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実家の危機

 翌朝、早朝からアイは慌ただしくなった。


 まずは婚約の儀に着用する衣装作りである。一着だけではなく、計五着。婚約の儀が進む度に、お色直しがあるのだ。晩餐パーティーだけでも三回も。


 寸法を測っては、直し、測っては直すの繰り返し。いっぺんにやれと言いたいが、リーンの方の衣装の兼ね合い、デザインの変更などもあり、細部に渡って採寸され、その度に呼び出される。


 アイの役割はもう一つ。それはベールを自らデザイン、そして作ることだった。婚約の儀につけるベールは、女性が作る慣わしで、今回は衣装が五着もあるために、おしゃれに興味のないアイはリムルに手伝ってもらいながら、四苦八苦していた。


 裁縫自体は物作りが好きなアイにとっては苦ではないが、デザインのセンスが皆無に近い。普段の物作りでも、見た目より機能重視の人だった。


「はぁ、やっと一つ出来た……。あと、四つ。リムル、あとはお願いね」

「ええっ! だ、ダメですよ、アイ様! 花嫁が考えないといけないのですよ」

「まだ、花嫁じゃないわよ……」


 木目調のローテーブルの上には没になった原案が乱雑に散らばり、辟易しながらソファーに座りアイは天井を見上げた。


(裁縫は得意だから、一日かけて作るとして……あと残された日にちは五日だけ。いえ、他にもあるからデザインに使えるのは二、三日といったところかしら。結構ギリギリね……。このローテーブルは腰が痛くなるから、新しいのを作りたいわ)


 物を作って気を紛らわしたいと思うも、ベール作りだけではなく、作法や婚約の儀の段取りのリハーサル、招待客の把握とやることは山ほどあった。


「リムルが居てくれ助かるわ。話相手すらいないとなると、私、気が狂いそうよ」

「そ、そんな、おそれ多いです」


 没になった原案の束を纏めながらリムルは頬を赤らめていた。


「さ、ちゃっちゃとやっちゃいますか」


 袖をまくり気合いを入れたアイは再び過去辺境伯で使用されたベールのデザインを眺めつつ、自分だけのベールを考えるのであった。



◇◇◇◆◆◆◇◇◇



 婚約の儀まで残り五日。相変わらずデザインを試行錯誤にヒーヒー言いながらアイはローテーブルの前で頭を抱えていた。


「アイ様、失礼します」

「ああ、リムル? お茶ならそこに置いておいて」


 苦慮していたアイは部屋にノックして入ってきたリムルに目をやることなく応対するほど余裕がない。しかし、リムルが一向に部屋に入ってくる様子がなく、仕方ないと、部屋の扉へ顔を向けた。


「いえ、あの……アイ様にお会いになりたいという方が。取り次いでほしいと」

「私に?」


 また衣装デザインの変更だろうかと考えたアイだが、その場合問答無用で向こうからやってきていた。ならば、一体誰がと、アイは部屋に呼ぶようにリムルに伝えた。


 しばらくすると、扉がノックされる。余裕のないアイは顔を向けることなく「はい」とだけ、返事を返す。


「アイ様」


 リムルとは違う落ち着きのある懐かしい声にアイは目を見開き部屋の入り口へ顔を向けた。


「ラム!! 来てくれたのね!」


 すぐに立ち上がりラムレッダの元に走るとアイは手を取り歓迎する。


「まだ数日しか経っていないのに、なんだかとっても懐かしいわ! 思ったより早くに来たのね」

「アイ……様。良かった……無事なご様子で。賊に拐われたと聞いた時には、私、私……」


 ラムレッダは元気そうなアイの顔を見ると、抑えていたものがこみ上げて来ておもいっきりアイを抱きしめた。嗚咽混じりで自分の名前を何度も呼ぶラムレッダをアイも抱きしめ返した。


 部屋の中へと案内しようとすると、既に開いている扉がノックされる。


「あら、居たの? ゼファー」

「そりゃ居ますよ、お嬢様」


「ラムだけで良かったのに」と、文句を言いながらアイは二人を部屋の中へと招き入れると、心の底から歓迎してもう一度ラムレッダを抱きしめた。


「本当に良いところに来てくれたわ、ラム。お願い、デザイン作り……手伝ってぇ!」


 アイにとって、ラムレッダの登場は、まさに助けに舟であった。ラムレッダの返事を聞く間もなく、アイはラムレッダをソファーへと座らせる。


「ラム、紅茶飲む? それともぶどう酒の方がいいかしら。ちょっと待ってて用意させるから」

「お嬢様」

「あ、一応一つは考えたのよ? でも、全部で五つもなんて私には無理なのよ。お願い、紋様だけでもいいから手伝って欲しいの」

「お嬢様!!」

「もう、さっきから何よ! 冷徹眼鏡!!」

「本当に余裕なくなってますね。普段のお嬢様なら俺達がこれだけ早く来た理由を察するのに」


 ゼファーの言うように本当に余裕を無くしていたのだと、アイは気づく。ゼファーは今も昔もスタンバーグ領の右腕だ。それが、主人である弟レヴィやましてや父母より先に来ること自体がおかしいのだ。


「何か、あったのね?」

「はい。俺では何処まで対応したらいいのかと思いまして」


 ゼファーは、誰も入って来ないように部屋の鍵を閉めると、スタンバーグ領の経理の異変を話した。


「私が居なくなってから、わずか数日で!? だとすれば好機を逸しないように、前々から仕組まれていたって感じね」

「はい。これが国に知られれば、一大事。下手をすると、レヴィ様だけでなく、スタンバーグ領自身攻められることに。そうなれば、最も動くと思われるのは……」

「内乱を鎮める役目も担う、ここブルクファルトってことね」


 ゼファーは静かに頷いた。

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