雪降る夜に4
ユイは自分の身の回りのものを持って、出てきたのだ。もっとも、ユイの持っているものなど、綿入れと数枚のハンカチ、そして、銀のペンダントだけだ。もちろん、出て行くならばユイの使っていたマグや、ずっと貯めておいた干し肉、パン、チーズなどを持っていく。
出てきてしまってから、魔導師の屋敷への行き方が分からないことに気付いたし、焼き菓子を渡してからどうするのかなど、まったく考えてもいなかった。
ただ、魔導師に逢いたかった。
村に着くと、ユイは届け物があり魔導師の屋敷に行くことを告げた。屋敷の場所を聞き出したかったのだ。
「魔導師って、あの氷の魔導師クライムのことかい」
「はい」
雪がちらつく寒い日だった。
農地を点検していた村人は、顎をしゃくって方向を示した。
「あっちだ。ほら、湖があるだろう大きな。あそこからそう離れちゃいないよ」
ユイは礼を言って湖を目指した。しかし、その大きな湖はとても遠い場所だとも知っていた。ユイは一生懸命歩いた。途中、雪を横に掘って穴を作り、中に入ってからすこし横穴を塞いで吹雪をこらえた。火をおこして寒さをしのぐ。
持ち物の中に入れておいた非常食を口にして、マグの中に雪を入れて火で沸かす。この国は寒い国のため、マグはかならず直火でも暖められる材質を使っている。
火が消えてしまうと凍えてしまうことを嫌と言うくらい教え込まれているユイは、少し眠ったらすぐに火に枝を足し、火が消えないように工夫した。
湖まではまだまだかかりそうだ。お金を持っていないから、宿に泊まることはできない。「魔導師クライム様」
勇気を出すために何度か名前を呼ぶ。
ユイはまた朝になると出かけた。まだ小さな子供と呼んでいい年齢だが、ユイはいつも思っている。明日はいいことがあると。
雪が積もって深雪となり、周囲は視界一面が白く、対照的に空は快晴になっていた。ユイは穴から這い出ると、大きく息をついて笑顔になった。
「待っててね」
歩き出してから三日過ぎるころに湖が見えてきた。大きな水の岸辺が、と言うほうが正しいかもしれない。
ユイは途方に暮れたように周囲を見回した。この間来たのは、こんなに遠いところだったろうか。森の中をじっと見つめたり、歩いて探索するが屋敷らしいものはない。
仕方なくまた雪穴を掘って、寒さをしのいだ。疲れきってしまって、ユイは不覚にも熟睡していた。いつの間にか火も消えて、体は凍え切り、手はしびれ、動くのがやっとな感じだ。日の光を感じて雪穴か這い出ると、暖かい日光がさしていた。
「寒い」
それでもやはり冷たくなった体を温めるのは困難なことだった。
火を起して、お湯を飲み、干し肉を口にした。もう残り少ない。風が少なかったのがよかった。
魔導師様に会いたい。
だたそれだけを思ってユイは歩いた。