクは誰なの?)
自身の事までも分からない。
(そもそもなんで死んじゃったの?)
先程死んでいたという自覚はあると言ったが、あくまでも自覚だけで記憶があるわけではなかった。
これでほぼ確定した。
(もしかして…ボク、記憶喪失になってるの?)
どうやら赤ん坊は前世の知識と経験は持ちつつも、前の自分の姿はおろか、自身に関する記憶を全く覚えていなかった。
(っていうか思った以上に冷静な気がする)
ついでに目覚めてから赤ん坊は自分が全く慌てていないことにも遅れて気が付いた。
普通ならもっと驚いたり、動揺したりしてもおかしくないのにそんな気すら起きなかった。
疑問だらけだった。なんで?どうして?と頭の中の記憶を整理するが答えが出ることはなかった。
それもしょうがない、記憶が無いのだから。
(う~ん。考えても分からないし、とりあえず動いてみようかな?)
考えていたのも束の間。赤ん坊は思考を放棄し、別の手段で情報収集を試みようとしていた。
この状況で動くのもどうかと思うが、無い記憶を探しても仕方ないし、他にやることが無いうえ、布に包まれて身動きがとりにくい今の状態から早く解放されたかった気持ちが逸った為、赤ん坊は自由になる為に身体を動かす事にした。
早速、赤ん坊は小さな手足を抗う様にジタバタさせて自分を優しく拘束している布からの脱出を始めた。
(んっしょ、んっしょ)
中からだと動き難いのか、少々手間取っていた。
それにしても、赤ん坊ってなんでこういう状態を不満に思わないんだろうか?と心の中でぼやいていた。
(よし!やっと解けた!)
ようやく布との格闘に勝利し、初めて大地に手足をつけた。芝生は意外と柔らかく、チクチクした痛みをまったく感じさせなかった。
まるで草で出来た絨毯の様だ。
(これで自由だ!けど赤ん坊の身体だし、まずは移動出来るか確かめておこうっと)
軽くひと回り動いてみた。ヨチヨチとまだ拙い感じではあるが一歳未満にしては大したもんだと褒めてあげたい。
最も本人の身体なのでその称賛は意味が無い。
(動ける。とりあえずハイハイはできるみたいだ)
移動できる事が分かり、改めて周辺を三百六十度見渡すように身体を動かしてみたが、やはりというべきか、赤ん坊の視点から見ると世界が格段と広く見えてしまう。
今も周囲を確認するだけで一苦労だ。首を動かすことが出来れば大した事は無いのだが、まだちゃんと据わっているのかも不明な赤ん坊の首でそんな無謀な事はしたくなかった。
そんなことを思いながら周辺を観察していたが、赤ん坊はある違和感を感じていた。
(しかし、ここはどこなんだろう?外にしてはなんか閉鎖的な気がする)
目覚めた時は芝生の上だったのでてっきり外に居るものだと勘違いしていたが、周囲を見渡しても、寝転がって上を確認してもあるのは葉っぱばかりで青空や日差しが全く見当たらなかった。
周りの自然の在り方に不自然さを覚え、ここが本当に外なのかどうか怪しくなってきたので更に周囲を散策してみた。
ーーー 十数分後 ーーー
(ふぅ。面積としては多分、学校の運動場くらいの広さはあると思う。そんな広さを深緑の葉の壁がドーム状に周囲を包み込んでいるように見える)
少し疲れて細い木の下にもたれ掛かり、赤ん坊は身体を休めていた。
流石に小さい赤ん坊の身体では体力が無い為、空間内全体を歩きまわることは出来なかった。
それでも少ない情報の中から空間のだいたいの距離感と構造は理解できた。
(本当に不思議な空間だ。整っているというか、出来上がっているというか、まるで秘密基地みたい)
しかも木漏れ日すら通さない程、葉が密集しているみたいだし……………ん!?
(いや、ちょっと待て!周囲は葉っぱで埋め尽くされているのに、なんでこの一帯は昼間と変わらない明るさを保っているんだ!?)
散策中も幻想的な光景に目を奪われて細かい事まで気を配っていなかったが、周囲を囲む葉っぱには風を通すどころか光が差し込む隙間すら見当たらない、にも関わらず空間内は昼間の様に明るい。
周りには光を与えるような灯りや松明らしき物は見当たらない。どんな方法で光を取り入れているんだ?
(それに植物は水と土、それから光合成で成長するから、日光が当たらないはずのこの場所で周りの植物達はどうやって光合成しているんだ?)
そう考えれば周りの植物にも違和感を覚える。
植物は光合成と言って、日光に限らず光であればそれを頼りに葉が栄養分を造り出す仕組みになっている。中には光合成をしない植物もあるらしいがそういうのは葉を必要としない物だけに限られる。
しかし、ここにある草花にはしっかりと葉が付いたものが多い。しかも光を与えるような物も無いのにかなり成長しているのは自然にみえて不自然だ。
(この空間も、まるでそうなる様に周りの植物が成長したみたいに広がっているし)
薔薇やヘチマのように他の木や壁に絡みついて成長する植物がある。そういったものにはアーチに絡み付かせてガーデニングに利用すると聞くが、そんな骨組みがあるようには見えず、ましてやこの規模の空間となるとガーデニングどころの話ではない。
(流石に自然の力だけでここまで都合の良い成長が出来るとは考えられないし、誰かが手を加えたとしか思えない)
それも人外の力が働いているのはほぼ間違いだろう。
ともなると考えられる方法はひとつになる。
(魔法…しかないよね?)
ここが異世界で、しかも魔法があるとしたらの前提であれば、人為的にこういった空間を作ることが出来るかもしれない。
(もしそうならこの空間は人の手で作くられたってこと?)
一体どんな目的でこの庭園のような空間を造ったのだろうか?
ガーデニングにしては規模が違い過ぎる、暇なのか?
(ひょっとしたら、ボク以外の誰かがいる可能性もある!)
だいたい、何でこんな空間に赤ん坊が一人で放り出されているんだ?周りに他の誰もいないのは不気味だった。
(けど、見た感じ誰かがいる様な感じがしないな。何があるか分からないし、せめて誰かと合流したい)
そう思いながら最初に自身がいた方向に顔と身体を向けて、更に奥側の景色を見た。
(ん?あそこだけ葉っぱが無い)
少し遠目だが、気づいたら視線の先の葉の壁の中に茶色い壁が剥き出しになっていた。
(あの壁だけ茶色い。あれって、木?その手前には…なんだ?)
よく見れば文字らしきものが描かれた石板が手前に置かれている。気になったので近付くことにしたが、地味に遠く進む速度も遅い為、思いのほか時間がかかった。
贅沢は言いたくないが、なんとも不便な身体なのだろう、と心の中で愚痴りながらもようやく目的地である石板の前に辿り着いた。
近くで眺めるとそれは古代文字のように見えたり、ふざけた落書きにも見えたりと一貫性が無い。
ただ一つだけ、誰かの為に作られたというのが分かる。その証拠に、石板の前に花が添えられていた。
(これって…お墓?いったい誰の?)
赤ん坊が墓らしき石板に触れようと手を伸ばそうとしたその瞬間、目の前と周辺が急に薄暗くなり………。
ヒューーーッ
(えっ?)
ドオォォンッ!!!
巨大な何かが降ってきた。
いかがでしたでしょうか?
正直、長いのか短いのかは分かりませんが、自分なりに書いたつもりです。
続きも投稿いたしますので、ご感想をお待ちしております。