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全てはアイのために

 リーンはすぐに動いた。


 ラヴイッツ公爵領の境界まで率いて来た軍隊を躊躇うことなく、領内へと進軍させた。領内でアイに危機が降り注いだのだ、見送りを付けることなくただで帰した公爵を問い質すのに充分な理由であった。


 公爵の屋敷のある街の側にまで迫ったリーンが率いる軍隊の元に公爵からの使者がやって来る。


「言い訳とは見苦しいな」


 リーンは使者から公爵からの手紙を受け取りながら、ぼやく。


「これは……!」


 リーンが受け取った手紙には、ロージーの自殺と事の顛末が書かれていた。

そして、そこには公爵自身は何ら関わっていないとも。


 公爵は、娘を見捨てた。


「はは……公爵とあろう者が、嘆かわしい」


 リーンは手紙を見ているうちに苦笑いを浮かべていた。


「公爵に伝えて貰えるかな。会談の場を用意するようにと。それと、こちらからは一切訪ねないとも」


 伝言を聞いたラヴイッツ公爵は、怒り震える。リーンは一介の辺境伯の息子に過ぎない。公爵とのプライドと安寧を天秤にかけ、公爵は安寧を取った。

 にもかかわらず、リーンからは嘆かわしいと言われ、不遜な態度を伝えられ、苦虫を噛み潰したような顔になる。


「ぐぬぬぬ……リーンの小僧が」


 まだ子供のリーンに、馬鹿にされ軍隊の侵入まで許してしまった。公爵は、我慢ならないと、立ち上がる。


「公爵様、それともう一つ伝言が……」

「なんだ! 早く言え!」


 苛立ちを隠せない公爵は、自ら送った使者を怒鳴り付ける。


「実は……」


 使者は外に漏れると不味いと判断して公爵に耳打ちする。すると、みるみる公爵の顔は青ざめた。


「ま、まさか、ロージーのやつがそこまで……」


 遺書に書かれていたのは婚約の儀の夜の事だけ。ところが、それだけではなく、領内にてアイが再び狙われた事を聞くと、すぐにロージーの顔が思い浮かんでしまった。


 リーンが軍隊を許可なく領内へ侵入したのも納得であった。


 公爵の怒りは鳴りを潜め、すぐに会談の手筈を整えるように命を下したのだった。



◇◇◇◆◆◆◇◇◇



 街の郊外に、会談の場は設けられた。


 リーンは会談の場に着くや否や、公爵を責め立てる。今回、そして婚約の儀の事だけと思っていた公爵は、アイが公爵領内で拐われた事件についても責められた。


「いや、しかし、それは……」


 証拠がない。そう言いたい公爵は口をつぐむ。果たして関係ないと言えるだろうか。自分の知らない所で、ロージーが暗躍していたとなると、違うともとても言えなかった。


「すまぬ。儂からはそれくらいしか言いようがない」


 公爵は遥か年下の、爵位を持たないリーンに頭を下げた。

前代未聞の出来事であった。


 言いたい事をいうだけ言ったリーンは、人払いをして公爵と二人向き合うと、今度はリーンが頭を下げた。


「なんのつもりだ」


 公爵が訝しげな顔をする。


「いえ。これから話すことは、他言しないで頂きたいので。公爵には僕に負い目を追ってもらったので」


 リーンが自分の考えを公爵に伝えると、公爵は顔をひきつらせる。それは、とても無謀で、不可能だと思えた話であった。

 公爵は熟考する。それは、返事を先伸ばしにすることが出来ない問題であったがために。


「わかった。陛下も関わっているなら、儂も味方につこう」

「感謝致します、ラヴイッツ公爵」


 公爵は覚悟を決めるしかなかった。



◇◇◇◆◆◆◇◇◇



 簡易なテントに寝かされていアイが目を覚ます。


「あれ? ここは……。ラム、リーンが居たような気がするのだけれども」

「先程までいましたよ、お嬢様」


 テントの外にいたゼファリーがテントの中へと入って来てそう言うと、アイはホッとしたように胸を撫で下ろした。


「夢じゃなかったのね……。それにしてもゼファリーまで来ているとはね」

「元々は、俺一人で後を追うつもりでした。しかし、リーン様が丁度出兵されるところで、ご一緒させてもらったのですよ」


 出兵と聞きアイは青ざめる。このままでは弟レヴィが罪に問われてしまうと。


「そうだわ! リーンにやめてもらわないと! 公爵が動いてくれるのよ! きっとレヴィの罪を軽くしてくれるはずよ! ねぇ、ラム。リーンはどこ?」


 ラムレッダとゼファリーは黙りこんでしまう。その事がアイを焦らし、まだ痛む足で立ち上がる。


「アイ様! ダメです、その傷じゃ! それにリーン様はもう居ませんわ」

「そんな……」


 アイは愕然と肩を落とした。


「お嬢様……」

「ごめんなさい、今は何も聞きたくないわ……」

「いえ、それでも聞いてもらいます。今一度、リーン様を信じてみてもらえませんか? 俺は道中、リーン様からその真意を聞くことが出来ました」


 アイはゆっくりと伏せていた顔を上げ、ゼファリーを捨てられた子犬のような目で見つめる。


「真意……?」

「はい。全ては、お嬢様。貴女を想っての行動だったのです」

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