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出会い


 アイは激怒した。


 初めての婚約者との対面。部屋に呼ばれて行ってみると、扉を開いた瞬間に、その瞳に飛び込んで来たものに対して、昔読んだ小説の一節を引用したくなるくらいに、ふつふつと怒りがこみ上げてきていた。


 怒りの矛先は婚約者そのものだけではなく、こんな婚約者を決めた両親、そして恋愛をせず、馬齢を重ね二十八にもなって嫁に行かなかった自分にであった。


「やぁ、初めまして、僕の仔猫ちゃん」


 窓から差し込む光に照らされて輝くエメラルドグリーンの髪。それに負けないほどの屈託のない笑みを此方に向けて来る少年。


 ボーイソプラノで放つ、歯の浮くような台詞すら彼に嫌みなく似合うほど美麗で聡明そう、それが彼女が少年の外見に抱いた印象であった。


 しかし──、


 「間違えました」とアイは扉を閉めた直後、「オーマイガッ!!」と、思わず彼女は頭を抱えて天に向かって叫んだ。


 結婚適齢期が十六、過ぎても二十一まで言われるこの世界において、今年二十八になる彼女は、婚期を大幅に飛び越えていた。


 しかし、そんな彼女の為にと、両親が必死に見つけて来てくれた相手。先ほどのは何かの見間違いかと願い、祈りながら再び扉を開く。


「いらっしゃい、僕の仔猫女王様」


 部屋の中央で下着一枚の姿、胸と腹部には亀の甲羅模様を連想させる六角形状に縄で縛られており、天井からは巾着袋のように吊るされ、又、ブラブラと揺れているのが何か腹立つ。


 アイは思わずその場で膝から崩れ落ちてしまった。


「“仔”でもなければ“猫”でもないし、まして“女王様”でもないので、これで失礼致します」


 絶対に相容れない。と、ヨロヨロと足元が覚束ないまま立ち上がった彼女は再び扉を閉めると、廊下で天を仰ぎ願う。


「どおしてこうなったぁあああっ!! あんまりだわ! 確かに今の今まで物作りに耽ってしまって、この年まで行き遅れたけれども、これはあんまりよ!!」


 おかしい話だとは思っていた。


 相手の年齢が確かに十一だと聞いてはいた。適齢期を大幅に過ぎた自分を嫁になど、話が上手すぎたのだ。


 それ故、即結婚とはならず婚約という形式になったのは、アイにとって不幸中の幸いでもあった。


 今なら破棄出来るタイミング。


 しかし、問題は相手の家柄。伯爵の娘である自分に対して格上の辺境伯。それもただの辺境伯ではなく、最前線ゆえに、ここラインベルト王国随一の力のあるブルクファルト辺境伯。


 こちらから断るのは、(はばか)れた。


「お願い、神様!! もう一度(・・・・)、私を転生させてください!」


 しかし、その願いは聞き届けられることはなく、婚約者の部屋の前の廊下で虚しさだけが流れる。そして、アイが言うように彼女は一度転生してきた身であった。




 前世の本名、橋本あい。


 享年、奇しくも今と同じ二十八。


 前世も現在も同じ理由で()()であった。

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