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雪降る夜に  作者: 作楽 律
6/10

雪降る夜に6

あのときは、魔導師様はとっても眠そうだった。ぼんやりしていて夢を見てるみたいな感じだった。けれど、今ははっきりと目覚めていて、圧倒的な存在感なのだ。

 ユイはメイドが示した方向へ歩いていく。怖くないかと聞かれれば、ちょっと怖い。それでも、ぐっすり寝てしまうほど安心してもいるのだ。

 メイドは階段を上がるとひとつの扉の前で立ち止まった。

「ここ?」

 ユイは不安に思って話しかけるが、メイドはすでに背を向けて次の仕事へと向かってしまっている。

 ひとり取り残されたユイは、扉のノブに手をかけて静かに開いた。

 部屋は書斎だった。

 扉より左手に広く間取りがあり、壁には窓以外はぎっしりと本棚に本が詰まっている。雑多な印象はなく、むしろきれいだ。

 扉からすぐ左にソファとテーブルがあり、その奥に大きな書斎机が置いてある。さらに奥にカウチがあった。

 入り口から右手には大きな暖炉があり、火がゆらめいていた。

 廊下より数段あたたかい。ユイは思わず暖炉の側へ歩いていた。あたたかさに息をついて、ほっとして手を火にかざした。


 書棚の奥で本を探しあてたクライムは、部屋の隅から机まで本を持って移動し、ユイの様子を眺めた。濃い灰色のローブをまとったクライムは、本をそっと机に置いた。

 そのとき、ふいにユイは魔導師のいる方へ振り向いた。

「あ、あの」

 暖炉の側からいそいで離れて、手に持っていた布の小さな袋を魔導師のところに持ってくる。

「食べたいって言ってたから、お菓子作ってきたの」

 差し出された布切れをクライムは手のひらで受け取り、ソファのテーブルにある小皿へと乗せた。布を開くと白くて丸い菓子があった。

 クライムはそのいかにも稚拙な菓子を一かけらつまんで、口に入れた。

「味が足りないな」

 不味い、とは言えなかった。

「どんぐりの味、しなかった?」

 ユイは残っているお菓子をひとつ口に入れる。その頬が美味しそうに笑みをかたどるのを、クライムは不思議に眺めた。

「どんぐりは嫌い?」

「そのようだ」

 子供の晴れやかな笑顔を見ていると、おだやかな気分になった。

「そうかー、でもユイはこれしか作れないんだもん」

 悲しげに眉を寄せるユイに、クライムは何も言えることがない。しかたなくもうひとかけら、口に運ぶ。

 やはり不味い。

「魔導師様、ユイね、ずっと傍にいたいな。だめ?」

 人が傍にいるのは久しぶりのこと。このクライムの傍にいたいと言う人間は、この数十年なかったはずなのだ。ただ、罠から助けただけで。

天に言わせると、これも偶然ではないのだろう。

「好きにしたらいい」

 子供は目を輝かせてうれしそうに「はい」と頷いた。

 相変わらず表情のない魔導師に、恐れ気もなくユイは返事をした。優しい声ではなかったが、ユイには「いてもいいよ」と耳に届くほどの優しい言葉だった。メイドに座ってもいいと示されたソファに座ると、心底安心した笑顔になった。

クライムは何の表情も変えずに、奥の机に戻った。


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