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アイの過去①

「ぷっ……、なんだい、それは? アイらしいというかなんというか……。ラムレッダは、アイに気づかれるまで、どれくらい待っていたんだ?」


 話の途中であったがリーンは思わず吹き出してしまう。

幼いアイが腰を九十度に後ろに倒して固まる姿を想像したらしい。


「多分、二、三時間くらいだと……」とリーンの質問に答えると、リーンは乾いた笑みを見せ、

「はは、君も大概だと思うよ」と返した。


 気持ちが張り詰めていたリーンに、眠っているアイから視線を外す余裕が見て取れたラムレッダは、新しくお茶を淹れ直してカップに口を付けると、僅かに口角を上げるのであった。



◇◇◇◆◆◆◇◇◇



 話は戻り再び十八年前に戻る──。


「初めまして。私はラムレッダ・スカーレット。スカーレット子爵の孫になります。アイリッシュ様」


 練習通りにラムレッダはアイに向かって失礼が無いよう、気を遣いながら自己紹介をする。しかし、当のアイは「ふーん。あのお爺さんの孫ね……」とぶっきらぼうに答えるのみ。

アイの態度から自分に興味が無さそうに感じたラムレッダは、何か失敗でもしてしまったかと慌てる。


「あ、あ、あの……私、何か失礼なことでも……アイリッシュ様ぁ……」


 このままでは大好きな祖父に叱られると思ったのか、ラムレッダは瞳を潤ませ、小さな肩は震えていた。


「堅い。堅すぎるわ。同じ年齢なんでしょ? アイでいいわよ。私もラムって呼ぶし」


 グレーの作業着や顔は薄汚れ、ニカッと白い歯を見せてアイが少年のような笑顔を作ると、泣きそうであったラムレッダもアイの笑みに吊られて目を細めた。


 二人はすぐにうち解け合う。キャップの帽子でエアリーなピンク色の髪を隠していなければ後ろ姿は少年と見間違いそうなアイと、大きな白いリボンを付けた藍色の髪は腰まで伸び、小さなリボンが付けられたドレスを着て育ちの良さを見せるラムレッダ。

一見、真逆のようであったが特に、今まで貴族の淑女たれと教えられてきたラムレッダには、奔放なアイが眩しい太陽のように見えていた。



◇◇◇◆◆◆◇◇◇



「その頃のアイに会ってみたかったな」


 リーンは、ラムレッダから話を聞き想像を膨らませると独り言のように呟く。


「あら? アイ様は変わっていませんよ、今も昔も」

「そうなのか? 今のアイは何か我慢しているように僕には見えるのだけど……」


 ラムレッダは、ふと漏らしたつもりなのであろうリーンの言葉に、一度目を見開くと今度は子供を見守る母のように目を細めた。


「リーン様は、アイ様を良く見ていらっしゃる」

「そう……なのだろうか。アイの方は僕をあまり見てくれていないけどな」


 ラムレッダは「そんな事は決してないですよ」と言いかけるも、言葉を飲み込んで、微笑みだけをリーンへと向けた。


「今度、小さな丸太小屋で良いのでアイ様に工房を作ってあげてください。きっと喜びますよ」

「大丈夫。アイとの約束だからね、今大きな工房を設計させている」

「あら? その必要はないですよ。アイ様なら小さな掘っ立て小屋であっても気づいたら増築に増築を重ねて勝手に大きくしますから」

「ぷっ……! あはははは! なんだい、それは!! あはははは」


 リーンは年相応な笑顔を見せると、声を高らかにお腹を抱えて笑いだす。


「本当ですよ。アイ様と友達になってからちょくちょく訪れる度に工房が大きく、人も増員されてました」

「くくく……っ、そりゃ傑作だ」


 自分の目尻の涙を拭い、リーンはアイのおでこに置かれた乾いた布を新しいものと取り替える。


「何度も話を止めて悪かったな。他にはないのかい?」

「そうですね、ではアイ様が盗賊狩りをした話でも」

「へぇ、それは興味あるね」


 「では……」とお茶で喉を潤しラムレッダは三度語り始めた。



◇◇◇◆◆◆◇◇◇



 アイもラムレッダも十四と年頃になり、ラムレッダは花嫁修業という名目でスタンバーグ邸に滞在をしていた。


「盗賊?」

「はい、農作物を狙って現れます。その事で旦那様がほとほと困り果てております」


 作業を終えたアイがラムレッダを誘いティータイムを嗜んでいた時、銀髪に眼鏡をかけた同じ年頃の少年がアイに話を持ち込んでいた。


「それで、私にどうしろと?」

「たまには働け、ということです」

「相変わらず、失礼なヤツね……」


 アイが苦笑いを浮かべた相手こそ、後にラムレッダと結婚し、その能力の高さを買われてアイに雇われる事になるゼファーことゼファリー・バルバスである。


 当時はまだ能力が高すぎて、小生意気な小僧という周囲の評価のせいでスタンバーグ領の組織の末端の末端で、主に農作物の管理を任されている程度であった。


 この日は、報告がてらスタンバーグ邸を訪れていたのである。


 男爵の次男坊ということもあり早くから自立を求められていた彼にとって、アイは好きな事をして遊んでいるように見えていた。


 二人は犬猿の仲で、ラムレッダも当時は彼に対して良い印象を持っておらず、アイに対して失礼だと、頬を膨らませる。


「はぁぁ……。私に何か出来るとは思えないけど。一応現場見ておきますか。ラムはどうする?」

「私ですか? うーん、私もついていきます」


 後に夫婦となり親友となる三人は、盗賊が出現するという畑へと向かった。

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