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奇襲

 リーンの軍勢がこちらの半分だと聞きつけたサビーヌは、ぶどう酒で祝杯を上げ既に顔を赤く染めていた。


 気が気でないのはレヴィ。


 姉の婚約者を討ってしまえば、アイとは絶縁されるであろう。なぜ、こんな事態となってしまったのか、レヴィには皆目見当がつかずにいた。


 ゼファリーが居てくれれば、こんな事態にならなかったのだろうかと後悔する。妻であるサビーヌに持ち上げられ、自分一人で出来るのだと勘違いをしていた。



◇◇◇◆◆◆◇◇◇



 スタンバーグ伯爵領の西側から攻めるのは、ラヴイッツ公爵の手勢。その数は千人であるが、スタンバーグ領の軍勢二千を相手に横っ腹から奇襲をかけるには十分な数。


 一方、東側からスタンバーグ領に向かう軍勢も千。こちらはレントン男爵がかき集めた軍勢で、中にはアイやゼファリーもいた。こちらの目的は相手本陣、つまりアイの実家を攻めるのである。

 最大の目標は、レヴィの確保にあった。


 その状況を望遠鏡で眺めていたリーンも自軍を動かす。正面から攻めて、相手に奇襲を悟らせないためだ。

 丘を駆け降りて行き、互いの軍は丘の中腹でぶつかる。


「遠慮はいらない! 全軍攻めよ!」


 鳴り物が互いの軍から鳴らされて兵を奮起させる。


 スタンバーグ領の兵士達は、相手が少ないことに油断をしていた訳ではない。絶妙なタイミングでの横からのラヴイッツ公爵による奇襲。

一番良いタイミングを見計らう事が出来たのも、アイが作った望遠鏡でラヴイッツ公爵軍の動きを把握出来たからである。


 東側へ横に押し出される形となったスタンバーグ領の兵士達。そこへ新たな軍勢が東側から襲いかかるのであった。



◇◇◇◆◆◆◇◇◇



「レントン男爵! リーンをお願い!」

「お任せくだされ、アイリッシュ様!」


 少し前、レントンは千の内九百の兵士を連れて戦場へと向かっていった。残った百人の兵士とアイとゼファリーは、そのまま屋敷を目指す。


「良いのですか? これだけで」

「ええ。屋敷の中には昔から仕えてくれている者も何人もいるわ。その人達に被害が及ばないよう、私とゼファリーで指示出来る人数に絞ったのよ」


 街へと入ったアイ達は、真っ直ぐに屋敷へと向かった。


 屋敷の門前にある道を突き進むと、警備に割り当てられた数名の兵士が見えてくる。


「退きなさい! 私は、アイリッシュ・スタンバーグ!! 抵抗しなければ何もしません! 門を開けなさい!!」


 馬車から身を乗り出してアイは声高らかに叫ぶ。警備にあたっていた兵士のうち、武器を捨てたのは一人だけ、あとは此方へ向かって来ていた。


「ゼファー!」

「はい、お嬢様。武装している者は、敵だ! 一人辺り五人で相手しろ! かかれぇー!」

「オオーっ!」


 屋敷の頑なに閉じられた門の前で混戦になる。どうにかして内側から開かねば、そう思っていると門は容易に開かれた。

 先ほど武器を捨てた兵士が中へ入れと手招いていた。


「あなたは?」

「リーン様から、アイリッシュ様が来られたら手の者と協力して門を開くようにと、言付かってます」


 まさか実家に密偵を忍ばせているとか、リーンの手際のよさに驚くが、今は一時も無駄には出来ない。


「よし、屋敷の中を探せ! いいか、武器を持っていない相手に手を出すな! レヴィ様を探すのだ!」


 屋敷の扉も内側から簡単に開かれ、アイ達を誘い入れる。

屋敷で働く従業員達は、初めこそ戦々恐々であったが、アイの帰還を知ると手放しで喜んでいた。



◇◇◇◆◆◆◇◇◇



 三階のテラスから様子を眺めていたサビーヌは慌て始める。リーンと戦っているスタンバーグ領の軍勢は劣勢のように思えた。

 しかも、眼下にはちょうど馬車から降りたアイリッシュの姿が。


「……こ、こうなったら全部レヴィ様に責任を押し付けて……」


 サビーヌは、すぐにテラスから屋敷の中へと入るが、その姿をずっと捉えていた人物がいた。


 それは、ゼファリーであった。


 サビーヌの性格からして、必ず見晴らしの良い場所にいると考えており、屋敷に近づいた時から既に捉えていたのである。


 敷地内に入るとゼファリーは馬にくくりつけていた弓と矢筒を手に取り、兵士に指示を出したあと、一目散に三階目指して駆け出していた。


「サビーヌ、一体何事だ?」


 サビーヌが廊下に出ると丁度レヴィと遭遇する。


「れ、レヴィ様! 良かった、無事だったのですね?」


 サビーヌがレヴィに駆け寄ろうとすると、「止まれ!!」と声が聞こえてきた。


「お、お前はゼファリー? なぜ、ここに……」

「レヴィ様、お下がりください! サビーヌ、そこを動くな!」


 矢を引きながらゼファリーは階段から三階の廊下へと上がっていく。


 サビーヌは表では平静を装いながらもゼファリーの登場を苦々しく思っていた。


 全ての罪をレヴィに。死人に口無し。サビーヌの背中に回した右手には、白銀製の柄の短剣が握られていた。


「ぜ、ゼファリー? 一体何なのだ? お前は姉の所に行ったのでは……?」

「動くなと言っている!」


 ゼファリーは矢を放つ。矢はレヴィの右手の甲を掠め、サビーヌの足元へと突き刺さる。


「っ痛!」

「レヴィ様、申し訳ありません。弓矢は得意ではないので」


 次の矢をいつでも射てるように構えたまま、ゼファリーはゆっくりとサビーヌとレヴィに近づく。


 このままではサビーヌも埒が明かず、思いきってレヴィに向かう。


「がっ……!!」


 ゼファリーが次の矢を放つ前に、サビーヌの背中には一本の矢が突き刺さり、前のめりに倒れた。

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